ピサ朗
ピサ朗
1年以上前
恐らく今後コレを越えうる日本史漫画は出てこないのではないか、そう思えるほどに徹底した学習漫画。 この作品自体は日本の歴史を漫画で解説・紹介する、いわゆる学習漫画なのだが、その範囲、細やかさ、深さ、総合的な面では全ての教科書、歴史漫画を見渡しても稀な域に達している。 扱っている時代の細やかさでは、風雲児たちなんかも相当な物なのだが、あちらはギャグ漫画であり江戸から幕末の範囲に絞られている。 翻ってこちらは原始時代から昭和という広範囲を30巻に満たない巻数で描いているので、どうしても省略されたり、扱えない部分も見え隠れするのだが、それでもこの作品から漂う参考資料の質量ともに恐るべきものがある。 その理由の一つがこの作品が小学館記念事業として、バブル景気を追い風に惜しみなく資金と時間を投じられて作られ、また関係者もそれに尽力した熱意と労力の果てに到達した物である事だろう。 当時の文部省の指導要綱や監修者の史観にある程度沿った内容だが、それでも明らかな史実に忠実、かつ俗説は排除されており、不明な部分が多い事には参考資料や採用した説である事を併記し、服や住居、色彩、様々な分野が描かれている時代から逸脱しないように気を払われている。 流石に言語は現代語訳されているし、架空の人物等も描かれているが、架空の人物を用い、教科書ではおざなりにされがちな下々の人の生活や上流階級以外の文化を可能な限り描き出し、最早この作品自体が資料として通じるレベル。 もちろんそうは言っても、発行が1981年という時代も手伝い、現代では明らかになった新事実や、文科省の指導要綱や現代のイデオロギーや主流史観からは外れた部分も有るのだが、完全に明白な間違いは 「※実際には猫は古墳時代には居なかった」という注釈くらいである。 当時は大陸との交流で平安・奈良時代に日本に猫が定着したという定説も、40年以上の発掘の末に日本列島には弥生時代には既に猫が生息したという事が明らかになったのである。 それ以外の間違いに関しては史観・採用説の違いで済む範囲の物であり、カルチャー面に関してはかなりの範囲で網羅されており、鎧の着方、当時の農機具、流行りの髪型等、どうしても人物や事件に範囲を絞る教科書では軽くされがちがな部分も可能な限り取り扱っている。 この辺は総監修を担当している児玉幸多氏が、主に近世の農村に関しての著作が多数ある博士であり、庶民の文化をできるだけ漫画に入れようとなさったのかもしれない。 江戸期が特に多数の巻が割かれているのも、当時の文部省の指導要綱が不明なので児玉幸多氏の方針なのかもしれない。 この江戸期をやや重視した構成は、現代の教育方針からすると若干の違和感は有る。 ただしそれでも40年に渡り、文科省の方針や新事実が発見されても殆ど改訂、絶版されなかったという普遍性と資料性は恐るべきものであり、小学校から大学受験まで歴史学習に十分使えるものだろう。 全面改訂版として山川出版が監修した後継作品も出版されたが、正確性はともかく、庶民の生活等は主に巻末資料で触れ作中ではあまり描かれず、近現代史中心の構成となっていて、ドラマ・エンタメ性も縮小し対象年齢が上がっていて、部分的にはともかく後継作品としては結構な違和感がある。 しかしコレは時代や作風の違いというより、偉大過ぎる先達である当シリーズを越えるのが難しいという面も有るだろう。 おおよそ文系の学習漫画では一つの到達点とも言えるシリーズであり、お子さんに買い与える以外に、一種の資料として使ったり、製作者一人一人に思いを馳せたり、名所旧跡を巡る参考にしたり、様々な楽しみ方ができる傑作。
まみこ
まみこ
1年以上前
勿論、タイトルは、The Bandの解散コンサートを撮ったドキュメンタリー映画、"The Last Waltz"から取られています。 …のように、'70年代末辺りに、ロックやブルーズにハマった、中年、と言うか初老男性の音楽遍歴の自分語り、それも自己陶酔が過ぎて少々気持ち悪い感じ、で構成された奇妙な一冊です。 …とは言え、やっぱり画力は流石なんですよね。 楽器って、本当に銃とかバイクと同じ、精密機器なので、正しく描かないと、説得力無いんですよ。今となってはビンテージになったギターの、ペグやブリッジ、フレットの一本一本まで細かく描く、それに向き合う姿勢、全然イヤじゃないです。 Amazonのレビューでも書かれていましたが、「漫画ゴラクより、リットーミュージックあたりで連載した方が良いんでないの?」は、全くの正論ですわ。 実は、この単行本に収録されなかった、悲劇の最終回があります。 作者は、2巻に向けて、話を考えたりネームを切っていたのですが、打ち合わせの時に、担当編集者と営業担当に、「1巻の予約の数字が、目標に到達しなかったので、このまま打ち切りです」と非情な宣告を受け、心が折れてしまうのです。 「1巻の予約の数字で、その後の連載継続が決まる」と言う日本文芸社/漫画ゴラクのシステムを、ハッキリ意識したのは、これが最初だったのかもしれません。 でも、描写はされなくても、最後のワルツは、終わることなく、ずっと続いていくんでしょうね。そういう変な余韻のある一冊です。