兎来栄寿
兎来栄寿
9ヶ月前
東雲さんの初連載・初単行本……なんですが、画力的にもそれぞれ魅力的過ぎる女の子たちもそうであると感じさせない作品です。 図書館の本に救われ読んでいるときだけ自由でいられて生きてこられた原体験から、人と接するのが極端に苦手でありながらも司書をしている主人公の青年・天城。もう、その設定だけで深く共感せずにはいられませんでした。 その上で ″「好き」を手離さずいてくれたら…って この先どんな人生を歩んでも 「好き」をお守りに揚々と立ち向かってほしいから 俺も本が楽しみで生きれてるとこあるし…″ なんていうセリフまで出てきたら大好きにならざるを得ないではないですか。あまつさえ、ふたりのヒロインがどちらも非常に良いんですよね。 片や、天城が勤める図書館に夫の遺言を携えてやってきた謎多き美女。1話終盤でその謎の一端が明かされ、3話や巻末のおまけで更なる魅力が明かされます。綺麗さとかわいさを併せ持つだけではなく、食に貪欲なところや表情豊かで感受性も高く世界観を持っているところも非常に良いです。 一方、天城の幼馴染の空岡も、登場から僅か3ページで好きになる要素しか出てこないと思わせてくれる人物。3話では、そのかわいさが爆発します。何と言っても幼馴染ですので。幼馴染からしか摂れない栄養があります。 マンガなのでどちらか片方のルートしかないわけですが、これがゲームならどちらのシナリオも楽しみたい。甲乙つけ難い。 決めゴマの大胆さや表情の繊細な魅力も素晴らしいです。 それにつけてもやはり、根底に流れるのが冒頭1P目で描かれるような″想い″であるところに一番強く惹きつけられます。 巻末のおまけを見るだに、東雲さんはグルメマンガの才能もおありのようで。けんさ焼きは近々作ってみたいです。
兎来栄寿
兎来栄寿
9ヶ月前
『宇宙を駆けるよだか』、『箱庭のソレイユ』、『僕のオリオン』、などでお馴染みの川端志季さんの最新作です。 基本的には集英社系のレーベルでキャリアを重ねてきた方ですが、前作の『世界で一番早い春』で『KISS』を経て祥伝社で連載を開始したときにはとても納得感がありました。 川端志季さんの作品が纏う、仄暗さを纏った空気感。そして時代感覚を捉えた鋭敏なセンスから生み出されるキャラクターたちは、『FEEL』系とも絶妙にマッチしていると思ったからです。期待通り、本作でも開幕からその持ち味を出していきます。 議員の娘である白瀬皓子が国民的人気アイドルグループの烏墨真弘を轢いてしまい、彼女はその贖罪として意識を取り戻さない彼の下で10年の月日を看病に費やしていました。そして、遂に真弘が目を覚ましたことで物語の歯車が回り出します。 ヒロインが重い罪を背負い贖罪をし続ける状態で始まる男女の関係というのは流石になかなか『マーガレット』系列では見られないもので、媒体の特徴も活かした建て付けになっています。父親が参議院議員でその名誉に奉仕するよう定められた運命の不自由さ、息苦しさの描写も流石です。 そういった抑圧がしっかり描かれてていることで、皓子が外の世界を知って束の間の開放感や多くの人が普通に味わう感情を得ていく瞬間のえもいわれぬ良さが際立ちます。 真弘は、皓子のことを恨んでおらずむしろ10年間も付き添ってくれていたことに感謝しているというのがポイントです。ふたりの穏やかならぬ事故から始まった関係が今後どのようになっていくのか。10年間のブランクの先で真弘はどう生きて行くのか。 また、彼らを取り巻く家族や同じアイドルグループのメンバーたちなど脇役も魅力的なのですが、その関係図も複雑に絡み合って今後ますます盛り上がっていきそうです。