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兎来栄寿
兎来栄寿
8ヶ月前
切り絵作家でもあるコドモペーパーさんが描く、大正期を舞台にした独特の空気感を纏う作品です。紙の装丁は、その影響もあってかオシャレで素敵なデザインとなっています。時折、普通の絵に交えて切り絵による描写が差し挟まれるのも印象的です。 物語は、タイトルの通りふたりの青年が中心となって紡がれます。 うだつの上がらない漫画家である十次。 色男で売れっ子の小説家でありながら字の書けない亞一。 亞にも「次」の意味があるという点では非常に近しい名前を持つふたりの出逢いから、本作は幕を開けます。 最初は償いから始まり、やがてひとつ屋根の下で暮らすようになり、文字を書くことができない亞一に代わって十次は口述筆記を行います。その、ふたりの力を合わせて幻想文学を作り上げていくところは何とも言えないワクワク感があります。ふたりの関係性を強固にする理由が描かれた上での、134Pのセリフがとても好きです。人間の営みは目に見えないところで誰かに大きな影響を与えているものですね。 しかし、亞一にはどこか妙なところがあり、読んでいるといくつかの謎が出てきます。ある日それは十次に対するとある行為の予告として立ち現れます。コドモペーパーさんの絵は温かみがあってかわいらしいのですが、その絵柄に反して不穏な雰囲気が流れ始めます。 最後まで読めば、すべての謎は綺麗に氷解します。それを踏まえて読む2周目は、端々の描写がまた味わい深くなります。 主人公が物書きであり、また実在の文学作品が登場することもあって文学好きの方はより楽しめるでしょう。そうではなくとも、1冊で綺麗に完結している作品としてお薦めです。
名無し
8ヶ月前
おおまかな要約:新人SF作家がAIを活用して漫画を発表!本作を通じて浮かび上がるAIの課題。課長のキャラの濃さに注目。意外なネームの上手さ、素の絵でも漫画を描くべきかも? 本文:はてブで「漫画未経験のエンジニアが今のAIで漫画制作にトライしてみた記録2023年夏時点版」なるnote記事がバズっていたので知。作者はさいきんデビューしたSF作家の安野貴博。すでに本も一冊だして会社もやっているとか https://note.com/takahiroanno/n/n649cac118429 で、やっぱり、AIの使い方にもセンスがいるかなと。 アイディア出しや一部背景などではすでに導入が進んでいると聞き及びますが、 メインの作画だとどうしても違和感が勝ち、そのぶん読者としての没入感を削がれてしまう 実験作としてはなかなか興味深い試みですが、肝心のストーリーやAIよりも課長のタダオのキャラデザの濃さに目が行ってしまったw 主役を食う存在感がハンパないぜ .......! 余談:ところで上記のnoteで一部ネームを公開していたのですがけっこう構図が「まんが」してて意外に上手でびっくりしました(参考までに1ページ引用、出典は上のnote記事です) 漫画、いちどAI抜きでフツーに描いてみてもいいんじゃないかな〜?
おおまかな要約:新人SF作家がAIを活用して漫画を発表!本作を通じて浮かび上がるAIの課題。課...
名無し
8ヶ月前
大友克洋に単行本未収録作品が数多いのは漫画マニアなら周知のこと、 あーAKIRAや童夢以前の感じな、ショートピースでお馴染みの初期短編のノリなら知ってるぜ、さアどんなもんよーーと、読んでみたら........難しかった。 未発表の習作を含めた1960年代〜70年代に描かれた短編が載っているのだけれど、その時代というとまんが表現が子どものものから青年を経て、大人を志向したものに変化していく過渡期の時代なだけあってかなり文芸色・実験性の強い作品が多い。 だが気に入った作品もいくつかはあったので軽く触れておく。 ・エンタメ部門 「スマイリーおじさん」 賭け事がやめられない喰えないジジイに、死んだ父親に代わってジジイの借金を回収しようとする若者が翻弄されるユーモラスな話。原作マーク・トウェインの力もあるだろうが、本作品集のなかでは一番オモロい内容だった。 ・文芸部門 「橋と そして...」 アンブローズ・ビアスの「アウルクリーク橋の出来事」を翻案したと思しき一作。ベトナム戦争下、米兵に橋に吊るされ処刑されんとする若者。幸運にも綱が切れて逃げ延びるも.....。戦争って、マジでクソだと思わされる話だ。 ・芸術部門 「まっちうりの少女」 東京に上京する際、編集者に見せるために描いたという習作で、じつに本巻ぶっちぎりの大傑作。当時の公民権運動に触発されたと思われる、童話と人種差別を組み合わせた少女漫画的内容。マッチ売りの貧しい黒人の少女が主人公で、すごく悲しいストーリーなんだけど、その悲しさの向こう側にほのかな叙情が浮かび上がってくる。ある少年に助けられるけど、主人公がお礼を一言も言わないでいるので少年が立ち去ってしまうシーンが、何か来るものがあった。この一作が読めただけでも、買った甲斐はあったかなと思う。一番好きです。 巻末には大友自身による各作品を語った談話が載っている。これは割に面白かった。 結論としては積極的にはすすめないが、大友克洋の大ファンなら読んでみてもよいだろうといったところ。