兎来栄寿
兎来栄寿
1年以上前
『妖精のおきゃくさま』や『ライアーバード』の脇田茜さんの最新作1巻が発売となりました。 美しい青い海に浮かぶ青い屋根の建物が並ぶ島・アージュア。 その島には魔法の修練に取り組む青い髪の子供たちがいて、主人公のリンドウもそのひとり。けれど、リンドウは他の子たちのように上手く魔法を使うことができず、空気も読めないので孤立してしまっている存在です。いつも一緒の人並外れた魔法が使える赤い髪のキキョウを除いては。 アージュアには謎や秘密も多く、第一話から不穏な描写が複数現れます。 夜の外出禁止は何のためなのか。 空に現れる巨大な虫は何者なのか。 リンドウの周りで起こる不可解な現象はどんな因果で起こっているのか。 島の子供たちは何のために魔法の訓練をさせられているのか。 なぜキキョウだけ髪が赤いのか。 二話、三話と読み進めていくと、更にさまざまな設定が明かされていきます。そして、衝撃と共に謎が謎を呼ぶ展開が巻き起こります。 脇田茜さんの画風はやはりファンタジー描写との親和性が高く、世界観にとても合っていると感じます。サントリーニ島やミコノス島を思わせる冒頭や表紙絵でカラーで描かれるアージュアの景観が好きです。また、三話に登場する″空″と″星″を見分けられるおじさんのように、綺麗なキャラだけじゃないのも良いです。個人的には本だけ読んで暮らすヒキコモリになりたいジュークくんを応援しています。 また、巻末の等身低めおまけマンガもとてもかわいいです。 サスペンスフルなファンタジーを読みたい方にお薦めします。
兎来栄寿
兎来栄寿
1年以上前
田亀源五郎さんの新作は、男性同士の友達以上恋人未満の関係性とグルメマンガとしてのふたつの軸を楽しめる一粒で二度美味しい作品です。 読切で描かれたお話が連載化された作品ですが、それもそのはずでメインキャラクターのふたり、アキラとコージの息衝きが非常にヴィヴィッドです。あとがきで田亀さん自身が「お、こいつらよく動くぞ」と語っていますが、本作はこのふたりの掛け合いだけでも十二分に成立しています。1巻完結ではありますが、何ならこの後もずっと追っていたいほどの良き存在感があります。 アキラは営業職で、食べる方の専門。 コージは在宅のフリーランスで、世界各国のさまざまな料理に精通している料理上手。 気心の知れた友人同士であるふたりですが、コージの卓越した調理技術によってアキラは次第に胃袋を掴まれていきます。恋愛において、料理ができるというのは本当に強いアドバンテージだなと思います。側から見ている私ですら、コージの作る料理はとても美味しそうで食べてみたくなります。逆に、アキラが美味しそうに食べてくれるのがとても喜ばしいコージの気持ちも伝わってきます。 中には、コージがアキラの手料理を食べてみたいと簡単なレシピを教えて作らせるお話も。「シンガポールチキンライス」はお手軽で美味しそうなので、その内作ってみたいです。 個人的には、初めてギリシャに行った時に食べてとても美味しく思い出に残っているものの日本ではなかなか食べられない「ムサカ 」が、作中にガッツリと登場して嬉しかったです。自分ではあの味を上手く再現できないのですが、ギリシャ名産のミソスビールと併せてまた味わいたいものです。 食というのはひとつの生活の中心なので、その時間を笑顔で幸せに過ごせる相手というのは理想だと思います。美味しい料理を作ったのにアキラが目の前におらず思わず食べたときの反応を想い描くコージや、逆に持っていく食材があればコージの所へ行けるのにと考えるアキラの通じ具合が良いです。日々の逢瀬に始まり映像作品を一緒に観たり、デートをしたり、男性同士が心を通わせ合って行く作品として細かいシーンの積み重ねで想いが募り行く構成が堪りません。 単行本ではふたりの出逢いのエピソードが描き下ろされていますが、お互いがお互いのどんなところに興味を持ち、そして惹かれて行ったのかが解る内容で非常に良かったです。連載を楽しんで追っていた方は必読でしょう(加えて、裏表紙もかわいいです)。 なお、本作は意識的にコロナ禍下の日常であることが強調されて描かれています。ウクライナ情勢に言及するシーンもあり、そうした中でのふたりの関係性を描いており正に「今」を切り取った作品でもあります。それ故に、ふたりの存在感のリアルさもまた重みを増しています。根幹にあるものは変わらなくても、時代の変化にしっかりとアジャストしていく田亀源五郎さんの物語作りの真摯さを感じるところです。 一冊で一旦の完結を見ていますが、最初にも述べた通りこの続きにあるであろうふたりの平和で尊い日常をまだまだ追って見ていたくなる、そんな作品です。