突きつけられることコンプレックス・エイジ 佐久間結衣ナベテツ自分は確実におたくなんですが、コスプレという分野に興味はそれほどなくて、話題になっていたから読んだのですが、本当に色々考えさせられ、心に深く突き刺さりました。 もしこの作品を読んで何も感じない人は、幸運なのか無趣味なのか想像力がないのか、そのどれかだと思います。 コスプレイヤーがいつまでコスプレを続けるのか。その問いかけを「容姿」だけに限定して読んでいるならば、無縁に考えるかもしれません。しかし、この作品が問いかけ、そして考えさせるのは、誰にとっても「年齢」というのは無縁ではいられないからです。 例えば、身体を動かす趣味、ランニングやスキー、草野球やサッカーやフットサルを一番の趣味にしている人は、それを加齢によって諦める未来を想像してしまうと思います。あるいは、スタンディングのライブに行けなくなる年齢。老眼で文字か読めなくなる未来。この作品の表象はコスプレですが、読者は恐らく、自分自身にとって大事な趣味というものを諦める瞬間を、嫌でも考えてしまうのではないかと思います。 勿論、結婚や出産で趣味と離れてしまうことはあると思います(作中でも語られています)。しかし、多分我々の生きている「今」は、それらの人生のイベントの後でも趣味を続けられる環境がある程度整えられています。 かつて、「老いは恥ではないのだよ」と語って40歳を過ぎてからチャンピオンにカムバックしたボクサーもいました。しかし、どうあっても「老い」は現実に訪れるものです。寿命が伸びている今、自分が趣味を諦めることになる可能性について考えることは、体験として貴重なものなのではないかと思います。全ての知識は等価であるがらくたストリート 山田穣starstarstarstarstarナベテツ自分がまだ小学生の頃、母ちゃんが兄貴に買っていた旺文社の「高校合格」という雑誌に、恐ろしくひねくれたエッセイが掲載されていました。自らカットも描いていたのですが、そのページを書いていた男性は後にサンデー増刊で読み切り漫画を描いたりしたりもしていて、その名前はよく覚えていました。 それから10年後くらいにSPA!のコミック紹介のページで、自分の知らない「がらくたストリート」という作品が取り上げられていました(ライターがどなたかは失念してしまいました)。 かつて山田Xというペンネームで、という一文を読んで思わず目を疑いました。その後この作品を読んで、全て納得しました。 自分も基本おたくですが、中途半端であるという自覚は嫌になるくらいありますし、求道というのはまあ終わらんもんだとも思います。 この作品に関して、面白いけど説明出来ない、という評価をよくみます(まあ自分もよくそう言ってますが)。ギャグに関して「デペイズマン」という概念をエッセイで取り上げていたのは故・中島らもさんなんですが、「構図のズレ」によって産まれる笑いというのは、対象の間にどれくらいの距離があるのか理解出来るだけの知識が問われると思います。そしてこの作品には作者の培ってきたオタクとしての知識がふんだんに込められていますが、それが理解出来るかは突き詰めてしまうと読者次第ということになってしまいます。 おたくとオタクは恐らく違っていて、前者がクリエイターになって後者に受けるかどうかというある種の実験だったのかもしれないと、ふとこの文章を書いていて思ったりもしました。All for GUNDAM Fan機動戦士ガンダム デイアフタートゥモロー -カイ・シデンのメモリーより- 矢立肇 富野由悠季 ことぶきつかさナベテツこの作品が「ガンダム」というコンテンツに興味のない方は恐らく手に取る機会は全くない漫画だということは、嫌になるくらい理解しています。「ガンダム好き」で「漫画好き」という市場はニッチでしょうし、たとえガンダム好きでも若い年代に訴えかけるような派手さには欠けているとも思います。 しかし、この作品の存在は「ガンダム」という作品の成熟を示しており、読み終えた時に感じる充実感は、ちょっと他では味わえないなあと思っています。 カイ・シデンという名前は、ガンダムの世界でも異彩を放つ存在です。1年戦争を生き延び、軍に残らずジャーナリストという生き方を選んだのはオールドファンにとっては語る必要のないことですが、どのように生きたのか語られることはあまりありませんでした(基本、ガンダムというアニメが戦場を描いているからですが)。 本作では、ジャーナリストとして中年となったカイ・シデンが、1年戦争の展示のオブザーバーとして自身の体験を語るというスタイルになっています。 そこで語られることは、勿論「原作」に準拠している部分もありますし、知らないと厳しい部分も多々あります。ただ、勿論それだけではなく、行間を埋め、語ることぶき先生の語り口は本当に素晴らしく、漫画の表現としての巧みさを感じます。 正直、ガンダムを知らない人には勧め辛いタイトルではあります。ただ、宇宙世紀のガンダムをある程度知っている方には、是非とも読んで貰いたい作品です。 前述の通り、決して派手な作品ではありません。しかし、原作を持ちつつ、その世界を活かし、新たな魅力を作り出すというのは、メディアミックスにおける成功例であり、漫画という異なるジャンルでこれほど優れた作品に出会えたことの幸福は、まだ出会っていない人に広く伝えたいと思っています。想像力の翼ウイちゃんがみえるもの 衿沢世衣子ナベテツ衿沢先生の作品の持つ「可愛らしさ」は、他に類を見ない唯一無二の魅力なんですが、この作品は本当にその可愛らしさに溢れています。 この後に発表された「新月を左に旋回」や「うちのクラスの女子がヤバい」でも感じたことですが、のびのびとした想像力の自由さは、ふわりと空に舞うような心地好さを読者にもたらしてくれます。 ウイちゃんに見える不思議なもの達。お節介だったり迷惑だったり、時にウイちゃんを助けてくれたりもするんですが、衿沢先生の柔らかな想像力は、たまらなくいとおしい世界を見せてくれます。 ウイちゃんも友達も、皆可愛い。同じ言葉を繰り返すのは些か知性に欠ける気もしますが、読後感はとてもハッピーになること請け負いです。 魂の気高さサウダーデ 池辺葵ナベテツ知らない漫画を読もうと思って手に取って、出会えたことに感謝している作品は沢山あるんですが、この作品と、この作者に出会えたことは本当に幸運だったと思っています。 池辺先生の描く女性の美しさに惹かれるのは、その魂の凛とした気高さに魅了されるからです。 同時期に描かれていた「繕い裁つ人」と共通の登場人物がいたり(そもそも主人公同士が親友)して、とりとめもない会話の中でも叡智を感じます。 池辺先生の作品の輝きというのは、貴金属の放つ輝きではなくて、知性が宿す、ふくよかな美しさによるものなのであり、初期の作品でありながら、老成した詩人のような巧みさがあります。 自分が一番好きなのは、翔君が訪れるところです(彼のような若者を魅力的に描けるのも池辺先生の漫画の力だと感じています)。 モノローグを排して、言葉と表情で描かれる作品は、美しさと力強さと知性に溢れています。未読の方は「繕い裁つ人」も併せて是非。つぎはぎだらけの幸せでも夢かもしんない 星里もちるナベテツ幸せか?と訊かれて、ためらいなく頷くことが出来る大人は、どれくらいいるのでしょう。少年の日に思い描いていた大人と今の自分との間に、どれくらいの距離があるのか。殆んどの人間はそんなことを忘れてしまうんでしょうけれど、この作品は、くたびれた大人になった主人公を「ハッピーにしてあげる」という謎の美少女が出会い、始まります。 ピュアであるということは、必ずしも良いことではないと分かるくらいには老成してしまった人間は、彼女の問いかけに対して恐らく言葉をなくしてしまうのではないかと思います。それでもこの物語を読んでしまうのは、恐らくある種の郷愁があるからではないかと思います。もう戻ることの出来ない時代があると理解して、ただ喪ってしまったことを嘆くのではなく、手にしたものをいとおしむことが出来る大人になったと自覚すること。星里もちる先生は、物語の中に数滴の「毒」を混ぜる人なんですが、この作品はそのバランスが絶妙だと思いますし、その毒を包む糖衣は比較的受け入れられやすいと思います。 常識に抗う。格闘太陽伝ガチ 青山広美ナベテツ今は主に漫画原作者として活躍している青山広美さんが描いた、総合格闘技の漫画です。連載時に読んでいたのですが、数年前にふと思い出して読みたくなり、古本で全巻揃えて読み返し、青山さんの創作の根底には「常識に抗う」という要素があるんだなあと思いました。 総合格闘技にショーアップされたプロレスで挑んだり、スープレックスを決め技にしたり、大相撲の現役の大関とレスラーがガチンコで戦ったり…。麻雀漫画の不朽の名作である「バード」もそうですが、世間の常識に対して抗う、その闘争こそがこの作者の真骨頂だと思います。 作品に漂うダークさや残酷描写も含め、唯一無二の作品であり、恐らく埋もれてしまっているのですが、一人の少年の成長物語としても良い作品だと思います。強度のある物語バタフライ・ストレージ 安堂維子里ナベテツ作中の個人の動機付けに対して、納得することが出来るのは良い物語だと勝手に思っているのですが、この作品の登場人物たちが抱えている事情は、読者に対してとても強い印象を与えてくれます。主人公の小野君、荒井さん、神田さん、佐川さん…。それぞれが抱える、蝶に対する背景が明かされる度に、読者はただただ圧倒されます。 設定の素晴らしさが語られることが多い作品ですが、それに負けず劣らず登場人物も魅力的であり、このサーガを紡いでくれた安堂先生、掲載してくれたコミックリュウ編集部、そして転生を遂げさせてくれたアワーズ編集部に感謝しています。 漫画を好きでもこの作品を知らないという人が多くて、でも勧めて読むと本当に面白くてびっくりする、ということが自分の経験でもう十指に余るくらいあって、理屈は良いからとりあえず読んでくれ、とまあ鬱陶しいくらい言い続けてる作品です。 この投稿で、一人でも多くの人にこの作品を知って貰えれば幸いです。ナベテツ1年以上前ちづかマップ。読むと多分、お外に出たくなる漫画。漫画を読んでぶらっと散歩に出るのも連休中の特権だと思います。自由広場【2019GW】オススメのマンガを教えて!2わかるsweet surrender 海月と私 麻生みことナベテツ漫画だけではないんですが、たまに「あ、この先の展開読めた」ってことがあるんですが、この作品は完璧な形で展開を読み間違えました。 3巻までに敷かれた伏線で、恐らく殆んどの読者が「こうなるのかな」と予想した展開に対して、作者は鮮やかな手つきで全く異なる物語を紡ぎます。多少なりとも漫画を読み続けてきた自信があり、舞台や映画でも伏線をまとめる手法も多少は読めると思っていただけに、この作品では本当に「やられた」という心地よい敗北感を味わいました。 勿論、作者が読者にミスリーディングを誘うその手法の巧みさを称賛すべきであり、敗北感を感じるのはお門違いも甚だしいというの勿論分かっています。ただ、この心地良い読後感と、作者の紡ぐ美しくて技巧に優れた漫画は、ただただ称賛に値する物語だと思っています。きっとあなたも、騙されると思います(そしておまけでニヤニヤすることも)。 一人でも多くの人に、この作品を最後まで読んでもらい、そして幸福な敗北感を味わって欲しい。 海月のようにとらえどころのない美女に、翻弄される男心。麻生先生の描く人物は、とても魅力的です。罪を背負った臆病者エイス Aiming for the ace 伊図透ナベテツ年をとり、世間の垢にまみれ、世の中の汚さとか醜さを知ってしまった中年がいる。ただ、そんな男には、汚すことの出来ない、聖域とも言える無垢なる心の領域が、ある。 作者の伊図透さんが一貫して描くのは、そんな言葉にすることが難しい、魂の領域の話です。 薄汚れた中年であると自覚している自分はこの作品を読み返す度に、ああ、というため息が漏れます。 万人に受け入れられるような、間口の広い作品ではありません。作者にとっても、決して幸福な終わり方をした作品ではなかったのだろうな、とも感じられます。 それでもこの作品が持つ、暴力を孕んだ残酷な美しさは、読み手の心に深い点を穿ちます。川辺で語られた少年の日の言葉だけでも、広く読まれて欲しい。主人公のように皮肉な笑みを張り付けている中年は、いつか迷子の少年にそんな言葉をかけられるようになりたいと思ったりもします、ナベテツ1年以上前安堂維子里「特蝶」来月末に1巻が出ますが、バタフライ・ストレージの続編です(時代としては16年前) ちなみにバタフライ~にはこんなPVもあります https://m.youtube.com/watch?v=56sViWpcXxU自由広場【募集】まだ単行本が出てないおすすめマンガは?21わかる « First ‹ Prev … 46 47 48 49 50 51 Next › Last » もっとみる
突きつけられることコンプレックス・エイジ 佐久間結衣ナベテツ自分は確実におたくなんですが、コスプレという分野に興味はそれほどなくて、話題になっていたから読んだのですが、本当に色々考えさせられ、心に深く突き刺さりました。 もしこの作品を読んで何も感じない人は、幸運なのか無趣味なのか想像力がないのか、そのどれかだと思います。 コスプレイヤーがいつまでコスプレを続けるのか。その問いかけを「容姿」だけに限定して読んでいるならば、無縁に考えるかもしれません。しかし、この作品が問いかけ、そして考えさせるのは、誰にとっても「年齢」というのは無縁ではいられないからです。 例えば、身体を動かす趣味、ランニングやスキー、草野球やサッカーやフットサルを一番の趣味にしている人は、それを加齢によって諦める未来を想像してしまうと思います。あるいは、スタンディングのライブに行けなくなる年齢。老眼で文字か読めなくなる未来。この作品の表象はコスプレですが、読者は恐らく、自分自身にとって大事な趣味というものを諦める瞬間を、嫌でも考えてしまうのではないかと思います。 勿論、結婚や出産で趣味と離れてしまうことはあると思います(作中でも語られています)。しかし、多分我々の生きている「今」は、それらの人生のイベントの後でも趣味を続けられる環境がある程度整えられています。 かつて、「老いは恥ではないのだよ」と語って40歳を過ぎてからチャンピオンにカムバックしたボクサーもいました。しかし、どうあっても「老い」は現実に訪れるものです。寿命が伸びている今、自分が趣味を諦めることになる可能性について考えることは、体験として貴重なものなのではないかと思います。全ての知識は等価であるがらくたストリート 山田穣starstarstarstarstarナベテツ自分がまだ小学生の頃、母ちゃんが兄貴に買っていた旺文社の「高校合格」という雑誌に、恐ろしくひねくれたエッセイが掲載されていました。自らカットも描いていたのですが、そのページを書いていた男性は後にサンデー増刊で読み切り漫画を描いたりしたりもしていて、その名前はよく覚えていました。 それから10年後くらいにSPA!のコミック紹介のページで、自分の知らない「がらくたストリート」という作品が取り上げられていました(ライターがどなたかは失念してしまいました)。 かつて山田Xというペンネームで、という一文を読んで思わず目を疑いました。その後この作品を読んで、全て納得しました。 自分も基本おたくですが、中途半端であるという自覚は嫌になるくらいありますし、求道というのはまあ終わらんもんだとも思います。 この作品に関して、面白いけど説明出来ない、という評価をよくみます(まあ自分もよくそう言ってますが)。ギャグに関して「デペイズマン」という概念をエッセイで取り上げていたのは故・中島らもさんなんですが、「構図のズレ」によって産まれる笑いというのは、対象の間にどれくらいの距離があるのか理解出来るだけの知識が問われると思います。そしてこの作品には作者の培ってきたオタクとしての知識がふんだんに込められていますが、それが理解出来るかは突き詰めてしまうと読者次第ということになってしまいます。 おたくとオタクは恐らく違っていて、前者がクリエイターになって後者に受けるかどうかというある種の実験だったのかもしれないと、ふとこの文章を書いていて思ったりもしました。All for GUNDAM Fan機動戦士ガンダム デイアフタートゥモロー -カイ・シデンのメモリーより- 矢立肇 富野由悠季 ことぶきつかさナベテツこの作品が「ガンダム」というコンテンツに興味のない方は恐らく手に取る機会は全くない漫画だということは、嫌になるくらい理解しています。「ガンダム好き」で「漫画好き」という市場はニッチでしょうし、たとえガンダム好きでも若い年代に訴えかけるような派手さには欠けているとも思います。 しかし、この作品の存在は「ガンダム」という作品の成熟を示しており、読み終えた時に感じる充実感は、ちょっと他では味わえないなあと思っています。 カイ・シデンという名前は、ガンダムの世界でも異彩を放つ存在です。1年戦争を生き延び、軍に残らずジャーナリストという生き方を選んだのはオールドファンにとっては語る必要のないことですが、どのように生きたのか語られることはあまりありませんでした(基本、ガンダムというアニメが戦場を描いているからですが)。 本作では、ジャーナリストとして中年となったカイ・シデンが、1年戦争の展示のオブザーバーとして自身の体験を語るというスタイルになっています。 そこで語られることは、勿論「原作」に準拠している部分もありますし、知らないと厳しい部分も多々あります。ただ、勿論それだけではなく、行間を埋め、語ることぶき先生の語り口は本当に素晴らしく、漫画の表現としての巧みさを感じます。 正直、ガンダムを知らない人には勧め辛いタイトルではあります。ただ、宇宙世紀のガンダムをある程度知っている方には、是非とも読んで貰いたい作品です。 前述の通り、決して派手な作品ではありません。しかし、原作を持ちつつ、その世界を活かし、新たな魅力を作り出すというのは、メディアミックスにおける成功例であり、漫画という異なるジャンルでこれほど優れた作品に出会えたことの幸福は、まだ出会っていない人に広く伝えたいと思っています。想像力の翼ウイちゃんがみえるもの 衿沢世衣子ナベテツ衿沢先生の作品の持つ「可愛らしさ」は、他に類を見ない唯一無二の魅力なんですが、この作品は本当にその可愛らしさに溢れています。 この後に発表された「新月を左に旋回」や「うちのクラスの女子がヤバい」でも感じたことですが、のびのびとした想像力の自由さは、ふわりと空に舞うような心地好さを読者にもたらしてくれます。 ウイちゃんに見える不思議なもの達。お節介だったり迷惑だったり、時にウイちゃんを助けてくれたりもするんですが、衿沢先生の柔らかな想像力は、たまらなくいとおしい世界を見せてくれます。 ウイちゃんも友達も、皆可愛い。同じ言葉を繰り返すのは些か知性に欠ける気もしますが、読後感はとてもハッピーになること請け負いです。 魂の気高さサウダーデ 池辺葵ナベテツ知らない漫画を読もうと思って手に取って、出会えたことに感謝している作品は沢山あるんですが、この作品と、この作者に出会えたことは本当に幸運だったと思っています。 池辺先生の描く女性の美しさに惹かれるのは、その魂の凛とした気高さに魅了されるからです。 同時期に描かれていた「繕い裁つ人」と共通の登場人物がいたり(そもそも主人公同士が親友)して、とりとめもない会話の中でも叡智を感じます。 池辺先生の作品の輝きというのは、貴金属の放つ輝きではなくて、知性が宿す、ふくよかな美しさによるものなのであり、初期の作品でありながら、老成した詩人のような巧みさがあります。 自分が一番好きなのは、翔君が訪れるところです(彼のような若者を魅力的に描けるのも池辺先生の漫画の力だと感じています)。 モノローグを排して、言葉と表情で描かれる作品は、美しさと力強さと知性に溢れています。未読の方は「繕い裁つ人」も併せて是非。つぎはぎだらけの幸せでも夢かもしんない 星里もちるナベテツ幸せか?と訊かれて、ためらいなく頷くことが出来る大人は、どれくらいいるのでしょう。少年の日に思い描いていた大人と今の自分との間に、どれくらいの距離があるのか。殆んどの人間はそんなことを忘れてしまうんでしょうけれど、この作品は、くたびれた大人になった主人公を「ハッピーにしてあげる」という謎の美少女が出会い、始まります。 ピュアであるということは、必ずしも良いことではないと分かるくらいには老成してしまった人間は、彼女の問いかけに対して恐らく言葉をなくしてしまうのではないかと思います。それでもこの物語を読んでしまうのは、恐らくある種の郷愁があるからではないかと思います。もう戻ることの出来ない時代があると理解して、ただ喪ってしまったことを嘆くのではなく、手にしたものをいとおしむことが出来る大人になったと自覚すること。星里もちる先生は、物語の中に数滴の「毒」を混ぜる人なんですが、この作品はそのバランスが絶妙だと思いますし、その毒を包む糖衣は比較的受け入れられやすいと思います。 常識に抗う。格闘太陽伝ガチ 青山広美ナベテツ今は主に漫画原作者として活躍している青山広美さんが描いた、総合格闘技の漫画です。連載時に読んでいたのですが、数年前にふと思い出して読みたくなり、古本で全巻揃えて読み返し、青山さんの創作の根底には「常識に抗う」という要素があるんだなあと思いました。 総合格闘技にショーアップされたプロレスで挑んだり、スープレックスを決め技にしたり、大相撲の現役の大関とレスラーがガチンコで戦ったり…。麻雀漫画の不朽の名作である「バード」もそうですが、世間の常識に対して抗う、その闘争こそがこの作者の真骨頂だと思います。 作品に漂うダークさや残酷描写も含め、唯一無二の作品であり、恐らく埋もれてしまっているのですが、一人の少年の成長物語としても良い作品だと思います。強度のある物語バタフライ・ストレージ 安堂維子里ナベテツ作中の個人の動機付けに対して、納得することが出来るのは良い物語だと勝手に思っているのですが、この作品の登場人物たちが抱えている事情は、読者に対してとても強い印象を与えてくれます。主人公の小野君、荒井さん、神田さん、佐川さん…。それぞれが抱える、蝶に対する背景が明かされる度に、読者はただただ圧倒されます。 設定の素晴らしさが語られることが多い作品ですが、それに負けず劣らず登場人物も魅力的であり、このサーガを紡いでくれた安堂先生、掲載してくれたコミックリュウ編集部、そして転生を遂げさせてくれたアワーズ編集部に感謝しています。 漫画を好きでもこの作品を知らないという人が多くて、でも勧めて読むと本当に面白くてびっくりする、ということが自分の経験でもう十指に余るくらいあって、理屈は良いからとりあえず読んでくれ、とまあ鬱陶しいくらい言い続けてる作品です。 この投稿で、一人でも多くの人にこの作品を知って貰えれば幸いです。ナベテツ1年以上前ちづかマップ。読むと多分、お外に出たくなる漫画。漫画を読んでぶらっと散歩に出るのも連休中の特権だと思います。自由広場【2019GW】オススメのマンガを教えて!2わかるsweet surrender 海月と私 麻生みことナベテツ漫画だけではないんですが、たまに「あ、この先の展開読めた」ってことがあるんですが、この作品は完璧な形で展開を読み間違えました。 3巻までに敷かれた伏線で、恐らく殆んどの読者が「こうなるのかな」と予想した展開に対して、作者は鮮やかな手つきで全く異なる物語を紡ぎます。多少なりとも漫画を読み続けてきた自信があり、舞台や映画でも伏線をまとめる手法も多少は読めると思っていただけに、この作品では本当に「やられた」という心地よい敗北感を味わいました。 勿論、作者が読者にミスリーディングを誘うその手法の巧みさを称賛すべきであり、敗北感を感じるのはお門違いも甚だしいというの勿論分かっています。ただ、この心地良い読後感と、作者の紡ぐ美しくて技巧に優れた漫画は、ただただ称賛に値する物語だと思っています。きっとあなたも、騙されると思います(そしておまけでニヤニヤすることも)。 一人でも多くの人に、この作品を最後まで読んでもらい、そして幸福な敗北感を味わって欲しい。 海月のようにとらえどころのない美女に、翻弄される男心。麻生先生の描く人物は、とても魅力的です。罪を背負った臆病者エイス Aiming for the ace 伊図透ナベテツ年をとり、世間の垢にまみれ、世の中の汚さとか醜さを知ってしまった中年がいる。ただ、そんな男には、汚すことの出来ない、聖域とも言える無垢なる心の領域が、ある。 作者の伊図透さんが一貫して描くのは、そんな言葉にすることが難しい、魂の領域の話です。 薄汚れた中年であると自覚している自分はこの作品を読み返す度に、ああ、というため息が漏れます。 万人に受け入れられるような、間口の広い作品ではありません。作者にとっても、決して幸福な終わり方をした作品ではなかったのだろうな、とも感じられます。 それでもこの作品が持つ、暴力を孕んだ残酷な美しさは、読み手の心に深い点を穿ちます。川辺で語られた少年の日の言葉だけでも、広く読まれて欲しい。主人公のように皮肉な笑みを張り付けている中年は、いつか迷子の少年にそんな言葉をかけられるようになりたいと思ったりもします、ナベテツ1年以上前安堂維子里「特蝶」来月末に1巻が出ますが、バタフライ・ストレージの続編です(時代としては16年前) ちなみにバタフライ~にはこんなPVもあります https://m.youtube.com/watch?v=56sViWpcXxU自由広場【募集】まだ単行本が出てないおすすめマンガは?21わかる
ナベテツ1年以上前安堂維子里「特蝶」来月末に1巻が出ますが、バタフライ・ストレージの続編です(時代としては16年前) ちなみにバタフライ~にはこんなPVもあります https://m.youtube.com/watch?v=56sViWpcXxU自由広場【募集】まだ単行本が出てないおすすめマンガは?21わかる
自分は確実におたくなんですが、コスプレという分野に興味はそれほどなくて、話題になっていたから読んだのですが、本当に色々考えさせられ、心に深く突き刺さりました。 もしこの作品を読んで何も感じない人は、幸運なのか無趣味なのか想像力がないのか、そのどれかだと思います。 コスプレイヤーがいつまでコスプレを続けるのか。その問いかけを「容姿」だけに限定して読んでいるならば、無縁に考えるかもしれません。しかし、この作品が問いかけ、そして考えさせるのは、誰にとっても「年齢」というのは無縁ではいられないからです。 例えば、身体を動かす趣味、ランニングやスキー、草野球やサッカーやフットサルを一番の趣味にしている人は、それを加齢によって諦める未来を想像してしまうと思います。あるいは、スタンディングのライブに行けなくなる年齢。老眼で文字か読めなくなる未来。この作品の表象はコスプレですが、読者は恐らく、自分自身にとって大事な趣味というものを諦める瞬間を、嫌でも考えてしまうのではないかと思います。 勿論、結婚や出産で趣味と離れてしまうことはあると思います(作中でも語られています)。しかし、多分我々の生きている「今」は、それらの人生のイベントの後でも趣味を続けられる環境がある程度整えられています。 かつて、「老いは恥ではないのだよ」と語って40歳を過ぎてからチャンピオンにカムバックしたボクサーもいました。しかし、どうあっても「老い」は現実に訪れるものです。寿命が伸びている今、自分が趣味を諦めることになる可能性について考えることは、体験として貴重なものなのではないかと思います。