島っ子

初ちば先生の少女マンガもの

島っ子 ちばてつや
酒チャビン
酒チャビン

昔の巨匠は皆少女まんがも書いていたようです。こちらの作品はあしたのジョー等でお馴染みのちばてつや先生による少女マンガものとなります。 とはいえ、今我々が「少女マンガ」と聞いてイメージするものとはだいぶ作風が異なります。主人公が少女なだけで、結構普通のといったら変ですが、老若男女問わずに楽しめる物語なので、ジェンダーレスに楽しめると思います。 まぁ同じエンタメでも映画なんかは別に「男子向け」「女子向け」とかそこまでないので、不思議ではないですね。 気になるストーリーの方なのですが、都会っ子のおてんば娘である主人公のミチ(小五)が親の都合で離島に移住してくるところからスタートします。初めは島民たちが閉鎖的だったりするのですが、持ち前の快活さですぐに打ち解けます。ただ大人たちはそうもいかず、ミチの両親と大人の島民たちとの間で揉め事などが頻発してしまいます。 台風がきて島全体が壊滅的な打撃を受け、大人たちが皆自失してしまっている中、そんな大人を励ますためにミチを筆頭に子供たちが力を合わせて運動会を開催するシーンは、現代社会で忘れてしまった何かを思い出させてくれるようで、思わず落涙せざるを得ませんでした。

小学館版学習まんが 少年少女 日本の歴史

学習漫画史上の傑作日本史漫画

小学館版学習まんが 少年少女 日本の歴史 児玉幸多 あおむら純 森本一樹
ピサ朗
ピサ朗

恐らく今後コレを越えうる日本史漫画は出てこないのではないか、そう思えるほどに徹底した学習漫画。 この作品自体は日本の歴史を漫画で解説・紹介する、いわゆる学習漫画なのだが、その範囲、細やかさ、深さ、総合的な面では全ての教科書、歴史漫画を見渡しても稀な域に達している。 扱っている時代の細やかさでは、風雲児たちなんかも相当な物なのだが、あちらはギャグ漫画であり江戸から幕末の範囲に絞られている。 翻ってこちらは原始時代から昭和という広範囲を30巻に満たない巻数で描いているので、どうしても省略されたり、扱えない部分も見え隠れするのだが、それでもこの作品から漂う参考資料の質量ともに恐るべきものがある。 その理由の一つがこの作品が小学館記念事業として、バブル景気を追い風に惜しみなく資金と時間を投じられて作られ、また関係者もそれに尽力した熱意と労力の果てに到達した物である事だろう。 当時の文部省の指導要綱や監修者の史観にある程度沿った内容だが、それでも明らかな史実に忠実、かつ俗説は排除されており、不明な部分が多い事には参考資料や採用した説である事を併記し、服や住居、色彩、様々な分野が描かれている時代から逸脱しないように気を払われている。 流石に言語は現代語訳されているし、架空の人物等も描かれているが、架空の人物を用い、教科書ではおざなりにされがちな下々の人の生活や上流階級以外の文化を可能な限り描き出し、最早この作品自体が資料として通じるレベル。 もちろんそうは言っても、発行が1981年という時代も手伝い、現代では明らかになった新事実や、文科省の指導要綱や現代のイデオロギーや主流史観からは外れた部分も有るのだが、完全に明白な間違いは 「※実際には猫は古墳時代には居なかった」という注釈くらいである。 当時は大陸との交流で平安・奈良時代に日本に猫が定着したという定説も、40年以上の発掘の末に日本列島には弥生時代には既に猫が生息したという事が明らかになったのである。 それ以外の間違いに関しては史観・採用説の違いで済む範囲の物であり、カルチャー面に関してはかなりの範囲で網羅されており、鎧の着方、当時の農機具、流行りの髪型等、どうしても人物や事件に範囲を絞る教科書では軽くされがちがな部分も可能な限り取り扱っている。 この辺は総監修を担当している児玉幸多氏が、主に近世の農村に関しての著作が多数ある博士であり、庶民の文化をできるだけ漫画に入れようとなさったのかもしれない。 江戸期が特に多数の巻が割かれているのも、当時の文部省の指導要綱が不明なので児玉幸多氏の方針なのかもしれない。 この江戸期をやや重視した構成は、現代の教育方針からすると若干の違和感は有る。 ただしそれでも40年に渡り、文科省の方針や新事実が発見されても殆ど改訂、絶版されなかったという普遍性と資料性は恐るべきものであり、小学校から大学受験まで歴史学習に十分使えるものだろう。 全面改訂版として山川出版が監修した後継作品も出版されたが、正確性はともかく、庶民の生活等は主に巻末資料で触れ作中ではあまり描かれず、近現代史中心の構成となっていて、ドラマ・エンタメ性も縮小し対象年齢が上がっていて、部分的にはともかく後継作品としては結構な違和感がある。 しかしコレは時代や作風の違いというより、偉大過ぎる先達である当シリーズを越えるのが難しいという面も有るだろう。 おおよそ文系の学習漫画では一つの到達点とも言えるシリーズであり、お子さんに買い与える以外に、一種の資料として使ったり、製作者一人一人に思いを馳せたり、名所旧跡を巡る参考にしたり、様々な楽しみ方ができる傑作。

誰も懲りない

「世代を越えて引き継がれてしまう負の連鎖」を描いた機能不全家族漫画

誰も懲りない 中村珍
名無し

「家族」によって押し込まれ、ねじ込まれ、見放され、将来の蓋を閉められたある女の物語。 「ギリギリの正気と生命を保っているだけでも心の底から凄い」と思ってしまう程の極限とも言える理不尽な精神・身体への暴言・暴力(精神的虐待・身体的虐待・性的虐待)を「家族(および近親者だった人)」から受けている女性の主人公が、親族同様に自分勝手に生きようとせず、理性・常識性をギリギリに保ちつつも狂いきってしまわないどころか、そこかしこに自分を責めてしまうほど脆い心を持つ上、家族がクズになり下がるほど歪んでいようとも、家族との縁を切りきっていないところは読んでいて苦しかったです。 主人公が抱える怒りは、途中までは各々が努力して上手く機能していた家族が有る出来事を発端に崩壊した事に依るものです。 主人公が抱える「家庭崩壊のトラウマ」や「信じて居た者からの裏切りと置き去り」によって湧いた怒りは、幼少時~少女時代に家族から与えられていた「一家の誇り」と「幸福」の記憶が残っているだけに性質が悪く、その感情がコントロール出来なくなった時に、主人公自身もまた暴言・暴力を弱き立場になった者へと振るう…あれほど忌み嫌っていたにも関わらず。 モノクロ(ほとんど白い背景)で構成されたシンプルな作画である一方、チクチクする感覚と、ガンガンと殴られる感覚が半端ないです。 かきおろしパートでの主人公の言葉は何度読み返しても「経験した人にしか口に出来ない言葉なのだろう」「現代の悲惨な精神構造がここにある」と感じてしまいます。 ニーチェが指摘した「奇妙な自己虐待の本能」、あるいはフーコーが言った「生-権力による自己監視システム」の苦しみが、本作ではこれでもかとばかりに描かれている…そんな漫画作品です。 重すぎる上に辛すぎる機能不全家族漫画ですが、私は思うところがあってたまに読み返しています。

台湾人主夫奮闘記 in Tokyo

漫画家主夫、日本を見る #1巻応援

台湾人主夫奮闘記 in Tokyo 米奇鰻
あうしぃ@カワイイマンガ
あうしぃ@カワイイマンガ

『T子の一発旅行』なんかでも台湾人視点の日本人像が面白いのですが(あれはちょっとはっちゃけすぎだけど)、この『台湾人主夫奮闘記 in Tokyo』では一冊通して、東京に越してきた台湾人による鋭い日本観察が楽しめます。 通読した感想としては「なんか日本ごめんね……」ですかね。 まず、日本で働くことになった台湾人女性の描写がなかなかエグい。 真面目で優秀だけどメンタル弱めな彼女は完璧に日本の会社に順応するけど、いつも疲労困憊。日本の会社って、真面目な人ほど損するように出来てるよね。 そんな彼女を支えようと家事にケアに奮闘する漫画家兼主夫ですが、忙しい中でも街中、スーパー、風邪薬、語学学校、そして妻と、観察が止まらない。 良い点もそして悪い点も、あくまでも面白おかしく伝えられるので、笑えるけど確かにその通りだから胸が……痛い……。 また夫として、働く妻を真剣に支えるスタンスがすごいし、学ぶところが多い……というかこれこそ、胸が痛い男性が多そう。アジアの男にこんな人いない!(このセリフ、作中から探してみよう!) そんな夫にちゃんと癒される妻。最終的に「この二人が惚気てくれればそれでいっか」と明るい気持ちになれるのですが、でもやっぱり全体的に「ごめんよ……」と言いたくなる、そんな作品でした。 (個人の見解です!!)

友繪の小梅屋備忘録

台北女学生は食の交差点を駆ける #1巻応援

友繪の小梅屋備忘録 黒木夏兒 清水
あうしぃ@カワイイマンガ
あうしぃ@カワイイマンガ

日清戦争の下関条約で割譲が決まった台湾。日本の統治が始まってから、多くの日本人(内地人)が台湾に渡り、様々に台湾人(本島人)と関わりはじめます。 本作の主人公・台北に住む友繪の家は、日本式の料亭。友繪の祖母一家が明治期に、どのように台北に根を下ろしたかは番外編に描かれていますが、本島人と内地人の関わり方、本気でその地に根を下ろす事が丁寧に描かれていて、考えさせられます。 本編はそんな時代を知らない大正の女学生・友繪のお話。彼女は級友たちと、女学校の園遊会のおもてなし料理を探すべく、おじに連れられて食に溢れる台北を食べ歩き。 和食も洋食も揃った台北。それだけでも私には驚きなのですが、やはり気になるのは台湾料理。ですがここで彼女たちは壁にぶつかります。 いくつかのピンチに萎れそうになる友繪。しかし友繪のとった行動、分け隔てない真っ直ぐな気性は、ある奇跡を起こします。そこからの快進撃、不測の事態を咄嗟の判断で回す現場力。これはワクワクする!そして園遊会の料理絵図、豪華絢爛! 最後まで読むと、友繪の気性が祖母や母から受け継がれているのが分かって嬉しくなるし、友繪の今後が(そして出会うキャラの今後も)とても楽しみになります…… ……え、続きがあるのかって? あるんです!2巻はすでに台湾で発売中!そして3巻も……?

はらへりエイリアンとひよっこごはん

料理が苦手な人にこそピッタリ #1巻応援

はらへりエイリアンとひよっこごはん ぼく 子新唯一
兎来栄寿
兎来栄寿

ハンバーグを作ったら「ダークマターバーグ」と呼ばれてしまうほど料理オンチな少女・摩訶子の家が宇宙人に侵略されてしまい、美味しい料理を提供しないと愛犬もろとも殺されてしまうという状況で、料理オンチでも作れる美味しいメニューを必死に作り続けるSF要素を交えたグルメマンガです。 1巻の目次は 第1話 UFOとスパニッシュオムレツ 第2話 大葉香るガパオライス 第3話 ピリ辛! 鶏チリかた焼きそば 第4話 ◯◯◯でルーローハン!? 第5話 リベンジ! 煮込みハンバーグ おまけ漫画① ふかふか野郎 おまけ漫画② プチバナナパンケーキ となっており、全部で7品のお手軽レシピを知ることができます。 友達の料理上手な栞奈ちゃんのヘルプを受けて料理がまったくできず苦手意識のある主人公でも作れる簡単なレシピとなっており、第1話のスパニッシュオムレツなどはフライパンも使わずに作れるので、料理初心者や苦手意識のある方こそ読んで作ってみて欲しい内容です。メニュー自体も小洒落ていて、味はもちろん見目も良さそうなので、家族や友人に作っても喜ばれるのではないでしょうか。 私も◯◯◯を使ったルーローハンは作ってみたいなと思いました。日本ではなかなかルーローハンを出してくれるお店も少ないですからね。なお玉子は半熟派です。 長ねぎや玉ねぎの簡単なみじん切りの仕方、チューブでないしょうがやにんにくの扱い方、料理酒と清酒の違いなどなど、幅広いメニューに使える知識や技術も少しずつ学んでいくことができます。一人暮らしを期に自炊を始めてみようか、という方にもお薦めです。 子新唯一さんの絵が、女の子も犬のバルバルもかわいくて良いです。帰ったときにすぐ駆け寄ってこず「あ、寝てたな」となるのはあるある。