voiceful

ネットの歌姫と引き篭もりの私

voiceful ナヲコ
あうしぃ@カワイイマンガ
あうしぃ@カワイイマンガ

こんなに繊細で優しい「救い」の物語が、「コミック百合姫」黎明期に存在した奇跡を思う(「百合姫」の前身、「百合姉妹」から続いた連載)。 キスシーンひとつ無い、女性同士の様々な感情を包摂したこの作品こそが、現在の拡張していく「百合」世界の、感性の基礎になったと言えると思うし、今読んでもその内容は、全く色褪せない。 ♡♡♡♡♡ ネットで出会った歌声に心を救われた、引き篭もりの女子高生は、不意にその「歌姫」と知り合う。会う度に親密になる二人だが、歌姫が歌に打ち込む為、会えなくなると言う時、二人の心は……。 ♡♡♡♡♡ 神様と出会ってしまった女子高生の、浮かれる気持ちと浮かれてしまった後悔、そして会う度に募らせた気持ちが胸に迫る。 一方、女子高生に温かさをもらい、辛い過去を振り切り、勇気を出してネットの世界から出ようとする歌姫もまた、切実だ。 傷を持つ二人が、互いへの想いをよすがに現実へと踏み出す、繊細な友愛の物語。成人誌でも(同性・異性の別無く)傷ついた心を思い遣る関係性を描いて来た、ナヲコ先生ならではの作品と言えるだろう。 (成人誌の作品に関しては短編集『からだのきもち』をご覧下さい)。

名前はまだない

「眼差し」と「間」で描く恋愛の強度

名前はまだない かずまこを
あうしぃ@カワイイマンガ
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かずまこを先生の作品は、登場人物の強い「眼差し」にやられることが多い。 『純粋アドレッセンス』のななおの向こう見ずさ、『ディアティア』の睦子の、純粋に相手を知りたい感情、『さよならフォークロア』の二人の、現状を乗り越える意思etc……彼女達の「眼差し」が伝える強い感情に胸を打たれ、動悸が止まらなくなる。 彼女達に見つめられた者は、時に目を逸らし、時に見つめ返す。表情を僅かに変えながら、その「間」で思考を巡らせ、言葉を返す。 交わす気持ちの、伝わらなさがもどかしかったり、ふと通じる瞬間にときめいたり……いずれにしても、二人の「間」そのものが愛おしい。 かずまこを先生の作品の描く「眼差し」と「間」は、この短編集『名前はまだない』の各掌編に端的に描かれている。 まずこの短編集で、かずまこを先生の「眼差しと間の強度」を知るのもいいと思う。連載作品にも全く同じ強度があるという、その贅沢さをお伝えしておきたい。 ●3秒ルール 相手の言葉に、返事するまで3秒以内。言葉に詰まったら負け。 ●uracoi 睨んでからコミュニケーションする女子の、佇まいに惚れる。でも告白してくれたら、眼を逸らすなんて……。 ●恋はお静かに わたしが頭を打ったら、寡黙な委員長の饒舌な脳内がダダ漏れ? ●消し去る恋と願いごと 片想いしている先輩が、急に明日スイスに引っ越し!?先輩は私の秘密の願いを知りたがる。 ●名前はまだない(recalculation、interim solution含む) 本心を隠して周囲との距離を楽しむ優等生女子は、ぶっきらぼうな孤独女子が気になる。気を引き、距離を縮め、駆け引きするも、彼女はなかなか厄介で……。 ●匿名プロローグ 保健室の先生と女子生徒の恋物語『純粋アドレッセンス』の冒頭エピソード。

さよならフォークロア

月曜の呪いを、惑わぬ恋が解く。

さよならフォークロア かずまこを
あうしぃ@カワイイマンガ
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その女子校で、まことしやかに囁かれる噂。月曜日に女子に触れると、心中した生徒に呪われる……皆がその噂に怯える中、転校生の真白は、タブーを犯す様に皆とスキンシップを取り、恐れられる。 何故そんな事をするのか……真白の涙と本心を見てしまった先輩の高瀬は、真白に惚れつつも、彼女の願いを叶えてやろうとする。 真白の願いは…… 「恋人のふりをして」 ♡♡♡♡♡ ある目的の為にタブーを犯す真白。自我を通す彼女の真っ直ぐさは(強気な時も涙する時も)最初から最後まで、強烈だ。 先輩の高瀬をからかううちに、変化していく真白だが、その時々の真っ直ぐさは変わらない。 一方、そんな真白に惚れ、彼女の願いのために何かしたいと願う高瀬は、次第に従順な生徒の群れから離れ、自分の意思を表明する様になる。最初弱々しかった高瀬の視線は、次第に強い眼差しとなり、恋と決意の表情にドキッとさせられる。 大切な人の為に、強く真っ直ぐであろうとする二人は、学園の呪いに打ち克つことが出来るのか……。 高瀬が入れられた反省室に隠された、過去の恋人達の手紙など、謎めいた雰囲気に心ときめく。手紙のイニシャルが仄めかすものとは……分かりにくいけどそれがいい!

あなたと私の周波数

複雑な「人の心」にシンクロする百合 #1巻応援

あなたと私の周波数 くわばらたもつ
あうしぃ@カワイイマンガ
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ある時、目の前の人が隠し持つ「何か」に触れる。 思いがけない秘密に触れて、その『昏さ』に混乱し、時に何かに気付かされ、時に受け入れ……様々な感情の在り方が、この『あなたと私の周波数』という短編集には描かれている。 その感情はかなり複雑だ。喜びの中に苦しみがあったり、プライドと憧れが混乱していたり、割り切れないまま前に進んだり……それは複雑なのだが、同調できるリアルさがある。 一言では言い尽くせない感情の機微を描いた、読み応えのある物語達。人の心の複雑さを忘れない為に、一つひとつの物語に心をシンクロさせつつ、読んでいきたい。 ●あなたと私の周波数 貴方は私の想いを知らない……そう思っていたOL。ふと見つけたトランシーバーから……貴方の声? ●お前に聴かせたい歌がある バンドのメンバーに「私の死体を埋めるのを手伝って」と頼まれる。……生きてるよね? ●あんたが背中を見せたから 陸上部のエースは転校生に負けてしまう。エースのプライドに対して、転校生は……。 ●君のすべて 弁当屋のバイトJKと、彼女に懐くJC。自分の父親が亡くなった〈らしい〉と聞いたJKは、JCの父が亡くなったと聞く。 ●私たちの長すぎる夜 好きな人に振られた事を引き摺り、泣きながら酒を飲み、女子をナンパしようとする女。

月が綺麗ですね

貴方と歩く月夜が、私の人生。

月が綺麗ですね 伊藤ハチ
あうしぃ@カワイイマンガ
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獣耳を持つ種族が暮らす、とある国。そこでは女性同士の婚姻が認められていた。財閥の一人娘・春日ちるは16歳にして、幼い頃に決められた許婚・18歳の東雲千里の元に嫁ぐ。幼い頃の温かな記憶を頼りに、互いに寄り添う生活が始まる……。 ♡♡♡♡♡ 描かれる世界は、明治・大正期の日本がモデルのようだ。懐かしい光景の中、天真爛漫なちると物静かな千里の夫婦が暮らす穏やかな日々に癒され、侍女のカヨや千里の幼馴染のハクとのコミカルなやり取りに、明るい気持ちにさせられる。 「許婚」から始まった二人は、「許婚」を超えて互いの存在を求める。二人とも自分に自信は無いながらも、自分の意思で相手を知り、受容しながら愛情を育む物語は美しい。 一方、登場人物の中には、封建的家父長制の価値観の元で、家の都合・親の意図で、生きる道を選ぶ者が出てくる。彼女達はそれに疑問を持たないのだが、ふとしたきっかけで「自分の望む道」について考えることになる。 ちるの侍女・カヨも、女教師の日和も、明るく後押しするちるや、幼くも強い意思を持った生徒の百(千里の妹)に影響され、自分の生き方に初めて自分の意思を持ち、行動する。 彼女達の決意の表情と、希望に満ちた眼差しに「独立した個」の立ち上がる瞬間を見て、心震える。 明るいやり取りの中に綴られる、自分の人生を「愛する者」の為に歩む物語を、ゆっくり追いかけたい、そんな作品だ。

みみみっくす!

つけ耳ガールは、発・情・寸・前!

みみみっくす! 広瀬まどか
あうしぃ@カワイイマンガ
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近未来の女子の間で流行のファッション、それは「つけ耳」!高校1年生の乃々は、好きな人とお揃いのつけ耳で告白しようとする。 つけ耳ショップの店員・みかんに後押しされ、みかんの幼馴染・ねおんに告白……でもつけ耳には実は副作用が……乃々の副作用は「発情」!? ♡♡♡♡♡ ファッションとして、外科的施術で簡単に装着できる獣耳というアイデアは驚きの斬新さで、動物を選ぶコーディネートの楽しさ、その動物の生態×装着者の性癖による副作用の多様さなど、想像の余地の広い世界観が楽しい。この作品は二次創作したくなる! しかし副作用が強く出る娘は、性的な部分で困ったことになり、エッチなハプニングはしょっちゅう……そこを起点として、ショップのお客達は次々と百合の花を咲かせることになる。ドキドキ……。 そしてショップでバイトを始めた乃々と、みかん、ねおんの三人娘もジワジワと仲を深め、馴染み客の「つけ耳アイドル」も加わり、思惑が交錯する。お客達よりゆっくり進む彼女達の関係も最後に大きく動き、目が離せないドキドキ。 エッチな物がウェルカムな方……この作品は、ジャケ買いして間違いない!表紙絵の神懸った可愛さは、作中でも最後まで崩れない。ドキドキしっぱなし!

三日月のカルテ

優しい研修医と、夜のデート11ヶ条

三日月のカルテ 七坂なな
あうしぃ@カワイイマンガ
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治る見込みの無い難病で陽の光を浴びることの出来ない少女は、人生に絶望し、命を断とうとする。彼女を救ったのは、一人の女性研修医の提案……「お試し恋愛」だった。 興味本位で始まった、夜のデート。少女は11の約束を課して、研修医を試すが、研修医のひたむきさに次第に心動かされ……。 ♡♡♡♡♡ 11話の各話で「11の約束」を一つずつ紹介しながら、二人が恋人の真似事をしながら次第にその気になっていく様子が描かれる。 しっかりしているようで世間知らずの少女は、研修医をあれこれ振り回す。それを受け止める研修医はどこか頼りないが、それでも少女の為に懸命だ。 病院の個室でしっかりした、少し気難しい子供として過ごしていた少女が、研修医の懸命さに安心し、甘えたりする一方、不安や嫉妬の感情を知る……つまりは恋心を知る、その過程が甘やかで、闇の中での逢瀬の「秘密」感と相まってドキドキする。 院内学級があるほどの大病院ですら治療できない難病に、深く絶望した少女の魂を前向きに「生かす」為に必要だったのは、頼りない研修医の強い願いだった。2巻の最後で、少女にかけられた言葉に込められたその願いに、一気に涙腺が緩む。是非、その言葉まで読んでみていただきたい。

セメルパルス semelparous

並行世界からの侵略防衛百合 #1巻応援

セメルパルス semelparous 荻野純
あうしぃ@カワイイマンガ
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並行世界からの侵略者「壊獣」を、緩衝地帯の「壁の中」で殱滅する「防壁師」。共に防壁師を目指していた親友を壊獣によって喪った新更命乃は、親友の為に壊獣と闘うと決める。 闘い続けるうちに明らかになる事実、隠された秘密。バディを組む隊長が口にする「地獄」とは……? ♡♡♡♡♡ 『γ―ガンマ―』で悩めるヒーロー達×怪獣・怪人の闘いと姉妹百合を描いた荻野純先生。今作では並行世界からの侵略との闘いに相棒百合を掛け合わせて、最初から重い世界観を描いている。 人間と似た体型の巨大な「壊獣」、人工的で無機質な地形の「壁の中」、人知れず戦う防壁師……そこはかとなく暗く、冷徹な世界観に、悲観的な先行きを想起せざるを得ない。 世界や敵に関する重要な事は、毎話少しずつ明かされる。プロの防壁師になった命乃にも、少しずつしか事実は明かされない。そしてふと辿り着いてしまった真相が、命乃を混乱させる。 思いがけない事実に苦悩する命乃に、寄り添う隊長も何かを胸に秘めている。力を合わせて闘う、重い物を背負った二人の関係は、切ない程に尊い。 この先の世界と二人の関係に待ち受けるのは、悲劇か、それとも幸福か……命乃と共に秘された世界の全てを見るまで、気持ちが落ち着かなそうだ。 (個人的には、やはりタイトルの「セメルパルス(semelparous)という言葉が気になるところ。一回結実性、つまり多年草植物が生涯に一度だけ花を咲かせ、枯れてしまうこと。竹やリュウゼツランが有名。この言葉は世界観に関わるのか、防壁師の能力に関わるのか、それとも女性同士の関係性に関わることなのか……。他にも色々なワードから作品世界の空想・予想を楽しめる作品だと思います。絶対考察ブログとか書きたくなるやつです!)

あとで姉妹ます。

世話焼き妹はイケメン姉に敵わない

あとで姉妹ます。 めの
あうしぃ@カワイイマンガ
あうしぃ@カワイイマンガ

容姿端麗、みんなに好かれる「カッコいい」高校生のちかみ。彼女の裏の姿は、妹の小学生・るみかしか知らない。 その裏の姿とは…… ●家ではめっちゃダラシナイ ●野菜大嫌い そして…… ●女児アニメのコスプレイヤー そんな「痛い」姉・ちかみを何とかカッコよく保とうと、何かと世話を焼く妹・るみか。ちかみはるみかに叱られながらも、口八丁手八丁でるみかを籠絡。しっかりしてるようでいてコロッと騙される、るみかが可愛い。 カッコいいお姉ちゃんを周囲に自慢したくて奮闘し、姉の交友関係にヤキモキするるみかを、奔放に振舞いながらも要所で安心させてやるちかみ。家庭の都合で二人暮らしの、互いを強く想う心がコメディの要所要所に描かれ、はっきりとした恋愛描写はあまりないのに、しっかり姉妹百合している。 妹に親友にと、ちかみは周囲に恋情と嫉妬心を起こさせる。それだけちかみが良い奴なわけだが、そんなモテモテ姉を、るみかは信頼して愛し続けることが出来るのか? 強い想いはあれど、そんなに深刻にならずに笑いながらもグッとくる、愛らしい姉妹百合コメディだ。 絵とカバーデザインの可愛さだけでも、手元に置いておきたい作品!

ぽちゃクライム!

頑張るボルダリング百合with甘味 #1巻応援

ぽちゃクライム! みんたろう
あうしぃ@カワイイマンガ
あうしぃ@カワイイマンガ

高校で再会した幼馴染は、スリムで綺麗になっていた!ボルダリング部に勧誘する幼馴染・あいらに「ダイエットになる」と乗せられ、それなら……と、ぽっちゃり女子つぐみは試しに壁を登る。 ★★★★★ それにしても確かにダイエットにボルダリング、良いかもしれない。 一人でジョギングやジムは辛くて飽きそう。けどバレー部だのバドミントン部だのは、レギュラーだ規律だと煩くて、別の意味で痩せそう。その点ボルダリングは、個々の達成度や目標設定で進められ、求道的だけど押し付けがましくない。仲間に恵まれれば、ギスギスしない向上心がある、楽しい全身運動の趣味になるだろう。 ★★★★★ あいらと二人で壁を攻略し、初めてのゴールに運動苦手なつぐみは感動し、即座にボルダリング部へ入部!優しい部の雰囲気のおかげで次第にボルダリングにハマっていく……んだけど、この子、甘味はまだ食べてる。……ダイエットは? そしてそれを止めないどころか、むしろ甘味を与えるあいら。彼女はふんわり白肌のつぐみが大好き。つぐみに見惚れてキュンキュンし、彼女の一言ですぐ挙動不審に。……ダイエットは? 百合要素もありつつ、ボルダリングの道具やテクニック、心構え、そしてつぐみの成長もしっかり描かれ、次巻、つぐみ始めてのコンペ(競技会)へ。 今のところ「アスリート系」というより「部活日常物」っぽい。細い線の絵柄も安定して可愛く、キラキラふわふわした表現が爽やかに甘い。関係性の安定している百合作品として、気軽に追いかけたい可愛い作品が、また一つ生まれた!(そしてその先にダイエットの可能性があるのかも、併せて見て行きたい)

ルミナス=ブルー

一眼レフと「光」の世界(デジカメの話)

ルミナス=ブルー 岩見樹代子
あうしぃ@カワイイマンガ
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11月30日は(オートフォーカス、以下AF)カメラの日。AF機構のカメラが登場した日です。 写真やカメラの漫画は多くありますが、こと最新のAFデジタルカメラとなると、扱う作品は意外と少なくなります。 ここからは『ルミナス=ブルー』に登場するカメラについて、推測してみたいと思います。 (物語の内容に関しては、sogor25さんのレビューをご覧下さい) 主人公の光(コウ)のカメラは、クラシカルな外見から、SONYのEマウントかと思われます(ミラーレスで軽いので、女性におすすめ)。レンズが短いので、恐らく単焦点の標準50mmf1.8。初心者は50mmの画角を覚えるべし、と言われる入門レンズ。機動性がいいので、光のようなスナップ派は、これをつけっぱなしで街に出るのが楽しいと思います。 また、単焦点レンズはズームレンズよりレンズの構成が単純で、画質が良いと言われます。シャープネス、ボケの表現は単焦点に分があり、光の写真のきらめき感は説得力があります。 一方、葉山先輩は、1巻の終わりで長くて白いレンズを使って、光と寧々を隠し撮りしています。あのレンズはキヤノンの望遠レンズ、通称白レンズと思われます。高価です。光が見て「すごいレンズ…」って言ってますね。 街撮りでは意外と望遠レンズが重宝します。かっこいい建造物、向こうに見える植栽の花など、広角や標準だと対象に寄りきれないのですが、望遠だと好きなように遠景を切り取ることができます。 被写体と近しい距離感で撮影する光。一方、被写体に無断で、ありのままの感情を撮ろうとする葉山先輩(寧々も勝手に撮られて怒ってましたね)。二人のスタンスの違いは、機材にしっかり現れていると思います。 ここまで、分かる範囲で『ルミナス=ブルー』に出てくるカメラのお話をしました。もし間違っているとか、こっちじゃないの?とか、その他カメラの話をしてくださる方いらっしゃれば、どうぞコメントください! ちなみに私はニコン派です。

百合男子

「我思う、ゆえに百合あり。だが そこに我、必要なし」

百合男子 倉田嘘
名無し

僕が暗い青春を過ごした90年代は、「ハーレムもの」の全盛期でした。「パッとしない男がなぜかたくさんの女の子にモテモテ」という、基本にして絶対のテーゼによって作られた作品の数々、現実でパッとしていないたくさんの僕達はみな夢中になったものでした。それが2000年代も半ばになると、男がほぼ全く登場しない作品が増えてきたではないですか。  作品を楽しむ切っ掛けとして、共感というものはとても重要な要素だと思っています。登場人物の誰かに自分を重ねあわせるから、作品世界に入っていける…。しかし、女の子たちがキャッキャウフフと仲良くしている作品には感情移入する先が必要ありません。それは、共感して物語をたのしむのではなく、女の子たちの日常を傍観者として楽しむという新しいスタイルなのです。作品世界を見渡す神の視点…というよりはむしろ、ピーピングする虫の視点なような気がしますが…。  『百合男子』は女の子たちがキャッキャウフフする世界を心から愛する高校生・花寺啓介が主人公。絵柄はとても可愛らしく(女の子が鼻筋が通っていて可愛い)、啓介もBL漫画のような容貌をしていますが、中身は男…いや漢!  啓介は、百合専門誌「百合姫」を愛読しているうちに、だいぶ重症になってしまい、現実の女子たちにも百合を重ねあわせてしまっています。現実の素敵な百合を見たいがために、同級生に対して半分ストーカーしたりしています。  そんな現実と妄想をごっちゃにする啓介にも、同志と呼べる百合男子が登場します。しかし、大きな違いよりも細かな差異のほうが気に障るのか、お互いの趣味嗜好を貶し合う結果に…。  そんな彼らを啓介は「一人は百合のために!みんなも百合のために!!」と一喝し、百合という大道を志す同志として結束させます。啓介は百合のリーダー、「百合ーダー」として百合の荒野を邁進していくのです。  百合という、可憐さと美しさで固められたジャンルを語る暑苦しい男たち…。何度も言いますが、絵柄はとても端正で可憐なのですが、そこで描かれている「漢」の暑苦しさは、少年漫画でも最近ちょっと見かけないレベル。語られる百合理論は押井守のように饒舌で、百合のために闘うアクションシーンは『ドラゴンボール』顔負け。この加速していくギャグシーンはかつて見たことの無いレベルです。  『百合男子』を読んで百合にハマれるかどうかは個人差があるかもしれませんが、1つのジャンルを夢中に語る、漢たちの熱さが確かに心に伝わってくるのです。  冒頭で啓介が叫ぶ「我思う、ゆえに百合あり。だが そこに我、必要なし」という悲しい決意が、人々との関わりでどのように変わっていくのか、最後まで読んで目撃して欲しいですね。