今日はカノジョがいないから

浮気はあたしのせいじゃないし #1巻応援

今日はカノジョがいないから 岩見樹代子
あうしぃ@カワイイマンガ
あうしぃ@カワイイマンガ

同級生の彼女がいながら、別の女子に誘惑される女子が主人公の本作。実は1話冒頭に、こんなモノローグがあります。 「だってあの時 君が可愛いって言ってくれれば きっとあたし悪いことしなかったのにね」 ……悪いことするんですね笑 どうやら「悪いこと」に向かって進んでいくようですが、どの様に悪いことに向かって進んでいくのか、誰がどう悪くて、どういう言い訳をするのか……あえて最初に先行き(ネタバレ?)を提示することで、却って内実が気になって仕方ない。下世話なスポーツ紙の「〇〇不倫発覚/か!?」というアオリの様な、強い誘引力(/は新聞の折り目ね)。 そして面白いのは、彼女持ちの主人公を誘惑する「二番目でいいよ」と言う女子。 この子の言い寄り方が巧みで、思わず「浮気するのもしょうがないな!」と感じてしまう程。突然至近距離に近寄り、恋愛可能性とメリットを提示し、駆け引き、取り引き、責任転嫁と、この1巻だけで恋愛心理テクニックの指南書になりそうなくらい。 テクニカルに見えるということは、そこにあるのはやはり、かなり下衆なものだという事。治安の悪い百合、確かに拝領しました!

2DK、Gペン、アフタータイム。 大沢やよい短編集

黒髪が強い社会人百合短編集 #1巻応援

2DK、Gペン、アフタータイム。 大沢やよい短編集 大沢やよい
あうしぃ@カワイイマンガ
あうしぃ@カワイイマンガ

①『2DK、Gペン、アフタータイム』 『2DK、Gペン、目覚まし時計。』のメインカップル・かえちゃんと奈々美ちゃんの後日譚。甘々な二人が嬉しい冒頭からの…… ②『その日、ナイトデートなので』 そつなくこなすWebデザイナーは、クライアントである観光課の女性に村の星空を見に誘われる。懸命な人に押されて新しい世界を知る……その時隣にいる人に、惹かれない訳がない! ③『テイクアウトできますか?』 配達先のカフェで、店員の女の子と出会う。作業着姿の自分を女の子扱いしてくる可愛い彼女に惹かれる一方、振り回されて翻弄される。振り回す子の理由のカワイさ、とても分かる。 ④『ぐらぐらプラトニック』 ノンケの女性をオトすためにレズ風俗嬢にレクチャーを受けたい女性。真面目な彼女はどこか不憫。ある意味良いキャストに出会ったよなぁ……救われちゃいなよ、と言ってあげたくなる。 ⑤『キャンパスにトラップ』 口うるさい大学の講師に、バイト先で出会う。私はレズ風俗のキャスト、講師は客。なかなかエロに行かないおかしさ。講師の動機、分裂する心がもどかしい。 ⑥『オフィス、先輩、キライな私。』 特に楽しい事もない仕事、人生。そんな私には、同じ派遣の谷原先輩があんなにキラキラしている理由が分からない……お察しの通り、『2DK』の登場人物、ルー子さんのお話。ルー子さんがこんなにポジティブに、人をエンパワーメントする人物としてクリエイトされるとはアメイジング!(ルー子さんリスペクト) ☆☆☆☆☆ 全作品で黒髪女子が、物語をドライブする存在として描かれるのが特徴的。それが最終話の、やる気の無い黒髪短髪女子にどう繋がっていくのか……考えてみるのも楽しいかも。

女ともだちと結婚してみた。

恋の無い結婚に愛はある #1巻応援

女ともだちと結婚してみた。 雨水汐
あうしぃ@カワイイマンガ
あうしぃ@カワイイマンガ

同性婚が法制化された日本を舞台に、二人の女性が試しに結婚してみる、という物語ですが、同性婚についてだけではなく、もっと広く結婚について考えさせる内容だと感じました。 女性同士、友達関係のまま恋愛をすっ飛ばして始める結婚。性格も生活スタイルも違う二人だが互いに生活能力はあり、男女の結婚のような性役割がないので、お互いにどうしたいかを話し合って進める結婚生活は理想的に見えます。 その中で、奔放な相手に恋しているが、その奔放さを愛する故にそのまま受け止めてそれ以上を求めない女性の愛の在り方に打たれる。私はこんな見返りを求めない、大きな愛を持てるだろうか……。 そしてその愛に少しずつ気付く、奔放な女性。彼女が相手を大切にしたい、という感情を獲得する過程……それは思い遣りという、小さな愛を積み重ねる過程。 恋から始める結婚だって、半ば賭け。恋が冷めた時、そこに愛が残るかはその時になってみないと分かりません。盲目な恋の先に残ったのはよくわからん人だった、という可能性は高い。 そんな曖昧な恋に頼るよりも、お互いに過ごしやすい、気楽にいられると感じる相手と暮らた方が、楽しい生活を送れる確率は高い。もし「積み重ねた時間の分だけ愛が生まれる」と言うなら、なおさら一緒にいて楽しい友達と結婚する方が、理屈は合ってる。たった1巻で強い絆を結びつつある二人を見ていると、そんな風に思ってしまうのです。

終末世界百合アンソロジー

「百合」は終末世界を自由にする

終末世界百合アンソロジー 一迅社アンソロジー
あうしぃ@カワイイマンガ
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終末世界は「二人」の関係を強化する。 多くの人が死に絶えたり、滅亡が身近にあったりすれば、どうしても隣の人が大切になる。人は一人でも生きていけるが、会話をする相手がいて初めて心が動く。二人という最小単位から「物語」が生まれる。 描かれるのは、死の影が濃い終末世界。何故人は生きて、ただ意味もなく死んでいくのか……そんな思考に陥りやすい状況だが、様々に生きる女性二人の物語達はとても自由だ。それは「百合」という枠組が「生殖」や「社会秩序」という枷から自由だからかもしれない。 「百合」は困難と絶望の終末世界を自由にする。 ●『introduction』(しろし先生)…地上採掘団に加わりながら本を求めて外に出たい女性と、彼女を見つめる女性。 ●『海は何色』(結川カズノ先生)…外の世界の海を夢見る管理官は無気力な女給の秘密に触れる。 ●『SPUTNIK』(吐兎モノロブ先生)…遺伝子操作で生み出された新人類の二人はロストテクノロジーを求めて荒野を駆ける。 ●『Touch me if you can』(田口囁一先生)…一人生き残った少女と都市管理AIと、発見してしまったセクサロイドのボディ。 ●『卵の殻を破らねば』(岡ぱや先生)…学園都市に暮らす優秀な二人は、優秀すぎた故にある真実を見てしまう。 ●『チュウ虎シャングリラ』(くわばらたもつ先生)…汚染が広がる世界で敵対する二つのグループ。代表二人の決闘に皆沸き立つが……。 ●『トワイライトにおやすみ』(tsuke先生)…永い時を生き、信仰を集める聖女は、自分に好意を寄せる少女にあるお願いをする。

citrus

キスの強度と伝統女子校

citrus サブロウタ
あうしぃ@カワイイマンガ
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この作品は、女子同士の「キス」が印象的だ。 そんなにしょっちゅうキスしているわけではない。1巻に1、2回描かれるキスはしかし、とても強く心を打つ。キスが心を打つ。それは一つ一つのキスに大きな意味が込められているからだ。 第1巻で描かれる、生徒会長・相原芽衣と男性教師との辛そうなキス。主人公のギャル・相原柚子が妹になった芽衣からされる、投げやりなキス。酷いイメージから始まるキスは、恋心を自認する混乱から相手を受け入れる過程を経て、熱いキスへ。そこに女性同士、姉妹という葛藤、芽衣にのしかかる重圧……唇を重ねる行為に意味が加わる度に、キスから受け取る感情が強くなってゆく。 とりわけ芽衣にのしかかる、学園を継ぐ者としての重圧、伝統ある女子校の規律を守る立場、そして家の為の結婚……それらをポジティブな柚子が解きほぐす度、二人のキスは心の解放の表現として、強度を増してゆく。 キスの度に訪れる、切ない程の多幸感。 キスを含む二人のエロス表現は、想いを通じ合ってからはトーンが落ちるのもまた、印象を深める。様々な物を乗り越えた先の、短い確かめ合い。相手を軽く束縛するだけの表現なのに、脳が沸騰するほどの感情が訪れる。 特に続編『citrus+』以降の、驚く程の清いお付き合いには、謎の喜びと「見守りたい」感覚が沸き起こる。 #マンバ読書会 #続編・スピンオフ

ジャックポットに微笑んで

複雑な〈片想い〉のヴァリエーション

ジャックポットに微笑んで つつい
あうしぃ@カワイイマンガ
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『少女支配』『この愛を終わらせてくれないか』の筒井いつき先生の、別名義の短編集。別名義でも、特有の暗い感情、理解の及ばない暗部の表現は変わらない。 この短編集をやや強引に纏めるなら、〈片想い百合〉ではないかと思う。それは明らかにそう描かれている物から、ある意味での両片想い、素直になれないというレベルの物まで幅広いが、一方通行な残酷さがある。 そしてそこにある暗さ、陰湿さ、負の感情の強さが凄い。つつい先生の作品を一つ読み終わると、生きて帰って来たという謎の安堵が沸き起こる。 ●『お前は私の死んだ妹に似ている』…自分に劣等感を与えて死んだ妹と、瓜二つの後輩が出来た。懐く後輩と、妹を重ねる姉。 (巻末『dear my sister』はこちらの過去話) ●『ジャックポットに微笑んで』…容姿端麗で性格の悪い子の唯一の友達は、彼女を男との恋愛にけしかける。それは伸るか反るかの大博打。 ●『仮定法過去完了』…親友の結婚式。ネックレスをつけてやる手が震える。 ●『見ている』『また、見ている』…綺麗な先輩を見つめる。その視線に先輩は気づいた。 ※異性愛の影のある作品が多いが、男はそっちのけなので私は気にならなかった。

同人女百合アンソロジー

また一つ凄い百合アンソロが #1巻応援

同人女百合アンソロジー 一迅社アンソロジー
あうしぃ@カワイイマンガ
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『2DK、Gペン、目覚まし時計。』の大沢やよい先生が描かれているカバーイラストで、既に作業中のだらしなさやむさ苦しさとそこに咲く百合のニュアンスにむせるのです。 続く伊月クロ先生の巻頭イラストはストーリー性が強く、そこに込められた複数の物語を読み解こうと懸命になるともう何分経ってんだよ。 ●『私を推してよ日菜子さん!』くもすずめ先生の絵いいなぁ。男装コスの女子とメガネ絵師女子の力関係が意外そうでしっくり来る。前日にコピー本作るのはそんなに良くあるのか?作り方のリアリティよ。 ●『ウェルダンは待てない』よく聞くアフター焼肉。一瞬本当に百合?って思うけどコロッと騙された。ヨルモ先生お話上手い。『神絵師JKとOL腐女子』的なファンと先生の関係好きな方に。 ●『逆カプ地雷』ゆあま先生の、コメディタッチな同人作家同士百合。解釈違いで喧嘩するオタカップルってありそうで無かった?(かずまこを先生の『楽園まで、あと…』とか)心の底で通じ合うソウルメイトな二人は尊い。 ●『フソクフリ』めざし先生、絵は可愛いのに人物造形がエグい。目立ちたがりでかまってちゃんでウザい同人作家像は作家でなくても心に痛い。本当にダメな人にこそ、救いは欲しいですよねぇ。 ●『隣サークル主が元カノだったのですが…』好き合っていたのに別れた二人は同人作家同士として再開。二人の微妙に愛着が残っている描写、明るく描いているのにキュッと心を掴まれて、雨水汐先生の絵のタッチと相まって優しく心に残る一品。 ●『お嬢様、同人デビューです!』同人界隈にお嬢様をぶつけてきて、最後まで違和感ありまくりでそれが面白い!お嬢様は金銭感覚以外はすごく真っ当で愛せる存在……散田島子先生の発想力強い。 ●『さよなら私の星』ここで百合界のエグさ担当つつい先生。同人界隈で人付き合いをソツなくこなす人が、才能と無邪気さを併せ持った人と出会って自分の本質を突きつけられる、その抉り方がやはりエグくて堪らない。 ●『すきだから』最後は桐山はるか先生の美麗で愛らしい絵で綴られる、オタカップルの日常。〇〇に出てくるご飯再現!とか素敵すぎる。積み重ねと、変わらないもの。二人でいることが羨ましくなる。 ……とまぁ各作品の感想も長くなる程、どれ一つとして同じものは無いし、様々な物を感じられる充実した一冊でした。

倒錯少女症候群

匿名で非現実な偏愛はグロテスク

倒錯少女症候群 shimazaki
あうしぃ@カワイイマンガ
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登場人物の「名前」は、キャラクターのイメージ形成の重要要素かもしれないが、例えば関係性の思考実験の様な作品では、その様なイメージは必要ないのかもしれない。 この『倒錯少女症候群』は、まさにその様な作品集である。 登場人物に固有の名前は無い。大抵はA子とB子の物語。キャラのイメージは絵で充分伝わる。名前を思い出す手間が無いと、思い入れは薄まるがかなり読みやすい。 そうして描かれる短編達は、AとBの関係があって、強く求め、踏み込み、反転してゆく非現実的世界が描かれる。 ①『貴女にすべてをささげると私の眼球はそういった。』は、眼球を舐めるというフェチの強さも凄いが、その先の「視覚を分け合う」に至る強い愛着と世界観についての哲学にやられる ②『ショウケースガール』は、家猫と思しき猫と飼い主の関係性と「外の世界」の秘密の話。飼い主らしき人の感情は、動物好きなら分かる? ③『シスタス』は、声の小さな気弱妹がしっかりした姉に依存する関係性。姉は妹の「声」をコントローラーで操作するが……関係性の変化は身体的特徴から。堕ちていく姉が愛らしい……。 ④『ブンレツ・ガール』は、分裂する病気に冒された子と彼女の側にいる親友の話。オリジナルとフェイクの恋と実存を巡る物語はどこまで行っても救いが無く、それでも自己を保つのか……と悲しくなる。 いずれも歪な関係性とグロテスクな愛着に至る時が、至高の瞬間の作品達だ。