まわるドーナツと金曜日

思い出のドーナツをめぐって #1巻応援

まわるドーナツと金曜日 こやまけいこ
兎来栄寿
兎来栄寿

先日、かりんとうを気に入ったアメリカ人がその正体を砂糖たっぷりの小麦粉の生地を油で揚げたものだと知って友人に「これは日本のオールドファッションドーナツだ」と紹介したら「日本のドーナツは硬いな……」というコントが成立してしまっていたという笑い話があり、好きでした。 皆さんはドーナツはお好きですか? 私は大好きです。サクサクでシンプルな味わいに飽きが来ないオールドファッションも良いですし、香ばしいチョコレート系も美味しいですし、ソフトな食感のシュー系も魅惑的ですし、ふわふわのエンゼルクリームやもっちもちのポンデリング系も外せないですし、ヘルシーで優しい味わいの豆乳ドーナツも好きです。食べ過ぎには注意ですが、ドーナツ最高です。 そんなドーナツ好きが読むと、ドーナツを食べたくて仕方なくなってしまうマンガが本日発売されました。『かわうその自転車屋さん』のこやまけいこさんが描く新たなハートフルストーリーで、移動販売のドーナツ屋さんのお話です。 幼稚園の栄養士だった亡き母が作ってくれた思い出のドーナツが忘れられない赤髪の少年わたる。恩義ある園長の孫であるわたるのために、そのドーナツを何とか再現しようと奮闘する黒猫の黒鉄(くろがね)。 キッチンカーの外装のデコレーションや内装の設備などが整っていくさまにとてもワクワクします。食品衛生責任者の講習を受けに行く件などもリアルで笑ってしまいましたが、大事なことです。また、キッチンカーといえど好きな所で勝手に営業して良いわけではなく、その場所を見つけるためのやり取りの部分も好きです。 イーストドーナツとケーキドーナツの違いや、実際にドーナツを試作してみるところまでかなり詳細にドーナツ描写もなされていくのでドーナツ食べたい欲がモリモリ高まります。 そして何より良いのは、お店を通して関わる人々にドーナツを通して美味しさのみならない幸せを振りまいていくところです。例えば1話では、人と喋ることが苦手な引っ込み思案の美容師のエピソードが描かれます。彼女が、まわると出逢い彼らの作った温かみのあるドーナツを食べることで救われていく様子に心が和みます。 今日はホワイトデーでもありますが、ドーナツと一緒にこちらを楽しんでみるのも良いのではないでしょうか。

瓜を破る

登場人物全員が生きている

瓜を破る 板倉梓
六文銭
六文銭

久しぶりに 「人間をきっちり描いてる」 と思えるような作品に出会えました。 タイトルから処女をこじらせた主人公の恋愛話かと思ったのですが、主人公の周囲にいる登場人物までも背景や価値観を丁寧に描き、しかもどこかしら自分と通じる部分もあって、全員に共感しかなかったです。 バリキャリもいれば、家庭に入った人もいたり。 彼氏とうまくいっている人もいれば、うまくいっていない人もいる。 言いたいことガンガン言える人もいれば、言えない人。 ホントに多種多様な、そしてある点において自分によく似た環境や考え方の人もいて、どの登場人物にも感情移入が凄まじしいんです。 漫画のキャラクターなのですが、まるで生きているかのような、読んでいてそんな感覚をおぼえました。 基本的には主人公が、処女で焦り悶々としている様を軸に、他の人物のストーリーも出てきて、この視点変わる展開の仕方も飽きさせずひきこまれます。 結果として、主人公も素敵な彼氏と出会えるのですが、そこに至るまでのもどかしい感じもたまらんのです。 自分もコミュ障で恋愛奥手マンだったから、何するにしても相手がどう思うか考えてしまい、結果、何もできない or すれ違う様が、じれったくて、でも、お前は俺かと共感に首がもげそうになりました。 何にせよタイトルからくるイメージとは良い意味で全然違った、ピュアな恋愛と、多様な人物描写が魅力的な作品でした。