ONE OUTS

反現代野球 〜神様、仏様、渡久地様〜

ONE OUTS 甲斐谷忍
影絵が趣味
影絵が趣味

甲斐谷忍の『ONE OUTS』といえば、正統派の野球マンガからはちょっと離れた洒落っ気のある野球マンガと思われがちですが、じっさい『ONE OUTS』ほど反現代的で泥臭い野球マンガはないでしょう。 NPBのシーズン最多勝記録は42勝で稲尾和久の手にありますが、42勝ですよ、バカなんですか。いまの野球では考えられない。当時は力のあるピッチャーが平気で連投していたんですね。まあ、連投だけなら無理をすれば誰にでもできますけど、連投しながら尚且つチームを勝利に導くとなるとはなしは変わってくる。ある年の日本シリーズにいたっては7試合中6試合に登板、そのうちの4試合で完投し、優勝をもぎとっています。そのときの新聞の見出しには「神様、仏様、稲尾様」と載ったのだとか。 稲尾はシーズン42勝の記録と同じ年に、シーズン与20敬遠という不名誉な記録も持っていて、これまたNPBの最多記録となっている。これらの記録からみえてくるのは、流しどころ、抑えどころをよく知っているということ、つまりは効率のよい勝ち方を知っているということだと思います。 まあ、何というか、連投、勝つ、敬遠、これだけでも渡久地とよく似ている感じがしてきましたけど、稲尾はさらに制球が非常に優れたピッチャーとしても知られている。球速は平凡で、変化球はスライダーとシュート、スライダーが決め球だと周りに吹聴していながら、本当の決め球はシュートのほうだったという食わせ者でもあります。 ほかにも、ささやき投法や、目の細さを利用したポーカーフェイスだったり、投げる直前で握りを変えたり、あらゆる要素を掛け合わせて勝ち星を取りにいく。ピッチャーとして非凡な能力を持っていたのはもちろんですけども、さらにそれに加えて一級の勝負師でもあった。それ故に無茶な連投しながらの42勝があるのでしょう。 マンガの世界の夢の投手だと思っていた渡久地のような選手が、じつは野蛮だったといわれる昔の野球に実在していたのは何とも面白おかしなはなしではありませんか。

キャプテン

コロナなんかクソ喰らえ!

キャプテン ちばあきお
影絵が趣味
影絵が趣味

新型コロナウイルスの影響で春のセンバツが中止になった。コロナなんかクソ喰らえ! 少年の頃から甲子園を夢みて日夜練習に励んでいた球児たちのことを想うとほんとうに涙がでる。色々と救済案が検討されているらしいが、おそらくどれも大した効果は生みはしないだろう。奇跡的にも90回、100回と聖地・甲子園の地で途方もない熱戦を繰り広げ続けている大会だからこそ球児たちの憧れになる。この奇跡的な歴史の積み重ねの上に、こんどは自らが新しい歴史を刻んでゆく、これほどの夢がほかにあるだろうか。 ジタバタしていても仕方ないので、ちばあきおの『キャプテン』を読む。もちろん、イガラシ編の春の選抜大会の巻だ。大会に向けた過激な練習が教育ママの松尾の母ちゃんに問題視され、そんなタイミングで運悪く松尾が怪我してしまい、イガラシは校長から選抜辞退を宣告される。 ジタバタしていても仕方がない。いまこそ我々はちばあきおの『キャプテン』を読むべきなのだ。可哀相な事態が起こったから救済措置を設けますといったって、この世界はマイナス1に1を足せばゼロにもどる数式のようにはできていない。無念は無念のまま残り、救済は救済としてあるかもしれないが無念とはすれちがったままだろう。それどころか、救済が何らかの形で夏の大会にまで及べば、さらなる無念や軋轢を生むことは想像に容易い。いまこそ我々は『キャプテン』を読むべきなのだ。

ふしぎ遊戯

何度読み返しても、何年たっても、色褪せない作品です。

ふしぎ遊戯 渡瀬悠宇
名無し

本の世界に入り込んでしまった中学生の美朱が、朱雀の巫女として朱雀七星士を集める旅に出る恋愛ファンタジーであるこの作品。最初は、かっこいい男の子の鬼宿はじめ、魅力的な人物たちばかりの朱雀七星士にドキドキ!で、胸キュンな場面もたくさん!! 主人公と同年代だった私はあっという間にのめり込んだものです。 しかし、それだけでないのが「ふしぎ遊戯」。 中学生には残酷でしかない悲しい現実や裏切りなどに直面し、身も心も傷つくシーンがたくさんで・・・一体、何度泣いたことか・・・。 けれど、恋愛や友情の難しさと大切さ、国や立場が違えばそれぞれの正義が違うということ、死生観など、同時に多くのことを教えてくれました。はじめて読んでからずいぶんたつけれど、その間に何度も読み返すたびに、登場人物たちへの共感は増していく作品です。 ・・・最初のころは、同年代ということもあり、主人公びいきだったけれど。今では、美朱を見守る面々はもちろん、敵対する面々の気持ちにも納得し理解も出来るからなぁ。 面白いと思える作品は、楽しいばかりではなく、こうして現実として考え自分の糧に出来るものだなとしみじみ思います。 少女漫画にしては、戦いのシーンも誤魔化すことなく描かれていて、大人でも満足できるの間違いなし!なので。これからも、たくさんの人に愛され、ぜひぜひ後世に残っていって欲しいものです。