純水ルミネッセンス

楽園までどのくらい?いや、目の前に。

純水ルミネッセンス かずまこを
あうしぃ@カワイイマンガ
あうしぃ@カワイイマンガ

この単行本の後半は『純水アドレッセンス』の追加エピソード。養護教諭×生徒のカップルの、生徒が卒業まで逢瀬を止めようと悩んだり、結婚式とその先を考えたり、卒業後に学校に残される教師を想ったり……次々と訪れる「区切り」と向き合い、精一杯に恋を生きる物語が、爽やかに鮮やかに描かれている。 『純水アドレッセンス』を読んでいる人は、これは絶対読みたいはず! そして前半は『楽園まで、あと…』という作品。『楽園』誌で中村明日美子先生が連載されていた『おはよう楽園くん(仮)』の二次創作に勤しむ同人作家とその恋人の百合。因みに『おはよう楽園くん(仮)』はBLである。 二人の「区切り」は同人誌即売会。印刷所の締切を巡ってアレコレしたり原作の新展開に萌えたり推しカプで微妙な感じになったりと色々あっても、怒涛の即売会を乗り越えて二人は……という感じのお話だ。 ♡♡♡♡♡ 遠い将来を考えると、同性カップルでなくても、不安になる。だからまずは目の前の「区切り」を一つひとつ、精一杯に満たされる。それの積み重ねが、確かな将来なのかもしれない……そんなメッセージが全体を貫いていると感じた。 楽園まであと、どのくらい?という問いには「先ずは目の前のオアシスで喉を潤そう」と答えたい。 ♡♡♡♡♡ そしてもし興味がおありなら、『おはよう楽園くん(仮)』も一緒に読んでみると面白い。二人が何を見て悶えていたかとか、二人の繰り出すセリフの元ネタなど……色々分かって面白い。そして中村明日美子先生の引く美しい曲線と、カワイイ楽園くん(仮)の、微妙に醸し出されるエロスが癖になりそう。 BLは守備範囲外の私でも楽しめた、愛らしい小品!

赤い鳩〔アピル〕

ルーツの追求が未来のハルマゲドンに繋がるというドラマ

赤い鳩〔アピル〕 小池一夫 池上遼一
名無し

新撰組の若き隊士・馬庭実行は池田屋で捕縛された ユダヤ人宣教師・ヘボンの打ち首役を命じられる。 斬首直前、ヘボンは実行に問いかけてきた。 「カゴメの唄の意味を教えてください」 日本人として国のために生きて死のうと 新撰組隊士になった実行は、思いがけずも ヘボンとともに日本人のルーツを探り、 さらに150年後の世界の命運を左右する冒険に 身を投じることになっていった。 「日ユ同祖論」という、日本人とユダヤ人の祖先は同じである、 という論説があり、原作者の小池一夫先生は その論を研究されていたようです。 この漫画では、新撰組が活動していた幕末の時代という 個人も日本も明日はどうなるかわからない、という時代に、 「日ユ同祖+ハルマゲドン・論」とでもいうべき 日本人のルーツを探ることが未来の日本と世界の 運命を左右することになるという大問題を被せてきます。 個人の生き方や国のあり方などの価値観が大きく揺らぎ、 変化しつつあるタダでさえ色々とテンパッテいる時代に、 それゆえに民族の過去を解明しなければならないという 重すぎる命題を背負ってしまう実行とヘボン。 そこに余命が僅かな沖田総司や坂本竜馬、 秦国の末裔や北の大国からの刺客らも絡んできます。 儚く散る命達、それらの積み重ねで繋がる歴史。 SF的ではあるが壮絶なドラマが展開されます。

名前はまだない

「眼差し」と「間」で描く恋愛の強度

名前はまだない かずまこを
あうしぃ@カワイイマンガ
あうしぃ@カワイイマンガ

かずまこを先生の作品は、登場人物の強い「眼差し」にやられることが多い。 『純粋アドレッセンス』のななおの向こう見ずさ、『ディアティア』の睦子の、純粋に相手を知りたい感情、『さよならフォークロア』の二人の、現状を乗り越える意思etc……彼女達の「眼差し」が伝える強い感情に胸を打たれ、動悸が止まらなくなる。 彼女達に見つめられた者は、時に目を逸らし、時に見つめ返す。表情を僅かに変えながら、その「間」で思考を巡らせ、言葉を返す。 交わす気持ちの、伝わらなさがもどかしかったり、ふと通じる瞬間にときめいたり……いずれにしても、二人の「間」そのものが愛おしい。 かずまこを先生の作品の描く「眼差し」と「間」は、この短編集『名前はまだない』の各掌編に端的に描かれている。 まずこの短編集で、かずまこを先生の「眼差しと間の強度」を知るのもいいと思う。連載作品にも全く同じ強度があるという、その贅沢さをお伝えしておきたい。 ●3秒ルール 相手の言葉に、返事するまで3秒以内。言葉に詰まったら負け。 ●uracoi 睨んでからコミュニケーションする女子の、佇まいに惚れる。でも告白してくれたら、眼を逸らすなんて……。 ●恋はお静かに わたしが頭を打ったら、寡黙な委員長の饒舌な脳内がダダ漏れ? ●消し去る恋と願いごと 片想いしている先輩が、急に明日スイスに引っ越し!?先輩は私の秘密の願いを知りたがる。 ●名前はまだない(recalculation、interim solution含む) 本心を隠して周囲との距離を楽しむ優等生女子は、ぶっきらぼうな孤独女子が気になる。気を引き、距離を縮め、駆け引きするも、彼女はなかなか厄介で……。 ●匿名プロローグ 保健室の先生と女子生徒の恋物語『純粋アドレッセンス』の冒頭エピソード。

ヤング・アライブ・イン・ラブ 完全版

恋とマシンガン

ヤング・アライブ・イン・ラブ 完全版 西島大介
野愛
野愛

この世界を憂えているふりして、お前らとは違う世界の真実に気づいているんだなんて本気で思っていて、そんな自分が痛いことも知ってるけどかっこいいとも思ってる、みたいな人に刺さるやつ!そんなやついるかよ、って自分だよ。大人になっても厨二病のままだしそんな自分可愛いって思ってる。 3.11をモチーフにした作品がぶっ刺さるような時代がまたやって来た。3.11の傷も癒えてないうちに。 非日常を受け入れて見ないふりするのが得意な私達だから、放射能だろうとウイルスだろうと幽霊だろうと当たり前のように日常に馴染ませて一丁前にこわいねえなんて言って生きている。 その中で真実が見えているマコトとマナが出会うのは運命だし必然で。最高にキュートで痛くて愛おしい!!!!霊霊霊霊!!!! なすすべもなく絶望するだけなら主人公じゃなくてもできるけど、ちゃんと開眼して世界を救おうとしてくれるのが西島作品の少年少女たち。世界の果てで絶望しながら愛を育むボーイミーツガールだったら面白くない。 かっこよく立ち向かって、虚構とリアルが混ざり合ったところで、虚構すぎて虚構大爆発なラストシーン。 最初から本当の話なんてしてないってわかってるのに、憤りを覚えるほど気持ちよく終わってしまう。このハッピーな突き放し方がわたしは好きです。 こんなむちゃくちゃな世界で生きてるんだ、好き勝手想像して創造して、思い通り描き変えてしまえばいい。 デビュー作の凹村戦争から揺らがない、やけっぱちな世界のぶち壊し方が最高です。現代を生きる上で読んどいたほうがいい!!闘える!! マナはゲロを吐くシーンが多くて最高にかわいい。かわいい。