ザシス

ザシスの意味とは

ザシス 森田まさのり
六文銭
六文銭

「ろくでなしBLUES」から「べしゃり暮らし」まで、一通り読んでいる作家さんだけに本作も当然手に取りました。 1話読んで、サスペンスであること、その世界観にひきこまれ これは完結してからイッキに読もう と思い、完結を楽しみにしてましたが(変な話ではありますが)まさか3巻でおわってしまうとは。 一気読みした最初の感想としては、ギャク色の強い作風の作家さんなのに、この手のストーリーもイケるのかと唸った。 誰が犯人なのかはもちろん、主要な登場人物の誰もが、実は後ろ暗い過去をもっているびっくり展開は、良い意味で緊張感があって、最後どう転ぶのか気になり読んでてあっという間だった。 ミステリでありがちな、くどい説明とかもなく、絵だけで魅せてくるのも読みやすかったし、不気味なタイトルが結局何なのか気になりながら最後につながるのも良かった。 総じて、面白かったという月並の感想なんだけど、3巻でキレイにまとまっている作品だと思います。 この手の作品で、個人的に重要だと思っている、読者に結論を委ねる部分もしっかりあって、そういう意味でも読後感は良かったてす。 3巻完結なので、イッキに読んでザシスの意味を噛み締めて欲しい。

ふらりゲストハウス

ゲストハウスを巡る編集者 #1巻応援

ふらりゲストハウス 高尾じんぐ
兎来栄寿
兎来栄寿

『くーねるまるた』の高尾じんぐさんの新作『おひゃくどまいり』と同時発売となった、2017〜2020年に『バーズ』や『comicブースト』で掲載された作品です。 マンガ編集者で日々激務をこなす主人公が、癒しを得る趣味として国内各地のゲストハウスを巡っていく作品です。 面白いのは、登場するゲストハウスはすべて実在するところとなっていて、その気になれば聖地巡礼も行ける仕様です。更に、単行本化にあたっては2024年5月現在の情報も記載されています。 3話に登場する泊まれる図書館のような「Book Tea Bed」は、麻布十番店は残念ながら閉店してしまったものの、渋谷・新宿御苑・伊豆大島にも展開されているなど。 それぞれの宿ごとに、そこにいる人々や施設の特色が強くあるので実際にいろいろなところを巡っている気分にもなれて楽しいです。 また、ゲストハウスといえば一期一会。初対面の外国人とも食事やお酒を介して楽しい交流をする一幕も。旅の魅力と共通する部分でもあり、良いなと思います。これが海外だと治安の面で警戒が必要になりますが、日本国内であれば女性ひとりであっても余程のところでなければ大丈夫だろうと思えます。逆に、もし海外の人がこの作品を読んだらこの治安の良さはファンタジーかと思われるかもしれません。 毎回出てくる、癖の強い漫画家たちのキャラクターも好きです。コロナ禍も挟まってしまい難しくなってしまった部分もあったのかもしれませんが、個人的にはもっともっと続いていろいろなゲストハウスや漫画家たちの苦悩を見てみたかったです。 ただ、普通の紙の単行本で出すには少しページ数が足らない作品を、こういった形で多少値段を下げて電子限定でも出してもらえるのは嬉しいです。 高尾じんぐさんのかわいい絵柄で、画的な情報量もちょうど良く読みやすいです。 いろんな場所や宿泊施設を巡るのが好きな方、編集者のお話が好きな方にお薦めします。

「たま」という船に乗っていた

伝説のバンド「たま」が教えてくれる大切なこと #完結応援

「たま」という船に乗っていた 石川浩司 原田高夕己
兎来栄寿
兎来栄寿

先日、久松史奈さんが「さよなら人類」をカバーした音源を発表しました。原曲から比べると非常にアップテンポでパンキッシュなアレンジなっており、音としては2000年前後を感じる不思議で心地よい感覚でした。その「さよなら人類」を世に送り出し一世を風靡したアーティスト、たま。 石川浩司 知久寿明 柳原陽一郎 滝本晃司 「たま現象」とまで呼ばれた社会現象も巻き起こした、空前絶後の個性の塊のような伝説のバンド。2003年の解散後に中心人物である石川さんが書き下ろした同名のエッセイを元に、原田高夕己さんが追加取材を重ねてコミカライズしたのがこちらです。 webアクションで連載され最終話とエピローグが5月31日に公開予定ですが、それに先んじてそこまでを収録した2冊目の単行本である『らんちう編』が発売となり完結までを読了しました。 私は「さよなら人類」くらいしか知らない完全に後追いの世代ですが、この作品を読むことでたまという存在の面白さや偉大さを知ることができました。これを書いている最中に「さよなら人類」や「らんちう」を聴いていたら、同じく世代ではない家族も歌を覚えて口ずさんでいました。時代も国境も人種もすべて超える音楽のパワーの片鱗を感じました。 音楽でお客さんを楽しませようとするエンターテイナー精神はもちろんのこと、音楽以外の部分でも空き缶を30000本集めたり、レンタルボックスの先駆け的なお店を始めたり、とにかくやりたいことや楽しいことを追求している石川さんの姿勢は多くの人に感銘を与えるであろうものです。たまのファンはもちろんですが、そうでない人が読んでも楽しめるであろう部分が多々あります。 バンド全体としても、たとえ舞台が武道館であってもまったく気負うことなく、紅白に出ていたときでさえ合間の時間に抜けて劇を観に行くなど、肩の力を抜いて自然体であり続ける姿勢は、何かすごく大切なことを背中で語ってくれているように感じます。 藤子Aさんチックな絵柄で描く、原田高夕己さんの筆致もまたこの作品において絶妙です。基本は親しみやすい線で読みやすく、昔の大御所作家から現代のネットミーム的なネタまで幅広く入れ込んでありユーモラス。ただ、ここぞというシーンは最上の演出でキメてくれます。1巻最後のたまがスターダムに上る大きなきっかけである伝説の「イカ天」出演時のお話や、終盤のいくつかのライブシーンなどは特に最高です。 セカンドアルバムを作る時の「国内のスタジオの使用料がバカ高いから渡航費や宿泊費含めても海外の方が安上がりなのでイギリスとフランスでレコーディングする」というエピソードや、女性ファンがメンバーの泊まるホテルを特定して、ロビーで酒を飲みながら待ち構え、本人たちを描いた18禁BL同人誌を直接手渡したという今だったら大炎上不可避案件には時代を強く感じました。価値観の変容が読み取れるところは、史料的な意義も感じます。 何事も始まりがあれば、終わりもあるのがこの世の理。たまという船から下りる人が出てくるころのお話は切ないです。日本を飛び越えてワールドワイドにも活躍したたま。その「最期」は胸に来ました。 最後のエピローグの後に、石川さんの「玄関」という曲の歌詞が綴られており、そこにある仕掛けやあとがきも含めて何とも言えない良い読後感に包まれました。 ″世の中何がおこるかわからないから 色んな事楽しみにして ニコニコゲラゲラ 笑って生きていくといいと思うよ〜!″ これからどんな風に世界が変わっていこうとも、この石川さんの言葉に救われる人が多くいることを祈ります。 たまを好きな方は読んで懐かしみ、たまを知らない方はこれを機にこんなすごい人たちがいてこんな曲があったのだということを知るきっかけにしてみてはいかがでしょうか。