世界が終わった世界

将来性を感じる短編集 #1巻応援

世界が終わった世界 七火宇漂
兎来栄寿
兎来栄寿

タイトルと、独特の世界観を感じる表紙に惹かれて手に取りました。 五つのお話を収録した同人短編集です。 最初の、2017年に出された『怖そうで怖くないちょっとだけ怖いホラー同人誌』に収録されていたという女子バスケ部の強化合宿の夜の話を描いた「合宿の夜」は、まだ少しこなれていない感じもありながら既に独特の感性の萌芽が見て取れます。 続く「大社会地域評議会」も、同人的な自由さを感じられる作品です。ただ、設定を踏まえながらしっかりと結びまで描いているところは単なる混沌だけではなく構成力を感じさせます。なお、たまたま隣にポメラニアンがいる時にページを捲ったら「ぽめ」というオノマトペが出てくるという謎のシンクロニシティに笑ってしまいました。 「マイナンバーナイ」は、未来の超管理社会を描くディストピア系の物語。設定の面白さや味のあるセリフ、主人公に起こるサスペンス性溢れるドラマなど個人的には本書の中でも特に好きな作品です。作画やネーム的にも、かなり熟れてきておりマンガとしての読みやすさも格段に上がっています。 「亜種特捜課」は、さまざまな怪物や異形が解き放たれた世界で見られた者は死ぬというベアードについて捜査する物語。ネットミームのイメージが強いベアードですが、フェルミ粒子やボース粒子といった単語が出てきてそうした妖怪的な存在と結び付けて説明するパートが非常に好みです。魅せシーンでのタチキリや見開きの使い方など、一層マンガ的なテクニカルさも見せてくれます。カルビクッパが食べたくなりました。 一番楽しみにしていた「世界が終わった世界」は、クトゥルフ的な香も感じさせてくれるフルカラー作品。こういう世界観は大好物です。この遺跡を、そこに刻まれた歴史をもっと見たくなりました。 個人制作で学漫的なテイストは強いですが、独特の世界を持っており描くたびに成長しているのが感じられるので、今後の活躍を楽しみにしたい方です。

MFゴースト

老いも若きも自動車レースに熱中

MFゴースト しげの秀一
ゆゆゆ
ゆゆゆ

車には詳しくありません。 でも、街なかで大切に乗られているんだろう、あの白い車を見るたびに「豆腐屋さん」という単語が思い浮かびます。 本作は近未来の日本が舞台。箱根あたりは噴火によって有毒ガスが蔓延し、人が住めない状況なので、車を街なかをビュンビュン飛ばしても問題ありません。 公道ものの、こういう前提条件はとても好きです。 さらに、時代はEV一択という世界観。 「この車古いなあ」という感覚はガソリン車全般になります。何がでてきても、ガソリン車であればすべからく古いのです。おもしろいですね。 作中に出てきた、若者はシミュレーターに慣れていて、車をぶつけること(ぶつけられること)に躊躇いがないという話もおもしろいなと思いました。 他のことがらでもそういう違いって、生まれてきているのかもしれません。 メインとなる公道レースは、車の重量でタイヤの大きさが決まる、ただそれだけのルール。 日本で行われるレースなのに、外国の車が強いと言われています。 そこに現れた、イギリスからやってきた何やらすごい経歴を持つ少年。 車に詳しくなくても、大変そうなルールの中、何やらすごいことをしているというのは、物語の流れや解説でわかります。 そう、説明も丁寧です。この漫画は初心者にも優しいのです。 世界線が同じ続編なので、もしかするとイニシャルDを読まれていた方には「この人がこうなったんだ」と思うシーンがあるのかもしれません。