9で割れ!!―昭和銀行田園支店

銀行員だった矢口高雄先生が漫画家になるまでの12年間

9で割れ!!―昭和銀行田園支店 矢口高雄
かしこ
かしこ

釣りキチ三平の矢口高雄先生は漫画家になる前に銀行員をしていたとは聞いたことありましたが、その当時を詳細に描いた自伝漫画があったとは…!!すこぶる面白かったです。 1巻。まず恩師から推されて銀行員になるって矢口先生はむちゃくちゃ優秀な学生だったんだろうな〜!と思いました。下宿しながら働いていた新人時代は銀行とはなんぞやのエピソードが中心ですが、この頃は何もかも手作業で大変ですね。宿直していた行員が殺された話はいきなりサスペンスが始まったかと思うくらい描写が怖かった…! 2巻。当時でも24歳での結婚は早かったらしいですね。早婚だった理由が「味噌が嫌いだから」というのはジョークだと思いますが、どうして味噌嫌いになったかの話が印象的でした。こういうちょっとしたエピソードでも秋田県の風土を感じます。この頃にハマった鮎釣りもその後に描かれる作品に欠かせない経験ですね。 3巻。徐々に子供の頃の夢だった漫画家になることを再び意識し始めます。転勤先の同僚女性が都会的な人で刺激を受けたのと、彼女の実家が本屋でガロを読ませてもらったことが、矢口先生の人生を変えていきます。こんなに白土三平をリスペクトしていたとは知りませんでした。 4巻。ガロに持ち込みをして水木しげるや池上遼一に会ったエピソードがとても貴重でした。憧れの白土先生ではなかったけど水木先生に会えて褒めてもらえたことも一つの転機になっている気がします。上司に漫画を描いていることを咎められたことがきっかけで本腰を入れて夢を追うことにしたとありましたが、デビューして真っ先に届いたのがその上司からのファンレターだったのは泣けますね。しかし何より銀行を辞めて漫画家を目指すことを承諾した奥さんが偉い!!当時の矢口先生は30歳でお子さんが2人いますからね。自分が奥さんだったら反対してしまいそう…。 こうして見ると30歳まで地元にいたことが矢口先生の作家性に繋がっているので、遅咲きのデビューではあったけど回り道ではなかったんじゃないかと思いました。希望していた本店勤務ができなかったけどその反動で趣味を充実させたし、人生って何がどうなるか分からないという面白みを教えてくれる素晴らしい作品でした。

BLUE GIANT SUPREME

ジャズは深くて難しくてカッコいい

BLUE GIANT SUPREME 石塚真一 NUMBER8
さいろく
さいろく

まず主人公のダイはすごくすごく熱がある。 周りのメンバーもそれぞれ真っ直ぐで、熱量が高い。 で、出会うその他のジャズやる人達も同様に熱い。 向き先は少し違えども、ジャズに対する熱量の高い人達を描いているんだけど、やり続けるとどういう葛藤があるのか想像もつかない。 ※もちろんコレだけが正解じゃないし特殊なんだけど 前作「ブルージャイアント」で感動と、落胆に近い憤りとを感じた人がほとんどだと思う。シュプリームではさすがに同じことにはならないと信じたい(今でもアレは本当にハッキリ憶えてるぐらいツラく、「ふざけんなーー」と口に出たぐらい熱中というか没入していた) 前作からそうだけど、途中途中で後にダイのことを語る人々(恐らくインタビューを受けている)が出てくる。 そこからは当然、未来がある程度想像できるワードがいくつも含まれており、それを踏まえて読む事でまた口角が上がってしまうのを抑えきれずに先を楽しみにして待とうと思えるそんな漫画。 ジャズが苦手であろうとわからなかろうとそんな事はどうでもいいぐらいに、五感を揺さぶってくるすごい漫画なので絶対読んだほうがいいし出来ればネタバレは見ないほうがいい。 ググると「ブルージャイアント ひどい」が一番上にサジェストされて笑ったけど、シュプリームがなかったら本当にただひどかったかもしれない。 ただ、ひどかった(と私含む多くの読者が思っている)のは本当に後半の、割と最後の方の展開の一部でしかなく、それは本当に衝撃的だったけど、その衝撃が大きい人ほどこの作品をちゃんと読んだ人であるのは間違いない。 大好きなので是非多くの人に読んでもらいたい。

羆嵐

熊(くま)に風(かぜ)でなく、羆(ひぐま)に嵐(あらし)

羆嵐 矢口高雄 戸川幸夫
ゆゆゆ
ゆゆゆ

タイトルの漢字を一つずつ勘違いしていた。パワーダウンする方向に。 誤りに気付いたあとで、両方ともパワーアップする言葉があるなんてすごいなと思った。 さて、三毛別羆事件と呼ばれる、開拓時代の北海道で起きた事件。 凄惨さと裏腹に、作中によれば、当時の都会では数日後に小さく記事が載った(内容も正確てはない)レベルのお話らしい。 それほど、北海道の山あいは遠かったようだ。 小さな新聞記事にしかならなかった凄惨な事件を、知る人が皆いなくなる前に聴き取りをして、書きとどめた人がいて、その人の記録と話を元にタイトルの漫画は作られたそうだ。 『ふしぎの国のバード』を読んだ方には、当時の都会以外がどれほどの環境だったか(とはいえ、都会もアスファルト敷ではないですが)、想像がつくかと思うのですが、北海道の開拓地はさらに過酷だったようです。 玄関ドアがむしろ?ござ?一枚。板ですらない。 窓ガラスも障子もなく、窓からは北海道の寒風入り放題。 だから、死なぬために、火を煌々と燃やし続けなければいけない。そのための薪があったのは幸いだ。 そして、自然を開拓して、人が使えるように手を加えていっているので、そこに住んでいた動物との遭遇もなくはない。 しかし、被害があった季節は、動物は冬眠しているはずの冬。 にも関わらず、不運に不運、人災も重なり、一匹のヒグマに多くの人が殺された。 やるせないなあ、と読んでいて思った。 後編に入っていたニホンカモシカの物語は、人間の勝手さを感じて、苦手だった。 カモシカって日本にいるの?と思ったものの「カモシカのような足」という表現があるので、馴染み深い生き物だったんだろう。 ※ここまで書いて、読んだのが「羆風(ひぐまかぜ)」という作品の方だったと気づきました。 そちらでしたら、KindleUnlimitedで書いている今日現在読むことができるので、興味がある方はぜひ。