ザ・キンクス

「うれいらずたのぼー!」 #1巻応援

ザ・キンクス 榎本俊二
兎来栄寿
兎来栄寿

『ルックバック』の劇場版アニメ化が本日発表されましたが、藤本タツキさんもファンであることを随所で公言する榎本俊二さん(『チェンソーマン』ファンの方はぜひ『斬り介とジョニー四百九十九人斬り』を読んでください)。 これまでも『GOLDEN LUCKY』や『えの素』に始まり、『榎本俊二のカリスマ育児』や『思ってたよりフツーですね』、近年では『アンダー3』や『表4子ちゃん』などさまざまな作品で溢れ出る虹色の才能を披露してきました。下ネタとギャグの印象が強い方も多いかもしれませんが、決してそれだけではないことは『火事場のバカIQ』などを読めば一目瞭然です。 そんな榎本俊二さんの最新作。従来の作品とはまた違ったテイストを提供してくれています。35年のキャリアを重ねながら、未だに独自のセンスを縦横無尽に発揮し続けているのは尊敬します。まるで、汲めども汲めども枯れない泉のよう。 本作は、あとがきで筆者自身が語っているようにこれまでは掌編や4コマが中心だったものの残り少ない人生の中で挑戦をしようと描かれた、毎話16ページの連載です。 内容としては、小説家の隅夫・妻の栗子・中学生の長女茂千(もち)・小学生の長男の寸助の4人家族である錦久(きんく)一家を中心にしたコメディ……という字面から想像できるものの数段階斜めに行ったものです。 まず、4コマや掌編を思わせるコマ間のテンポの良すぎる展開。 栗子が 「うえー同窓会だって 行かない〜〜〜〜」 と言った次のコマではおめかしして 「行ってきまーす」 とコロッと言動が反転していたり、 「来月までにお芝居の台本書いてくれない?」 と栗子に言われた隅夫が 「断る」 とやや大きめのコマで拒否した次のコマでは 「おはよー何書いてるの?」 「芝居の台本だ」 と言った具合です。 普通ならこの間に何かしらのコマを挟みそうなものですが、それを省いています。 また、このスマホで読まれることを意識する時代には珍しく、各ページ3〜4段を基本として5段のコマもあります。これらによって、1話1話の情報量が多く密度が濃くなっています。 そして、普段は詰め込んだコマ割りでありながらここぞというときには大ゴマや見開きで爆発させる。この緩急が読んでいて非常に爽快です。毎回の「ザ・キンクス」の題字の出し方など最高です。 また、義両親との関係性であったり保護者面談であったり、子育てや田舎あるあるであったり、社会的に地の足のついたテーマをリアルに描きます。孫に良いもの食べさせてしまう祖母、かわいい。しかし、そこから突然翼を生やしたように羽ばたく自由な発想が注入されていくところは流石のセンスです。旗振り当番の話を考えさせても100人中99人はそうはならないでしょう。 1話の言葉遊びや5話の物語創作の技法や空想のお話、番外編の哲学性など、榎本俊二作品らしさが溢れているところも堪りません。6〜7話の構成力の高さなどは、素のマンガ力の高さに感服させられます。 かと思えば、抽選会の2等の賞品が「高級赤外線スコープ」であるところなどはちょっと普通には出てこないセンスです。 「うれいらずたのぼー!」は声に出して読みたくなるセリフで2024年筆頭クラスになるのではないでしょうか。マンガを読むときに普段はまったく使わない筋肉を使って筋肉痛になるような快感があります。 見所が詰まりすぎていて、人によって好きになる点や良いと思う点がそれぞれにあるのではないでしょうか。 榎本俊二さんは凄まじいマンガをたくさん描かれてきているのですが、近年の主要なマンガアワードではあまり名前が挙がることがありません。しかし、この『ザ・キンクス』はほど良い具合のキャッチーさとニッチさを併せ持っており、下ネタもないため広く薦めやすいこともあって「このマンガを読め!」のようなところで上位に入るポテンシャルを感じます。ぜひ何かで上位を獲って、改めてこの天才的なセンスを世に知らしめて欲しいです。 余談ですが、あとがきマンガの1コマで積み重ねられた本の中に「チェンソー」というタイトルがあるのは藤本タツキさんは嬉しかったんじゃないかなぁと勝手に思っています。『ロマンガロン』と並んでいるのも良いですね。

戦国小町苦労譚 (コミック)

農業やらなんやら、現代知識で富国強兵がんばります

戦国小町苦労譚 (コミック) 沢田一 夾竹桃 平沢下戸
ゆゆゆ
ゆゆゆ

なぜかタイムリープして、たまたま信長に拾われた女子高生が、現代知識&専門知識をもとに無双していく物語。 歴史改変となってしまっても我が命のため仕方ない。 いや、それを含めて歴史なのか。 居た世界と変わってしまうアレヤコレヤ、どこまで許容されるのか。いやでも殺されてしまうしという、タイムリープものの、悩みも描かれている。 本作で好きなところは主人公は農業大好き女の子なのに、役職が上がるにつれて現場(農作業)から離れていかざるをえないところ。 まるで現代の会社勤め。世知辛い。 ファンタジーですら、現実的。世知辛い。 ストーリーを追っていても、畑は日に日に遠くなっていく。世知辛い。 タイムリープして織田信長のもとに行く作品は、どのくらいあるんだろう。 あらためて、信長は人気だなと思う。 蛇足だが私が初めて読んだ信長系タイムリープ作品は、コバルト文庫の濃姫夢紀行シリーズ。読んでいたのは四半世紀以上前になる。 みんな好きだなあ、ノッブ。 話がそれてしまったが、戦国時代にタイムリープしてしまった女の子が仲間と出会い、必死に生き抜く本作。 変えてしまった歴史。 炎上してしまうと皆が知る人、織田信長。 どのような結末に至るのでしょうね。

徳川家康

徳川家康の感想 #推しを3行で推す

徳川家康 横山光輝 山岡荘八
マンガトリツカレ男
マンガトリツカレ男

・読んだ直後に思ったこと ※一番大事!※ 久しぶりに読んだけど相変わらず竹千代(徳川家康)が出てくるまで長いな。まさしく徳川家康の一生を描いている内容でまあ苦難の人生だな。「人の一生は重荷を負うて遠き道を行くがごとし。」というのを体現している。 ・特に好きなところは? 特に好きなところは2箇所あって本能寺の変で織田信長が亡くなった後の河尻秀隆と豊臣秀吉が亡くなった後の石田三成。 織田信長がいた頃に河尻秀隆は優秀で出世も順調だったと思うが織田信長が亡くなった後は織田信長のやり方をやろうとしているが表層的な真似に過ぎず結局をうまくいかずに終わった 石田三成も豊臣秀吉もいた時は良かったが豊臣秀吉が亡くなった後、豊臣家を守りたいゆえに独善的になりうまくいかずに終わった。特に同じ地位ぐらいのやつに文句言ったあとに前田利家に話を進めてもらうとしたが前田利家に断れてるあたりは今の仕事にも通じそうだ ・作品の応援や未読の方へオススメする一言! 徳川家康が出てくるまでは長いが戦後に経営者虎の巻やビジネス書として言われるのもわかるのでおすすめです

鍋に弾丸を受けながら

誰かの、近所の、好きな店

鍋に弾丸を受けながら 青木潤太朗 森山慎
hooper
hooper

テレビでネットで見ただけで、行ったわけでもないのに知った気になっていたわけです。 過去にした「アメリカの食べ物ってさぁ〜」みたいな半笑いの言い回しを、本書を開くたびひっそり恥じ入り心が土下座陳謝する。 そらそうよ。州があり市があり街があり村だの川だの大自然だのがあり(ブラジル回)、そこに暮らす個人とその人の生活、現地の習慣や、行動範囲がそれぞれあり。 そして、友達が来たら「美味い店連れてってやるよ!」という日々のご近所グルメがあるわけで。 例として3巻11話の「ホットドッグ・アンド・フライ」。上に揚げたてフラポを載せ、その上から塩を振ってあるホットドッグ。 だよね。アメリカ全土で"いわゆる"なホットドッグしか食べてないわけがない。 もっと素敵ィ〜な外国グルメもあるが、とにかくこの話に衝撃を受けた。(単に私が愚かなだけか)。 ちなみにこの漫画をクルッと裏返しにすると、個人的に『米国人一家、美味しい東京を食べ尽くす』になると勝手に思っている。ブラックサンダーアイスを絶賛するサイズ感の滞日グルメ本です。活字ですが、グルメモノが好きならおすすめ。 とにかくジュンターロサン、これからも私めの蒙を啓いてください、応援しています。土下座陳謝で。

本田鹿の子の本棚

違う世界に足を踏み入れてしまったような

本田鹿の子の本棚 佐藤将
ゆゆゆ
ゆゆゆ

本棚に秘められた宇宙。 文字列がビジュアル化すると、個性的な本たちの一群はカオスと化す。 最近、会話もなくなった娘の趣向をしろうと部屋に忍び入り、本を読む父。 タイムリミットは娘の帰宅時間。 大丈夫、父にはビジュアル化されるタイプの速読術がついている! 休日なのか平日なのかわからないけれど、娘より帰宅が早いタイプの父らしい。 ちょっと癖のある趣向を持つ娘の本棚が、父によって次々とビジュアライゼーション! というかたちで、突拍子もない一話完結型短編が次々と現れる。 いやほんとに突拍子もない設定&展開で、読んでいると自分がおかしいような気がしてくる。 『マチ姉さんの妄想アワー』もマチ姉さんの妄想ということで、突拍子もない昔話やおとぎ話が繰り出されていたけど、本作は舞台が世紀末からSFから恋愛モノから推理モノから色んな方向から小話がやってくる。 理解が追いつかず、99話の龍造寺先生よろしく、「っひゃっひゃっひゃ」と言う気持ちになる。 毎話毎話、発想力がすごい。 ちなみに私は、世紀末世界を舞台にした「93話」のトニオバギーの話が好きだ。