ジャックポットに微笑んで

複雑な〈片想い〉のヴァリエーション

ジャックポットに微笑んで つつい
あうしぃ@カワイイマンガ
あうしぃ@カワイイマンガ

『少女支配』『この愛を終わらせてくれないか』の筒井いつき先生の、別名義の短編集。別名義でも、特有の暗い感情、理解の及ばない暗部の表現は変わらない。 この短編集をやや強引に纏めるなら、〈片想い百合〉ではないかと思う。それは明らかにそう描かれている物から、ある意味での両片想い、素直になれないというレベルの物まで幅広いが、一方通行な残酷さがある。 そしてそこにある暗さ、陰湿さ、負の感情の強さが凄い。つつい先生の作品を一つ読み終わると、生きて帰って来たという謎の安堵が沸き起こる。 ●『お前は私の死んだ妹に似ている』…自分に劣等感を与えて死んだ妹と、瓜二つの後輩が出来た。懐く後輩と、妹を重ねる姉。 (巻末『dear my sister』はこちらの過去話) ●『ジャックポットに微笑んで』…容姿端麗で性格の悪い子の唯一の友達は、彼女を男との恋愛にけしかける。それは伸るか反るかの大博打。 ●『仮定法過去完了』…親友の結婚式。ネックレスをつけてやる手が震える。 ●『見ている』『また、見ている』…綺麗な先輩を見つめる。その視線に先輩は気づいた。 ※異性愛の影のある作品が多いが、男はそっちのけなので私は気にならなかった。

ママレード・ボーイ

憧れのアーバンライフ少女漫画

ママレード・ボーイ 吉住渉
まるまる
まるまる

内容は、親同士が再婚してある日突然知らないイケメン男子と同居生活が始まっちゃった!どうなるの〜!?☆という話で、主人公たちが高校から大学までの数年間で様々な恋模様を展開しながらこの上なく完璧なかたちで完結する名作です。 そして、ママレード・ボーイ littleという素晴らしい続編へ続くことができるわけです。 りぼん連載当時のわたし(小学生)からすると、主人公たちは高校生ですが、やることなすこと全てが憧れの「少し大人の恋愛」に映っていたくらい、ママレードボーイは全体的に落ち着きと品があるラブストーリーでした。 吉住先生の(いい意味で)手描き感のない細くてキレイな線の影響もあると思います。 今思えば、登場人物たちは皆(実際にそういう設定なのかはさておき)それなりの富裕層家庭で育っており、身につけるものや振る舞いが上品。あの世界には不良とかヤンキーの概念がなさそう。 制服のデザインも凝っており、私服も洗礼されていてめちゃめちゃオシャレです。何度真似して描いたことか…。とくに女の子キャラの服装は今見ても可愛い。 なので、アニメで光希が水色やピンクの服ばかり着ているのが嫌だと先生が言ってた記憶があります。 個人的にはすず×蛍カップル推しですね。美しい容姿を持ち、スポットライトを浴びる者同士、お互いを高め合える関係で、わがままなすずちゃんとクールな蛍くん。ナイスカップル。 ママレは90年代りぼん作品の中では、ベスト3に入るほど好きです。

君のことが好きで言えない。

現実と"ちょっとだけ違う"世界、誰にも言えない秘密の恋 #1巻応援

君のことが好きで言えない。 みかみふみ
sogor25
sogor25

主人公は幼馴染の中川歩に恋心を抱く高校1年生の高梨上総(かずさ)。 しかし彼女は"ある理由"から歩への思いを隠しながら生きていました。 なぜ上総は恋心を隠す必要があるのか それには2人が暮らす世界に秘密がありました。 実はこの作品の舞台となる世界では30年前に衝突した隕石の影響で 人が「同性しか愛せない世界」へと変わってしまっていたのです。 そんな世界で"異性愛者"だと知られると周りから白い目で見られてしまい、そしてそれは歩に対しても迷惑になってしまう、そんな理由から上総はその恋心を誰にも知られないよう過ごすしかなかったのです。 この作品はそんな、この世界と"ちょっとだけ違う世界"で繰り広げられるラブストーリーです 「同性しか愛せない」以外は私達の世界と変わらない世界が舞台なので、より一層、主人公の上総の置かれている状況の特異さが際立っていて、 1人だけ周りと違うことに思い悩む上総の姿や"異性愛者"に対する周囲の容赦のない言葉の数々、そして、 これはもしかしたら「同性しか愛せない」世界だからなのかもしれませんが"異性"である上総に対して自然と距離が近く無防備に接してくる歩の存在、それら全てが上総の恋心の切なさを加速させていく、そんな作品です。 1巻まで読了

同人女百合アンソロジー

また一つ凄い百合アンソロが #1巻応援

同人女百合アンソロジー 一迅社アンソロジー
あうしぃ@カワイイマンガ
あうしぃ@カワイイマンガ

『2DK、Gペン、目覚まし時計。』の大沢やよい先生が描かれているカバーイラストで、既に作業中のだらしなさやむさ苦しさとそこに咲く百合のニュアンスにむせるのです。 続く伊月クロ先生の巻頭イラストはストーリー性が強く、そこに込められた複数の物語を読み解こうと懸命になるともう何分経ってんだよ。 ●『私を推してよ日菜子さん!』くもすずめ先生の絵いいなぁ。男装コスの女子とメガネ絵師女子の力関係が意外そうでしっくり来る。前日にコピー本作るのはそんなに良くあるのか?作り方のリアリティよ。 ●『ウェルダンは待てない』よく聞くアフター焼肉。一瞬本当に百合?って思うけどコロッと騙された。ヨルモ先生お話上手い。『神絵師JKとOL腐女子』的なファンと先生の関係好きな方に。 ●『逆カプ地雷』ゆあま先生の、コメディタッチな同人作家同士百合。解釈違いで喧嘩するオタカップルってありそうで無かった?(かずまこを先生の『楽園まで、あと…』とか)心の底で通じ合うソウルメイトな二人は尊い。 ●『フソクフリ』めざし先生、絵は可愛いのに人物造形がエグい。目立ちたがりでかまってちゃんでウザい同人作家像は作家でなくても心に痛い。本当にダメな人にこそ、救いは欲しいですよねぇ。 ●『隣サークル主が元カノだったのですが…』好き合っていたのに別れた二人は同人作家同士として再開。二人の微妙に愛着が残っている描写、明るく描いているのにキュッと心を掴まれて、雨水汐先生の絵のタッチと相まって優しく心に残る一品。 ●『お嬢様、同人デビューです!』同人界隈にお嬢様をぶつけてきて、最後まで違和感ありまくりでそれが面白い!お嬢様は金銭感覚以外はすごく真っ当で愛せる存在……散田島子先生の発想力強い。 ●『さよなら私の星』ここで百合界のエグさ担当つつい先生。同人界隈で人付き合いをソツなくこなす人が、才能と無邪気さを併せ持った人と出会って自分の本質を突きつけられる、その抉り方がやはりエグくて堪らない。 ●『すきだから』最後は桐山はるか先生の美麗で愛らしい絵で綴られる、オタカップルの日常。〇〇に出てくるご飯再現!とか素敵すぎる。積み重ねと、変わらないもの。二人でいることが羨ましくなる。 ……とまぁ各作品の感想も長くなる程、どれ一つとして同じものは無いし、様々な物を感じられる充実した一冊でした。

派遣社員あすみの家計簿@comic

愚かな主人公と共に成長しましょう

派遣社員あすみの家計簿@comic 雨野さやか 青木祐子
野愛
野愛

若くてかっこよくて飲食店のオーナーをしている恋人と結婚するので仕事辞めます!幸せになります! と寿退社かました途端、恋人に逃げられすべてを失った女性が再び立ち上がるお話…だけど主人公のあすみにあまり同情できないのがこの作品の面白いところです。 ・結婚したら僕が全部養ってあげるからね、あとで何百万入れとくからね! という恋人の言葉を疑わず、全部自分のカードで支払い ・ほんとに大丈夫なの?1年は付き合って見極めたら?という冷静な家族の言葉を無視 ・生活費がなくなったので親友に金を貸してと泣きつく ・食費すら切り詰めなきゃいけないのにデパコスのマスカラ、高級万年筆、お洒落カフェのスコーンなどを買う うーん。やっぱり同情できないんだなあ…。 とは言え、いきなり生活水準を下げるのはとても難しいことですよね。 しかも、約束されていた幸せが全部なくなってしまったなら尚更。 まだ28歳ならすぐバイトすりゃいいじゃん、頭下げて実家帰ればいいじゃんと思うのですが、悔しさ寂しさ恥ずかしさ…いろいろな思いがあることでしょう。 読んでいて8割方イライラモヤモヤさせられるあすみですが、なんだかんだ立ち上がって強く生きようとしています。 ちょっとだけ同情して、ちょっとだけ馬鹿にして、たっぷり反面教師にしながらしっかり見守っていきたいと思います。