絹上愛子作品集「かわいいと言わせたい!!」

王道恋愛ものの良さを感じる短編集 #1巻応援

絹上愛子作品集「かわいいと言わせたい!!」 絹上愛子
兎来栄寿
兎来栄寿

周りからは「かっこいい」と言われているけど、内心では好きな人に「かわいい」と言われたい女子は問答無用で素晴らしいと日本書紀にも書いてある気がします。 表題作「かわいいと言わせたい!!」を始めとする、絹上愛子さんの短編が5つ収録された短編集です。 幼いころ、並み居る男子よりもドッジボールが強いクラスメイトの女の子に「か、かっこいい……」とときめいたことがあります。『可愛いだけじゃない式守さん』が人気を博す現代、「かっこいい」によって男子から惚れられる女子のお話はもっともっとあっても良いのではないかと思う今日この頃。首肯される方には、こちらの『かわいいと言わせたい!!』をそっと差し出させていただきます。 ″出来る事ならカイルの体積内容量全部 私の作ったもので形成したいと思ってる″ と、ほんのちょっぴり強火で料理をしてくれる、かわいくてかっこいいヒロインの物語です。 そう、絹上愛子さんの作品はファンタジー系のラブストーリー多めなんですが、個人的にはそのコメディ部分がかなり好きです。 魔女ロリおばあちゃんがとてもかわいく、悪魔とのハーフでありながら無能な父と、普通の人間の母とのクォーターという情報量盛り盛り「血婚コントラクト」。 唯一ファンタジー要素のない「イケメン殺しの朝森さん」は、正にラブがコメっており、ヒロインの朝森さんが黒髪ロングの清楚な外見とは裏腹にどぎついことを言ってくるギャップ、そして最後の1ページが堪りません。 シリアスめのファンタジーな「ササとヤシロの千夜一食物語」、「ノアの赤い瞳」を含め全体的に、王道展開ですがそれがいい。目新しいものはなくても、読んでいて安心するものがあります。こういう王道が読みたい瞬間、確実に存在します。 残念ながら電子書籍でしか出されていないのですが、それを勿体なく感じる1冊です。こういう王道を小〜高校生くらいの読者に読んで育って欲しい。どんどん上手くなる絹上さんの作品が、今後もっともっと広く読まれるようになるといいなと思います。

エリスの聖杯

無実の罪で処刑された悪役令嬢、幽霊となり真相を探る

エリスの聖杯 桃山ひなせ 夕薙 常磐くじら
ゆゆゆ
ゆゆゆ

10年前に処刑された、希代の悪女と呼ばれたスカーレットの死の真相を探るミステリー。 小説家になろうのテンプレートでいくと、悪役令嬢が婚約者をとられ、さらに処刑ルートに回った10年後のお話となる。 10年が経ち、真相を探るのが難しくなった部分と、貴族社会の難しさやいやらしさで真相を探ろうにも一筋縄ではいかない部分と。 そこがストーリーのおもしろさを増している。 悪役令嬢の話ばかり書いたが、主人公はスカーレットでなく、誠実さだけが取り柄の家系に生まれた地味な少女コニー。一応貴族。 コニーが、ある夜会でトラブルに陥って助けを求めたとき、唯一、そして偶然にも応えてくれたのが10年前に処刑されたスカーレットの幽霊。 手助けしてもらったことをきっかけに、コニーは「無実の罪で処刑されたスカーレットの死の真相を探る手伝い」をすることになる。 スカーレットがすごく良い人に見えるけど、悪女伝説はだいたい真実。背景を知れば仕方がないかなとも思えるけど、だいたい真実。さすが悪役令嬢役。 そして、非常に強気なスカーレットは見ていて気持ちがいい。 処刑されなかったルートのスカーレットを見たくなるほど、魅力的なキャラクター。 言葉を重ねるより、漫画でスカーレットをみてもらったほうが、彼女から溢れ出る魅力は理解しやすい。 そして彼女がいたからこそ、「誠実」という家柄に甘んじず、強かに成長する主人公コニーも見ることができる。