私的漫画世界|ながやす巧|Dr.クマひげ
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「平成の絵師」といえば池上遼一さんのことを指しますが,ながやす巧さんの絵もすばらしいものがあり,その技量,表現力は決して池上さんに劣ってはいないと考えます。池上さんの絵の持ち味はハードバイオレンスによく合ったものであり,ながやすさんの絵は人情ものあるいはヒューマンドラマととても良く合います。
どちらも原作物を手掛けていますので,物語がそれに合った絵を育てているようにも感じます。逆に二人とも自分の絵の特徴を熟知しており,それに合わせて原作を選択しているとも考えられます。
「ながやす巧」は「ちばてつや」とはちょうど10年若い団塊の世代であり,漫画家になろうとしたのは「ちばてつや」の漫画に深い感銘を受けてのこととされています。おそらく少年誌で読んだ作品と考えられますので,紫電改のタカ(1963-1965年),少年ジャイアンツ(1964-1966年),ハリスの旋風(1965-1967年)あたりが該当します。
上京して貸本劇画作家,アシスタントを経て1969年に商業誌デビューを果たしています。1973年に執筆開始した「愛と誠」は大ヒットし講談社漫画賞を受賞しています。しかし,私はこの作品にはながやすさんの持ち味は十分に発揮されておらず,その前年に発表された「牙走り」の方がずっとよい雰囲気をまとっているように感じます。
やはり,絵の雰囲気からして人情ものを描かすと思わずほろりとさせるような珠玉の作品に仕上げる画力が備わっています。その路線でもっとも個人的に好きな作品が「Dr.クマひげ」ということになります。
私の書棚には漫画本が2000冊,文庫本が1000冊ほどありますので時間的にも繰り返し読むことは困難ですが,「Dr.クマひげ」は折に触れて読み,人情ものの熱さに触れ,ときには涙腺をゆるくすることになります。1話完結のスタイルですのでちょっと読むにはとてもよい作品です。
原作者の史村 翔は「史村 翔」と「武論尊」という二つのペンネームを使い分けています。友人の本宮ひろ志に勧められて原作者になったという経緯があり,集英社の作品では「武論尊」,それ以外では「史村 翔」と使い分けていました。しかし,現在ではそのような境界はあいまいになっています。
集英社の作品ではハードバイオレンスものが多く,他社作品ではヒューマンドラマが多いようです。これは,編集部の意向が反映されていると考えます。私の書棚には彼の原作作品として「Dr.クマひげ」,「サンクチュアリ」,「アストロノーツ」などが並んでおり,どちらかというとヒューマンドラマがメインとなっています。
「サンクチュアリ(作画:池上遼一)」も池上氏独特の過激な性的描写(読者サービス?)を抑えたならば一段格上のヒューマンドラマになったものと残念に思っています。