あらすじ昭和20年、日本は戦争に負けました。みんな貧しかったけれど心は開放的で、世界がまだ難しくなる前、一人一人の個性を受け入れる大きさがありました。戦争に勝った国は日本に命令したんです、「今までのように女性を虐げるのはやめなさい」と。時代の波に乗って女達は動き始めました。――女子プロ野球にかける乙女達の麗しき熱闘、今、プレイボール!!
【世界と戦うアスリート漫画①〜スポーツコラム風に】 1934(昭和9)年、あのベーブ・ルースを擁した米国選抜チームを相手に一人、気を吐いた日本人投手がいた。その年、彼を中心に日本初の男子プロ野球チームが誕生する。 彼の名は、沢村栄治。背番号14。 学生野球が盛んな日本にようやく生まれたプロ野球の中心で、彼は自ら輝き、日本中を熱中させた「太陽」だった……というのは史実。 ★★★★★★ そしてここからは架空の話。 例えば太平洋戦争敗戦後に日本で女子プロ野球リーグを構想するとして、もし沢村栄治のような「太陽」が女子にいたら、どうなっただろう? カフェの女給を寄せ集めたチームの中に、ずば抜けた身体能力と負けん気を持った女がいた。彼女は化粧品会社の女性社長のチームで、日本を代表する豪腕……まるで沢村のような……に成長する。 彼女の名は、加納トメ。背番号14。 その豪速球とマウンド度胸は、周囲に夢を見させる。しかし彼女を待っていたのは、プロリーグではなかった。 女性社長と彼女の弟はプロリーグ構想を骨抜きにし、米国資本との賭け試合を仕掛ける。米国との「経済戦争」は日本中を熱狂させるが、その先に待っていたのは……。 プロリーグとは縁遠い場所で、加納トメは全身全霊で戦い続ける。勝負の場を作るために自ら前線に立ち、女が野球をやる権利を賭けた大博打を打つ。そして圧倒的な才能にも関わらず、常に格上に挑み、負けて当然のギリギリの闘いをする。 その姿は時に清々しく、時にひどく見苦しい。しかし彼女は周囲を惹きつけ、「太陽」として日本を明るく照らし、現代の我々の網膜にも忘れ難い影を焼き付ける。 ★★★★★ ……という強烈な印象を残す本作。その現実離れした物語は実際のスポーツ興行には参考にし難いと思われるかもしれない。しかし私達は本来、現実離れした圧倒的な才能・物凄いプレイを観たくて、競技場に足を運び、ニュースに一喜一憂するのではなかったか。 例えば『1518! イチゴーイチハチ!』の環会長や、『球詠』の選手達が将来飛び込む女子プロ野球の歴史に、もし加納トメがいたら……と想像するのはとても楽しい。それは彼女達が加納トメというとんでもない才能を目標にし、いつか凌駕し、歴史を上書きする瞬間を見せてくれることを期待するからだ。