私的漫画世界|井浦秀夫|弁護士のくず
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井浦秀夫は長野県出身です。地元の高校を卒業後に早稲田大学第一文学部に入学し,無事に卒業しています。大学在学中は早稲田大学漫画研究会に所属しており,その縁で東海林さだおのアシスタントとなります。
1979年に「私は人を殺した」で双葉社の漫画アクション新人賞を受賞し,プロデビューを果たしました。かれこれ35年間,漫画家として活動してきましたが,「弁護士のくず」に出合うまで「井浦秀夫」の名前も作品もまったく知りませんでした。
作品履歴をチェックした限りでは社会的な問題を扱うノンフィクション作家に近いような感じを受けます。井浦は「弁護士のくず」の前作として「強欲弁護士銭高守」を発表してします。
こちらの主人公はパンチパーマの大顔であり「大仏オヤジ」と呼ばれており,外見がヤクザ,中身は守銭奴というとんでもない弁護士という設定になっています。
「勝つのは金だ」「勝訴の道も金しだい」などという法曹界にはいて欲しくない言動の持ち主ですが,
ときには法律で杓子定規に解決するのではなく,依頼者の利益を守る働きをしてくれます。
周囲の人たちの造形は「弁護士のくず」とほぼ同じです。「弁護士のくず」ではこの主人公を劇画調から子どもの絵のような造形に変えています。作者の言では「九頭の顔を敢えて『ペルソナ(仮面)的』にしてあるのは、そうしないと恥ずかしい台詞を言わせることができないから」とのことです。
これは分かような気がします。劇画調の風貌で作品中のような言動があれば,ずいぶんシリアスな印象になります。あの落書きのような容貌は読者をあまり刺激しないためのものなのです。
このひどい造形を主人公とする漫画は人間の本性や事件の真実を引きずり出す手腕が評価され一定の人気作品となっており,平成18年度小学館漫画賞一般向け部門を受賞しています。