「銃座のウルナ」で喝采を浴びた伊図透が放つ、渾身の女子野球物語「オール・ザ・マーブルズ!」 - コミックナタリー 特集・インタビュー
natalie.mu
伊図透といえば、戦場で生きる女性狙撃手を描いたSF巨編「銃座のウルナ」が第21回文化庁メディア芸術祭で優秀賞を受賞したことも記憶に新しい。骨太な人間ドラマで読者を引き込み続ける彼が、次なる長編の題材に選んだのはスポーツ。それも女子野球ものだった。月刊コミックビーム(KADOKAWA)にて「全速力の。」というタイトルで走り出したこの作品が、約2年の休載を挟み、「オール・ザ・マーブルズ!」と名を変えて、単行本1・2巻同時発売という形で我々の手元に届けられる。
豪速球を投げるヒョロ長い女子投手が、身体を流線形にしならせる。 野球のために、人の形を捨てて気流のように最適化されてゆく身体。現代アートのような斬新でスタイリッリュな、そして野球人の夢のような投球フォームに魅了される。 そんな彼女を見つめる主人公は、やはり女子で、ぽっちゃり目のスラッガー。冷笑系の彼女は複雑な思いで「女子が野球をやること」に揺れている。 二人は女子野球部のある高校で出会い、迷いの中で切磋琢磨し、ライバルで仲間という関係を築く。野球に恋焦がれ、高みを目指す二人の熱量に引き摺り込まれる。 女子高校野球の全国大会は、実際の会場がそのまま描かれる。女子が野球をやる事の「やりにくい空気」は複雑だが現実的……とてもリアルな描写の一方で、女子たちの野球への想いは夢のように美しいが、それ故に切なくもある。 女子野球のひりつくリアルと、焦がれる夢。そんなものでできているこの作品は、とても強い。