「9で割れ!!―昭和銀行田園支店」は矢口高雄先生が20代の頃ですが、こちらは子供時代の話です。 矢口先生って秋田県でも田舎の方の出身だったんですね。当時は日本のどこでもそうだったかもしれないけど、読み書き出来ない村人もたくさんいたそうです。しかし矢口先生のお母様は読書好きだったので子供達に読み聞かせてくれて、その中の一冊が自分にとって初めての漫画との出会いだと語られていました。この作品を読んで一番心に残ったのは、お母様の人柄の素晴らしさです。誰よりも働き者だからこそ日射病で倒れてしまったのに、舅から「怠け者」だと言われてしまうシーンには涙が出てきました…。そのことがきっかけで「俺は百姓にはならないぞ」という気持ちが芽生えたことで、銀行員になり、そして漫画家になったんですね。 娯楽のない生活を送っていた矢口少年にとって手塚治虫の漫画がどれだけセンセーショナルでかけがえのないものだったか、ということも全編を通して描かれていますが、雪道を5時間かけて歩いて本屋に漫画少年を買いに行った話なんて…これも泣かずには読めませんよ!! 矢口先生の作品は生まれ育った秋田県の豊かな自然を描いていますが、田舎臭さを感じず品があるのは、お母様と手塚先生の影響なんですね。
釣りキチ三平の矢口高雄先生は漫画家になる前に銀行員をしていたとは聞いたことありましたが、その当時を詳細に描いた自伝漫画があったとは…!!すこぶる面白かったです。 1巻。まず恩師から推されて銀行員になるって矢口先生はむちゃくちゃ優秀な学生だったんだろうな〜!と思いました。下宿しながら働いていた新人時代は銀行とはなんぞやのエピソードが中心ですが、この頃は何もかも手作業で大変ですね。宿直していた行員が殺された話はいきなりサスペンスが始まったかと思うくらい描写が怖かった…! 2巻。当時でも24歳での結婚は早かったらしいですね。早婚だった理由が「味噌が嫌いだから」というのはジョークだと思いますが、どうして味噌嫌いになったかの話が印象的でした。こういうちょっとしたエピソードでも秋田県の風土を感じます。この頃にハマった鮎釣りもその後に描かれる作品に欠かせない経験ですね。 3巻。徐々に子供の頃の夢だった漫画家になることを再び意識し始めます。転勤先の同僚女性が都会的な人で刺激を受けたのと、彼女の実家が本屋でガロを読ませてもらったことが、矢口先生の人生を変えていきます。こんなに白土三平をリスペクトしていたとは知りませんでした。 4巻。ガロに持ち込みをして水木しげるや池上遼一に会ったエピソードがとても貴重でした。憧れの白土先生ではなかったけど水木先生に会えて褒めてもらえたことも一つの転機になっている気がします。上司に漫画を描いていることを咎められたことがきっかけで本腰を入れて夢を追うことにしたとありましたが、デビューして真っ先に届いたのがその上司からのファンレターだったのは泣けますね。しかし何より銀行を辞めて漫画家を目指すことを承諾した奥さんが偉い!!当時の矢口先生は30歳でお子さんが2人いますからね。自分が奥さんだったら反対してしまいそう…。 こうして見ると30歳まで地元にいたことが矢口先生の作家性に繋がっているので、遅咲きのデビューではあったけど回り道ではなかったんじゃないかと思いました。希望していた本店勤務ができなかったけどその反動で趣味を充実させたし、人生って何がどうなるか分からないという面白みを教えてくれる素晴らしい作品でした。
タイトルの漢字を一つずつ勘違いしていた。パワーダウンする方向に。 誤りに気付いたあとで、両方ともパワーアップする言葉があるなんてすごいなと思った。 さて、三毛別羆事件と呼ばれる、開拓時代の北海道で起きた事件。 凄惨さと裏腹に、作中によれば、当時の都会では数日後に小さく記事が載った(内容も正確てはない)レベルのお話らしい。 それほど、北海道の山あいは遠かったようだ。 小さな新聞記事にしかならなかった凄惨な事件を、知る人が皆いなくなる前に聴き取りをして、書きとどめた人がいて、その人の記録と話を元にタイトルの漫画は作られたそうだ。 『ふしぎの国のバード』を読んだ方には、当時の都会以外がどれほどの環境だったか(とはいえ、都会もアスファルト敷ではないですが)、想像がつくかと思うのですが、北海道の開拓地はさらに過酷だったようです。 玄関ドアがむしろ?ござ?一枚。板ですらない。 窓ガラスも障子もなく、窓からは北海道の寒風入り放題。 だから、死なぬために、火を煌々と燃やし続けなければいけない。そのための薪があったのは幸いだ。 そして、自然を開拓して、人が使えるように手を加えていっているので、そこに住んでいた動物との遭遇もなくはない。 しかし、被害があった季節は、動物は冬眠しているはずの冬。 にも関わらず、不運に不運、人災も重なり、一匹のヒグマに多くの人が殺された。 やるせないなあ、と読んでいて思った。 後編に入っていたニホンカモシカの物語は、人間の勝手さを感じて、苦手だった。 カモシカって日本にいるの?と思ったものの「カモシカのような足」という表現があるので、馴染み深い生き物だったんだろう。 ※ここまで書いて、読んだのが「羆風(ひぐまかぜ)」という作品の方だったと気づきました。 そちらでしたら、KindleUnlimitedで書いている今日現在読むことができるので、興味がある方はぜひ。
タイトルこそ「手塚治虫」と堂々と入ってますが、内容は作者である矢口先生の小学生時代を描いた自伝的マンガになります!!! 矢口先生は小学生時代に、メトロポリスやジャングル大帝などをリアルタイムで体験され、立派なヅカラーとしてご成長されたようなので、その話が結構入ってます。 わたしが本作品を手に取ったきっかけは「手塚治虫」の文字に惹かれたからだったので、最初はその内容に多少戸惑いました。だって矢口先生の話やねん。 ただ、読み進めていくうちに、すっかり矢口先生のマンガや、イキイキとしたキャラクターに魅了されてしまいました!!!お・おもしれえ。 内容も半分以上は手塚先生が関連するエピソードなので、タイトルが「ボクの手塚治虫」でも全然間違ってはないのですが、翻って考えてみると、他人の自伝的マンガのタイトルにまでなってしまう手塚先生の影響力に神々しさすら感じます。 手塚先生に関係ないエピソードも全部面白く、魅力的です!!この作品自体の面白さ、作中で描かれる手塚先生のマンガに対する姿勢、作中で手塚先生のマンガに一喜一憂する主人公が、三位一体となって「マンガ」というものの本来の魅力を改めて気づかせてくれます!!!! 正直バリ面白いので、もし私が権限を持ったとしたら重要文化財クラスの指定をすると思います。 矢口先生作品は、釣りキチ三平が子供の頃近所の大新飯店に置いてあったのくらいしか接点がなかったのですが、これを機に他の作品も含めて読み進めようと心に誓いました。まず三平が65巻あったので覚悟が試されますが、本作の主人公のように心からマンガを楽しみたいと思います。
・読んだ直後に思ったこと ※一番大事!※ 色々あったから方向転換があったんだろうなと思わせる感じだった・・・結局おとこ道とはなんぞやというのは気になったまま終わった ・特に好きなところは? 美影キャプテンのモダンジャズ剣法となかなか強引な終わり方・・・ ・作品の応援や未読の方へオススメする一言! 矢口高雄のマンガがものすごい好きだったり梶原一騎原作を全部読むという強い意志がある人にはおすすめですが、なんとなく今日寝る前に読むマンガを探しているような方にはおすすめできない
古き良き時代を感じた。今もこういう集落が秋田のどこかに残っててほしい。 1. 岩魚の帰る日 2. いさご虫 3. ウリとナスビの子守歌 4. アメンボの詩 5. 狼 三十郎 6. 鮫殺し 7. 峠のタロ 3〜5がオチなしって感じで逆に面白かった。 特にアメンボの詩。ウモン唐突に具合悪くなってそのままぽっくり逝くとは。 あと狼三十郎の三十郎と鮫殺しの三十郎は同じ名前の他人だよな…? 矢口高雄先生の自然描写の美しさ、朴訥とした田舎の暮らしぶりがよく描かれてる作品です。
矢口高雄先生が銀行員からキャリアをスタートして漫画家になった話は有名だが、どのような仕事をしていたかはこの作品を読むとよく分かる。タイトルになっている「9で割れ」というのは、桁の間違いを判別するためによく使われていたのだそうで、今でも役に立つ知識だ。 コンピュータの導入、テレビの普及など、時代が変わりゆく中で生まれては消えていったものが描かれていて、人間の営みに対する作者の一貫した態度というか美学に触れたように思う。どうやっても釣り漫画になってしまうのも愛おしい。個人的には下宿先のおじいさんとその兄が重要文化財レベルの美術品をコレクションしていた話がすごく好き。 ペンネームの由来や釣りキチ三平の由来など、「そういうことだったのか!」というエピソードも入っているし、水木しげるの仕事場を見学して池上遼一やつげ義春と出会う話など、歴史的な資料としても重要な作品になっている。 働きながら何かをなそうとする人は元気づけられるんじゃないかな。
矢口先生が災害を元にして描いたものとしては、三毛別羆事件の『羆風』が有名だと思うが、こちらも壮絶だった。 当時の新聞や写真、聞き取りによる実体験に脚色を加えたドキュメンタリーになっており、単に分かりやすいとか読みやすいというだけでない、語り手としての力を持った作品になっている。
大好きな作品『おらが村』のかつみが主人公で、田舎の暮らしに憧れて東京から森田家にやってきた北川との生活が中心。北川が村の生活と農業に馴染んでいく過程で、田舎の良いところも悪いところも見えてくる。人間模様だけでなく、生活の知恵や習慣、野生の動植物の解説も描かれており、資料としても非常に素晴らしい。これを読めば片栗粉の作り方まで分かる。 当時の恋愛観や結婚観は今と違って非常に厳しく、自分は嫌だが、tinderとかで「ピピー!可愛すぎ警察の者です!」みたいな文章を送ってる人には最低3回くらい読み返して欲しい。 最後が『おらが村』に出てきた政太郎の言葉で締められていて良かった。
20年くらい前に古本屋で見かけた時はプレミアがついていて買えなかったがkindle unlimitedで読めるのを知って読んだ。マタギ犬の子として生まれたシロベが狸育てられて最終的に仇である熊のコブダワラを倒す。これ単体で読むよりも矢口高雄の「マタギ」とかを読んでから読むとより楽しめると思う
「9で割れ!!―昭和銀行田園支店」は矢口高雄先生が20代の頃ですが、こちらは子供時代の話です。 矢口先生って秋田県でも田舎の方の出身だったんですね。当時は日本のどこでもそうだったかもしれないけど、読み書き出来ない村人もたくさんいたそうです。しかし矢口先生のお母様は読書好きだったので子供達に読み聞かせてくれて、その中の一冊が自分にとって初めての漫画との出会いだと語られていました。この作品を読んで一番心に残ったのは、お母様の人柄の素晴らしさです。誰よりも働き者だからこそ日射病で倒れてしまったのに、舅から「怠け者」だと言われてしまうシーンには涙が出てきました…。そのことがきっかけで「俺は百姓にはならないぞ」という気持ちが芽生えたことで、銀行員になり、そして漫画家になったんですね。 娯楽のない生活を送っていた矢口少年にとって手塚治虫の漫画がどれだけセンセーショナルでかけがえのないものだったか、ということも全編を通して描かれていますが、雪道を5時間かけて歩いて本屋に漫画少年を買いに行った話なんて…これも泣かずには読めませんよ!! 矢口先生の作品は生まれ育った秋田県の豊かな自然を描いていますが、田舎臭さを感じず品があるのは、お母様と手塚先生の影響なんですね。