ダブル

これはいい三十路の役者漫画だ!

ダブル 野田彩子
吉川きっちょむ(芸人)
吉川きっちょむ(芸人)

これはいい! 現時点で三話まで読んだけど、これからどんどん面白くなりそう! 高橋一生みがあってめっちゃいい。 二話あたりから勝手にあの声で台詞が再生され始めてしまった。 「わたしの宇宙」 「いかづち遠く海が鳴る」 「潜熱」 の野田彩子の新連載。 https://viewer.heros-web.com/episode/10834108156642488617 いまだ無名の天才役者・宝田多家良と、同じ劇団で彼の才能を見出して絶望し彼を世界一の俳優にするべく奔走する役者仲間(友人)の鴨島友仁。 世界はまだ天才を発見していない。 が、明らかな天才の片鱗はそこかしこにばら撒かれ少しずつバレ始める。 自分より明らかに突出した才能を持つ人がいたら、その人がその才能以外の社会生活能力が欠如していたら、どうにかうまくいくよう手伝いたくなる、光の当たるところまで押し上げたくなるという気持ちは分かりたくないが、すごく分かる。 二人の関係性は光と影というよりは、光と光の影というような感じ。 相反するものではなく、二人は共生し追随していく形がしっくりくる。 人前に出て脚光を浴びるのは宝田多家良だが、ある意味で前を行き手を引くのは鴨島友仁なのだ。いや、二人にはそうであってほしい。 事務所のマネージャー冷田一恵は一見クールな反面、冷ややかに熱い情念を持っていて、それが宝田多家良に対しての感想に現れててグッとくる。 淡々としているようで宝田多家良の魅力に冷静に熱を上げている。 これはとてもいいものだ! 細部にいたるまで褒め挙げ連ねるそれはもはやファンやオタクのようだ。 おかげで宝田多家良がそれほどまでに魅力があり、世界にバレるのを待っているような説得力が生まれている。 野田彩子さんは人と人の関係性、間にある空気、感情の機微、隠した感情と表れる表情を描くのが上手だな~と思っていたのだけど、なんて言えばいいのか今作でそれがより立体的になっているような気がする。 「わたしの宇宙」「いかづち遠く海が鳴る」のような少し変わった設定のSFめいたものでもなく、「潜熱」のような限定的な関係性でもない、その一歩先の、地に足の着いた社会や影響力、人生のような部分を描いているからかもしれない。 天才と、彼を取り巻く人々、その人生。 この作品を毎月webでの更新を待つか、単行本で一気に読むか迷うけど、うーん、これは毎月チェックしてしまうかな~。 楽しみ!

明日の恋と空模様

雨が降っても晴れている。そんなこともある恋。

明日の恋と空模様 伊藤正臣
兎来栄寿
兎来栄寿

『マグネット島通信』、『タネも仕掛けもないラブストーリー』の伊藤正臣さんによる、オムニバス形式の恋愛物語です。 思春期の少年少女たちに湧き起こる感情が、さまざまな気象の変化に擬えて描かれています。『天気の子』の番宣ではありませんが、天気ひとつで私たちの気持ちはいとも容易く変わってしまい、しかもそれは恋心と同じようにアンコントローラブルです。 『マグネット島通信』の時に絵の魅力が更に向上して、そこで描かれる島の空気感がとても心地良かったのですが、その描画力が今回は天気という不定形のものを描く際に万全に生かされていると感じます。 基本的に1話完結で、他のお話で登場したキャラクターが別のところでも登場し、全く別の側面を見せてくる構成により人間の多面性を巧みに表せています。ストレートに悪役として描かれる人物にも、もしかしたら裏では何かあるのかもしれないと思わされます。 個人的に特に好きなのは、「天気雨の定理」。中学時代に学年1位と2位だった男女が、高校でも周囲の雑音を遠ざけて勉強に集中したいがために、お互いに付き合っていることにするというお話です。 「梅雨明けモラトリアム」で、タイプではない男子に告白されて真剣に悩む話もリアルで味わい深かったです。

今日から未来

心理誘導テクとエモい恋心 #1巻応援

今日から未来 吉富昭仁
あうしぃ@カワイイマンガ
あうしぃ@カワイイマンガ

幼馴染女子から告白された女子が、恋心と共に告げられるのは「私を貴方の好きにして」という言葉だった。 思いもよらない同性の、幼馴染との恋愛という選択肢に戸惑う主人公。それに対して幼馴染は、「こんなことしてもいいんだよ」という具体的提示をして、主人公に想像させ、恋愛の実現可能性に誘導していく。 自分と恋愛することのメリットと、しないことの損失を選ばせようとする、見事な誘導テクニックで幼馴染は「自分との恋愛」を主人公の心に植え付ける。 しかしそれは、単なるテクニックではない。長年の恋心、いつも共にいながらずっと秘めてきた想いや欲望が、選択肢の中に重く込められつつ、時に我慢できないという風に行動に出る。どこまで計算で、どこまで衝動なのか……分かる様で分からない。 幼馴染の明るさと、内に秘めた重い恋情のギャップが……エモいとしか言いようがない!主人公には是非応えてやってくれよ、と言いたくなるが、まだ受け止め切れていない彼女に、幼馴染は1巻の最後でさらに仕掛ける。次は……当て馬!?(それあかん奴や、一歩間違えれば壊れる劇薬やでぇ〜)

異世界もう帰りたい

ヌルッと始まる異世界生活 #1巻応援

異世界もう帰りたい ドリヤス工場
nyae
nyae

福満しげゆき、山本さほあたりを好んで読む人におすすめしたい。少しは報われたいなぁ、とかままならないなぁ、とか思いながらも毎日なんとか生きてる人は、この主人公、俺(私)じゃね?って思ったりするかも。 今はもう、異世界に転生しても「ああ、例のね」といった感じで誰も驚かない世の中になっていますね。 主人公の下山口くんもそんなかんじでヌルッと異世界生活を始めます。 彼がなぜ転生したのかは読めばわかりますが、この漫画の面白いところは「日本も異世界も変わんないな」というシーンが非常に多いところ。 元の世界への帰り方を聞いたら誰もわからなくていろんな場所をたらい回しにされたり、上司?の飲みの誘いが毎日憂鬱だったり、団体と相席になりそうになってビクビクしたり、カウンター席どこに座るかの見極めに失敗したり(すぐ帰ると思って隣に座った客が思ったより長居する)…など、どっかで見たような光景が異世界にもゴロゴロしてました。 その中でも「わかるめっちゃある…」と思ったのが映画館の指定席選び。(漫画の中では映画ではないが) まあまあの混み具合のなか、どこの席を選択するかは最終的な映画の満足度にかなり影響するのでとても大事。しかし、結局運に左右されるのは日本も異世界も同じなんですよね。 正直、主人公が帰れるかどうかはどうでも良くて、異世界に転生したからといって何かが劇的に変わるわけじゃないパターンのやつも面白いということです。 むしろ自分はこっちの方が好き。

Azalea

バトルも頭脳戦も最高にカッコいい女刑事の活躍劇 #1巻応援

Azalea 鳳乃一真 新島光
sogor25
sogor25

誰もが認める凄腕の刑事でありながら、その能力の高さゆえに独断での行動も辞さないという暴れ馬・氷堂楓。近未来のような、洋画の中のような世界で活躍する彼女と、彼女が事件の解決に乗り出すことになる"犯罪者だけを狙った連続殺人事件"の首謀者「幽霊卿」との対決を描くサスペンス・アクション。 彼女の向こう見ずに事件解決へと突っ走っていく性格や身体能力の高さから来る派手なアクションシーンに目が行きがちですが、個人的には彼女の最大の魅力の根源は事件の本質を見抜くその洞察力にあると思っています。その洞察力は事件の推理を行う際だけでなく連続殺人鬼と対峙した際にも遺憾なく発揮され、彼女の行動力や事件解決能力を裏打ちしています。 また、キャラクターとしては一匹狼のような雰囲気が強い主人公ですが、彼女の周囲を取り巻く登場人物との関係性も魅力的に描かれます。彼女の思考の根本までは理解していないにも拘わらず、阿吽の呼吸で彼女をサポートする同僚のビリー。長年連れ添った友人のような間柄の検死官のキーナ。おそらく過去の何らかの事件で司法取引を行って彼女に協力するハッカーのジル。そして、出会ってすぐ惹かれあって結婚した最愛の夫・アーサー。どこをとってもそれぞれがバディのような深い関係値を示していながら、実際に事件解決に向かうときには単独行動。この外連味溢れる感じが、好きな人にはたまらなく刺さる作品だと思います。 さて、物語のほうは1巻の終盤で一気に加速していきますが、ストーリーが進むにつれてその展開がこの作品の大いなる導入に過ぎないことに気付かされます。ここからどう事件が連なって楓と連続殺人の黒幕とが引き寄せられるのか、かなり長丁場になりそうな予感があるので、是非作者が満足できるどころまで描けるよう応援していきたいところです。 1巻まで読了

神無き世界のカミサマ活動

異世界転生して神になるマンガ!

神無き世界のカミサマ活動 半月板損傷 朱白あおい
異世界スキー

昨今の転生モノ市場、これまでにない題材でいかに外角際どめのコースを攻められるかという過酷なレース展開になってきた感があります。 もはやなにが外道でなにが正道か分別つかないバーリトゥードの様相を呈してきたおかげで、逆説的に物語やキャラクターそのものが持っているパワーを見極めやすくなっているのでは?という気がします。(気がするだけか?) それでいうと本作のキャラとストーリーフックはなかなかエネルギッシュで見応えあります。 主人公のユキトは父親に宗教団体の教祖として生きることを強制され、神の依代として「望まぬ死」を迎えることになります。転生後の異世界は宗教も神も存在しない彼にとって理想の社会でしたが、決定的に異なるのが死生観。 異世界の住人は死を恐れず、国の定めによって自らの命を絶つことを厭わないどころか、それを拒む者を「カクリ」と呼称して差別し、その命を奪うことも当然としています。 ユキトはその行為を許せず、皮肉にも彼らに「救い」を与え、神としての権能を振るうことになるのです。 古今宗教とは人間の死生観と密接に関わって発達してきたものです。 死生観が根本からズレている世界で神を描くというのは個人的には非常に興味深い試みに思えます。 特に最新6話では、この異世界には「理解できないもの」に神性を見る原始宗教的な心のあり方が存在しないことが示されました。 神のいない世界で神となり、人間の生死を左右する…。 「キャッチーな装いの下で実は相当に重厚感のあるテーマを描こうとしているのでは…?」とひとりソワソワしてしまいました。 観測していきたいと思います。

ダブル

自信を持ってあらゆる人に薦められる野田彩子作品

ダブル 野田彩子
sogor25
sogor25

同じ劇団に所属している俳優仲間で、しかも同じアパートの隣同士に住んでいる2人、宝田多家良と鴨島友仁。多家良は一度演技に入ると類稀なる才能を発揮するが、自活力が皆無で日々の生活も友仁に頼りっぱなし。しかし多家良が友仁を頼っているのは生活面だけではない。劇団以外の演技の仕事も入り始めている多家良の劇団のほうの稽古の代役、それも友仁が務める。友仁は言う。「多家良の代役を演じられるのは俺だけだ。」そして「多家良の芝居は俺を裏切ることで完成する」と。 いわゆるバディものではあるのだが、純粋に対等な立ち位置というわけではなく、かつ演劇というテーマだからこそ成り立つ共依存の関係性が面白い。演技の場面と相まって、多家良と友仁、2人の人間的魅力が随所から伝わってくる。演劇の外における2人以外の人間との関わりのある開かれた空間と演劇の中の閉じられた、特に多家良と友仁の2人だけが共有する空間とのメリハリがあり、2人の醸し出す特異な空気感が感じられる。 これまでも「わたしの宇宙」「いかづち遠く海が鳴る」「潜熱」と凝った設定と独特の雰囲気の作品を描いてきた野田彩子さんだけど、個人的にはこれまでの作品はややニッチな読者層に向けられた作品が多かった印象がある。その中で登場したこの作品、意図的かどうかはわからないけど、一気に広い読者層に届きうる方向に舵を切り始めたように感じる。演劇がテーマということもあり、ドラマ化なんかして一気に人気に火がついたりしたら読者冥利に尽きるんだけど、関係者の皆様いかがでしょうか? 1巻まで読了

神絵師JKとOL腐女子

魂の一致というあまりに必然的な関係性

神絵師JKとOL腐女子 さと
兎来栄寿
兎来栄寿

全世界が待ち望んだ『フラグタイム』さとさんによる百合マンガです。 タイトルを読んで字の如く、あまりに尊い推しカプの絵をSNSにアップし続けてくれる神様が、実は年下どころか女子高生だったという実際にあってもおかしくないお話です。 オタクにとって解釈が合うかどうかというのは死活問題です。生きる糧になっている程の作品におけるカップリングや解釈が合わない時の悲しみ・辛みはエイトケン盆地より深いもの。逆に言えば、それが一致する相手との出会いは正に奇跡。 本作の二人は、そういう意味で奇跡的な相性を持っていました。二人ともパーソナリティ的には若干残念な部分がありつつ、しかし二人で推しについて語り合う時間の楽しさはすべてを忘れさせてくれるもの。 JKの方が上げた絵に対して毎回真っ先に長文感想を送っていたOL、そしてJKの方もその感想をとても楽しみにしていたという美しい構図もあり、二人を結びつける絆の必然性を強く感じさせてくれます。 巡り会うべくして巡り会った運命の二人の間に年の差などという障害は無いも同然。優しく穏やかに関係を深めていく二人の様子をただただじっと眺めていたいです。 オタクとしての在り方が確固たる主人公の様子だけでも共感する所は多く、百合要素抜きにしても楽しめる作品です。