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群青のカルテ
精神科医の娘が自殺しかけた理由とは #1巻応援
群青のカルテ 椎名チカ
兎来栄寿
兎来栄寿
『37.5℃の涙』の椎名チカさんの新作は、精神科医。 精神科医の夏島凛子(35)は、離婚して娘・悠里(15)の親権を持つ女性。悠里は父親との板挟みには遭っていながらも特に大きな問題なく学校生活を送っていると思っていたある日、悠里が突然ベランダから飛び降り自殺未遂を図り、気がつくと悠里の体に意識が入れ替わってしまったというサスペンスミステリです。 4月の新入シーズンで退職代行も話題ですが、名の知れた大企業のブラックさが露わになることもいまだに日々起きている昨今。本作でも1話からブラック企業で働かされ日々大きなストレスをかけられて病んでしまった女性のケースが取り扱われますが、さまざまな精神科の患者、また精神科に行くべき症状を持つ人の様子も描かれていきます。 実際に精神科医による医療監修も入れて描かれているということで、ケアが必要な人に対しての診断やかける言葉などは本格的です。 「もっと精神病患者が増えればいい」 と『Shrink(シュリンク)~精神科医ヨワイ~』でも言われていましたが、まさにその最初に行くときのハードルの高さ的な部分が描かれています。精神科に行くという行為自体が特別で恥ずべきもの的な意識がある方も多いかもしれませんが、作中のあるキャラクターのように「これは治るもの」という意識を持ててもっと気軽に病院に行くという選択肢が取れるようになれば良いと思いますし、そういう社会を形成していくことを助けてくれる作品です。 友人や知人にも仕事や人間関係の問題で心を悩ませて苦しんでいる人は多いですが、人の心があまりにも軽視され蹂躙されることもある社会で、どうか何より大切な命や心が脅かされすぎないようにして欲しいです。 悠里に何があったのかという物語の根幹の謎が強い引きとして作用しながら、個々のエピソードで人の心の動きに寄り添ってくれる部分が多々ある今の時代に価値を放つ物語です。
ふくふくまんぷく
江戸×人情×料理 #1巻応援
ふくふくまんぷく 碧也ぴんく
兎来栄寿
兎来栄寿
歴史に詳しくなくても楽しめる、心温まる人情グルメマンガです。 江戸後期、文化文政の時代を舞台にした料理人の娘である「ふく」が主人公の物語。母親を亡くして家のことも父の手伝いも率先してこなす健気な偉い子です。彼女が最も興味を示すのは料理。料理本を読み漁って読み書きを覚えてしまったほど、料理にのめりこんで育ちました。 元々は殿様にも仕えて料理を作っていて、 ″お殿様でも棒手振りでも うまいうまいと毎日笑って飯が食えりゃァ それが一番幸せよ たった4文の串にだってそんな力はあるのさ″ という尊敬できる父親と何年も休みなく働いて、遂に念願の料理店を居抜きで開業したものの、宣伝が足りず閑古鳥が鳴き父親は急逝。 ふくは残った借金のカタとして、料理茶屋という名目で女の子たちが男性を接待する店で働かされることになっていきます。 なかなか逆境の多い人生ですが、父親譲りの技術と人を喜ばせたいという想いで料理を作れるふくが、さまざまな人の心を動かす料理を作っていくさまにはカタルシスがあります。始めは偏屈だった人も、ふくの作ったものを頬張った瞬間にそれまでにない表情を見せるのが痛快です。 巻末の参考文献の多さからも解るように、江戸の風俗や食文化を丹念に研究して描いているのが伝わってきます。実際に現代でも手に入る食材を使った料理の数々は、シズル感が強くて幕間ではレシピもマンガで描かれているので実際に作って食べてみたくなります。口の中でしゅわしゅわ溶けると評される霰豆腐など、いいですね。 また、一方で人間ドラマとしての魅力も大きい作品です。食べることは生きること。人が食をきっかけに生きる力を得るシーンもたくさん描かれていて、読んでいるだけでも胸が一杯になります。五話のエピソードなど、特に好きです。 タイトル通り、読むと福を得られた気分になれる作品です。時代的には女性が料理人をやるのには数々の困難があると思いますが、すべて乗り越えていってたくさんの人をますます笑顔にしていく料理を作っていくさまを見続けたいです。
さうのあっ!
きらら発JK×サウナマンガ! #1巻応援
さうのあっ! 笠間裕之
兎来栄寿
兎来栄寿
世は大サウナブームです。子供のころは熱いだけで一体何が良いのかまったくわからなかったサウナ。しかし、気付けばいつの間にか私も同年代の方々も30代くらいからみなサウナの虜になっています。しきじにもDESSEにも足を運びました。これが加齢……もとい歳を重ねるということでしょうか。 ところで、マンガ界の鉄板といえば「美少女」と「おっさんの好きなもの」の掛け合わせ。故に、こうした作品が出てくるのも時代が生んだ必然と言えましょう。 今までも「美少女×お風呂」というマンガはいくつかありましたが、完全にサウナに特化した「美少女×サウナ」マンガの真打がきららから登場しました。その名も『さうのあっ!』。フィンランド語にある「サウナに入る」という意味の動詞だそうです。 ゲームや動画鑑賞が大好きで、その時間を削られるお風呂は嫌いで数日に1回しか入らない景山こかげ。 フィンランドからやってきて銭湯に居候しているサウナ大好き少女のリューディア・アラヤ。 クラスの委員長でサウナ知識を語り出すと早口になる清水芹香。 ひとりだけ他クラスで、スーパー銭湯の娘でお嬢様口調の高野槇。 4人の高校1年生たちを中心とした、サウナコメディ4コマとなっています。 ・サウナの効用 ・交互浴の基礎 ・ととのうとは ・フィンランドのサウナと日本のサウナの違い ・アウフグースやヴィヒタについて ・野外でのテントサウナ などなどについて、サウナ初心者であるどころか、そもそもお風呂に入る時間ももったいないという主人公のこかげの視点からサウナに関する知識を0から学んでいくことができる内容となっています。 サウナ後はオロポも良いですが、作中で紹介されるフィンランドコーヒーも飲んでみたいです。その際の「飲料を提供する場合は保健所の許可や手洗い設備などの設置が必要〜」という件からは、昨今の情勢を鑑みた細かい配慮を感じました。 シンプルにキャラクターたちがかわいく、きららジャンプをしているところなどもあり、青春の1ページが楽しく描かれています。 「怪我人の救急搬送」 「歩きスマホに注意のポスターみたいですわ」 など、ちょくちょく挟まれるツッコミにもセンスを感じるものが多くクスッとします。専門知識ネタに偏りすぎることもなく、しっかりとツボを押さえながらメインテーマをバランス良く描いている作品です。 最近はなんだかんだ若い女性でもサウナ好きが増えていますが、この作品がアニメ化されて更なるサウナブームが起こったらますます老若男女問わずサウナに入るようになる世界が訪れるかもしれませんね。元々日本人はお風呂好きですし、それによって健康が増進されていったら良いことだと思います。
機動戦士クロスボーン・ガンダム ゴースト
何度読み返しても面白いクロボンシリーズ屈指の神作品 #完結応援
機動戦士クロスボーン・ガンダム ゴースト 長谷川裕一 矢立肇 富野由悠季 カトキハジメ
カワセミ㌠
カワセミ㌠
前作にあたる【機動戦士クロスボーン・ガンダム 鋼鉄の7人】から約17年後のUC:153が舞台となっており、あのVガンダムと同時間軸の作品が誕生した事により ・Vガン本編とどう絡ませるのか? ・一応は完結したクロボンシリーズをどう復活させるのか? ・あの名作鋼鉄の7人のハードルを前にどんな作品を見せてくれるのか? 等読む前から様々な疑問や不安そして期待を持たれたガノタや長谷川先生ファンは多かったかと思いますが読めば読む程 ①Vガンダム要素(ザンスカール帝国の組織図やゾロ系MSの魅力に加えリガミリティアとの関わり合い)の取り入れ方 ②再建した木星圏ならびに新主人公フォント君の人間臭さや兄貴分カーティスさん等各陣営キャラの魅せ方の素晴らしさ ③無印~鋼鉄の敷居の広さを活かした旧陣営キャラの再登場やMS類の発展や海賊らしい戦法や武装等読めば読む程ファンが感動や脱帽する場面の嵐が巻き起こる 等々これでもかと言わんばかりの長谷川先生が送る熱量や画力が展開され様々な考えていた感じた気持ちを良い意味で覆した神作品に仕上がっている神作品だと強く実感した作品なんですよね
ナビレラ
70歳からの夢への向き合い方 #完結応援
ナビレラ JIMMY HUN
兎来栄寿
兎来栄寿
『ナビレラ』は、私がこれまでに触れてきたWebtoonの中でも最高の作品です。 語弊を恐れずに言えば、現在のWebtoonは若者に向けたライトな作品や似通った人気のあるテーマの作品が非常に多いです。それ故に、既存のマンガのように深く重いテーマを扱っていて読んで考えさせられるような作品の割合は非常に少ないのが実情です。 従来のマンガ好きの方の中には「Webtoonはあんまり……」という方も一定数いると思います。しかし、そんな方にこそお薦めしたいのがこの『ナビレラ』です。 『ナビレラ -それでも蝶は舞う-』として日本ではドラマ版がNetflixで配信され、5月からは三浦宏規さん、川平慈英さんが主演のミュージカルも上映され、それらにあわせて紙の単行本も今月完結巻の5巻が発売されました。 この機会に再度ラストまで通読して、私は再び熱い涙を溢してしまいました。 人生の残り時間が少なくなってからの生き方。 夢やそれに伴う困難との向き合い方。 躓いてしまった時の立ち上がり方。 家族との関わり方。 人が生きていく上で大切なこと、これから先で行く道に待っているであろう物事が、たくさん盛り込まれた作品です。 「ナビレラ(나빌레라)」は「蝶のように美しく羽ばたく」という意味だそうで、まさに夢に向かって羽ばたいていく「70歳のおじいちゃんがバレエに挑戦する物語」とシンプル表せる内容ですが、その挑戦は本当に険しいもの。 一番身近な人を含めあらゆる周囲の反対を押し除けながら、満足に動けない老体に鞭を打ち、ボロボロになりながらそれでも叶えたい夢に向かって真っ直ぐ進む姿には胸を打たれます。 主人公のみならずさまざまな人物のエピソードが描かれていかますが、そこで人生の先達から送られる時に優しく時に厳しい厳しいメッセージの数々も箴言が豊富。 作中で、20代の夢破れた若者を「自分がもし20代の時からバレエをやれていたらどんなに良かったか」と諭し再び夢に立ち向かわせるシーンがあります。よく言われるように「今この瞬間が人生で一番若い」。人生においてやっておかないと後悔するであろうことをやり始めるなら、いつだって今この瞬間からが良いとエールを送ってくれます。 それは何も夢の話だけではなく、家族や友人知人との関わり方においてもそうです。人にはいつ何が起こるか分かりません。最後の瞬間に悔いを残さず幸せに生きていくためには、今日という1日1日を大事に生きていかねばならないと強く思わせられます。 また、物語の中で見舞われるある大きな困難は、私の祖父にも同様のことが起こり何年も一緒に辛い思いをしながら戦い続けた経験があるため、周囲の人間の気持ちも含めて非常に強く共感するところでした。誰にとっても起き得ることで、もしも自分がそうなったらと考えずにはいられません。 それでも挑戦して、挑戦し続けて、苦境に遭っても立ち上がって、見果てぬ夢を追い続けて、血と汗と涙に塗れたその先で彼らが辿り着く場所。そこには人間の素晴らしさ、人生の素晴らしさが溢れています。 今後、今以上に高齢化が進んでいく社会においてますます価値が高まるテーマを真摯に描ききっている作品です。 普段あまりWebtoonを読み慣れていないという方も、書籍版でぜひ5巻の最後まで読んでみてください。読む前より読んだ後の人生をより良いものにしてくれることでしょう。
鳴かぬ蛍の眠る場所
『別マ』で異彩を放つ蛍の光 #1巻応援 #完結応援
鳴かぬ蛍の眠る場所 清水奏良
兎来栄寿
兎来栄寿
『君に届け』以来、椎名軽穂さんの18年ぶりの新作となる「突風とビート」が始まり話題となっている『別マ』。最近の『別マ』の中では一際異彩を放ち、それ故に印象的な作品です。 高校生になる前に亡くなってしまった姉・蛍の代わりに、新たに始まる高校生活を楽しもうと心に誓う主人公・照。入学初日から運命を感じるイケメン・颯太朗との出逢いがあり、彼の所属する写真部に入って楽しくドキドキに溢れた高校生活が始まる―― そんな予感がしたのも束の間。周囲では何やらきな臭い噂が流れる颯太朗から「俺が蛍を殺した」と衝撃の事実を告げられ、物語は急転直下。甘い学園ラブコメかと思ったら、サスペンスの様相を呈していきます。 真相は、真意はどこにあるのか。姉を殺したという相手とどう向き合っていくのか。他の『別マ』作品にはなかなかないドキドキがあります。 個人的に、一番好きなのは蛍の回想です。タイトルにもなっている通り、蛍はこの物語のキーパーソンでありフィーチャーされていきます。照は照でかわいくて明るくて面白い魅力的な黒髪ロングヒロインなのですが、彼女の人格形成にも多分に影響したであろう蛍というキャラクターもまた良いです。彼女の良さがその言動から溢れてくるシーンに感じ入ってしまいます。清水奏良さんの絵の良さもあいまって、とても魅力的です。 とある名作少女マンガのある場面を思い出すような大きな展開にも驚かされながら、物語は1冊で完結します。 全体を通して生じた感情を述べることもネタバレになってしまいそうなので伏せますが、ただひとつ言えることは間違いなく良い作品で好きということです。 後書きの焼肉の件は、本編との落差で笑ってしまいました。