吉崎観音 初期の傑作(復刻希望)
※ネタバレを含むクチコミです。
「『マトリックス』や『攻殻機動隊』のように高度な仮想現実を個人が作成できる未来、仮想現実にて人間の悪意や戦略を高度に学習したプログラム、或いはAI(=人造生命体)販売を目論む「会社」に反旗を翻した科学者が、「子供のように慈しんだプログラム生命体」と共に残忍な計画を止め、兄弟を救おうとする」という筋書きは極めて王道のSFであり、それをファンタジーに無理無く絡めた技量には改めて脱帽するしかなかった。
言ってみれば『ローゼンメイデン』や『人造人間キカイダー』のような『フランケンシュタイン』ものだが、それらが飽くまで「ろくでなしの親」への抵抗で彩られていたのと対照的に今作の親は優れた生命倫理や科学観を持つ丈夫であり、無垢な子供はそれの見守られながら社会全体で受け入れられて成長していくとの牧歌的な雰囲気があり(あたかも黒澤が安保闘争頃に左派にそう批判されたようなそれ)、上質なConservativityを備えた傑作だと思う(或いは不用意に現実に近づきすぎた嫌いはあるが、エイトを「移民」と捉えることも可能かも知れない。イミグラントのエイトは当初満足に言葉も使えなかったが、周囲の薫陶を受けて立派な「ナイト」になっていった。これはNoah Smithというアメリカの経済批評家(民主党支持者)の唱えるレーガンの移民観に近い)。同じく全体主義の怪物を現実に立脚した人間が打ち倒すという同じく保守的な『HELLSING』実写化の計画がアメリカで進み、原作に近い『攻殻機動隊』のアニメ作成が発表された今、改めて注目されてもいいのにと思ったり思わなかったり。