人生で一度くらい、雨でも降っていれば格好ついたかなという瞬間があると思う。雨だったら晴れだったらゴミが一発で入ったら……動き出すきっかけを探しているだけに過ぎないが、あの瞬間自分を見ている何かが確実に存在する。
自分が見ている世界のフレームに自分が入ることはないのに、入っている気がする。
そんなことを考えながら読んだ。
クラスメイトに告白したい女の子。勝負のタイミングを伺うガンマン。漂流するクルーザー。日照りに苦しむアフリカの人々。
違う場所、違う時代を生きる人たちが同じように豪雨を待っている。物語を動かすために雨が降らなければならない。物語は入れ替わりながら、日常と非日常を混ぜ合わせて進んでいく。
今雨が降り出したら自分もこの物語に取り込まれてしまうのではないか。自分も豪雨を待つものに、物語られるものになってしまう。
ガルシア・マルケスとか好きな人は読んでみてほしい。つい豪雨を待ってしまうはず。
私たちは物語り、物語られる。誰のために? クラスメイトに告白するチャンスを探している女子高生、運頼みで生きてきたガンマン、漂流中のクルーザー、日照りに苦しむアフリカの民…誰もが豪雨を待っていた。 同じ願いのもと、混じり合う果ての物語は誰のものなのか。 第5回トーチ漫画賞に応募された3編「豪雨を待つ」「小岫が雉」「商談」を公開。 物語ることのプリミティブな根幹に触れる、第5回トーチ漫画賞〈準大賞〉受賞作。