2021年3月2日、マンガファンにはとても嬉しいひとつのお報せが舞い込みました。

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復ッ
活ッ 

岩泉舞さん復活ッッ 
岩泉舞さん復活ッッ
岩泉舞さん復活ッッ

刹那、頭の中にヴィヴァルディ「春」が鳴り響き、枯れ果てた大地と鈍色にくすんだ空はみるみるその青さを取り戻し、蝶が舞い小鳥が囀り、大擂台賽が開催され、烈海王が大咆哮しました。

この驚きと喜びをどう表現すれば良いものでしょうか。

何と、1992年に短編集『七つの海』を1冊だけ刊行したのみでその後作品を発表されていなかった岩泉舞さんが、単行本未収録作品に加え新作も含む新たな作品集を『岩泉舞作品集 MY LITTLE PLANET』として5月28日に発売することが決定したそうです。

孫悟空が強敵たちと激闘を繰り広げ、桜木花道が湘北高校のバスケ部で躍動し、浦飯幽助が霊界探偵として活動していたころの『週刊少年ジャンプ』。それら看板作品の裏でひっそりと掲載された岩泉舞さんの読切は、ひときわ異彩を放ち不思議な読感を与えてくれました。

岩泉舞さんの才能は、当時から有識者たちにこぞって絶賛されていました。今回も、きたがわ翔さんのツイートが企画の発端となったそうです。

ふなつ一輝さん、成田良悟さん、緒方ていさんら数多くの作家の方々も当時を懐かしんでいました。私自身も、当時お小遣いを握りしめて買いに行った単行本を未だに大事にしています。本当に懐かしく嬉しいことです。

なお、この『七つの海』は、現在マンガ図書館Zで無料で全編読むことができます。以下ではネタバレもしていきますので、回避したい方はまず作品をお読みください。何なら以下のレビューは読まなくてもいいので、『七つの海』を読んでください。

2016年・2017年には、マンガ図書館Z上で岩泉舞さんから年賀状を送ってもらえるという企画も行われ、まだ画業を続けてらっしゃるということだけでも本当に嬉しかったのですが令和になってまさか完全新作まで読めるとは! 生きているといいことがあるなぁとしみじみ思います。

デビュー作「ふろん」
この短編集に収録されている作品の中でも、とりわけ特徴的なのはこの初投稿作品「ふろん」です。「ふろん」から始まるところが、この1冊を強く印象付ける要因にもなっていると感じます。「ふろん」は、ある日突然クラスメイトや先生、家族からも自分の名前を忘れられてしまった中学生の少年を描いた物語です。

同様の設定のストーリーは世の中に数多く存在します。ただ、そこは『週刊少年ジャンプ』ですから、普通であれば日常を脱して非日常に行った後また日常に戻ってくるのがお約束です。普通であれば。しかし、この「ふろん」は見た目こそ爽やかで軽やかなタッチでかわいい男女が描かれながら、そのお約束を容易く越えていきます。

名前を失った主人公は、小学3年生の時のクラスメイトであるナっちゃんの幽霊と出会い「脳みそがなくても脊髄反射で動く無頭がえる」に擬えられます。頭を取られても動くかえるは生きていると言えるのか。それと同様の自分は。名前を失ったときに残る自分と他者を区別するもの、自分らしさとは何なのか。今ここにいる自分は本当に自分と言えるものなのか。形而上学的な問い掛けがクリアな雰囲気の中でなされ、「人の心に住んでないなら死んだも同じよ」というヒロインのセリフと共に主人公は自らの生き様を後悔しながら現世からフェードアウトしていってしまいます。

夢と友情と努力と勝利の物語を浴びて育ったジャンプ読者に、いきなり浴びせ掛けられるバッドエンド。それは長年心にも残るというものですし、何ならここである種の「癖」を開発されて育った少年少女も多いのではないでしょうか。

岩泉舞さんの画風はジャンプというよりサンデーの系譜を感じさせられるのですが、「ふろん」における演出に関してはアフタヌーン的な要素も感じられます。この後の作品が「少年マンガ/ジャンプ的であること」を意識して描かれていることと、アクションも多くなるのに対して、ひたすら静謐なドラマが繰り広げられる内容はより際立っています。

岩泉舞さん自身の解説では「読み手のことを何も考えてない展開が、いかにも投稿作品」と評されています。「だがそれがいい」。それ故にエッジが鋭く、心に深く突き刺さる内容となっています。

「忘れっぽい鬼」、「たとえ火の中…」
田舎を舞台にした現代劇と、鎌倉時代を描いた歴史もので時代こそ違いますが、この2編を通して描かれるのは「鬼よりも人間の方こそがよほど鬼らしい」ということを通して描かれる「善悪」への疑義です。

きたがわ翔さんは、もし当時岩泉舞さんが連載を持てていたら『鬼滅の刃』のような作品を描いていたかもしれない、と語っていましたがまさにその通りだなと思います。「忘れっぽい鬼」で1歳の弟を自分の利益のために平然と殺そうとする少年とその父親の造形や、「たとえ火の中…」での出自による格差の描き方などには岩泉舞さんの作家性が非常によく現れています。

パッケージとしては少年マンガなのですが、その中にも普遍的なテーマへの眼差しが宿っており30年近く経っても決して色褪せない魅力が溢れています。

「七つの海」
子供のころ「大人になりたくない」「子供のままでいたい」と願ったことはないでしょうか。表題作である「七つの海」の主人公は、正にそんな風に願っている11歳の少年です。

のび太くんのように運動も勉強もできず、アトピーという自分でコントロールできない体質に悩んで過ごす一方、冒険の旅に憧れているごくありふれた少年。そんな彼と、彼の祖父の「童心」の部分が実体化した姿との交流を通して、思春期を迎える少年が大人へと成長していく中で訪れる内的な変化の端緒を非常に巧みに描いた作品となっています。

夢はあくまで夢であるということを認識し、現実と向かい合うことで着実に昇っていくありふれた大人への階段。もちろん、その先でだけ見られる景色もたくさんあります。しかし、その過程で失うもの、もう見られなくなってしまった景色もあります。まだ何者でもなく、故に何者にでもなりえる、ずっと無限の夢を見て夢想していられる子供でいたいという幼い願望がそっと閉じられる瞬間の言いようのない寂寥感。

子供のころに読んだ時は、主人公の大人になりたくないという気持ちに痛いほど共感していました。そのころに想像していたよりはずっと豊かで楽しく暮らす大人になれましたが、そのほろ苦さが大人になってから読んでも、いえ、むしろ大人になった今だからこそより強く沁みて堪りません。

10代前半ごろの思春期の繊細な感情の機微の描き方は、岩泉舞さんの卓越したセンスが解りやすく表出しているところです。これだけ描ける方なら、きっともっと沢山の素晴らしい物語も紡げるだろうと確信するに足る短編です。あのころは本当に岩泉舞さんの連載が読みたいと願っていました。

「COM COP」「COM COP2」
悪霊を聖剣で退治する幽霊課の刑事、という設定はまさしく少年マンガの王道であり「The ジャンプ」という感じです。ただ、そうした設定であっても人の心の在り方がドラマの主軸となっているところは岩泉舞さんらしい妙味です。

「COM COP」の締めに登場する「悲しい気持ちがやわらぐ時は…きっと遠くから誰かがぼく達を想ってるんだ 元気になれって…」というセリフの優しさが愛しいです。

そして、「COM COP」ではまだ赤ちゃんだった主人公の息子が「COM COP2」では8歳となり、小さな反抗期を迎えて描かれます。男手一人で育てられた息子は、ある日かつて自分の母親に悪霊が取り憑いてしまったせいで、父親の手で母親が殺められた事実を知ります。そして、息子の目から見れば母親を斬ったにも関わらず平気そうに生きている父親の姿に疑問符が浮かびます。

もちろん、父親は全然平気なはずもなく、それでも自分という存在を守るために平気なふりをしてずっと生きているのだということを知ります。

この、大人であることの苦しさと強さを知ることで少し成長する少年の描き方も本当に絶妙なんですよね。そして、やはり大人になってから再読することで思うところが多い物語でした。

余談ですが、「父ちゃんは大人だから平気でいられるのかもしれない 大人になればなんでも平気になれるほど強くなるのかもしれないけど 今のオレは平気になんかになれない」というセリフは今読むと炭治郎の「俺は長男だから我慢できたけど次男だったら我慢できなかった」を彷彿とさせました。こんなところも通底するものがあるのだな、と。

「COM COP3」は『七つの海』には未収録だったのですが、今度発売する『岩泉舞作品集 MY LITTLE PLANET』にはめでたく収録されるようで、喜ばしい限りです。

同じく未収録であった「KING-キング-」、武論尊さん原作の「クリスマスプレゼント」、そして何よりタイトルからして岩泉舞さんらしい瑞々しさが溢れていることを想像させてくれる「MY LITTLE PLANET」、とても楽しみです。

読みたい
Re:blue

20歳JKの甘い受難 #1巻応援

Re:blue
兎来栄寿
兎来栄寿

加瀬まつりさんの初連載作品。 中卒の工場労働者だった主人公が、缶ビール片手に高校に入学する方法を調べながら20歳で初めて高校に通い始めてJKになるという少し異色の設定ではありますが、別マ色全開のラブストーリーです。 自分が20歳で、何なら同級生よりも新卒の教師の方が年が近いという状況であるため自分から男女問わず一線を引いてしまうものの、それをどんどん突き崩されていく攻防に思わず顔が綻んでしまいます。 ヒロインの吉野さんは黒髪ロングの清楚系美人で見た目では20歳とは判らず、個人的に応援したくなる要素しかありません。加瀬まつりさんの作画が良くシンプルにかわいい上に、絆されていく場面のかわいさは尚更です。1話最後の表情とか、私服のときの表情とか最高ですね。 高校生の時分の1歳差って極めて大きいので、ましてや5歳差があると相当意識はしてしまうところではあると思いますが、半世紀少し経とうものなら75と70でほぼ誤差ですからね。末永く幸せに爆発して欲しいです。 良い少女マンガは脇役も良い法則から見ると、同じクラスで早々と友達になってくれる美山さんや小村崎さんら、友人キャラもいい感じです。個人的に好きなのは、若宮くんを追いかけて高校に入学した謎のオタク系ぽっちゃり男子。 初連載作品とは思えないほどの安定感があり、単行本発売を機に今後ますます人気が出ていきそうだなと感じます。今後も楽しみです。

シャングリ=ラ

緻密に美麗に描かれる宇宙のディストピア #1巻応援

シャングリ=ラ
兎来栄寿
兎来栄寿

『テヅコミ』にも『メトロポリス』の二次創作を寄稿していたマチュー・バブレ氏が2016年に出版したディストピアSFです。先月に邦訳版が発売され、その電子版もこの度配信され始めました。 太陽が超新星爆発を観測しようとする青年からスタートするプロローグ。そこから100万年後のお話としてストーリーが始まるスケールの壮大さにまず惹かれます。 広大無辺の宇宙空間における、ちっぽけな人間にとってはあまりにも巨大すぎる現象も含めて、美しいヴィジュアルで物語られていきます。 バンドデシネらしい緻密な画風で、ほとんどのコマが背景までみっちり描き込まれているので物語への没入感を強く高めてくれます。コロニーの中の小さなユニットでの生活が見てとれるような描写など、好きです。 「音楽は? 文学 芸術…学問は? それは無から心の奥底から立ち現れる恩寵の輝き 人間は消費のみの存在ではない」 といったセリフに見て取れる言葉選びも好きです。 とある衝撃的なシーンと、そこで爆発する感情には大きく心を動かされました。どんな遥かな未来となりテクノロジーが進歩しようとも、人の人たる所以ら変わらないのはSFらしいテーゼを感じられるところです。 反物質、ホモ・ステラリス、アニマロイドなどさまざまなSF的単語が飛び交いながら、ドラスティックに進んでいくドラマに、気付くと夢中になってページを捲っていました。 ハードで骨太なSFを楽しみたい方にお薦めです。

それでも天使のままで 【単行本版】

仄暗い底で剥がされる心と魂の瘡蓋 #1巻応援

それでも天使のままで 【単行本版】
兎来栄寿
兎来栄寿

小骨トモさんの2冊目となる短編集です。 それぞれ発表時に話題になった「リカ先輩の夢をみる」、「それでも天使のままで」、「あの嫌いなバンドはネットのおもちゃ」の短編3作に加え、今回の単行本で先行収録となる「先生のクモのイト」の4篇が収められています。 「先生のクモのイト」は、「あの嫌いなバンドはネットのおもちゃ」に連なる作品となっています。 全体的な読み味としては、1作目の『神様お願い』と同様です。表紙絵のようにベースの絵柄は丸っこくてかわいらしいのに対して、剥き出しの″人間″が顕にされる中身の鋭利さたるや。 最初の「リカ先輩の夢を見る」からして、精神的に余裕があるときでないと食らいすぎるので読む時分とコンディションは選びたい作品です。果てしなく深い共感と、そこに隣接する絶望的な感情。読みながら魂が汗をかき血涙を零します。 1篇だけでも抉られるのに、1冊を通読したときの痛痒感といったら。 心の瘡蓋をガシガシと剥ぎ取られ、傷口をグリグリと穿られるような、そしてそれが痛みだけではなく何か他の感情をも催してくるような。 同じ経験をした訳ではないのに、どこか記憶の奥底にある罪悪感を喚起され撫ぜられるような部分もあります。 鋭敏なセンスが昏い輝きをもって溢れている短編集で、ダウナーな気分に浸りたい方やそうした作品が好きな方にお薦めです。

賭龍

52枚の札が見せる虚実 #1巻応援

賭龍
兎来栄寿
兎来栄寿

現在ラスベガスで世界最大のポーカー大会であるWorld Series of Poker(WSOP)が開催中です。毎年開かれているこの大会ですが、昨今は世界的なポーカー人気も高まっておりメインイベントの参加者も年々増加し、優勝賞金は今のレートだとおよそ16億円にもなります。 かくいう私もポーカーは好きで国内最大の大会でも好成績を残しており、その内WSOPにも挑戦しに行きたいと思っています。 そんなわけで、今までに描かれたポーカーマンガはほぼすべてチェックしており、新しいポーカーマンガが出たと知って喜び勇んで1話から楽しみに読んでいました。 山本神話さんは、前作の『グレイテストアンダードッグ』にもボクシングマンガでありながら数話にわたるテキサスホールデム回があり、またそれが面白かったので、今回新たにポーカーマンガを描くと聞いてとても納得感がありました。 何しろ、山本神話さんの描くキャラには色気があり、カッコいいし、美しいし、かわいいのです。鉄火場でのアツい駆け引きを描く際にも、クールなキャラたちが興奮を高めてくれます。 ポーカーはルールを知らなくても一瞬で覚えられる上に世界共通なのが長所で麻雀と違うところですが、本作もルールは解らなくてもまったく問題ないように作られています。 極端に言えば、ポーカーの駆け引きは「嘘」か「本当」かの二択。その緊張溢れるドキドキ感を読んでいてたっぷり味わえます。 解りやすく描かれているが故に、玄人からするとプレイラインなどは物足りなく感じる部分もあるかもしれませんが、それは現役の医師が医療マンガを読んで重箱のすみをつつくようなもので、大半の読者には問題ないでしょう。 個人的には、こうした作品がどんどん増えて行って、ポーカー文化が隆盛していくことで玄人も満足できる麻雀マンガにおける『ノーマーク爆牌党』のような作品もいずれ出てくることを期待しています。 この作品でポーカーに興味を持って始めてみようという方もきっといると思いますので、将来そういう方と楽しく卓を囲めたら良いなと思います。 なお、この作品に登場するCasino Live Tokyoは実在するお店で私も行ったことがあり、手軽に聖地巡礼もできるようになっています。興味があれば足を運んでみるのも良いでしょう。

アウターQ 弱小Webマガジンの事件簿【電子単行本】

面白いWeb記事のネタを求めて #1巻応援

アウターQ 弱小Webマガジンの事件簿
兎来栄寿
兎来栄寿

先日新たに「比嘉姉妹」としてカドコミでの連載も始まった『ぼぎわんが、来る』に端を発し映画化もされた「比嘉姉妹シリーズ」の澤村伊智さんによる小説を原作として、『十五魔女の最後の旅』や『レインコートキッズ』、また『宇宙よりも遠い場所』のコミカライズも担当した宵町めめさんが漫画を担当する作品です。 本作は、面白ければ何でもありのエンタメWebマガジン「アウターQ」でライターとして活動する駆け出しライターの湾澤陸男(わんざわりくお)が主人公。「新人ライターが食わず嫌いを克服する」シリーズを書き始めて3ヶ月経った彼が、新たにさまざまなネタを追っていく物語です。 私は原作は未読なのですが、あらゆることをテーマにすることができるこの設定がまず良いなと思いました。これが探偵などであれば、行く先々で事件が起きる体質が必要になります。しかし、Webライターなら自らさまざまなところに能動的に飛び込んでいける、しかもネタのためにどんな場所にでも行く必然性もある。如何ようにでもお話を膨らませることができて、各エピソードごとに違った味わいを生みながら楽しませることも可能で何とも美味しいなと。 Case.1の「笑う露死獣」では、都市伝説の正体に迫っていくことになるのですが、暗号を次々と解読していって真相に迫っていく展開にワクワクしました。読者も解読に挑戦できるようになっているのが面白いです。また、明かされる真実にも心動かされました。 そうかと思えば、Case.2の「歌うハンバーガー」ではまた違ったテイストで魅せてくれます。ナイフとフォークで食べる大きくて美味しいハンバーガーが食べたくなりました。綾辻行人さんにも絶賛されたホラーエンターテインメントの名手としての魅力が、本作にも溢れています。 一見カタギに見えないものの中身はとても良い人な編集長の八坂さんや、先輩ライターで顔も性格も良いものの会話においては指示代名詞連発でちょっと残念さを醸し出す井手さんなど脇を固めるキャラたちも魅力的です。陸男を初め、宵町めめさんのかわいくも少し影が見え隠れする画風とも絶妙にマッチしていると感じます。 個人的に特筆すべきはCase.3の「飛ぶストーカーと叫ぶアイドル」に登場する篠原亞叉梨さん。良き黒髪ロングストレートキャラです。ファンのことを「衆生」と呼称し、浄化・昇天させ極楽浄土へ送る仏教系アイドルグループ「ぱ☆GO!陀」、推せます。金剛杵型のペンライトとか振りたいですね。 今後もバラエティ豊かな調査対象に、いろいろな感情の揺さぶられ方をしそうで楽しみです。ホラー、ミステリー、オカルトなどが好きな方にお薦めです。

N

「N」へのカウントダウン #1巻応援

N
兎来栄寿
兎来栄寿

最初は中学生男子たちの肝試し。 その次は少女の授業参観。 暇を持て余したニートや、就活が終わった大学生など1話1話は独立していてありふれた日常から始まる、オムニバス形式で描かれた作品です。しかし、その日常はある瞬間から一変していきます。 すべてのお話に共通するのは、謎の存在「N」。バラバラの物語が、「N」に収斂していきます。 第1話「A」 第2話「B」 第3話「C」 と、アルファベット順に進行しながら、 第5話「E」 の次が 第7話「G」(7とGは鏡文字、目次でもこの部分だけ反転) で、その次が 第6話「F」 という構成で、その最後には 【第14話「N」まであと7話】 という死へのカウントダウンのような予告。 更には、単行本の最後に入っているおまけの部分も背筋が凍るようなものです。こうした演出も含めて、非常に良いミステリーホラーとなっています。 罪を犯したり禁忌に触れたりする瞬間の、胸の鼓動が早まり冷や汗をかくような心地が的確に描かれており、にことがめさんの作画も話に非常にマッチしていると感じます。 果たして、Nとは何なのか。 14話で一体何が起こるのか。 急激に夏感が出てきた最近ですが、こちらで涼を取ってみてはいかがでしょうか。

うちの母は今日も大安

素敵で前向きで偉大なお母様 #1巻応援

うちの母は今日も大安
兎来栄寿
兎来栄寿

私がありまさんを認識したのは、Twitterで公開されていたこの本のChapter1 第1話にある 「アメリカで事故ってハッピーバースデーを歌ったうちの母」 でした。 アメリカのスーパーの駐車場でバックしていたら、ショートカットしようとしたおじさんと衝突してしまい烈火の如く怒鳴り散らされたものの、「It′s my birthday」というフレーズを聴き取った筆者の母君が店員さんたちと一緒にバースデーソングを歌うと途端に機嫌が良くなり謝ってくれたというほっこりエピソードです。 本書は、そんな素敵な母君様の心温まるエピソードや人生を生きる上で大切にしたいことが詰まった1冊です。 夫の仕事の都合で行った慣れないアメリカで、言葉が解らないときにどうやって英語を覚えていったのか。 介護でしんどくなってしまったときにどう対処したのか。 子どもが元気がなくて学校を休んだときにはどうしたか。 さまざまな、身近にあるシチュエーションで輝く母君の言動に読んでいて心が解れ前向きになっていきます。 バイクの免許を取ったりフルマラソンを走ったり、いくつになっても新しいことに挑戦し続ける気概や、実家での本格的な擬似縁日開催を全力で楽しむ様子を見ていると「人生の達人」と呼ぶのが相応しい気がします。 私もどちらかというと全力で物事を楽しむ方で、そこに一緒になって楽しんでくれる人が集まってくれることが多くて感謝しきりなのですが、母君様には似た気質を感じて共感します。 他方で、 「好きなものをちゃんと持っておく」 「自分の人生を生きなきゃ」 「そもそも人に謝罪と感謝を求めてはなりません」 といった言葉は、心に留め置いて大事にしておきたいものです。 ありまさんが母君様の言葉や存在によってどれだけ助けられ感謝しているかも伝わってくる内容でした。 心を前向きに持っていきたい方にお薦めです。これを読んで、人生を大安にしていきましょう。

わたしって害悪ですか?~お花畑声優厨の場合~

推し活の光と闇の相転移 #1巻応援

わたしって害悪ですか?~お花畑声優厨の場合~
兎来栄寿
兎来栄寿

推しを推す。 それは、人の営みの中でもとりわけ尊いものです。しかし、何事も過ぎたるは及ばざるがごとし。その行為や付随する感情も、行き過ぎてしまうとむしろマイナスに働いてしまうことが往々にしてあります。 本作は、新米声優・土岐野カエデ(23)を推す会社員・美花(26)の推し活の物語です。 初めてアニメで主役を得たことで、露出が増えファンも増えていくフェーズにあるカエデ。しかし、そうなると必然的にアンチの声も目立ってきます。 本作ではSNSや配信コメント、現場などにおけるアンチの描写がかなりしっかりと描かれており、非常にリアルです。美花は大好きなカエデの活動に支障が出ないよう推し活の延長線上として、そうしたアンチに対する″駆除″活動を行っていきます。ファンは原義を辿ればfunではなくfanatic。光と闇は紙一重です。 ただ正直、美花の行為自体はやり過ぎであるとしても、そこで生じるモヤモヤとした気持ちには誰かや何かを強く推した経験がある人なら大なり小なり共感できるのではないでしょうか。 また、美花のそうした行為が生じている原因のひとつに会社のブラックさがあるのは現代社会の暗部だなと感じます。他の人より仕事が早いと待遇は変わらないのに労働量が多くなるので、生産性を下げることが最適解となる矛盾。昼休みまるまる使っても愚痴を言い足りない部長。そこで溜めたストレスが、推し活での快楽をより大きいものにして依存性を高めてしまう。 そんな美花の愚痴を嫌な顔ひとつせずに聞いてくれて、推し活の応援もしてくれて、抽選にも付き合ってくれる友人のゆずちゃんのような存在は大事にすべきです。主人公が幸せになるのは難しいかもしれませんが、ゆずちゃんには幸せになって欲しい……。 推す熱量の軽さの割に美味しいポジションを確保していてモヤっとするまりんちゃんや、同担で戦友感のある蘭之介さんなど、味のあるサブキャラクターも豊富で今後も楽しみです。 推しは推しても害悪にはなるな、という反面教師的な役割を担ってくれる作品です。

いわいずみまいさくひんしゅうまいりとるぷらねっと
岩泉舞作品集 MY LITTLE PLANET
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