サスペンスに満ちた短編集
表題の『サスピション』シリーズ3作を中心にサスペンス色たっぷりの短編集です。3作はどれも20p前後と短いながらも人の心の行き違いが生む皮肉な結末がスリリングに描かれるのが特徴です。 ロボットを使った完全犯罪を目論む「ハエたたき」、山奥に住む男と金貸しとの命の駆け引きを描いた「峠の二人」など、人の猜疑心や臆病な心が思わぬ結末に向かっていくのが読んでいてハラハラします。 なかでも自分の一番のお気に入りはカバーイラストにも採用されている第3話「P4の死角」でした。 P4レベルという最高度セキュリティの研究所で行われる遺伝子実験中、作業員が誤って実験用のDNAを体に注入してしまうところが物語の始まり。隔離措置を取られ、防護服を着た研究員に囲まれるようすは臨場感があります。 このリアルな描写が後半効いてくるのでじっくり味わってほしいですね。 彼の体は一体どうなってしまったのか…というところが物語のキモなのですが、コンパクトに纏まっているのでなにか説明すると面白さが半減してしまうもどかしさが…。 とにかく読んでみてほしいです。手塚治虫の物語の構成力、人の心情の描写力が高密度で味わえます。
近未来設定のはずの年代が、今となっては過去であったり、ハイテクなイメージも今と差異があったり、たしかに年代は感じます。
でも読んでみればそんな些細なことは気にならず、なるほどへぇ〜とか、いやぁねぇとか、そんなかんじで、いたって普通に読めます。
あらすじに「深く病んだ現代文明の病巣に、鋭く切りこむ傑作短編集!」とあるとおり、人間ってイヤダワなサスペンスとかホラー系が多い短編集です。
古い作品であっても、人間ってイヤダワの感覚が昔も今も同じなのはちょっと興味深いです。
星新一のSFショートショートといい、古いのに古くないって不思議ですね。
ちなみに、「インセクター」が少年誌に載っていそうだなと思ったら少年マガジン掲載でした。
タイトルになっている「サスピション」シリーズは大人な雰囲気だなと思ったら「モーニング」でした。
掲載雑誌で漫画の雰囲気はかなり変わるものなんだなぁとよくわかりました。