兎来栄寿1年以上前編集『猫で人魚を釣る話』の菅原亮きんさんによる新作です。今回も「猫」がタイトルに含まれており、内容ともども猫愛を感じます。 菅原亮きんさんの作品は、『猫で人魚を釣る話』からそうでしたが菅原亮きんさんだけにしか描けない世界が醸し出す雰囲気を持っているのがまず魅力です。 それを生じさせている要因のひとつが、独特の画面作り。純粋に絵柄による部分もありますが、1話の扉絵のような明暗の描き方であったり、輪郭を描かない絵本のような樹木や植え込みであったり、モノローグの並べ方であったり、ハイライトの描き方であったり、構図であったり……諸々ありますが、特に特徴的なのはオノマトペです。 「ガー」や「ポーン」の「ー」がベクトルを感じさせる矢印になっていたり、「キーンコーンカーンコーン」の「ン」の上の部分がベルになっていたり、『猫で人魚を釣る話』1話冒頭の雪が降るシーンの「しんしん」は猫のしっぽのように柔らかそうな質感であったりします。2話の見開きで猫が撫でられるシーンは5種類の感触に併せて5種類のオノマトペがそれぞれ特徴的に描かれている顕著なシーンです。「サラサラ」は薄く、「つるつる」はつややかで、「ゴツゴツ」はいかにも太く硬く、「ピリピリ」は刺々しく、「ベタベタ」は気色悪げに。オノマトペに「(笑)」や「(集)」などの感情や様態の情報が付加されていたり、読者から見ると鏡写しでキャラクターから見たときに正位置になるように描かれているものも。最初は無意識に読んでいることが多いと思いますが、再読するときにでもオノマトペに注目しながら読んでみると色々な遊び心や工夫が見られて面白いです。表紙や各話の題字も、それに倣ってか空間に溶け込んでいるのも良いです。ちなみに私が好きなのは、猫がご飯を食べるときの「ガシャガシャ グァつぐァつ」です。 そして、そんなオノマトペによって普段は全体的に賑やかな雰囲気を纏っているだけに、静かに感情を強く表出させるシーンがより抑揚を持って響いてきます。 本作は、主人公の16歳の少年・東大和(あずまやまと)の担任・椎名先生への初恋と、そんな大和のことを大好きな猫の來瞳(くるめ)が中心となって繰り広げられる群像劇。大和も椎名先生もそれぞれ過去に生じた出来事により抱えている想いがあり、その描写と共にそれぞれの想いも深掘られていきます。そこに、猫である來瞳の視点から見た世界と強い感情も上乗せされることで、より立体的な関係性が浮かび上がってきます。しっかりと「人間」が描かれているのが良いですし、また猫に限らず人間以外の家族がいる・いた人には強く響きそうなエピソードもあります。 菅原亮きんさんの作品は派手な解りやすいエンターテインメント作品ではないですが、じんわりじんわりと沁みてきて気付いたときに涙が零れているような良さがあります。1巻の後、雑誌連載分は更に見逃せない展開になってきており、静かにゆっくりと味わって行きたい作品です。2わかるfavoriteわかるreply返信report通報
あらすじ仔猫×高校生×教師の三角カンケイ青春譚! 生後約11か月の仔猫、東來瞳は飼い主の東大和が好き……いや、大好き! 大和の「ただいま」で始まり、「行ってきます」で終わる彼女の平穏な日々。しかしそれは、大和が見たことのない顔で知らない人の話をした日から一変する。一途で元気でお転婆な仔猫、誰にでも優しいけど……な高校生、ロボットみたいなクールな教師。三者それぞれの世界が変わる、大冒険、そして青春、または恋。ときめき時々胸の痛みの恋物語。続きを読む
『猫で人魚を釣る話』の菅原亮きんさんによる新作です。今回も「猫」がタイトルに含まれており、内容ともども猫愛を感じます。
菅原亮きんさんの作品は、『猫で人魚を釣る話』からそうでしたが菅原亮きんさんだけにしか描けない世界が醸し出す雰囲気を持っているのがまず魅力です。
それを生じさせている要因のひとつが、独特の画面作り。純粋に絵柄による部分もありますが、1話の扉絵のような明暗の描き方であったり、輪郭を描かない絵本のような樹木や植え込みであったり、モノローグの並べ方であったり、ハイライトの描き方であったり、構図であったり……諸々ありますが、特に特徴的なのはオノマトペです。
「ガー」や「ポーン」の「ー」がベクトルを感じさせる矢印になっていたり、「キーンコーンカーンコーン」の「ン」の上の部分がベルになっていたり、『猫で人魚を釣る話』1話冒頭の雪が降るシーンの「しんしん」は猫のしっぽのように柔らかそうな質感であったりします。2話の見開きで猫が撫でられるシーンは5種類の感触に併せて5種類のオノマトペがそれぞれ特徴的に描かれている顕著なシーンです。「サラサラ」は薄く、「つるつる」はつややかで、「ゴツゴツ」はいかにも太く硬く、「ピリピリ」は刺々しく、「ベタベタ」は気色悪げに。オノマトペに「(笑)」や「(集)」などの感情や様態の情報が付加されていたり、読者から見ると鏡写しでキャラクターから見たときに正位置になるように描かれているものも。最初は無意識に読んでいることが多いと思いますが、再読するときにでもオノマトペに注目しながら読んでみると色々な遊び心や工夫が見られて面白いです。表紙や各話の題字も、それに倣ってか空間に溶け込んでいるのも良いです。ちなみに私が好きなのは、猫がご飯を食べるときの「ガシャガシャ グァつぐァつ」です。
そして、そんなオノマトペによって普段は全体的に賑やかな雰囲気を纏っているだけに、静かに感情を強く表出させるシーンがより抑揚を持って響いてきます。
本作は、主人公の16歳の少年・東大和(あずまやまと)の担任・椎名先生への初恋と、そんな大和のことを大好きな猫の來瞳(くるめ)が中心となって繰り広げられる群像劇。大和も椎名先生もそれぞれ過去に生じた出来事により抱えている想いがあり、その描写と共にそれぞれの想いも深掘られていきます。そこに、猫である來瞳の視点から見た世界と強い感情も上乗せされることで、より立体的な関係性が浮かび上がってきます。しっかりと「人間」が描かれているのが良いですし、また猫に限らず人間以外の家族がいる・いた人には強く響きそうなエピソードもあります。
菅原亮きんさんの作品は派手な解りやすいエンターテインメント作品ではないですが、じんわりじんわりと沁みてきて気付いたときに涙が零れているような良さがあります。1巻の後、雑誌連載分は更に見逃せない展開になってきており、静かにゆっくりと味わって行きたい作品です。