ダンディズムが溢れ出す野球漫画
かわぐちかいじ先生と言えば 「沈黙の艦隊」「太陽の黙示録」など、 国家問題・国際紛争レベルのテーマを扱った大作を 幾つも描かれた巨匠だ。 その巨匠が描いた野球漫画「バッテリー」。 最初は「え、かわぐち先生がスポ根物を描くの?」 と戸惑った。 とりあえず読み始めたら、 「沈黙の艦隊」の登場人物の海江田と深町を そのまんま野球選手にしたようなバッテリーが 主人公のようだった。 なのでああ野球が舞台だけれどスポ根ってわけじゃないんだ。 もしかして沈黙の艦隊の海江田や深町のキャラを 先生自身が気に入ったので、そのキャラを使って息抜き的に ゴラク作品を描く気にでもなったのだろうか。 などと思った。 海部は沈黙の艦隊の海江田をそのまま投手にしたような 天才肌で何を考えているかわからない男だったし、 武藤は深町をそのまま捕手にしたような 武骨な男だったし。 あのキャラを使った野球漫画ってのも面白いかもね、 くらいに考えていた。 プロ入りした海部が 「自責点ゼロ、失点したら引退」 を宣言し、 徐々にそれが現実的になっていく展開を読んでも 「風呂敷を広げまくる野球娯楽漫画か」 くらいに感じていた。 天才児・海部と努力家・武藤がそれぞれ成長して、 クライマックスは二人が桧舞台で勝負して、 とかになるんだろうな、と。 良い意味で裏切られ、自分の読みの浅さを思い知らされ そして感動した。 まさか、ラストに向かって、こんなにもダンディズムが 溢れる話になっていくとは思わなかった。 なんせ国際問題をリアルに描き切った大先生なんだから、 それに比べたらたかが球技を舞台にしては、どうやっても スケール的に小さい話で終わらざるを得ないと思っていた。 もちろんプロ野球の世界で「自責点ゼロ」を貫くことが とてつもなく困難な偉業であることはわかるが、 所詮は漫画なんだし、達成しました、大団円です、か 達成は出来ませんでした、これも人生です、か、 どっちかで終わるんだろうな・・くらいに考えていた。 だがそれだけじゃない、かわぐちかいじ先生流の ダンディズムが溢れ出しまくるいい終わり方だった。 面白かった。さすがは、かわぐちかいじ先生。
かわぐちかいじ節全開で最高にハードボイルドな男2人のプロ野球ドラマ!「貴様」とか「よかろう」とか言う高卒1年目の選手、好きすぎる……!たった4巻の中で「自責点1点でも取ったら引退」という海部の投手としてのハードな生き様(とそれに食らいついていく武藤)が丁寧に描かれ、綺麗にまとまりすぎなくらい綺麗にまとまってて読み応えがありました。
【追記】
あらためて、かわぐちかいじ先生のキャラは男も女も覚悟決まっててクソかっこいいな〜〜としみじみ思いました。物語の最後が、試合後の狂騒の中で静かに見つめ合う2人の写真であっけなく終わるとこも味があって好きです。
あとかわぐちかいじユニバースではカメラマンは男も女も黒髪パーマで野球帽をエロかぶりしてチェックの服を着ないといけないルールなんだなと気付いて笑ってしまいました。
(▼「実直で無骨な顎のガッシリした主人公と涼しげで底知れない妖しさを秘めたライバル」という、かわぐちかいじ作品のド定番の組み合わせ大好きです)