基本的に暗い短編集だが、読むと落ち着く
生きてるから素晴らしい、死ぬから悲しい、みたいな単純な話ではないんだよなと思える(いや勿論素晴らしいし悲しいんだけど)。富士山は象徴的に描かれていて、実物よりもかなり傾斜がきつい。この違和感によって、自分の中の富士山のイメージが浮き彫りになる。 二話の最後に出てきた「殺意にも似た元気」てのが気に入った。
首都圏の通勤電車で繰り返される悲劇、ホームでの飛び込み事故。若い運転士は、ある駅でよく見かける女性の目を見て、いつか電車に飛び込んでくるのではと危惧していた。富士山がよく見える晴れわたった日、電車を運転する運転士の視界にあの女性の姿が映った。平静を失う運転士。そのとき何が起こったのか…!?時として人の心を吹き抜ける、悲しいすきま風の向こう側を、さそうあきらが繊細に描く唯一無二の世界!
電車の運転手たちの間には「天気が良くて富士山がはっきり綺麗に見える日には人身事故が起きる」という迷信があり、実際にそんな日に運転していたところ今にも飛び込んできそうな女がホームいたが、飛び込んできたのは女ではなく隣にいた男だった。しかし実は女にも死にたい理由があって…。人間の生死の危うさと霊峰富士の底知れなさが不思議とマッチしていて、今までに読んだことがないような感覚になりました。どの話も奥深いんですが、個人的には人身事故が起きてしまった運転手さんはどんな気持ちになるんだろうと常々思っていたので、一話目が印象に残りました。