絵が目に触れてくる。それはとても豊かな体験だ。カバーのデザインから目に嬉しい。そしてどのページも、質感で充実している。
緻密なペン画で描かれる背景には、リアリティと台北の湿度がある。大胆な白地とのコントラストが生み出す気持ち良い光景。
そしてそのペン画で描かれる人物は、手を伸ばせば触れられそうだ。漫画的表現のまま実態を持った人物、その内面描写はナイーブで、柔らかさ、儚げな表情に心を持っていかれる。
描かれる現状への落ち着かなさ、制御できない恋と自意識、そんなものであてどなく彷徨い続ける様子は、私の知る限りだと『神戸在住』の主人公のような不安定さだ。
音楽の感じ方、細野晴臣への信仰告白のような強い思いの表出、行き場なくかすかに震える初々しい感性……この青春の手触りは、柔らかいけれど、指すように痛い。
2巻の終わりに「こんなところでやめられるかぁぁぁ」「絶対に続けるんだぁぁぁ」というセリフがありましたが、これは連載していた雑誌がここで休刊になってしまったので編集部に向けて叫んだそうです(笑)。この漫画自体もヤバい隣人に遭遇してしまった経験を元に描かれたらしく、警察官の「日本人が1000人いれば1人は〇〇〇〇が混じっているんですよ」というセリフは実際に言われたものだそうです…。文庫化記念の描き下ろし表紙カバーが上手すぎて中身とのギャップがすごかったですが、画力ってこんなに向上するんだなと思いました。今の絵柄で本人にリメイクしてほしい。