夕凪に舞え、僕のリボン
ストーリーの新鮮さや意外性は無く、本当に描きたいものだけを上下巻にまとめている。 競技モノではなく家族モノとしての側面が強い。 "ハルタ作家としての絵柄"をすでに身につけている。
舞台は1984年、広島の港町。母親の病死から立ち直れない内気な少年・凜太郎は、ある日、新体操に出会う。その美しさに衝撃を受け、新体操を始めた凜太郎だが、昔気質の父・修は強く反対する――。夢を追いかける少年の成長と、家族の絆を描く感動作、上下巻同時発売!【著者プロフィール】黒川裕美(くろかわ・ゆみ)広島県出身。2015年、ハルタコミックグランプリを受賞。ハルタ32号の読切「夏が過ぎたら」でデビュー。ハルタ57号~78号まで初連載『夕凪に舞え、僕のリボン』を執筆。画力、演出力ともに急成長中のホープ。
新体操と聞いた時、だいたいの人はリボンやボールを使った女子の華麗な演技思い浮かべると思いますが、静と動が美しい男子新体操の団体演技を思い浮かべる人もかなりいると思います。
しかし実は、男子新体操(団体・個人)は日本だけで発展した独自の競技であり、五輪競技となっているいわゆる新体操は女子だけのものです。
この漫画は、「新体操」が導入された1984年ロス五輪の年に、広島港町に住む少年・凜太郎が新体操に出会い魅了され、たった1人でその険しい道を歩んでいくというお話です。
優しい姉、厳しい父…母を亡くした家庭はどこかぎこちなく、そこへさらに「新体操」という誰にとっても未知のものが入り込んで、家庭内は激しく波立ちます。
しかし、男はみな父の跡を継いで漁師になるという小さな町で、内気で泣き虫小学生の凜太郎は美しく舞うリボンに魅了されたことで、厳しく当たる頑固な父と向き合う強さを手に入れ成長していく。
読んでいて予想外だったが、凜太郎が女子新体操を諦めなかったこと。
よく考えればタイトルが「夕凪に舞え、僕のリボン」なのですから、女子新体操から離れるわけがないんですけど、勝手に男子新体操に転向し、アスリートとして上を目指すのだろうと思っていました。
が、凜太郎は結局、試合に出れるわけでもない女子新体操をたった1人孤独に学び続け、最後は「新体操単独ツアー」を開催するという形で1つ大きな偉業を達成するのが、普通のスポーツものにはないエンディングで面白かったです。
凜太郎が進学のために電車で故郷を離れるシーンで、父が船から電車をじっと見つめているシーンは思わず目頭が熱くなりました。
ただこのシーンのあと、中高という重要な時期が描かれずに幕引きとなったのが残念でした。もっと読んでいたかった…。
男、女、年齢…。世の中には常識となっていて疑いもしない区分がたくさんありますが、それに問わられずたとえ前人未到でも挑戦をする凜太郎の姿に勇気が湧いてきます。
たくさんの人に届いてほしい作品です。