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ナポレオン ―獅子の時代―

ナポレオン 獅子の時代

ナポレオン ―獅子の時代― 長谷川哲也
名無し

いやあ、最近は優しい作品が多いですね。人が人を思いやり、思いやりがゆえに傷つけてしまう……。そんな、ナイーブな作品が話題になるので僕もよく読んでいるのですが、どこか違和感を感じています。プランクトン男子と呼ばれた“俺の中の獣性”(そんなものがあったんだ!)が、ナイーブ作品をどこか鼻で笑っているのです。  この『ナポレオン ―獅子の時代―』を読むと、思いやりとか人を傷つけないとか、どうでもよくなってきますね。ホント。なにしろ男も女も、自分の欲望に忠実な、サイコーにファッキンな野郎しか出てこないのです。  その中でも最も欲望が強いのが主人公のナポレオン・ボナパルト。フランス革命に乗じて徐々に頭角を現す彼は、ぶっちゃけフランスのことなんてどうでもよいと思っています。彼が求めるのは、ただひたすらに名誉と栄華なのです。それまでの王制では決して出世することができなかったナポレオンは、フランス革命の混乱に乗じて出世していくことになりますが、このフランス革命の描写もすごい。  様々な政治派閥が割拠し権力者がくるくる変わる状況のなか、たくさんの血が流されます。みんなが大好きなロベスピエール(童貞)が、その清廉さ故にたくさんの人を殺し、恨まれ、結局は処刑されてしまうテルミドールのクーデターは大スペクタクル。結局その後釜となったのがポール・バラスという、女とお金が大好きというクソ野郎というのも皮肉です。そんな内憂外患なフランスで、ナポレオンは対外戦争の勝利という功績をもって、軍人としても政治家としても出世していくのです。  ナポレオンの覇道を支えるのが一癖も二癖もある将校たちです。「マッセナは奪うのだ!」と略奪大好きなマッセナ。小男のちんちくりんで非常に細かい性格をした参謀・ペルティエ。上半身素っ裸で自分のことを「おり」というオージュロー。ベッドの上と馬の上以外ではボンクラな伊達男の騎兵・ミュラ。重厚な身体と性格、そして禿頭が特徴の「不敗のダヴー」などなど。どいつもこいつも人の生命・財産など、どうでもよいと思っている奴ばかり。そんな人間的にはどうしようもない彼らが、美しい戦争芸術をやってのけるのです。  なかでも惹かれるのがランヌという将校。他の将校と比べて、真面目な性格をしています。しかし、その実直さは度を越していて、一旦糸が切れてしまうとどんな残虐な行為もできてしまう男です。部下からは「絶対この人は変だ」と言われながらも慕われています。  エジプト遠征の時のランヌとナポレオンのエピソードは秀逸です。ナポレオンの妻ジョセフィーヌは敵国イギリスの新聞にも書かれるほど、放蕩生活で有名な女。遠征先のナポレオンは気が気ではありません。ランヌはナポレオンに「俺と女房は 愛で結ばれている 俺にとって女房が世界一いい女だ」と持論を述べます。そんな、彼にも、現地民が反乱を起こし、絶体絶命の最中にさらに最悪な連絡があります。「フランスから……女房に子供ができたそうだ」彼らは戻る手段もないエジプト遠征の最中。1年も会っていません。ナポレオンとランヌは言います「結論――女なんてクソだ」「そうだ」この描写になんともいえない笑いを感じました。  彼らは戦争という大きな国家の問題も自分の女の問題もすべて“自分の欲望”という一つの土俵で考えているのです。この『ナポレオン ―獅子の時代―』が描いているのは個人の欲望です。清廉潔白な思想も、「法律は守れ」と叫ぶ男たちも、「マッセナは奪うのだ」という叫びも、それは彼らの欲望から生まれたもの。だから揺らがないし、魅力的なキャラクターとなっていくのです。  授業では教えてくれない、欲望から見たフランス革命とナポレオン史を学べる稀有な漫画です。人々の欲望の連続こそが歴史なんだったんだ!

COBRA THE SPACE PIRATE

夢と呼ぶにはあまりに厳しく余りに哀しい影に向かってのオデッセイ

COBRA THE SPACE PIRATE
阿房門 王仁太郎(アボカド ワニタロウ)
阿房門 王仁太郎(アボカド ワニタロウ)

著者のライフワークなので一言で括れない幅がある作品で、私は 1.手塚治虫的なタッチが残り奇想展開なアイディアの楽しい「少年ジャンプ初期」(「コブラ復活」~「ラグボール」) 2.線がややソリッドになりシニカルな描写の増えた「少年ジャンプ中期」(「二人の軍曹」~「黄金の扉」) 3.ヒロイックな描写の光る「少年ジャンプ後期」(「神の瞳」~「リターンコブラ」) 4.「聖なる騎士伝説」 5.CGフルカラー期 で分けている。どの期間も見るべき所のある漫画であるが、4.の「聖なる騎士伝説」について書きたい。  「聖なる騎士伝説」は青年誌に掲載された長編で他の話より暗く、いつもよりシリアスでアダルトな展開や描写が多い異色のエピソード(何てったって、レディーさえ出てこない) だ。ここでは新世界の興奮は悪鬼に蹂躙され、コブラのいつもの剽軽な態度やヒロイックな勇気は鳴りを潜め、笑みは嘗て見られなかった暗い影を忍ばせている。絵の線もどの辺よりも細く、陰影もまた濃く、混沌とした悪意蔓延る世界をこれでもかと描き出す。筋も宝や冒険ではなく悪鬼の暗殺と言う剣呑な代物で、終盤に明かされる種も周到に張られた伏線もあり陰惨な世界観を補強する。  今までのスペースオペラと比べると余りにもノワールであり、退廃的でもあるが、それだけに強烈であり、私はこのエピソードが一番好きだ。けだし、このノワールが単なる露悪に終わらず、コブラが常に世を儚むようなニヒルな皮肉を呟きながら銃をぶっ放しながらもどこか善や正義を諦めきれていないからではないかと思う。有名なコマでもある様にコブラは終盤、実際には何の利益を齎さなかった教会を批判し「神か……最初に罪を考え出したつまらん男さ」と呟いてみせたが、これはやはり神や正義についてどこか夢を持っている証拠に他ならないと思う。さもなくばこんなセリフは決して言わないだろう。  コブラの海賊としてのアウトローな性格や享楽主義は上記の理想主義的な思想やストイックさに支えられている。寺沢武一は彼の初期作品を「思弁的」と批評していた記憶があるが、そういった性格が彼の作品から消えた事は一度も無かったことは確かだろう、そしてそれこそがこの漫画をいつまでも輝かせているのだろう。海賊と言う自由とギルドに対抗する高潔な戦士の顔を持つあの男のとこしえの旅に祝福を。

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