漫画で繋がる、拗らせた二人。
秘めた同性愛を同人誌にぶつける清水真琴。父を見返すために漫画を描き、見失って描けなくなった前川茜。創作の動機も愛情の形も歪んだ二人の、繋がるような繋がらないような、絆の物語。 —— 拗らせながらも前向きに生きてきた清水の前に現れた前川は、拗らせ方が尋常ではない。清水は翻弄されるが、それでも前川を気にかける。 一方、清水を試すように距離を縮めたり、突き放したりする前川。 小悪魔女子の前川が抱く「病み」と、どうしようもない寂しさが、捻じ曲がって清水に向かうのが息苦しい。 彼女達を繋ぎ止めるのは「漫画創作」。過去に間違ったモチベーションで失敗した前川には、真っ直ぐに創作の楽しさを語る清水は苦しい存在。それでいて、自分の中にもあった創作の喜びを、思い出させてくれる存在でもある。 前川が自分の創作意欲を見出そうとするのを、清水は応援する。そして寄り添いながら、二人は思う。 「色恋で壊れるような関係など、いらない」 この想いは、例えば過去に、友情に恋愛を持ち込んで失敗したことのある人なら、分かるかもしれない。 大切な事との距離の取り方を致命的に間違えてきた、「未だ病み」の中にいる二人。それでも少しずつ時間を共有し、気持ちをぶつけ合ってきた彼女達は、今後、どのような絆を繋ぐのか。切ない気持ちを共有しながら、見守りたい。 (2巻までの感想) (創作の動機が歪んでいることを否定する意図はありません。本質的に創作の動機は属人的で歪んだものであり、だからこそ愛おしいものだと考えます)
完結記念に感想書かせていただきます。
「隠れ同人作家の清水さんが同僚の前川さんにオタバレして秘密を握られてこれからどうなっちゃうの!?」
という導入こそ軽妙ですが、ひとを愛することと、創作することに真摯に向き合っているのが本作の魅力だと感じます。
百合はもちろんのこと本格的なマンガ家マンガとしての読み応えも抜群です。
物語を描くのって過酷です。
真面目に向き合えば向き合うほど、ときには現実の人間関係や自分自身を傷つけてしまうことさえあります。
一方で、その過酷さは誰かの支えがあれば乗り切れることもあります。
物語を通じて前川さんが「誰かと一緒に描く」ようになり、清水さんが「誰かの傍にいる」ことを選ぶのが私にはとても尊いことのように思えました。
そして最終3巻のボリュームが圧巻。260ページ超えてます!
ふたりがそれぞれのゴールと言うか、あり方を決めたあとのようすがじっくりと描かれています。
こういうエピローグがたっぷり読めるのはなんだか幸せですね。
素晴らしい余韻の残る作品でした。
なるほど、ページ数に関しては当たり前に受け入れていましたが、そんなにあったのですね!
しかし、慰めではない確かな絆を小悪魔前川さんが頑張って得たこと、確かな関係を築いたからといって、漫画創作がそう上手くいくはずもないこと、それでも関係性を頼りに創作に、編集者に向き合うこと、そもそもの拗らせの原因への対応など、丁寧に描かれているので、そのページ数になるのは納得。いかに丁寧に描かれているか、ということですね……。
これこそ恋愛が全てではない、大人の百合漫画!