江戸川治の短編集
江戸川治センセイの作品の中でも、心にグッと来る話を集めた短編集。 胸を打つ、という表現が公式解説にあるとおりなのだけど、下手にこじらせておしゃれぶったりせずまっすぐに響かせようとしてくる作風はとても魅力的である。 絵柄も後半になるにつれ上手くなっていくのだが、漫画としての表現の幅の成長を感じ取れる1冊。 最近の作品との出会い方は仕込まれているかのようなパーソナライズレコメンドによるものが多い中、本作も最後の「マザー」をTwitterで公開されていた事で手に取ることが出来た。 本屋でうんうん唸って出会う珠玉の逸品はもちろん格別だったけれど、時代が変わった事に感謝できるほどサクサクと出会える今の時代もまたありがたいなぁと感じますね。
江戸川治さんによる短編集です。個人的に『ホウキにまたがる就活戦争』が好きだったので楽しみにしていましたが、期待以上の作品群でした。
話の舞台や設定はファンタジーから現代不倫物まで様々ですが、基本的に何か大きな悲哀がありそれを乗り越えていくというところは通底しています。そして、読み終えた時には哀切が混じりながらも希望や暖かな気持ちで心を満たしてくれます。
「まおうの首」の主人公の感情が溢れ出す表情などは素晴らしいです。「苦い悪夢」のトーンを使わなくとも美しい白黒の描き込みなど惹かれるポイントも数多く詰まっています。
表題作「マザー」は王道をなぞりながら唸らされる部分もあり、とりわけ感動的でした。ラストが対比的な「アノコロタクシー」と並んでいる構成にも妙があります。
この読み味をコンスタントに出せる江戸川治さんには今後も期待大。お薦めの一冊です。