ネタバレ

「平成最後の天才が現れた。」

単行本1巻の帯に大きく書かれた一文。これを見た瞬間、私は『あ、これって"響~小説家になる方法~"のような作品なのかな?』と思いました。実際、主人公・戸田セーコは才能があるものの失語症気味でコミュニケーションに難のある人間として描かれており、1巻の前半まではセーコとその担当編集・タナカカツミを中心に描かれ、1巻後半では2人目のマンガ家・NORuSHとその担当編集・西との読み切りの人気アンケート対決へと話が進んでいきます。

このまま"セーコの物語"として、セーコの才能を描いていく物語なのかなと思いながら読み進めていましたが、2巻に入った辺りから徐々にその雰囲気が変わってきます。

1つのターニングポイントは2巻の冒頭、セーコがNORuSHに誘われてコミケに参加する所にあります。コミケを描くこと自体はマンガではよくあることですが、今作では新人とはいえプロの作家であるセーコが同人活動という形で他者の作品に触れ、影響を受けていくという形で描かれていきます。この段でセーコが"完全なる天才"ではなくなり、才能を持っていながら未完成で今後成長を控えている人間だということがはっきりと示されます。

また、物語が進むにつれて徐々にカツミやNORuSHの描かれ方も変わってきたように思います。カツミは1巻ではセーコとの関係性を中心に描かれていましたが、徐々に対戦相手である西や他の編集との関わり、そしてコミケで自ら発掘した新人マンガ家との関係が描かれていきます。また、NORuSHはセーコとの対決の中で、自らの創作活動との向き合い方、そして進んでゆく道について悩む様が描かれていきます。
つまり、この作品は「周囲に影響を与える"1人の絶対的な天才"の物語」ではなく、「1人のマンガ家とその周囲の人々が共に切磋琢磨しながら成長する"群像劇"」なのではないかと思うのです。

マンガ好きの中では話題になっている作品の1つだとは思いますが、あらすじや帯コメントなどの外からの情報ではなかなかそういう所まで見えてこないので、実際に読んでみて面白いかどうか判断してほしいと思う作品の1つです。

2巻まで読了

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あーとかうーしか言えない

素晴らしい漫画家マンガがまた一つ

あーとかうーしか言えない 近藤笑真
兎来栄寿
兎来栄寿

一読してすぐ引き込まれ、一気に既存の読める分を読破。そうして得られた満足感は正にマンガ読みの幸福そのものでした。 端的に、社会人として普通に生きて行くには難しいレベルでコミュニケーション能力が不足している人間であっても多くの見た人の心を揺り動かす作品を創ることができるというのは美しい様態です。たとえそれがエロマンガであったとしても。 実用性を重視されるエロマンガの中にも素晴らしい作品があることは重々知っていますし、そうした作品を葛藤や困難を乗り越えながら作って行こうとする彼女たちのことは自然と応援したくなります。 ある有名な編集者が「互いのすべてを曝け出し魂で殴り合って作品を創る作家と編集の関係は家族の絆より濃い」と言いました。その意味では、同棲して作品創りに励む彼女たちは超特濃の百合でもあります。 キャラクターの強さがまずあり、その上で王道的な面白さや先の読み難い展開、エロマンガ業界の創作論があいまって面白さを加速させています。今後も非常に続きが楽しみです。 作者の近藤笑真さんはTwitterでも数々のマンガをアップしており、そちらも面白いのでぜひ読んでみて下さい。 https://twitter.com/sotincat/status/1118022855046750208 https://twitter.com/sotincat/status/1119030050932682752 https://twitter.com/sotincat/status/1119393789540356096 Twitterで発表されたプロトタイプ版も良かったら併せてどうぞ。 https://twitter.com/sotincat/status/982179621402624002

あーとかうーしかいえない
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