ぐりこカミングスーン

カン違いだとカン違いしていたとカン違いさせる漫画?

ぐりこカミングスーン 赤堀君
名無し

ひーくん(恋人)は100年に一人の天才ロッカー! 将来は絶対に武道館を満員にする! いまは、ひーくんを支えるために私が稼がなきゃ! ・・ごめんね、ひーくん。 アナタのために私は悪魔に魂を売るわ。 アナタが「日本の音楽シーンを支配する悪魔だ」という その悪魔(アイドル)に今だけバイトでなるわ! 「ぐりこカミングスーン」は 間違いなくバカップルのカン違いコメディ物語なんだけれど、 才能があるのに気がつかないで苦労をしているという、 ある意味で贅沢なバカップルのお話だ。 「無能なこと、無意味なことに気がつけよ!」ではなく 「有能なこと、才能を無駄遣いしていることに気がつけよ!」 とツッコミたくなる物語だ。 なぜそこで、そうカン違いする! と思いつつ読んでいたのだが、 読んでいるうちに「アレ?」と思う部分が ダンダンと増えてくる。 カン違いロッカーのひーくん。 カン違いアイドルのぐり子。 ロックやアイドルそれそれを崇拝するファン。 スカウトマンやマネージャー、プロデューサーなど業界人。 それらの日本の音楽シーンの全部に対して、 「お前らみんなカン違いしてるよ」と ディスって笑いにしているような漫画だと思って読んでいったが、 実はそう思った自分こそカン違いをしていたのでは?と ジワジワと思わせてくる漫画だった。 ピザ屋でバイトした後に 「あの大空にピッツアをひろげ~」 と唄う、ひーくん。 それを見て 「ひーくん、かっこいいかも・・」 と思ってしまった。 それこそカン違いかもしれないけれども。

水晶の響

耳の聞こえない親友に届けたい音色

水晶の響 斉藤倫
兎来栄寿
兎来栄寿

実在の脳性麻痺のバイオリニスト、式町水晶さんをモデルにした物語です。 この単行本1巻に収録されている短編「水晶の音」から始まったこの作品ですが、「水晶の音」は母親視点から見ると非常に心が苦しくなります。何らかの障害を覚悟しての出産。何とか産まれた後も、度々医師から告げられる他の子たちにはない困難。動かせない体、見えなくなるかもしれない目、尽きるかもしれない命。それでも、懸命に我が子の生きる道を作ろうと尽力する姿に心を打たれます。と、同時に自分がもし同じ立場に置かれたら、と考え込まずにはいられませんでした。 少年がバイオリンや素晴らしい奏者と出逢いその天性の才能を花開かせることはそれ自体素晴らしいですが、そこに至るまでに精神的にも大変な疲弊をしたであろう彼の親の愛と努力も同様に素晴らしいと思いました。 そして、連載版。少年が出逢ったのは、腎臓が悪く透析が必要で耳が聞こえない親友。彼に自分のバイオリンを聞かせたい、という純粋で切なる願いの尊さがまた響きました。 しかし、異質な物を排除しようとする人間の醜さにより、少年は差別・いじめという試練も受けます。子供特有の残酷さに人よりも生きるのが大変な心身を更に傷つけられる様子は見ていて心が痛くなります。 それでも、親友のために頑張ろうとする水晶のように美しい心を持った気高い少年を応援せずにはいられません。良い舞台の上で、少年のバイオリンで親友がその音色を聞きながら得意のダンスを踊れる日が訪れることを待望します。

蜜蜂と遠雷

至高のコミカライズ…!

蜜蜂と遠雷 恩田陸 皇なつき
たか
たか

初めて恩田陸の小説を読んでから15年以上経つのですが、コミカライズされた作品を読んだのはこれが初めてです。 『蜜蜂と遠雷』という作品に触れるのは2016年に原作を読んで以来で、いい感じに細部を忘れている状態で読み始めたのですが、もうとにかく作画が素晴らしい…!! キャラデザもコマ割りもこれ以上ないくらい洗練されていて、ページを開いて眺めるだけで贅沢な気持ちになりました。 (実は皇なつき先生のことを本作を読むまで存じ上げなかったのですが、wikiで過去の経歴を見て「このコミカライズは神と神の共演だったのか」と震えました。) まず表紙をめくってすぐの見開き、ホフマンからの推薦状のページが雰囲気がいい。そして1話の見開きでスタイリッシュなキャラデザで描かれる主役4人がババーンと登場する…!もうなんてかっこいい構成…! https://i.imgur.com/OIINWvo.png https://i.imgur.com/OwlhUiK.png (『蜜蜂と遠雷』 恩田陸/皇なつき) ただ一方で、みんなイマドキの美女・イケメンすぎて若干の戸惑いと気恥ずかしさを感じています。 自分にとっての恩田作品の良さの1つが「キャラがまとう80年代〜90年代の空気」なので、脳内作画もそれに合わせてちょっと古い感じで想像していました。 それがどっこい、皇先生の美麗な絵で描かれ「え!君たちこんなにかっこよかったの…!?」と、初めて生で会った知り合いがメチャクチャ顔が良かったみたいな照れと戸惑いが(笑) 冒頭で「いい感じに細部を忘れている」と書いたように、漫画と小説のセリフの違いに気付けるほど細部は覚えていないのですが、キャラクターが発するセリフがところどころ「ちゃんと恩田陸」で、「ああ、本当に漫画で恩田陸作品を読んでいるのだなあ」と不思議な感動がありました。 https://i.imgur.com/kfjv0Bi.png (『蜜蜂と遠雷』 恩田陸/皇なつき) 1巻を読み終わってもう続きが読みたくてしかたない…!!連載を追いながら原作を再読しようと思います! https://comic-boost.com/series/133

BECK

音楽マンガである以上に、季節をめぐる、とりわけ夏のマンガとして…

BECK ハロルド作石
影絵が趣味
影絵が趣味

数年ぶりにハロルド作石の『BECK』を通して読んだら、もういい歳のくせに、ページをめくるそのたびに泣き腫らしてしまった。まだ青春時代と呼ばれる十代の頃、自分も『BECK』を読んでそう思うまでもなく、すでに社会の爪弾き者として、自身のインスピレーションに従って生きて行くしかないと心に誓ったものだったのが、いつしか歳を重ね、つまらない反骨精神だけは相変わらずだが、そのいっぽうでは自身は社会によっても生かされていると思うほどには大人になった。ようするにある程度の分別がついたのである。いまだに社会人などいう言葉には虫唾が走るが、ふいに気がついてみれば、あの頃にはあんなにも嫌悪していた社会の構成員としての大人になっている自分がいる、そんなつもりはなくても税金を払ったり健康保険の恩恵に授かったりしている自分がいる。 つまらない話になった。単に『BECK』のように徹底的に社会の爪弾き者となり、次々と難題が降りかかり、追い詰められ、尚且つそれらを乗り越えてゆくというのはマンガだからこそ起きうる事態であり、だいたいどんなに非市民的に見える人間であっても実は社会と地続きに繋がっているという意味で凡庸さからは抜き出ていないということである。もっとつまらない話になってしまった。嗚呼、マンガとは所詮嘘いつわりの虚構ではないか、夢もへったくりもあったもんじゃない、死のうかな。とでもなりそうなものだが、まだ死んでいないのは、数年ぶりにハロルド作石の『BECK』を通して読んだら、もういい歳のくせに、ページをめくるそのたびに泣き腫らしてしまうほど感動したからに他ならない。 なんか言ってることが矛盾してるんとちゃいますか、と死亡遊戯の金本くんばりの関西弁で言われてしまいそうだが、はい、その通りです、と頷くほかもない。じっさい『BECK』ほど嘘くさい話もないというか、あたかもマンガのように次々と問題が降りかかり、どうにか乗り越えたと思ったら、もっと大きな問題にぶち当たり、それら問題-解決は回を追うごとにどんどん雪だるま式に大きく膨れあがり、とうとうコユキはスターにまでのぼりつめる。そこで、ああ嘘くさい! 言い切ることができるのなら今すぐにでも自殺して楽になれるのだが、そうはならないのは『BECK』というマンガがめぐる季節の内部にあるからではないのか、という仮説が立つ。とりわけこのマンガは夏という季節から始まり夏という季節で終わる、すなわちこのマンガは夏という季節の内部にある。だいたい音楽マンガであるくせに、ライブハウスとかスタジオのコマなんかよりも釣り堀とかプールとかコインランドリーとか夏の一部を切り取るようなコマが多すぎはしないか。そして何よりも、あの夏の、膨張して怪物のように膨らんだ白い雲。それが問題-解決的なものの契機のたびに大きなコマで挿入される。だいたい雲というのは気体であるくせに、なんであの夏の雲というやつはくっきりとした輪郭をもっているように見えるのか、それこそ、ずいぶんと嘘くさい話ではないか。 私たちは誰もが皆めぐる季節の内部にいるが、その内部にいればこそ真偽の答えは常にその外部にしかない。とりわけ夏休みという季節がそうで、夏休みのあいだはすべてのことが何がなんだかわからないのが常である。そして夏が過ぎてから、そこに夏があったということを、さながら夢でも見ていたように悟る。季節はめぐり、夢は募る。あの夏の雲を見上げるたびに、私たちはまるで嘘のような夢に魅入られたひとだと気づく。

この音とまれ!

『凝縮された少女漫画』で最高のエンタメ!!

この音とまれ! アミュー
たか
たか

ブロッコリーのことを「凝縮された森」と呼んだ天才にならい、『この音とまれ!』のことは「凝縮された少女漫画」と呼びたい。この作品はジャンプSQ.で連載されていますが、コマ割りが少女漫画であるため勝手に少女漫画と呼ばせていただきます。 4月にアニメ化されるということで放送前に読んでみたのですが、まあ〜すごい作品でした。何がすごいって、**とにかく見所が多すぎる…!** **・主人公の過去が凄惨(不良に琴職人の祖父の家を焼かれる) ・琴の名家に生まれたヒロインのお家騒動がヤバイ ・顧問が実はめちゃくちゃすごい人 ・ライバル校のキャラがやたら濃い** 辛い過去、ハードな練習、美しい演奏描写、琴の知識、熱い友情、恋の予感と、とにかく注目すべき要素が多いんです。 **私が思う少女漫画の名作の条件の1つは、「ドラマチックな悲劇が起こりそれを愛・友情で乗り越えていく」こと。**『この音とまれ!』はその条件に当てはまる部分がすぎていて、**凝縮された少女漫画としかいいようがない。** まずそもそも**作者(とそのご家族)がお琴の経験者で、琴の演奏描写が非常に優れていて読み応えがある。**そこへさらに、先に挙げたようなヘビーな設定を次々持ってくるもんだから、ドラマが洪水のように襲ってきて読者は感情を付さぶられまくる。そして、思い出したようにヒロインといい感じの雰囲気になるシーンが挟まる。 んもう、最高にエンターテイメント…!! またテーマである**「琴」の演奏シーンの作画は常に大迫力**で、読み終わってソッコーで本物の演奏を比べてしまったほど。作中に登場した、アミュー先生の家族がこの作品のため書き下ろした楽曲はYouTubeで聴くことができます…! https://www.youtube.com/watch?v=Y_Db88Ef6FQ ちはやふるやナナマル サンバツなど、熱い文化部漫画が好きな人は間違いなくハマるので、ぜひ手にとってください!(※なおアニメはおすすめしません!)