スティアの魔女

謎多き少女と世界 #1巻応援

スティアの魔女 牧瀬初雲
兎来栄寿
兎来栄寿

「ゆく河の流れは絶えずして、しかも、もとの水にあらず」 不意に『方丈記』の冒頭を思い出すようなファンタジーです。美しさと共に、無常感も覚えさせられる水の流れ。清流もあれば、濁流もある。それは恰も人生のようで。 本作はいろいろなお客さんを舟で運ぶ「渡し守」として活躍する少女を描く物語で、最初は『ARIA』的な感じになるのかなと思いました。実際、同業者であったり舟を造ってくれる人であったり、さまざまなお客さんとの交流などには近しい要素もありはします。種族も老若男女もバラバラな人々との交流が必然的に生まれる接客業ですから、それだけでもお話は無限に生まれそうです。ただ、1話を試し読んでいただければ解る通り、この世界はもう少し剣呑です。 魔族が存在し、人類の生存域も脅かされていて、ヒロインのハルも何やら訳ありの過去を持っている様子。日々の渡し守としての生活を営みながら、彼女の過去に何があったのかも少しずつ明らかにされていきます。 また、魂の眠る場所とも伝えられ、未知の魔法や財宝や神が存在するとも噂される謎に包まれた「歪みの霊峰」という本作の焦点になりそうな人類未踏の地の謎とも併せて、ミステリー的な箇所の存在によってこの先の展開への興味を誘ってくれます。幕間では、設定の詳細が解説され、世界観が作り込まれていることも感じさせられて期待が高まります。 大きな想いを抱えながらも一日一日を丁寧に生きるハルの姿は、現代に生きる私たちにも通ずるものがあるでしょう。過去への向き合い方、選択への責任。ファンタジーであるからこそ、より響くものもあります。 静やかに始まりながら、徐々に徐々に振幅を強めていくこの物語が、どこへ漕ぎ着くのか。この先も楽しみです。

魔法使いの嫁

アニメから好きになったマンガ

魔法使いの嫁 オイカワマコ 三田誠 ヤマザキコレ 五代ゆう ツクモイスオ
ゆゆゆ
ゆゆゆ

タイトルに「嫁」とあるので、女の子をお嫁さんにする男性向けウフフストーリーかな、この人の仮面?外したらイケメンなのかしらと思いつつ、なんとなく視聴したアニメ(第一部)。 まったく違った。 ハズレすぎて、爽快感を覚えるほど違った。 仮面じゃないし、はずれないし。 「人外×少女」がキャッチだし。 最終話になるころにはリアタイ視聴となり、もっと読みたいと耐えきれずマンガを全巻購入した。 マンガ版にはアニメでは削るしかなかったのだろう、イングランドの伝承や神話、豆知識の数々が掲載されており、まほよめの世界観を知る喜びに震えながら読み漁った。 アニメでは理解できなかった単語がマンガだと、文字とルビと絵で分かるのもよかった。 さらにアニメ化した内容にあたる9巻でマンガは完結かと思ったら、学院篇の第二部へ続くとあって、喜んだのを覚えている。 第二部は舞台がかわるものの、エリオスとチセはかわらずエリオスとチセなのが嬉しい。 そしてその第二部がアニメ化決定したのも、また嬉しい。 アニメの前に予習したい方、コミックスは10巻(第46篇)からですよ!!

リュシオルは夢をみる

滅びた世界の静と美 #1巻応援

リュシオルは夢をみる 森川侑
兎来栄寿
兎来栄寿

溜息が出そうなほど美しい表紙・裏表紙に惹かれたなら、その直感を信じて手に取ってみて欲しいです。 『休日のわるものさん』や『ひるとよるのおいしい時間』の森川侑さん最新作は、滅びた世界で目覚めた少年と、彼をコールドスリープから目覚めさせた自称・大魔法使いの青年が、人間を探して旅をする物語です。 この作品は、表紙・裏表紙や広告のイラストを見てもらえば解る通りまず絵が素晴らしいです。文明が滅びて、植物に侵食された世界が緻密に美しくたくさん描かれていきます。カラーも美しいですし、白黒で細かく描き込まれた背景も魅力的です。樹々の間を差す木漏れ日、苔むした朽ちた建造物、人のいない静寂の世界でも美しく広がる空……廃墟好き・ポストアポカリプス好きには堪らない作品でしょう。 私自身もそういう趣味嗜好が多少ありますが、そのルーツを辿ると幼い頃に無限にリピート視聴していた『天空の城ラピュタ』に行き着く気がします。特に、ラピュタに着いた後に周囲を探索しているときの水面下で魚が泳ぎながらその下に滅びた都市が広がっているという構図が大好きです。『リュシオルは夢をみる』の中でも正にそういった感じの描写が行われていて「ああ、好きだなぁ」となりました。『DQⅢ』で大魔王ゾーマが「死にゆく者ほど美しい」と言っていた気持ちもちょっとだけ解る気がします。 即座に命を脅かすような危機もなくゆったりと静かに進んで行く物語ですが、その中でしみじみと感じ入るようなエピソードも描かれます。 滅びた世界を旅したい方、美しい背景に浸りたい方にお薦めです。

サテライト・コインランドリー

かわいい宇宙のお洗濯 #1巻応援

サテライト・コインランドリー にわかあめ(よよはち×ナツノアメ)
兎来栄寿
兎来栄寿

日本列島に最強寒波が襲来して、各地でとんでもない寒さになるとのこと。皆さんも暖かくしてご自愛しながら、部屋でゆっくりマンガなど読みながら過ごすのが良いのではないでしょうか。 そんなゆったりとした時間のお供にお薦めなのが、こちらの『サテライト・コインランドリー』。心の洗濯になる、SF洗濯マンガです。 表紙や1話だけでも見ていただければ解りますが、とてもゆるくて可愛らしい絵で可愛いらしいお話が展開されていきます。ちょっと疲れて、難しいことを考えたくないときにもスッと入ってくる作品です。 聞いた話ですが、アメリカの砂漠地帯の方だとコインランドリーのような施設が極端に少ないところがあり、またホテルの洗濯サービスもコロナの影響で使えなくなってしまっていた時期があって、結果洗濯をできるところが全然ないため旅行者向けに臨時の洗濯代行サービスを行ったら日本円にして1回8000円ほどでも大人気だったということです。 地球上ですらそうなので、とある銀河系で唯一水が豊かにある星で営まれているコインランドリーはさぞ大人気だろうなと思いました。 お客さんとして多種多様な宇宙の住人たちが来訪し、想像力を刺激されます。基本的に1話完結ですが、SFならではのスケールで描かれるお話もあれば、緩いだけではないお話もあり、楽しませてくれます。また、ピニャコなど可愛いサブキャラも魅力的です。 『ドラえもん』や、高橋聖一さんの作品が好きな方にお薦めしたい一作です。