あかりをください

妙な関係性が繋がる/離れていく

あかりをください 紺野キタ
あうしぃ@カワイイマンガ
あうしぃ@カワイイマンガ

変な関係性を綴っている、という点で一致する短編集。 家族であれ結婚であれ、形がヘンテコで、ちょっと普通とは違う感情で辛うじて繋がっている関係性は、どうしても脆く見える。いつ壊れるのか……それとも辛うじて繋がるのか……とハラハラしながら、そこにある思いに胸締め付けられる。 ●『あかりをください』…亡くなった母の再婚相手を父と慕う女子高生。まだ若い「父」への想いと、彼女を助ける親友の想いは、優しく交錯する。 ●『人魚の骨』…子供の頃親しかった人魚と再開する男子。彼を慕う人魚と、時折思い出す蒼い視界。 ●『みあげてごらん』…人の感情が見える女子は母に恐れられ、共に暮らせない。彼女は庭から掘り起こした宇宙アンドロイドと、同士の関係を築く。父・弟・父の部下にアンドロイドが加わった、男だらけの日常が可笑しい。 ●『ビューティフル・デイズ』…酔った勢いでプロポーズを受けたらしい。このまま受けていいものか悩む女性は、友人達の結婚の形を見る。 ●『en rêve(アン・レーヴ)』…夢の中で約束を交わした人は誰……?結婚式のドレスを仕立てながら、この結婚に疑問を持ち始める。

Veil

3つの芸術の総合作品 美しさしかない本…!

Veil コテリ
たか
たか

全2巻を30分ほどで読み終えたのですが、まだ夢見心地です。あまりにも2人の関係性が、ファッションが、世界観が良すぎて、物語について分析的なことや自分の感想を進んで書く気になれないですね…どう頑張っても野暮なことしか書けない気がします。 なので「この本の構成」について書こうと思います。 https://j-nbooks.jp/comic/original.php?oKey=175 この本の発売を楽しみに待っている間、「まるで美しいシネマのようなコミック&イラスト集」という謳い文句で宣伝されているのを聞き、「結局漫画なのか、画集なのかどっちなんだ?」と謎だったのですが、読んで納得しました。 漫画のように「物語がコマごとに割った絵で語られるだけ」ではない。画集のように「文脈のない絵がズラズラ並んでいるだけ」でもない。 まさに「コミック&イラスト集」と表現するのが相応しい構成になっているんです。**しかも全編フルカラー…!** https://twitter.com/_K0TTERl_/status/1202975764280299520?s=20 まず驚くのが、表紙をめくるとすぐに目に入ってくる「見返し」や「扉」といった、一般的な漫画ではただ実用的でそっけない部分まで美しく、物語に入り込むための素晴らしい導入になっているところ。 そして各話の「幕間」に当たる扉ページもまた、読者の集中力を途切れさせないよう、世界観に沿って美しくデザインされています。 さらにすごいのが、**ストーリーの幕間にイラストと文章を挿入し、複数の表現方法を組み合わせて総合的に「彼と彼女」のことを描いているところ。** あらすじでは本書のことを「まるで美しいシネマのような」と表現していますが、映像・ストーリー・音楽の総合である映画を引き合いに出していて非常に的確だなと思います。 https://twitter.com/_K0TTERl_/status/1162700555304595457?s=20 そして読み終わってみて感じたのは**「Veilのことを世に出回っている多くの漫画と同じものとして分類できないな」**ということです。 **・今作を出すまで長期に渡り制作されている(2017年〜2019年に発表された作品が収録されている)こと ・アシを雇わず1人で作り上げていること(おそらく) ・フルカラーで高価格であること ・幕間(物語外の物理的な部分)まで世界観の一部となるようにデザインされているところ** こうした特徴を抜き出すと、日本のMANGAというより**「日本のBD(バンド・デシネ)」**と呼ぶほうが相応しい気がします。 (加えて言えば、日本の漫画の9割(※個人の勝手な体感です)は、商業的な成功に結びつきやすいエンタメ性の高い作品に占められています。そのため、ただただ美しさを追究した芸術性・文学性に富んだ漫画というだけで主流から外れてしまい、やはり日本のMANGAっぽくない。 長々書いてしまいましたが言いたいことをまとめると、**自分にとって「Veil」は、作品としてあまりに美しすぎるために漫画と呼ぶことに少し抵抗がある総合芸術**です。 百聞は一見に如かずなので、今すぐ手にとって読んでください…! (紙質と装丁がいいので紙がおすすめです…!) https://manba.co.jp/boards/112451 https://manba.co.jp/boards/112451/books/2 (2人を並べてあげたい)

凸凹のワルツ

弁当男子×不器用教師の"秘密のレッスン" #1巻応援

凸凹のワルツ 森野きこり
sogor25
sogor25

お弁当を作ってそれをSNSに投稿することが趣味の高校生・春海くんはある日、提出物を出しに国語科準備室に入ったときに古文の水原先生が中身が真っ黒なお弁当を広げているのを目にします。 そのお弁当が自分が投稿したお弁当のレシピをもとに作られたことを知った彼は、思わずその日持ってきていた自分のお弁当を先生にあげてしまいます。 それをきっかけに晴海くんが水原先生に弁当作りを教えることになるというストーリーの作品です。 春海くんは匿名で投稿しているSNS上では上々の人気を得ていましたが、過去の経験から自分の好きを否定されることを恐れて学校の友達には弁当作りの趣味のことを話せずにいました。 そんな秘密を結果的に自分から水原先生にバラしてしまうことになるのですが 水原先生がその趣味を否定せず認めてくれたために、徐々に彼女に対して心を開いていきます。 水原先生は身長180cm以上で授業の雰囲気からも暗い印象がある先生でしたが、春海くんとの弁当作りの"レッスン"の中では普段とは違う柔らかい表情も見られそのギャップも楽しい作品です。 もしかしたらこの二人の中が今後さらに発展するかもしれないっていう期待もあり、また、登場するお弁当は見た目も中身も良くできていて料理漫画としての側面もしっかりある、いろんな魅力の詰まった作品です。 1巻まで読了

蕗ノ下さんは背が小さい

コビトも鬼も恋してカワイイ! #完結応援

蕗ノ下さんは背が小さい 依澄れい
あうしぃ@カワイイマンガ
あうしぃ@カワイイマンガ

タイトルになっている、花コビト属の蕗ノ下さんがカワイイのは、もうカバーイラストで分かりますよね?コビトで可憐な容姿で、頭に花を咲かせていて、更にしっかり者とくれば……間違い無いな! しかし彼女が一番カワイイのは、幼馴染の鬼ヶ島君(オニくん)と一緒にいる時。寄り添う安心感と秘めた恋心に、くるくる表情を変える蕗ノ下さん、愛らしい! そんな蕗ノ下さんの、素顔を引き出すオニくん。彼はオニ属と人間のハーフで、ヤンチャな子だけれど、蕗の下さんの前では安心した優しい顔だし、蕗の下さんが好きで簡単に赤面したり。怖い男子の素の表情、これまたカワイイ! オニくんの胸ポケットで悶える蕗ノ下さんを見て悶えるオニくんのダブル悶々、威力は2倍じゃない、100倍だ! つい「幼馴染」を強調してなかなか踏み込めない両片想いは、お約束のパターンではありますが、「早くくっつけよ〜」とヤキモキしながら次を求めてしまう、安定の中毒性。 異種属が集まる高校で、様々な恋模様あり、異種属恋愛の難しさや、差別意識なども読み応えのある内容で、二人の将来や様々なカップルの先行き等、もっと読みたかったのですが、3巻で完結。惜しまれますが、とぉーとぉーい素敵ラブコメでした! 蕗ノ下さんの妹達の物語で続編……読みたいなぁ。

くろのロワイヤル 完全版

あらもん作者のデビュー作

くろのロワイヤル 完全版 木下由一
名無し

あらもんを読んでこの作者さんのことを知った人間なので、もちろんくろのロワイヤルの存在も知らなかったんですが、あとがきによると、当時単行本が1冊しか刊行されずお蔵入りとなってしまったエピソードが山のようにあったんだそう。それがこの度完全版として刊行できたということは、間違いなく「あらもん」が人気作品であることの証明でしょう。 いわゆる魔法少女(変身して戦ったりはしない)・くろのと、地味でショボい男子・山野がひょんなことから同居することになるというよくある設定なんですが、ラッキースケベ的なものよりも、山野の方からスケベを取りに行くスタイルを貫いてる感じが他の漫画と違う気がしました。山野のスケベ根性は奥が深い(あくまでエロではなくスケベと言いたい)。 たまにラッキーなスケベが降ってきても、相応?の報いがあるのがまた面白いところ。例えば、くろのの父親にひとりで全裸でハッスルしてるところを見られた際には、坊主になって寺で修行させられていました。また、大体のスケベ行動は盗撮されてくろのに見られています。 細かな小ネタも多く、ここがいいというところは山程あって書ききれません。あらもん好きな人は読んで損しないですし、やっぱりこの作者さんはセンスがいいということを再認識できてよかったです。

あそびあい

それでも恋は苦しい

あそびあい 新田章
野愛
野愛

好きというのはただの感情であって、誰かを縛りつける理由にはならない。 とは思うものの、山下の心情を思うと胸が締め付けられる。 恋の重さも好きの重さも人それぞれで、山下の好きも小谷の好きも優劣がつけられるものではない。それでも、苦しくなる。 小谷は掴みどころがなくてふわふわしてるけれど、凄く現実的な女の子。 めんどくさいから休日でも制服で、特売のスーパーが好きで、気持ちいいセックスが好きで誰とでも寝る。なんとなく複雑な家庭環境を想像してしまうけれど、詳しくは描かれない。 山下はごく普通の純情な男の子。小谷に恋をして、セックスをして、小谷が誰とでも寝ることも知っていて、傷ついてもなお小谷に恋をしている。 好きな人とセックスできたらそれでいいじゃない、自分と過ごす時間を気に入ってくれていればそれでいいじゃないか。 って思わなくもないけど…山下には言えないな。 山下が想像する以上に小谷は山下のこと好きなんだと思うけど、それじゃ足りないんだよな。 先日、『気持ち悪いんだよ、死ね。』という漫画を読んだ。 純粋な好きとか純粋な恋愛は偉いのか?まるで正義のように振りかざしていいものなのか?そんなの気持ち悪いんだよ、というテーマの作品だった。 山下を見ていると胸が苦しくなる。でも、小谷の生き方だって間違いじゃない。 好きの純度も重さも人それぞれだから、誰のことも否定できない。 でもなあ、恋に落ちたら独占して執着して閉じ込めてしまいたくなるんだよなあ。 青春の甘い痛みだなあ。苦しいなあ。

学園恋愛者!

タイトルは直球だけど内容はかなり突飛

学園恋愛者! 栗原まもる
nyae
nyae

恋愛禁止の女子校に入ったものの、コッソリ恋愛をしようとしてしまう主人公。バレた時にはもう大変。犯罪者扱いです。しかし、いずれ学園の横暴なやり方に反発し、校則をも変えてしまおうと、立ち向かうというストーリーです。 禁止されてるから燃え上がるのか、純粋な恋愛をしているのか。つい周りが見えなくなってしまう幼稚さもある10代の恋愛が、学園から受ける仕打ちによって冷静に俯瞰で見ることができるようになるという構図が面白く読めます。 なにより自分は栗原まもる先生のユーモアセンスと緩むことのない猛スピードなストーリー展開のファンで、この漫画もそれをこれでもかと味わうことができるので好きなんです。 また、脇役キャラとして出てくる松木さんというわりとボーイッシュな見た目の女子がいるんですが、その子の見た目が本当に好きで、大袈裟ではなく惚れます(正直、いちばん強く言いたいのはこれ)。あまり恋愛に関心が高くなさそうな松木さんが、違反者が入れられる反省棟で主人公と出会うのは、なぜなのか。そこには切ない理由があるんですけど、松木さんを主人公にしたスピンオフを描いて欲しいくらい良いんです。 ▼松木さん(右)

江波くんは生きるのがつらい

小説を書くためにヒロインとの出会いを待ち続ける男

江波くんは生きるのがつらい 藤田阿登
ANAGUMA
ANAGUMA

小説家志望の江波くんは理想の処女作を書き上げるため、実生活で運命のヒロインと出会いを待ち続けているという思い込み激しい系の陰キャ大学生です。 しょっちゅうカワイイ女の子との遭遇イベントを発生させてるのですが、なんだかんだ理由をつけて「ドラマチックじゃない!不採用!」とすべてのフラグを叩き折り、自らの殻に篭もろうとするありさま。読んでる側としては「十分ドラマチックだから!」とキレそうになること間違いなし。えっ…選り好むな…! 情けない態度ではありますが実のところ「これくらいのドラマではいい小説を書けないかもしれない」という執筆へのプレッシャーからきているものなのです。単純なロマンチストというわけではなく、江波くんの場合は女性との距離と創作への怯えが密接に結びついていて、これが面白いところですね。 そんな彼のイカれた生態に目をつけたのが同級生の清澄さんで、この女もヤバい。江波くんの自我が苦しむさまを見ることに快楽を覚える愉悦系ヒロインで、彼の周囲をかき乱し続けます。江波くんVS清澄さんの自我バトルが衝撃の形で決着する最終回、見届けてほしい。 江波くんの生き様を通じ、創作と自意識が孕む闇が炸裂しながらも面白かわいく描かれています。身に積まされながら楽しく読めました。江波くんのデビュー作読んでみたいですね。

こいぐるみ

彼女は「べき思考」を手放すか #1巻応援

こいぐるみ たなかのか
あうしぃ@カワイイマンガ
あうしぃ@カワイイマンガ

すべき思考orべき思考とは、認知の歪みと言われる偏った思考の一つ。道徳・一般通念や理想像に過度に固執する状態であり、精神疾患を長引かせる要因にもなる厄介な思考。 主人公の女性はこの「べき(すべき)思考」の持ち主。常に「べき」を振り撒く彼女は、何をするにも「べき」と音を出していて痛々しい。 そんな彼女の心を救うプランナーの男性は、キャラクターデザイナーの彼女が創るキャラを愛し、彼女をいつも見てくれる。しかし実は彼は……なんじゃそりゃ!?(試し読みを読もう!) 軽いタッチのラブコメには、ちょっとモヤッとする人ばかり登場する。主人公の家族の人でなし感は物凄いし、主人公に求愛する男性も何を考えているのやら……そして主人公のべき思考も頑なで、自他に押し付ける姿には抵抗感がある。 だが主人公の「べき」が己の心を守っている事、彼女が『アリとキリギリス』の呪いの被害者である事には、心底同調してしまう。誰も望んで苦しい思考を身に付けない。それは防御反応なので、ある程度は周囲のせいなのだ。 男性の可笑しな求愛に振り回され、怒り傷つきながら気付かされる考え方に、ハッとする。頑なな自分と向き合って、べき思考の奥にある「望み」を知る様子に、彼女の心に平和が訪れる事を、我が事の様に祈ってしまう。