アンサングシンデレラ 病院薬剤師 葵みどり

"病院薬剤師"が主人公というだけではない、これまでにない医療マンガ

アンサングシンデレラ 病院薬剤師 葵みどり 荒井ママレ 富野浩充
sogor25
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近年、ややニッチな分野をテーマにした医療マンガが人気になりつつあります。ドラマ化された作品だけでも、病理医が主人公の「フラジャイル」、産婦人科が舞台の「透明なゆりかご」そして平成最後の月9ドラマとなった放射線科が舞台の「ラジエーションハウス」などなど…そして、"病院薬剤師"である葵みどりを主人公として描かれるのが今作です。 今作には、何でも解決できるようなスーパードクターも、私腹を肥やす倒すべき悪徳医師も登場しません。そのかわりに描かれるのは、主人公の葵先生を始めとした「患者さんのため」を想って日々の業務に携わる医療従事者達。彼女達は患者の「当たり前の毎日」を守るために日々の業務を遂行していきます。 そのため、この作品は従来の医療マンガとは少し異なった雰囲気を見せます。例えば、葵先生は主人公らしく熱血漢気味の性格なのですが、その熱血の心で突っ走るだけで問題を解決することは決してありません。突っ走りそうになるところを周りが諭したり影ながら支えたりして、気持ちだけでなく薬剤師としての知見をちゃんと駆使しながら解決を図ろうと奔走します。 また、主人公が医師ではなく薬剤師ということから、患者の生死に関わるような大きなイベントを常に扱ってはいないというのも特徴の1つです。あくまで日常の業務の中で、薬剤師として患者に接する中で直面する問題を描いており、他作品に比べてドラマチックな展開はないかもしれませんが、その分心構えをすることなく読むことができ、でもしっかり心に残るものがある作品となっています。 そして、私がこの作品の1番の魅力と感じている点が「チーム医療」を感じられる作品という点です。医療マンガ・医療ドラマといえば、スーパードクターが問題をバリバリ解決していく、もしくは悪徳医師が登場してそれを仮想敵として打倒していく、という作品が多いように思います。また、ドラマではナースが主人公の作品も多々ありますが、そのような作品も物語の舞台はナ―スステ―ションが中心で、他の医療従事者との接点が薄い作品が多い印象があります。でもこの作品は、仮に初出で性格の悪そうなキャラが出てきたとしても、それは敵対すべき存在ではなく、共に医療を作っていくチームの一員という描かれ方をします。そのため、意見が違った場合には、相手を論破するのではなく今後長く協力していくための"説得"もしくは"議論"するという様子が描かれます。実際、医師と薬剤師が治療方針について"議論"をしている様子を描いている作品はこれまでに殆どなかったのではないでしょうか。この作品は主人公の薬剤師だけでなく、医師、看護師、その他の医療従事者も含めて病院の全てのメンバーで"チーム医療"を支えている様子を垣間見ることができる、稀有な作品だと思います。 このように、色んな意味でこれまでにない医療マンガになりつつある、それがこの「アンサングシンデレラ」という作品だと思います。 2巻では"調剤薬局の薬剤師"という、同じ薬剤師でも特徴の異なる存在も描かれており、今後もたくさんの面から医療の現場が描かれることを期待しています。 2巻まで読了

綿谷さんの友だち

綿谷さんの"真っ直ぐな言葉"が心に響く

綿谷さんの友だち 大島千春
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相手の言ったことを文字通りに受け取ることしか出来ない女子高生・綿谷さん。「凪のお暇」の凪が"空気を読みすぎる"人なら、彼女は"空気を読むことができない"人かもしれない。そんな彼女と、彼女を取り巻くクラスメイトとの物語。 ともすると綿谷さんは"発達障害"や"アスペルガー症候群"などの"病名"をもって語られる存在なのかもしれない。もちろんそうすることで得られる物語的な効果もあるとは思うけど、今作では特段そういう説明のしかたをせず、あくまでよくある高校での一風景として綿谷さんと周囲の日常を描いている。それによって、極端に空気を読まない綿谷さんの存在がより親身なものとして感じられ、現実感のある物語になっている。 そして、空気を読めないことが"真っ直ぐな言葉"となって周囲の人に届くことにより、分かり合えない」のすれ違いから友だちになるまでの過程が高校生活の1ページとしてキレイに可視化されている。 主人公の振る舞いが周りに影響を与えていくというのは「町田くんの世界」や「スキップとローファー」とも近いかもしれないが、興味深いのは基本的に各話の語りの中心が綿谷さんではなくその"友だち"の側にあること。それは各話サブタイトルが友だちの名前になっていることからも分かるし、後から思い返すと作品のタイトル自体も「綿谷さんの"友だち"」だったと気付かされる。そういう意味ではもしかしたら「桐島、部活やめるってよ」に近い演出なのかもしれない。ただ、他者視点が多いなかで綿谷さんの視点でも要所で描かれており、実際に読んでみるとかなり極端な存在なはずの綿谷さんに対しても感情移入できるように作られている。 綿谷さん視点でも"友だち"視点で見ても、いずれにしても作品全体の"真っ直ぐさ"が純粋に心に響く作品。 1巻まで読了。

綿谷さんの友だち

正直に生きにくい人間の清涼剤

綿谷さんの友だち 大島千春
六文銭
六文銭

同著者の「いぶり暮らし」が好きで、その作家さんの新作ということで読了。 いぶり暮らしでは、グルメ漫画の面よりも、燻製生活を通しての同居人二人の関係や周囲の人間とのやりとりーーいわゆる「人間模様」が好きだっただけに、この作品はよりその点にフォーカスした作品で、個人的にドンズバでした。 綿谷さんは、周囲とあわせられず、空気も読めず、冗談も通じない、不器用な人間です。 「シャーペンの芯ちょっともらえない?」 と聞かれ 「ちょっとって、具体的にどれくらい?」 と聞き返すような感じ。 言葉通りにしか受け止められず、本音でしか生きられない。 皮肉も通じない。 なんと生きにくいだろうなぁと思いながら、どこか彼女を羨ましく思えてしまう。 周囲にあわせるだけの、風見鶏になっている自分としては。 最初は一人だった綿谷さんも、徐々に理解され、また綿谷さんも理解し(学習とも?)、友だちが増えていって、その過程も読んでいてい気持ちいいです。こういう人が報われるのって、嬉しくなるのです。 また、人間関係うまくいってそうなクラスメイトも、内面では色々問題を抱えていて、今後それがどう展開されていくか楽しみです。

マンガ酒

酒豪列伝よりも下戸の喜怒哀楽語りが多い酒エッセイ

マンガ酒 新久千映 鈴木小波 北駒生 他
名無し

お酒大好きな酒豪漫画家連中が登場するかと思いきや 「実は私は下戸でして」で始まる漫画が多い。 どうらやコミック・ゼノン連載陣を中心に リレー形式で酒に関する話を語ってもらった エッセイ的な漫画を纏めた本らしい。 下戸でもいいです酒にまつわる思い出話でもいいし、 みたいなワリと緩い感じの企画だったみたい。 そりゃそうだ、漫画家がみんな 土田世紀先生や西原理恵子先生みたいな人 ばかりのわけがない。 むしろ、このくらいの人が揃うほうが普通。 これで酒豪ばかりのエッセイ漫画がそろったら、 コミック・ゼノンはどんな雑誌だよ、となるし。 漫画ゴラクやアクションならともかく(ゴメン、偏見です)。 そんな感じで、ヘベレケに泥酔した話とか 酒乱気味に大暴れして大失態みたいな話とか それほどにはなくて、 下戸からみた客観的な酔っ払い観察記、 みたいな話が多い。 この漫画を読んで酒を飲みたくなる人は少ないだろうが、 お酒にたまに触れる生活、 家族や友達に酒好きがいる日常、 酒が引き出してくれて知った自分や知人の意外な一面、 世の中には、そんなあれこれがあってもイイんじゃないの、 と思ったりはする漫画だった。 そういう意味ではいわゆる飲兵衛漫画とは 別角度からの酒肯定漫画なんだけれども、 果たしてこの漫画を企画した意図が そういうことだったのかどうかは解らない。

企業戦士YAMAZAKI

パワー・オブ・ドリーム

企業戦士YAMAZAKI 富沢順
マウナケア
マウナケア

最終話のタイトルでもある「パワー・オブ・ドリーム」――。これを鳥がなぜ空を飛べるのかと重ねて、命は望んだ方向へと歩んでいくもの、と主人公の山崎は語ります。人もまた同じで、強くなりたいと思う格闘家は過酷な練習を自らに課し、どんな病気でも治したいと思う医者は知識の吸収にさまざまな症例を見る。じゃあ、われわれ会社員の望む道とは? そんなことを考えさせられるのがこの漫画です。山崎は過労死した後、サイボーグとなって復活し、業績の落ち込んでいる会社に派遣され斬新な企画を提供する特A級企業戦士。燃やせる缶や壁掛けテレビ、新型コミュニケーション空間の提供と、新製品をプレゼンしながら、業績が上向かない理由=人の心の問題を解決していきます。その問題とは考えることを止めたり、他人の足を引っ張ったり、簡単な仕事しかしなかったり、部下とコミュニケーションできなかったり、などなど。ライバル社の企業戦士との格闘を通し、ビジネスマンのあるべき姿を説く山崎の台詞は説得力十分。日々流されて二の次になってしまう”こうありたい”と思う心。それを忘れないようにしよう、と思わせてくれます。