ならべ カヤック

カヤックで楽しく働く面白く熱い人々 #1巻応援

ならべ カヤック 羽賀翔一 川田大智 つきはなこ かっぴー 歩 ぐみこ えの 面白法人カヤック ハシモトスズ
兎来栄寿
兎来栄寿

昨年で25周年を迎えた、「サイコロ給」などで有名な面白法人カヤック。そこで働くさまざまな人や事業を、『漫画 君たちはどう生きるか』の羽賀翔一さんや『左ききのエレン』のかっぴーさん、『半人前の恋人』の川田大智さんなど、さまざまな漫画家の方々が描いたマンガです。 15周年の際に公開されたものなど一部古いものも含まれていますが、内容としては今読んでも十分面白いです。 『ことばのパズル もじぴったん』や『冒険クイズキングダム』を作った後藤裕之さんの「存在感の作り方」では、後藤さんが円周率を42195桁暗唱して世界記録を樹立したり、夏休みの自由研究で人間が100時間寝ないとどうなるかの研究を自分の体を使って人体実験した話など、突き抜けたお話がまず面白いです。 マジカルラブリーの『スーパー野田ゲーPARTY』も後藤さんだったんですね。川田大智さんが描く「スーパー野田ゲーPARTYを作った男たち」も笑いながら読みました。(『野田ゲー』の中でも邪道バースは天才的だと思いましたし、全国大会も熱かったです)。 突飛なところはもちろんですが、地に足のついたビジネス的な部分の良さもあります。 「ゲームやサイトを作るだけがクリエイティブな仕事ではない」 「メールひとつにも思いと工夫をこめれば喜んでもらえる」 という、秘書を描いたエピソードなどは社会人にとって参考になる一節でしょう。 それを体現するかのように、別の話ではユーザーからのゲームへのお問い合わせに世界観を尊重し反映した回答をするという別の社員のエピソードが描かれており、「王が履いているパンツは何色か」という質問にも極めて真摯に答えていきます。 ゲーマーならお世話になったことがあるかもしれないLobiや、e-sportsの普及に向けての愛溢れるモチベーションなども読んでいて高まります。コロナ禍でオフラインの大会が消えても、オンラインで毎週大会を行い配信をして格ゲーコミュニティを熱くし続けたなどの近年のエピソードなども好きです。 総じて、楽しみながら仕事をするということの素晴らしさ・大切さを教えてくれる掌編が詰まっています。 現在多くの電子書店で無料で全編読めるので、この機会にぜひどうぞ。

クリオネの告白

暗い事情で結び付くふたりの少女 #1巻応援

クリオネの告白 ざくざくろ
兎来栄寿
兎来栄寿

ドラマ化もされた『初恋、ざらり』で一躍有名になったざくざくろさんのマンガは、血を流しながら描かれている印象を受けます。 目を背けたくなるようなしんどさにしっかりと真摯に向き合って、触れると痛みが走るそれをもがき苦しみ叫びながら掴まえて、芯を捉えてくり抜き提示してくる。そうして身を削り魂を削るようにして描いたものだからこそ、読む者の心にも鋭利に爪を立てて掻き傷を残す。そんな作品です。 詳細は違えど、この作品で描かれるうららと似たような状況に立ったときの記憶が否応もなく蘇りました。その子にとって、自分しかいないのは解る。好きでいてくれるのも解る。でも、それに応えてしまうとより深い依存となってその先は底無しの沼が待っているのも解る。そこで適度に距離を取れれば良いけれど、その選択肢は有り得ない。それによって他の繋がりも犠牲にすることも含めて無限にどこまでも受け入れるか、この瞬間に離れるその子を再び孤独に追いやるかの二択。 今ははっきりと問題とされていても一昔前なら顕在化しにくかった父親の行為の気持ち悪さや、それを看過してしまう母親の在り方、それによって家族に味方がいなくなり孤立し傷つく様なども非常にリアルで流石です。 暗澹たる部分が縁となりながら、ある種の美しい煌めきを見せるように結びついていく寧々とうららの関係性。しかし、その最中に寧々の心の中からもたげてくる激しい情動。寧々はそれをどのように扱っていくのか。それを受けるうららは果たしてどうなっていくのか。 心と魂にたくさんの火傷や切り傷を負いながら描かれた重みを味わいたい方にお薦めです。 余談ですが、今日はポケモン28周年だとか。初代ゲームボーイが描かれる1997年という舞台設定が懐かしさを催します。

おでんダネはよもやま話で

体も心もポカポカに #1巻応援

おでんダネはよもやま話で まるいがんも
兎来栄寿
兎来栄寿

9月まで続いた猛暑の和らぎから一転、急速に寒さが増してきて秋が短すぎると感じる昨今。 いいとこ探しをするならば、温かいものが美味しく感じる季節になってきたというところですね。そう、たとえばおでん。皆さんはおでんの具では何が一番好きですか? 私はかつてはちくわぶ一択だったのですが、近年は大根・玉子という鉄板に加えてもち巾着も非常に好きで、なかなか選ぶのが難しいです。そんなわずかな好みの変遷も人生の一部だなあと、このおでんの向こう側に人生を見るマンガを読んでいると思い耽ってしまいます。 本作はおでんとコーヒーを提供するお店を舞台に、訪れる多種多様なお客さんたちが繰り広げる人情劇です。 お酒は置いておらず、あくまでコーヒーとおでんだけを楽しむというちょっと変わったお店。その取り合わせは未体験ですが、コーヒーも多様なのでおでんと合うコーヒーもきっとあるのでしょう。一度試してみたいです(ちなみに、作中で登場するおでんの残り汁とカレーを合わせたおでんカレーはたまに作って美味しいことは知っています。和風だしとカレーの相性はカレーうどんで証明されていますしね)。 こういった小さなお店は何より店主の存在が大きいのですが、このお店の店主は「粋」が解る人物で読んでいて安心できます。お店が人気になるのも納得です。 昔から変わらずある練り物やこんにゃくなどのベーシックな具材。ロールキャベツのような、後年にニューフェイスとして登場した具材。新旧どちらにも良さがあるおでんの具材たちですが、それは人間社会にも同様に言えることであるなど、おでんを通して人間ドラマの数々が描かれていきます。 個人的に、終盤のあるエピソードは特に共感するところが多く自分の過去を思い返しながらしみじみと読みました。 この作品の前身となる「さかえ通りO.D.N」も収録されているのですが、高田馬場のさかえ通りも少し馴染みがあるところなので親近感が湧きました。 おでんのように素朴で温かい、味の染みた作品が読みたいときにお薦めです。 なお、あとがきによると連載前にコルクの合宿で大谷翔平選手もすなるマンダラチャートをしてみんとてするなりと中央に「WEBメディアで連載する」と書いて、実際に連載を始められて、こうして本にもできたそうで驚きました。まさか、こんなところでも大谷選手のすごさを見せつけられるとは。