江波くんは生きるのがつらい

小説を書くためにヒロインとの出会いを待ち続ける男

江波くんは生きるのがつらい 藤田阿登
ANAGUMA
ANAGUMA

小説家志望の江波くんは理想の処女作を書き上げるため、実生活で運命のヒロインと出会いを待ち続けているという思い込み激しい系の陰キャ大学生です。 しょっちゅうカワイイ女の子との遭遇イベントを発生させてるのですが、なんだかんだ理由をつけて「ドラマチックじゃない!不採用!」とすべてのフラグを叩き折り、自らの殻に篭もろうとするありさま。読んでる側としては「十分ドラマチックだから!」とキレそうになること間違いなし。えっ…選り好むな…! 情けない態度ではありますが実のところ「これくらいのドラマではいい小説を書けないかもしれない」という執筆へのプレッシャーからきているものなのです。単純なロマンチストというわけではなく、江波くんの場合は女性との距離と創作への怯えが密接に結びついていて、これが面白いところですね。 そんな彼のイカれた生態に目をつけたのが同級生の清澄さんで、この女もヤバい。江波くんの自我が苦しむさまを見ることに快楽を覚える愉悦系ヒロインで、彼の周囲をかき乱し続けます。江波くんVS清澄さんの自我バトルが衝撃の形で決着する最終回、見届けてほしい。 江波くんの生き様を通じ、創作と自意識が孕む闇が炸裂しながらも面白かわいく描かれています。身に積まされながら楽しく読めました。江波くんのデビュー作読んでみたいですね。

桜は君に3度舞う

同級生の教師と生徒という不思議な関係性

桜は君に3度舞う 炊田鳩子
兎来栄寿
兎来栄寿

炊田鳩子さんの初単行本。どこかで描いてた方なのかな? と思うほどに絵もネームも非常に読み易いです。ちなみに、一瞬吹田かと思ってよく見たら炊田(たけた)さんでした。作者名にルビが振ってあるのはありがたいといつも思います。 1年で3歳分歳を取る特異体質を持つ加藤が、かつて同級生だった友人折原と生徒と教師という立場で再会するところから物語は始まります。 この根幹にある設定が、さまざまに作用して妙味を生み出します。先生としては子供っぽいと周囲から見られている加藤。しかしその実は……というところが描かれていきます。20年生きると60歳分加齢されるとしたら、自分はどのように生きただろうと思わず考えさせられました。 第7話で病院で出逢うおばあさんとの、病気に対する向き合い方にまつわる会話のシーンはこの作品でも特に好きなところです。この病気が実在しなかったとしても、人間が自分の力ではどうにも立ち行かなくなってしまった時にいかに生きていかに周りの人間と関わって行くかというテーマは普遍です。 人間の価値は、自分の最期を悲しんでくれる人がどれだけいるかで決まると教えてくれた中学時代の先生の言葉を思い出しました。物語の行く末は寂しい結末を予感させますが、加藤が迎える終わりを見届けたいです。 余談ですが小深田先生や国頭先生など、ショートカットの女性がやたらと魅力的に感じられました。私はロング派なんですが。

エンとゆかり

二つの「縁」が繋がる異世界冒険譚! #1巻応援

エンとゆかり しろううらやま
あうしぃ@カワイイマンガ
あうしぃ@カワイイマンガ

酒場の店員・ゆかりの命を救ったのは、記憶喪失の剣士・エン。二人の不確かな道が交わる時、不思議な縁が大きな物語を引き寄せる……。 ★★★★★ ドラクエ的世界観はとても分かりやすく、面倒な世界観の説明無しに、ゆかりとエンと、二人の周囲の関係性に自然と入っていける。 エンに惹かれて冒険者を志すゆかりだが、彼女は強力なスキルどころか、才能の片鱗も見せられない。それでもスリルに喜びを見出し、無茶をするゆかりと、ゆかりに友達と言われた事が嬉しくて、彼女を助けるエン。二人の思い合う心は、それぞれの縁を繋げていく。 ゆかりの友人達とも親しくなるエン。記憶喪失のエンを拾って共に旅をしてきたパーティ、王都でアトラクションを経営する「魔王代理」とその一味……全員がコメディに参加しながら、何か不明なものを内に秘めている。彼らが1巻の後半に少し繋がる時、平和な世界に大きな動きを予感させ、この先への期待感を煽る。 複雑な世界観はなくても、思い合う人々の「縁」を繋げて輪を広げて行くだけで、世界はこんなにもワクワクしていく。そういう楽しさを、今後もゆるく追っていきたい……本当に何も出来ないクセに、度胸は人一倍なゆかりを心配しながら。