ゾワワの神様

文化か、ゴミか。 #1巻応援

ゾワワの神様 うえはらけいた
兎来栄寿
兎来栄寿

3年前、「はてな匿名ダイアリー」に投稿されて話題になった記事があります。 私は広告制作の現場を辞めて、広告を屠殺する現場に転職をした https://anond.hatelabo.jp/20200311165317 広告は文化とゴミのあわいを漂っており、気を付けなければすぐにゴミとなってしまう。しかし、新たに入ったWEB広告会社では愚直に数字を追いかけて作られる広告が溢れ、そこでは文化としての広告が屠殺されていた、と。 最近話題になっていたのが、NURO光の広告とビビッドアーミーの広告の問題です。それぞれ若干性質は違うものの、これらの問題はまさに上記の記事で警鐘を鳴らされていたようなところの延長線上にあるのではないかという指摘は当然で、今後も引き続き起こっていくのでしょう。 しかし、文化としての広告の素晴らしさも依然として存在します。それを描いているのが本作です。 『ゾワワの神様』は作者のうえはらけいたさんが実体験を交えて描く、広告会社でコピーライターとして働き始めた青年の奮闘記となっています。1話あたり5〜7Pほどの掌編で、SNSで公開されていた際にはたびたびバズっていた人気作品です。 主人公は、「とてつもない表現」に触れた瞬間の感動を通り越した「ゾワワ」をいつか自分も作り出したいという想いを胸に広告代理店に就職した青年。 広告業界や協業する他業種の人々も含めて個性的でカッコいい先達たちの言動に励まされながら日々成長を遂げていく主人公の姿に、読んでいると気付きや勇気をもらえます。 作り手が、自分の作るものを笑ったり恥ずかしがったりしてはいけない。 言葉は万能でないことを肝に銘じながら、受け手の想像力を信じる。 良いモノを作りたいならちゃんと寝た方が良いが、コンマ秒の差の気持ち良さを追求して夜を徹する。 文化としての広告に本気で取り組む人々の話は業種を越えて普遍的に刺さるものもいくつもあり、一欠片の勇気を貰えて自分も明日の仕事をいつもより頑張ろうと思えます。 最上級表現に敏感になってしまうので、気軽に「最高」や「日本一/世界一」のような言葉を使えなくなってしまうという職業病的な話など、笑えるパートもあって、ずっとシリアスすぎるわけでもなく緩急がちょうど良いです。 ″コピーライターは孤独な職業だ―――しかし その孤独は必ずしも辛いものではない″ のくだりは特に好きです。孤独なようで、実は孤独ではない。そんな闘いの果てに、誰かの心を動かすことのできる瞬間が訪れたら最高なんですよね。 もし、広告がただのゴミであるならばそこに感動など生まれようはずもありません。しかし、人が力を尽くせば感動を生むものを作り出せる。だからこそ広告は文化たり得るのでしょう。文化としての広告のために全力を出す人を私は応援しています。

狼への嫁入り~異種婚姻譚~

異種間の人外結婚BL

狼への嫁入り~異種婚姻譚~ 犬居葉菜
るる
るる

途中まで練の楓への対応があまりにも冷たくて読んでて泣きそうになった。 そんな中、何とか関係を改善しようと気を使う楓が可愛い。 ウサ耳も可愛い。 先祖返りの少し前から良い感じになってきたし、先祖返りしたのも嫉妬が原因な気がするし、結果とても可愛い2人だった。 2巻まで。 先祖返りの危険から完治した練だけど、それまでの投薬のせいか元々の性格か、心の機微にかなり疎くて相手をいつも無自覚に傷つける。 新会社の社長に就任予定についてもその点が懸念されるし指摘もされる。 そういうゴタゴタから逃げたくて獣化することが多くなっている中、楓と一緒に兎の村に里帰り。 楓がいつも元気に前向きで可愛い。練にとっても癒しだろうな。 3巻完結。 薬で感情が動かないままずっと生きてきて、楓と出会ってから知らない感情や視点がどんどん増えてきていっぱいいっぱいになっている練の成長。 周りが自分の発言で変な反応することにようやく気づき始めて、でもそれがどうしてか分からず悩む。 そこに気づいてサポートする楓が健気で可愛い。 (「アドバイスの「よく頑張りました」が違う方向に行っちゃうの笑ったけどw) 個人的には兎のゆりちゃんがめちゃくちゃ可愛かった🤣

発達障害なわたしたち

大人の発達障害について #1巻応援

発達障害なわたしたち 町田粥
兎来栄寿
兎来栄寿

『マキとマミ~上司が衰退ジャンルのオタ仲間だった話~』や『吉祥寺少年歌劇』の町田粥さんが、担当編集のK成さんと共に当事者として「大人の発達障害」についていろいろな方々の話を聞いていくエッセイマンガです。 K成さんといえば、マンガ好き界隈では和山やまさんを2000字の長文DMで口説き落とした事件が有名ですが(そこから『女の園の星』が生まれたのは素晴らしいですね)、他にも ・高野ひと深さん『ジーンブライド』 ・池辺葵さん『ブランチライン』 ・ためこうさん『ジェンダーレス男子に愛されています。』 など錚々たる作品・作家さんの担当をされています。個人的には西つるみさんの作品でのイメージも強いです。私は町田粥さんの作品が大好きなこともあり、連載開始時から親近感を持って読んでいました。大事なテーマを丁寧に扱いながらも、笑いも多く取り入れられていて楽しみながらたくさんの学びを得られる内容です。 本作では、カメントツさんなどの同業者や、発達障害の方の支援を行なっている企業の方、医師など、発達障害の当事者や発達障害に詳しい方々が出てきて諸々の角度から語られます。 それぞれの人ごとにそれぞれの特性があり、「ケアレスミスが多く、クラスの忘れ物チャンピオン」「片付けが苦手でカーテンフックは取れたまま」「やりたくないことはやれない/先延ばしにする」、「マルチタスクは苦手だがひらめきやデザイン力には秀でている」、「書類の管理や毎日コツコツが苦手」、「フリマサイトでの発送作業が無理」、「人の顔や名前を覚えるのが苦手」などなど、実例を伴ってさまざまな事例が語られます。 それに対して、「約束をしない」、「カバンを替えない」、「家から出ない」、ヘルシオやホットクックやドラム型洗濯機を活用するなど実践的な対策も多々。何かしらか社会で他の人と上手く行かないと思っている人が読むと、自分もこの類型なのかもしれないと解って大きな助けになるかもしれません。私自身も当てはまる項目が結構あるので、1度診断を受けてみたいなと思わされました。 また、カメントツさんの「よく会話はキャッチボールと言われるが、キャッチボールでなくて良い」という件はなるほどなと思わされました。考え方ひとつを知るだけでも、進む相互理解が溢れています。 心の病気ではなく、脳の働きの違いである発達障害。いまだに理解から程遠い環境もあると思いますが、この1冊を読むだけでも相当に解像度が高まり世界が優しくなるのではないかと思います。スーパーで朝だけ放送を流さない静かな時間帯を設けることで、情報量の多さに苦しくなる人の助けになるなどは日本の店舗でも広まって欲しいです。 また、発達障害の当事者が苦手なことを最初から明文化しておくのはお互いにとっての不幸の芽を刈り取ることに他なりませんし、それが自然にできる社会になれば良いと思います。 余談ですが、『ポポロクロイス物語』や『ボクと魔王』が好きな方に食いつくところ、好きです。