講談社マンガの感想・レビュー6230件<<204205206207208>>植物から“人間”という存在そのものを考えさせられる緑の黙示録 岡崎二郎名無し手塚治虫や藤子不二雄、少女マンガの諸作品を読んでいて思うのは、昔は本当に短編マンガが多かったなあということです。そのどれもに鋭くきらめくようなアイディアがあって、それが短いページ数でドラマチックに展開してハッとする落ちそして、いつまでも記憶に残る読後感がそこに生まれます。手塚治虫作品でいえば「ドオベルマン」、藤子・F・不二雄作品なら「カンビュセスの籤」に「ノスタル爺」。大友克洋作品で「宇宙パトロール・シゲマ」。諸星大二郎作品なら「感情のある風景」と、どの作品も、読んだその日の情景まで思い出させるほど、記憶に強く残っています。 そういえば、『ブラック・ジャック』『MASTERキートン』のようなオムニバスの作品も減ってきたイメージ。短編マンガは、現代のマンガ状況では完全に日陰者のようです。 そんな今でもショートショートのような味わいの短編を数多く発表しているのが岡崎二郎という漫画家です。代表シリーズの『アフター0』は、これはもう完全に星新一ショートショートの世界。一編一編新しいアイディアのつまった短編がこれでもかと並んでいてとても贅沢な作品群となっております。その後、発表された作品は完全に短編という形ではないものの、やはり連作短編形式のものが多く、一話一話できちんと完結し、独特な読後感を残す作品ばかりです。 僕が特に好きなのは『緑の黙示録』です。樹木と心を通い合わすことができる少女・山之辺美由の4編の物語です。 山之辺美由の能力は超常的なものですが、そこから起きる事件に関しては科学的な説明がなされるというのも面白いです。「第一話 ウパス」では温室で育てられたウパスという木の下で人が死んでいたという事件に山之辺美由が関わるという筋書きです。もともとウパスは矢毒につかわれるような毒を持つ木ではあるのですが、原因がわからない。そこで美由が自分の能力で事件の真相に近づこうとします…。 岡崎二郎作品の魅力はこういった科学的なワンダーが全て人間につながって行くことです。恐竜や宇宙や動物や植物といった人間以外を題材にしていながら、そこから“人間”という存在そのものを考えさせられる、そのダイナミックな読後感にいつもぼーっとなってしまうのです。夏の夜に読みたくなるマンガほしにねがいを 中川貴賀starstarstarstarstarひさぴよ双子の高校生、藤木輝と香夜は夏休みに入った日、祖父に呼び出され、隕石の落下地点に行くことになった。その目的は隕石を人に変えることだと祖父は言う…。 正直、あらすじだけでは何を言ってるのか訳がわからないと思うが、この物語は実際そういう話だ。 この世界では、「落ちてきた星(隕石)を人に変える」という世にも不思議な仕事があり、お祖父さんはその役目を担う一人だったのだ。 人に変えられた星たちは、見た目は人間と変わらないがスーパーマン(表立っては活動したりはしない) のような存在に近く、考え方のスケールは、ヒトとは全く異なる存在だ。 星を人に変えた者は、願いを一つだけ何でも叶えてくれるという約束があり、お祖父さんは、その役目を主人公たちに託す。しかし輝と香夜は願いを決めることがなかなかできない。 実は主人公一家は、過去にとてつもない理不尽な目にあっていて、「いま何を願うか」と星から問われ、それぞれが葛藤しながら田舎での日々を過ごす…。 この漫画の魅力のすべてを言葉で説明することは難しい。まぁ全体的に優しい人間しか登場しないので、ほのぼのSFな雰囲気なのだけど、双子の男女それぞれの目線で、過去の喪失であったり、やり場のない憎しみと向き合い成長する姿に一番心を動かされた。この1冊の中に、ちょっと詰め込みすぎかな?と思ったけど、最後はどうなるんだ!?というところで、駆け抜けるようなラストの終わり方が好き。 海、船、魚、犬、アイドル、そして神様…。ふなだまさん 西川丸名無し都会の女が仕事を辞め旅にでて酒に酔い目が覚めたら漁船にいた…から始まる。船に乗っているのは女と漁師のおばあさんと犬。実はこの犬は船の神様「ふなだまさま」の依り代でもあるのです!このワンちゃんとっても可愛い。 女は超のつくアイドルオタクであり、この旅の行き先も推しの楽曲タイトルを元にダーツで決め、ふなだまさまにお供えする魚も顔で決める。旬のアジはめっちゃ美味しそう! 思いがけず盛りだくさんなマンガだった…。 短期集中隔週連載ってどうなるんだろう。人魚と青年 出会いと別れの8P読切人魚注意報 ほづみ真奈名無しきんぎょ注意報ならぬ、人魚注意報。 人魚の飼育が認められている世界。 ある日人魚が空から降ってきて、名前もつけて飼うことにするも、雨の日に空へ帰ってしまうという短いけれどドラマティックなお話でした。 サクッと読めるのもいいけれど、人魚が家に来てどう生活が変わったかの描写も読んでみたかった。 この作者の頭の中を覗いてみたいパパと踊ろう 地下沢中也かしこ「子どもの頃に爆笑しながら読んでて思い出したら懐かしくなって最近大人買いした」という人から借りて読んでいるのだが、令和になって初めてこの漫画を読む身とすれば素直に爆笑できなかった。もちろん笑ってはいるんだけど!今の時代にこのネタは描けないだろうな…と冷めている自分がニクい。ただ、やはりこの作者は普通ではないと感じさせる気配がずっとある。例えば、ふっ子が空を飛ぼうとして木から激しく落下すると場面が変わり「今年の正月につくった雪だるま」が現れてふっ子を死後の世界に連れて行こうとする。天使とか死神ではなく溶けて消えてしまった雪だるまなのがすごい。エロ・グロ・ナンセンスなネタの中にふいピュアな部分があったりする、その何を考えているか分からなさがオリジナリティーだし、この作者の頭の中を覗いてみたいって思わせるのは才能だと思う。いい夏のマンガぼくらのよあけ 今井哲也アファームドB※ネタバレを含むクチコミです。的確に 狩猟の世界を描いている漫画山賊ダイアリー リアル猟師奮闘記 岡本健太郎名無し小さい頃から、やることなすこと漫画に影響されて生きてきたと自負しておりますが、30歳にもなってもその性分が抜けていませんでした。この『山賊ダイアリー』を読んで、妙なテンションになってしまった私は、突発的に狩猟免許を取ろうと志し、現在、試験の結果待ちという状況です。 『山賊ダイアリー』のなにがそんなにも私の心を動かしたのか。それは、鳥・狩猟をし、それを捌いて調理し、おいしくいただくという、猟師の日常に対する、とてもシンプルな憧れです。『山賊ダイアリー』はダイアリーという通り、作者である岡本健太郎の猟師としての日常を描いています。仲間と獲物を探したり、罠を仕掛けたり、先輩猟師からおすそ分けしてもらってり…そんな出来事が淡々として描かれているのですが、狩猟とは縁遠い人間にはそのどれもが新鮮に映ります。 よくよく考えてみれば、狩猟という文化も間違いなく日本の文化の一部で、2~3代遡ればもっと身近なものだったのに、今はとても遠くのものにあるように感じます。実際、狩猟について色々調べてみましたが、やはり銃を持つということは大変に難しいということがわかりました。そりゃそうです。人口の大部分が熊害も鹿害も猪害も無関係な都市に住んでいる現在、市民生活を脅かすおそれのある銃を許可する必要があるのかということですから。 それでも、この『山賊ダイアリー』に描かれている「DIY【Do It Yourself】精神」には自分の日常を変えるきっかけになるのではないかと思います。 他人とは思えない主人公私がモテてどうすんだ ぢゅん子私もモテたいタイトルだけは知ってたのですが読んだことなかったので。 タイトル通り!私がモテてどうする! オタクで腐女子な主人公が超モテ期がきてしまうという話。 あのイケメンが好きこのイケメンが好き、だけど自分を好いてくれる期待は別にしてない、そこに突然のモテ期! 主人公がオタクなので思考に共感できるんですよね。 「推しの〜が〜で…」とか「デートに誘われたけどオタクイベントを優先させたい」とか。 そこがギャグ超に描かれてて面白い! さらっと読めます! 今3巻まで読めるので試し読みぜひ!読み進めるのを止められない。内容を受け止めきれない大丈夫。世界は、まだ美しい。(読切) 荒井瑞貴たか基本的に漫画の煽りとかは読まない。 独特の絵柄で描かれる切ない日常系の話だと思って読み進めていくと、徐々に「妙にリアルな写真を加工したような絵」が出てきて嫌な予感がしたけど、不安なままページを捲る手は止まらなかった。 読み終わってから振り返ると、2ページ目の柱に「エッセイ漫画」とあった。 この漫画から受けた衝撃・登場人物の感情が「本物」なのだとわかってしまい、いまは自分が読んだ内容の重さに非常にしんどい思いをしている。 恋人を喪う作品はいくらでもあるけど、ここまで立ち直れないような思いをしたのは初めて。 大丈夫なフリをして、抜け殻の自分を人形のように操って生きていく主人公の描写がこびりついて離れない。 http://www.moae.jp/comic/thegate_sekaiwamadautsukushii面白いものが作りたい、ただそれだけも 三浦よし木名無し少なくとも自分は、このような経緯で描かれた漫画は読んだことがなかった。 最初は完全なフィクションとして読んでいたけれど、まさか実践していてしかも映像を作品として残しているとは。 「も」の上での生活が快適なはずがないのはやらなくても分かるけど、やったからわかること、見えるものはたくさんある。だからモノづくりはやめられない。トイレのくだりはゾッとしたが。笑 最期、めちゃくちゃ優しい先生の恩を仇で返したオチがよかった。今後も唯一無二のマンガを描き続けて欲しい。 美しい表紙はそれだけで買う理由になるウィッチクラフトワークス 水薙竜mampukuマイナー月刊誌らしい、緻密な描き込みと繊細なタッチ、独特の引き込まれる雰囲気、三拍子揃った雰囲気ファンタジー漫画です。とはいえ敵の「塔の魔女」たちも個性的キャラクター揃いで飽きさせない面白さがあります。 美麗な表紙に誘われて手に取った人でも、中身で裏切られたと感じることはないはずですタケコさんの恋人タケコさんの恋人 望月玲子starstarstarstarstar干し芋タケコさんの『仕事』『夜遊び』『しーちゃんとの時間』の切り替えが 素敵! 寡黙で自分の世界観を大切にしているしーちゃんは、とても魅力的だけど、恋人にするとずっと落ち着かない気持ちになって、自分を失いそうになる予感。 でも、タケコさんが唯一、素直に可愛い女性になれる相手なので、貴重かも?空手小公子 小日向海流空手小公子 小日向海流 馬場康誌さいろく小日向海流 格闘技はお好きですか?なんか聞いたことあるキャッチですが…格闘技というと空手、柔道、ムエタイ、コマンド・サンボ、柔術、レスリング、テコンドー、マーシャル・アーツ、ボクシングと様々なジャンルや流派がありまよね。主役である小日向海流はもちろん空手ベースです。しかしこの作品には実に多種多様な、一人一人がしっかり印象付くような名脇役たちが出てきます。中でも実在の人物をモチーフとしたキャラたちが生き生きと描かれているところに着目して欲しいですね。私はプロレス好きでして、先日武道館にて故・三沢光晴氏の追悼興行に行って参りました。と、ここで三沢さんの話を書いてたのでは文字数が足りないので省きます…が、その三沢さんそっくりのキャラも出てきます。34巻なんかでは某インディ団体のエースにそっくりなプロレスラー・田伏隼との試合が描かれていますが、この田伏のキャラクターが実にイイ!他にも魔●斗氏やレ・バ●ナなど、素晴らしいキャラたちがオリジナルキャラたちとうま~く絡んでます。無論、面白い漫画を構成するに必要な要素は全て揃ってますので、安心してお読み頂ける作品ではないかと。あ、女の子もカワイイですよ! とにかく2話まで読んで...!!わたし(仮) 奥津武たか自殺すると決めた男など笑撃の読切を送り出してきた奥津武先生の連載作品。 「自分の顔も名前も思い出せない主人公は、目覚めた部屋の風呂場で首の落ちた女の死体を見つける。するとそこへ1人の女が訪ねてきて、主人公の名前を教え、自分は彼女だと名乗り、2人は脅迫メールに従い死体を処理することに…」というあらすじ。 【第1話】 https://pocket.shonenmagazine.com/episode/10834108156666181760 美麗な絵で描かれるシリアスで緊迫した、王道サスペンスな1話を読んで、「奥津先生、もうギャグは描かないのかな…」と寂しく思っていたら、**第2話からいつもの調子**が戻ってきて安心しました。 **人の内心・取り留めのない思考で笑わせてくる**のが奥津先生のマンガの魅力で、それがサスペンスでも存分に発揮されていて、**怖いのに笑ってしまう**新しいタイプのサイコホラー。 どんな結末を迎えるのか…今後の展開が楽しみです。この自堕落OLに絆されたい少年、ちょっとサボってこ? 赤城あさひとsogor25主人公は帰り道でも歩き勉強に励むマジメ度数80%の高校生。彼を通学路で待ち伏せするのはオフィスの外に出て仕事をサボってる謎のOLのお姉さん。一緒にサボりたいお姉さんとマジメを貫いて勉強したい高校生、2人の誰も傷つけることのない攻防のお話。 自分からガンガン絡んでくる割に絶妙に隙があって、でも適度にエロすぎないお姉さんと、基本マジメだからお姉さんの誘惑に抵抗しようとするも、残り20%の心の油断のせいでいつも根負けして流されてしまう高校生。脳のスイッチをOFFってずっと眺めてたい作品。 1巻まで読了ある男子高校生の少し不思議な成長の記録吐露 三ト和貴starstarstarstarstar吉川きっちょむ(芸人)ある日、トイレで吐いた吐瀉物はむくむくと好きな人の形へと変化し、それ以来部屋では彼女と、思ったことを思ったように好き放題行っていた。 思春期に、自分勝手で利己的であった自分から、他人との境界線を感じ、思うようにできるものとできないものを理解し、ひとつ殻を破るまでのお話。 人はある時期まで、万能感に包まれなんでも出来る気がするし、他人は自分の望むことは何でもしてくれるものだと思ってしまうフシが誰しもある。 それは、母性由来の影響だと僕は思っていて、子の望むことに対して極力親は叶えてあげたいもので、それが「願い事は基本的に叶う」という万能感につながる。 無理なものは無理で、他人や他人の心を自分の好きなように動かすことなんて基本的にはできないし、無理やり好きなように行動させられたとしてもそこに心はないといつかは悟るはずだ。 そこのややこしいところを、思春期に日常の対人関係の中で一歩踏み込んだ人ととの対話で自然と学んでいく。 それは部活であったり友人であったり恋人であったり。 その通過儀礼を若い時期に果たせなかった人たちがたまにいるヤバイ大人やクレーマーへと化けるのだ。 他人は「お母さん」ではない。 なので、ある意味、この主人公は自分のお母さんとセックスしまくっていたことになる、と考えたらまさに「吐き気」が止まらない。 少し不思議で手痛い授業料だったが、これで一つ大人になった。 主人公がこの体験を客観的に言語化してキチンと自覚できるようになるのはまだ先かもしれないが、感覚で分かっているはずだ。 他人を思う通りにしようなどおこがましい。 好きな人は、モノを扱うように好きにできるものではなく、一人の人格を持った者だ。 "だからこそ"面白いし、恋焦がれる。 甘く切ないひと夏のいい想い出。 この経験を糧に、これから主人公は本当の意味で恋をしていくのだろう。 あー、考え様によっては人生は面白くなっていくように作られているんじゃないだろうか。 最高かよ、人生。 普通にかわいい女の友情と筋肉 KANAやむちゃタイトルと表紙絵から想像できる通りのギャグ漫画なんですが、3人が3人とも潔い・かっこいい・仕事ができる・・・そして可愛いのです。絶対憎めないキャラクター。 最後は筋肉で締めるオチのなんと多いことか…とは思いますが、わかりやすい4コマなのでついつい読み進めてしまいます。短時間の息抜きにも最高です。なろう風刺ギャグ異世界に転生してみよう。 カレーとネコ名無し昨今のラノベが中高生でなく、社会人に売れているのはいまやよく知られたことだ。この社会人が疲れている。とても疲れているから、インスタントなものを好む。そんな情勢をいくところまでやりきったギャグ漫画。 ここではわかりやすく、失敗例を出して、オチを付けているが、どうなんだろう。もっとインスタントなのが流行ったりして……恋を飛ばして良いのかな??ルポルタージュ‐追悼記事‐ 売野機子まさお前作よりルポタージュのエピソードがしっかりした分だけ恋しない世界の輪郭がくっきりして面白い。合理的に生活するのが良いのか、感情に任せて生きていくのがいいのか?この問いかけが前作より強くて出て考えさせられた〜。 簡単になんでここに先生が!? 蘇募ロウnemukeエロ漫画!以上!!!!中途半端に終わったのが悔やまれる天使のフライパン 小川悦司starstarstarstarstar_borderマンガトリツカレ男掲載誌であるボンボンの休刊で終わってしまったため色々謎が残っているのが不満。内容は現代の引きこもりの主人公が料理に対して真摯に向き合って成長していくが個人的には主人公の友人や先輩の方が良いキャラしていて好き。 マガジン連載の中華一番より無茶な料理は少なかった。 少年漫画だなぁ~フェルマーの料理 小林有吾やむちゃ絵が綺麗っぽいし料理漫画が気になるので読んだ。 確かにね…うまみ成分AにBを足して更にCを足すと何百倍になって…とか言いますもんね。うーーん…数学だけを頼りに料理すんの無理ない?そこをやってのけちゃうのが漫画なんだけどさ~。早く続きが読みたいですね。 カイ役綾野剛とかですぐドラマ化しそう 漫画版の感想天気の子 新海誠 窪田航mampuku 映画はこれまで2回観に行ってめっちゃ泣きました。君の名は。より好きなやつ。無事に映画版を自分のなかで消化できてきたところでどうにかコミカライズ版にも手を伸ばすことができました。 映像で見た記憶通りの構図がところどころ出てくるあたり、小説や脚本ではなく絵コンテ(あるいは映像)を参考に描かれていることが伺えます。ストーリーはまだ序盤ですが原作通り。ディテールに違いがあるものの漫画的にテンポよくリメイクされてると感じました。 元の新海映画のような緻密な背景の描き込みがない分、ストーリーとキャラクターに注視できるではありますが、せっかく「ヴィンランド・サガ」や「波よ聞いてくれ」など月刊誌でしか読めないと思わせる密度とクオリティの漫画が載っているアフタヌーンでやるからには、『映画の背景美術には負けねぇ…!!』みたいなアツいコミカライズも見てみたかった気もします。笑 映画も含めた作品の内容に触れだすと一晩は軽く語り続けることができるくらいテンションがあがっちゃうのでやめておきます言葉の力に翻弄されていく普通の人達レッド 1969~1972 山本直樹名無し事件関係者達の手記をかなり忠実に再現している。 この漫画をきっかけに連合赤軍に興味を持った。主要人物や事件に至るまでの流れを一通り把握することができるので、連合赤軍入門書としてはかなり良いのではないだろうか。 「言葉の力に翻弄されていく普通の人達」という切り口で連合赤軍事件を描いた作品。 物語の主人公格は赤城(=永田洋子)という女性指導者と、岩木(=植垣康博)という男性メンバー。 一般的に、永田洋子は「優れたメンバーへの嫉妬心から大量殺戮を行った鬼婆」として語られる事が多い。だが、物語前半の赤城は、感情的な面はありつつも人並みの思いやりや理性は持っており、けして「鬼婆」ではない。 しかし、もう1人の指導者・北(=森恒夫)により、「革命家として問題があるメンバーを殴る事で、彼らの欠点を克服させる」という理論が提唱されると、彼女はささいな理由で(美人だとか頭が良いとか)メンバーを摘発し、彼らへの暴力を指示するようになる。 メンバーを殴る時に「頑張れ!頑張れ!」「あなたのためなのよ」という台詞がよく使われていることが印象的。 リンチのはほとんど、北(や赤城)がメンバーの些細な行動を「彼らの欠点は革命家として致命的であり、それを克服させるために殴る」ともっともらしい言葉で問題化することから始まっている。 もっともらしい言葉で理由付けがされることにより、言いがかりのような批判から始まるリンチに対しても「自分たちは仲間のために正しい事をしている」と思い込めるようになっていく。 元赤軍派メンバーの男性が言った「地獄への道は善意で敷き詰められている」という言葉が印象的。 北(=森)や赤城(=永田)も、岩木(=植垣)も、英雄でも狂人でもないごく普通の人たちだった。そんな彼らを冷酷極まりないリンチに追い立てたのは、言いがかりのような批判を正当化する言葉と、「仲間のために正しい事をしている」という自己暗示だったのではないかと思う。 同じく連合赤軍を再現した作品に若松孝二監督の「実録・連合赤軍」があるが、見比べてみると永田の捉え方が随分違う。 実際の事件関係者の手記を読んでみても、森・永田に対する印象は人によってマチマチだったりする。連合赤軍事件は語る人によって全然違った「真実」が見えてくる事件なんだと思う。 この作品も若松映画とは違った角度からの「連合赤軍の真実」として、後世に読み継がれていったらいいなと思う。<<204205206207208>>
手塚治虫や藤子不二雄、少女マンガの諸作品を読んでいて思うのは、昔は本当に短編マンガが多かったなあということです。そのどれもに鋭くきらめくようなアイディアがあって、それが短いページ数でドラマチックに展開してハッとする落ちそして、いつまでも記憶に残る読後感がそこに生まれます。手塚治虫作品でいえば「ドオベルマン」、藤子・F・不二雄作品なら「カンビュセスの籤」に「ノスタル爺」。大友克洋作品で「宇宙パトロール・シゲマ」。諸星大二郎作品なら「感情のある風景」と、どの作品も、読んだその日の情景まで思い出させるほど、記憶に強く残っています。 そういえば、『ブラック・ジャック』『MASTERキートン』のようなオムニバスの作品も減ってきたイメージ。短編マンガは、現代のマンガ状況では完全に日陰者のようです。 そんな今でもショートショートのような味わいの短編を数多く発表しているのが岡崎二郎という漫画家です。代表シリーズの『アフター0』は、これはもう完全に星新一ショートショートの世界。一編一編新しいアイディアのつまった短編がこれでもかと並んでいてとても贅沢な作品群となっております。その後、発表された作品は完全に短編という形ではないものの、やはり連作短編形式のものが多く、一話一話できちんと完結し、独特な読後感を残す作品ばかりです。 僕が特に好きなのは『緑の黙示録』です。樹木と心を通い合わすことができる少女・山之辺美由の4編の物語です。 山之辺美由の能力は超常的なものですが、そこから起きる事件に関しては科学的な説明がなされるというのも面白いです。「第一話 ウパス」では温室で育てられたウパスという木の下で人が死んでいたという事件に山之辺美由が関わるという筋書きです。もともとウパスは矢毒につかわれるような毒を持つ木ではあるのですが、原因がわからない。そこで美由が自分の能力で事件の真相に近づこうとします…。 岡崎二郎作品の魅力はこういった科学的なワンダーが全て人間につながって行くことです。恐竜や宇宙や動物や植物といった人間以外を題材にしていながら、そこから“人間”という存在そのものを考えさせられる、そのダイナミックな読後感にいつもぼーっとなってしまうのです。