ジーオーティーマンガの感想・レビュー74件<<1234>>仄暗い世界の言語化と、奇異な縁の美しさ回顧 冬虫カイコ作品集 冬虫カイコ兎来栄寿冬虫カイコさん初の商業作品集。女性同士の関係性を主軸とした話が中心となっており、仄暗さがあるのが特徴となっています。 私は冬虫カイコさんの鋭利な眼差しによる世界の切り取り方が好きです。 例えば、webでも大いにバズったこの短編集の1作目「帰郷」の冒頭。従妹の葬儀のため数年ぶりに帰ってきた故郷でタクシーの運転手に行き先を告げただけで悼句を返された時に出る 「半径数キロメートルの円の中で すべてが進行し すべてが共有される だだっ広いくせに狭苦しい社会」 という息苦しい田舎の閉塞感への端的な表現。 こうした良さが随所に見られます。多くの人が抱いたことがあるであろう何とも形容しがたいモヤッとした想いの見事な表出など、マンガによる抽象概念の言語化に非常に長けている方だと感じます。 「きずあとに花 第2話 ふたりの色目」も6万RT・20万いいね以上されたお話ですが、個人的にも特に好きです。「かわいい」という言葉にトラウマのある年配の古文教師と、何かにつけて「かわいい」を連呼するギャルの物語です。 描き下ろしの「刺青」もそうですが、普通に生きていれば交わらない者同士が偶然の縁で美しく結びつく瞬間が謳うように描かれており、沁みます。 劣等感や嫉妬など負の感情に苛まれる主人公たちは、他の物語であればそんな感情とは無縁の主人公に隠れた脇役だったかもしれません。そうした陰の存在に寄り添い、こうして巧みに物語化する冬虫カイコさんの手腕。 そして、そんな感情も清濁合わせていつか懐かしく回顧する日が来るのかもしれない、と本を閉じてタイトルを見返した時に思います。 良さに嘆息しながら今後の作品も楽しみに待ちたいです。最悪な休暇を過ごした女LONG VACATION 大嶋宏和かしこ主人公は女性で雑誌編集者をしています。やりたい仕事はできてるんだけど、激務と日々のストレスが溜まりすぎて常にイライラしている。そこで一週間の休暇をとって離島で一人旅をすることに。でも行ってみたら島全体がさびれてて全然楽しくない。宿のオーナーは食事にハンバーガーしか出さないサーファー野郎だし、もう一人の宿泊客は自分以上にイライラしてるババアだけ。マジで最悪だ!な感じで始まります。 前作の「LOW LIFE」なかなかダウナーな話でしたが今回はもっとかも?自分のいない間に後輩と彼氏はデキてるし、実は旅行前より最悪な状況になってるのでは…。なんだか旅行前に漬けダレに仕込んでおいた肉を揚げながらビールを飲んでた時が一番幸せそうだったよ。でも逆につまらなかった旅行の方が思い出に残ったりするからこれはこれでいいのかな。次回作も楽しみにしてます!仲良し高校生5人組はアイスランドを目指す #1巻応援サムタイムズ・ブルー 雨野サンsogor25鈴宮、相澤、今野、長谷川、風間という高校生5人組は、2年生の1学期の終わりに遊びに行ったとき「みんなで旅行に行きたい」という話題になり、どこに旅行に行くかで盛り上がる中、鈴宮のある一言から、卒業旅行としてアイスランドに行こうという話になります。 この作品はそんな5人の高校生活を描いていく作品です。 高校2年生という青春の真っただ中にありつつ卒業後の進路という現実も見え始めている登場人物たちの日常は、アイスランド旅行という目標を立てたことで5人それぞれの抱える悩みや問題が見え隠れし始めます。 そして登場人物が5人いることによって、問題に対して真剣に向き合っていたり、ゆるく考えていたりと、それぞれの考え方がキャラクターとしてよりはっきりと見えるようになっています。 この作品はそんな登場人物の考え方のグラデーションさえも青春の瑞々しさに溶け込んで色鮮やかに見える作品です。 1巻まで読了貧乏高校生と謎のヒゲ面メイドから物語はおかしな方向へ… #1巻応援メイド拾った 昼間正午sogor25両親を早くに亡くし、薫と舞子という双子の弟妹の面倒を見ながら、父親が作った借金をバイト代で返すという生活を送る高校生の藤本凛太郎。 彼はある日、家の前のゴミ捨て場にメイド服姿の男が倒れているのを見かけます。 その男・百合川誠のことを不審者だと思い避けようとした凛太郎でしたが、何故か誠に気に入られてしまい、双子の弟妹も誠に懐いてしまったために、凛太郎は誠をメイドとして家に住まわせることになってしまいます。 そんな彼らが繰り広げるドタバタコメディが展開されるのかと思いきや、物語が進むにつれて、誠の過去や藤本家の家庭の事情など、シリアスな展開が所々に差し込まれていきます この作品は最初の楽しい雰囲気でテンポよく読み進んでいくと、気付いたら登場人物の背景にあるストーリーに惹き込まれている、そんな不思議な魅力のある作品です。 1巻まで読了 「よみがえる子猫たち」感想よみがえる子猫たち 山うたニーナどうしよう…今からすでに切ないんだが。この先に待ち受けているであろう展開に怯えながらも、読み始めたら絶対止まらない。わかっていたはずだろう…私よ(笑)。令和の『吾輩は猫である』の仄暗さの中の温もり #1巻応援黒猫おちびの一生 浦部はいむ兎来栄寿仄暗い水の底で鬱屈としている人々に寄り添うようなこういった物語は、現代に求められているものであると強く感じます。 本作の主人公の新(あらた)いつきは、スーパーのチーフとして働いていたものの、部下にも軽んじられ仕事に疲弊していた45歳。貧しい時にはキャベツしか食べれず、牛丼が食べたいと思いながら暮らしていたこともある良いことなどない人生を過ごしてきた男性です。 いつきは、唯一の楽しみである仕事後の酒の最中に潰れて寝ゲロで死んでしまうという、何とも憐れな最期を迎えます。如何にも現代的です。しかしその魂は黒猫へと乗り移り、新たな猫としての生が始まります。 かつて夏目漱石が書いた『吾輩は猫である』の吾輩は知的エリートでしたが、まるで反対のような状況です。 『吾輩は猫である』では、人間の愚かさを論いながらも人間への憧れを抱く猫が描かれていましたが、『黒猫おちびの一生』も人間の愚かしさも含めた魅力を愛おしむ物語となっています。 いつきは、猫であるというだけで人間の時には考えられなかった厚遇を受けることもあれば、鴉に襲われるなど命の危険を覚えることもあり良し悪しです。 それでも、3話で描かれるような自分にとってはささやかで何気ない善行が巡り巡って帰ってくる構図のような、この世界の有り様には目頭が熱くなります。 他にも底辺のような暮らしをする30代半ばの男性が登場しますが、いつきは自分の失敗経験を元に彼が同じようなことにならないように仕向け、少しずつ救われていく様子にも心が暖かくなります。 「仲が深まる瞬間を見るのはいいもんだなあ」 という言葉は、読者の想いそのもの。 猫として生きる世界で、彼が今後どのようなものを見て、どんな人と出逢って、何を思うのか。そしてどのような最後を迎えるのか。見守っていきたい物語です。「兎が二匹」の著者新作 #1巻応援よみがえる子猫たち 山うたさいろくComic MeDu(めづ)から。 まずは1巻発刊、めでたい。 そしてコレはまた幼く尊い想いを引き裂くであろうツラそうな流れが手にとってわかってしまう物語… なんでこう「わかる」ようになってるんだ… きっと「兎が二匹」のときにも感じた何かを期待しているからそういう目で見ちゃうのだ。だが期待もしてしまう、きっと胸をえぐられるような気持ちになる。でも怖いもの見たさと少し違う「刹那見たさ」みたいな衝動で読んでしまう。続きを待ちます。 路田行先生の待望の新連載!すずめくんの声 路田行名無し以前連載されていた『ワンコそばにいる』や、発表されている短編みんな面白いので新連載楽しみにしていました! まさかのCOMIC MeDuから! 付き合っていた「すずめくん」と音信不通になってフラれてから早3か月。 「人は人のことを声から忘れる」ということで元恋人の声のプレイリストを聞く日々の綿野(わたの)さんだったが、気持ちが薄れてようやく聞き流せるようになってきた。 そんなとき、会社ですずめくんの声が聞こえる!と思ったら、すずめくんと全く同じ声の新入社員で…。 http://www.comic-medu.com/st/suzumekun/1 しょっぱなからツラすぎるし、主人公の綿野さんがやっぱりどこかネジ外れてるのが最高! そこを楽しみにしていた、みたいなところあります!! 代替品を求める恋ってもうその時点で詰んでる気がするので、新入社員の高梨くんがどう魅力的になっていくか楽しみでなりませんし、気持ちのすれ違いや哀しみも出てくるんだろうなーと期待!知る人ぞ知る怪異・海洋系の王道学園ファンタジー大作乙姫ダイバー 袁藤沖人カワセミ㌠この物語はとある地球規模の大変動をきっかけに陸地の大半が水没し様々な海の怪異やそれに纏わる怪奇現象が発生する世界が舞台となっており、そんな不思議な世界で海に憧れを持つ少女達が己の夢を追い求める作品であります そんな様々な要素を含んだ作品でありますが水や海に関するタッチは勿論ですがキャラデザや背景の数々がどれも美しくも独創性に溢れた作風×主人公達が通う学園やファンタジーやロマン要素が詰まった世界観の設定や迫力ある展開の仕方等々どれもが高水準となっており第1巻から乙姫ダイバーの世界観に魅了されてしまいましたね 以上が内容についての感想になりますが少し補足したい所があり書き加えますが、本作品はMeDuと呼ばれる無料サイトにて連載しているのですが1話1話の進行が数ヶ月に1話ペースとなっていますので第2巻発売にはまだ時間がかかる作品となっております【※よく打ち切りと言うワードが一緒に検索されてますが打ち切りにはなっておりません】【※第1巻は8話まで収録されており2022 3/11に18話が上記サイトにて公開されました】【2022 8/31 第2巻が発売されました】色々アートな空間でJK入星管が大暴れなSF東京入星管理局 窓口基さいろく割とゴチャゴチャしている。 ひとつひとつの表現が立体的で画角が面白いのもあるけど、当時進行感の表現も相まって1コマ1コマが狭すぎると言わんばかり。 この情報がパンパンに詰まったバトルシーンもまた魅力。 全部を理解しようとすると難解なのだけど、1巻読了後に読み返すと少し理解度が高まってちょっとおもしろい。 時間かけてゆっくりではなくザッと読んでからもう一度読み返す方がいいかもしれない。 無知のようで悟ってそうな旦那に惹かれるおつれあい 安堂ミキオさいろく1巻刊行記念、ということで購入して読了。 いわゆる日常系?なのか?ちょっと変わってるし、若干昭和っぽいところがあってフワッとしている。ほんとにフワッとしているので他に表現が難しいけど、ついつい読み続けてしまうタイプの作品。 主人公もなかさんは謎の旦那(無職)を養っている。 ご近所さんたちと変な付き合いが広がっていくのが本作の本筋だけど、終始のほほんとした空気で必要以上に荒れることもなく進んでいく。 ただ、「それおかしいよ」っていう「普通」の感性を唯一持ってそうなもなかと、一番おかしな旦那ののぼたんとの不思議な日常がメインのおかずである。 実際、そのおかしいと思う常識的な感性も、のぼたんとの付き合いの中で確信に変わるところもあれば改められるところもあり、すごく柔軟じゃないかと感心させられる。 なんか、そんな深くないようで意外と深いんじゃないかこれ。「おつれあい」というタイトルの絶妙さおつれあい 安堂ミキオ兎来栄寿『はたらくすすむ』安堂ミキオさんの新作です(『はたらくすすむ』を読んでいた方はニヤリとできる要素があります)。 本作では、保険レディの主人公もなかと、その旦那で少し癖のあるのぼたんの「おつれあい」を中心とした群像劇が描かれます。 『はたらくすすむ』で見せてくれた絶妙な人間ドラマは本作でも健在。味わいのあるキャラクターが続出します。 安堂さんの描くキャラクターはどうしてこんなに人間味に溢れていると感じるのか? それは、ひとえにお弁当屋さんのご主人のエピソードに代表されるような、人間の不器用さにある気がします。 他人に良く思われたいという見栄や欲望と、他人に優しくありたいという気持ちの間には隔たりがあるようで実は地続き。そのグラデーションの中で卒なく生きたり意思思疎通したりはできないけれど、根底には共に生きて行こうとする気持ちが通う人間同士の暖かさが感じられるのです。 単純に「夫婦」というにはどこか本質的に理解し合えない部分があるけれども、それでも互いに歩み寄り合える部分が確かにあり共存していくことが持続的に可能なこの関係は確かに「おつれあい」というのは絶妙な表現で、良いタイトルだと思います。 安堂さんの描くヒューマンドラマは無限に読みたいです。処女と処女厨ユニコーンのラブコメ一角獣は貫かない! 育田せみ野愛恋愛経験ゼロ女子・エム子×処女厨ユニコーン・うにの異種族同棲ラブコメ。 見ず知らずの処女厨に一目惚れされて家に居座られたらめちゃくちゃこわいけど、ユニコーンなら許せる気がします。 処女だから好きだけど、処女だから好きなわけじゃない!という矛盾しまくりだけど一途な愛を捧げるうにが素敵に見えてくるから不思議。 適当にあしらいつつも、うにのことばかり考えたりドキドキしちゃったりのエム子も可愛くて、人×幻獣カップル尊い……!という気持ちになりました。 とは言えこの2人(1人と1頭)まだ付き合ってはいないんですよね。 うにの一途な愛をエム子ちゃんは受け入れるのか?人と幻獣は愛を育めるのか?エム子ちゃんの貞操は守られるのか? などなどを楽しみながら読んでみていただきたいです。 人ならざる者の〈心〉と百合 #1巻応援魂の関所にて【電子版限定特典付き】 桜庭友紀あうしぃ@カワイイマンガ中編2つ+それぞれの後日譚が収められた作品集。いずれも人間からは少しずれた存在がもつ「心」の、少し普通ではなくてかなり大きな有り様が描かれていて、心を揺さぶられる。 ●魔王と女王 時を止めた遺跡の街を守る「女王」を街の外に連れ出したい「魔女」の物語。 複雑に前後する語りと細かな設定に幻惑されるが、街の謎を解き女王を解放しようとする魔女の、軽い様で真っ直ぐな想いに打たれる。そして無表情な〈つくりものの〉女王に、却って〈心〉の動きを想像してしまう。 ●魂の関所にて 死者の魂を管理する所で、仕事をしながら自分の死因を思い出せずにいる新人の女性と、彼女を気にかける先輩の女性。 新人の過去話……身分違いの女性との複雑な関係性は切ない。そこに寄り添う先輩は後輩に強い想いがあるのは確かなのだが、その理由が見えて来ない。和風な死後の世界の美しさを目で楽しみながらも、優しさと不安感がひしひしと胸に来る。上手くいかない大人の女へ #1巻応援麺面むすび ヨドカワあうしぃ@カワイイマンガ社会人多めの百合短編集。一番年下で大学生なので、全体的に大人の雰囲気。 描かれる人はみんなお化粧をきちんとしていて、大抵は対人スキルもある。それでもこんがらがって、時に乱れてしまう様子は、多くの大人の共感を得られるのではないか。 女性達それぞれの、上手くいかなさ。それはことさら異様なものではないので、自分事のように共感できたり、「こういう人いそう」という気がしたり。そんな人達が同じ「女性」に救われる物語に、ホッとする。 ●『麺面むすび』…コスメ大好きな女性は男ばかりの職場で消耗して、蕎麦屋の店員の女性に癒される。 ●『おそろそろい』…付き合う二人の女性は一緒の時間を求めてオンラインゲームを始める…しかし何故か片方の「お揃い好き」が加熱。 ●『風船カズラは今日も飛ばない』…元モデルの彼女にウェディングドレスを着せたいデザイナー。甲斐甲斐しく世話を焼く彼女の心は? ●『区域外閑談料』…彼女に振られた女性は、母校の大学で出会った子に「公衆電話から電話して」と告げる。 ●『フライングコスモ』…中学時代憧れていた、上品なあの子に大学で再会。地味な私をイメチェンして接近! ●『初嵐のつむぎ歌』…都会でお姉様との出会いが無く田舎に戻った女性と、農業体験で実家にいる純朴ドジっ子の出会い。趣味じゃ無い……。 ●『クラムジーコール』…モンスターデザイナー志望の女性、背景から抜擢!しかしリーダーの女性から迫られる。こいつがとんだナンパ女で……。ワケありカップルと親に捨てられた姉弟との同居生活 #1巻応援僕たちが家族になるまで あさひよひsogor25恋人の姫宮と2人暮らしをしている30歳のサラリーマン・窪田旺志郎の元に、2人の子供・楽夢(らむ)と真理央(まりお)を連れた6つ上の姉が突然現れます。 たまたま姫宮は夜勤の日で、姉の言うままに3人を泊めることになる窪田。 しかし次の日、窪田が目を覚ましたときには姉の姿はなく、楽夢は彼女が自分たちを捨てて出ていったのだと言います。 このような経緯で、突然一緒に暮らすこととなった窪田とその恋人の姫宮、そして楽夢と真理央の姉弟を描く作品です。 楽夢は母親が自分たちをいつか捨てるだろうと思っていたようですが、真理央のほうはまだ幼く、母親がいなくなった事実を理解できていません。 また、窪田と姫宮のカップルも実はある秘密を抱えていて、4人の突然の同居生活を描く過程で、それぞれが抱えている問題が少しずつあぶり出されていきます。 まずは窪田の抱える心の傷、そして姫宮との秘密が描かれている1話を読んで物語の雰囲気を知ってもらいたい作品です。 1巻まで読了 妻を亡くした男と全聾の姪、共に暮らす日々を描くヒューマンドラマ #1巻応援しまのおと 仲山米sogor25舞台は小さな島にある町。絵描きとして生計を立てる源太郎は9年前に全聾である妻のなお美を不慮の事故で亡くし、後悔の念に苛まれながら日々を送っていました。 そんなある日、なお美の妹・ゆう子が病気で亡くなったとの知らせが入ります。 全聾のなお美の事故で源太郎のことを責めていたゆう子だったのですが、1人娘の翔子を何故か源太郎に預けるという遺言を残していました。 ゆう子に子供がいたことも聞かされてなかった源太郎でしたが、翔子もなお美と同じ全聾であることを知らされます。 この作品は、妻の事故死という過去に縛られ続けている源太郎と、 母親を亡くした翔子が共に暮らす様子を描いた作品です。 妻の死という過去を未だに乗り越えられずにいる源太郎とまだ幼いうちに母親を亡くしてしまった全聾の少女・翔子。 それぞれ内面に異なるベクトルの障壁を抱える2人が共に暮らすことにより、徐々にその障壁を乗り越えていく様子が描かれていきます。 舞台となる島の風景は美しいですが やや閉鎖的に見える部分も感じられ、それがなお美、そして翔子が全聾であるという要素とも関わってきて、マンガの絵としてもストーリーとしても緻密に組み立てられている作品です。 1巻まで読了感性を刺激する暗さあの人は血を求めてしまう 浦部はいむstarstarstarstarstarウマタロ※ネタバレを含むクチコミです。底知れない虚無の表情コーポ・ア・コーポ 岩浪れんじ無用ノスケ子大阪のボロアパートを舞台にしたワケあり人間たちの日常を描いた作品。つい古き良き昭和の懐かしさを感じてしまいますが、それはそれとして新しい時代の貧乏下宿マンガとして読みました。最近は貧乏マンガを描く人は少ない中、ここまで飄々と生身の人間を描ける作者さんは稀有な存在だと思います。タバコを交換したがるおばちゃんとか、どの住人達にも生々しいリアルさを感じます。ふとした時の虚無の表情が何とも言えない奥深さがあって良い…。やはり人間の業の深さというものは虚無の表情からこそ見えてくるのだと思えるのです。 現代でキテレツ大百科をやるならりもで・りんぐ ふくた伊佐央hysyskキテレツ大百科やドラえもんが超名作かつ発想の宝庫なのは自明として、現代的な感覚からすると足りないものがある。 それはメタな視点。こんな道具があったらこんな風に悪用するとか、道具使ってるのバレないようにわざと失敗して辻褄合わせようとか、便利過ぎて解脱しかけたりとか。転生もののチートに近いかも知れない。 かといって完全に何でもありじゃなくて、ちゃんとSF的なアイディアは応用しているし、「現実世界のCtrl+Z(アンドゥ機能)」や「母親がシリコンバレーでCEO」など、今っぽくアップデートされてる。とにかくテンポが良くて読んでて楽しい。ズボラなのに超天才発明家主人公がすごいりもで・りんぐ ふくた伊佐央名無しこういうボケっとしてるのに頭脳は天才な主人公、好きですね…!それも異次元レベルの天才。発明した道具が万が一世間に広まると人類を滅ぼすから絶対に口外しないようにと家族に言われてます。そもそも主人公自身があまりにズボラな性格のため、それを補うために発明している。なので道具が誰かの役に立つとか、世界を救うとか、そういうことは起きない。 むしろその道具によって家族にけっこうえげつない迷惑をかけます。 いちばん被害を受けてるのは妹のいずみのような気がする… 弟は一見利発そうに見えて救いようのない悪ガキだし、父親はパンチの効いた見た目のくせに超無口。母親はシリコンバレーでなんかの会社のCEOしてる。 主人公以外の家族も情報量が多すぎて、小ネタの宝庫という感じの漫画です。 #1巻応援悩みを抱えた人に何をしてあげられるか僕だけに優しい君に 浦部はいむstarstarstarstarstarひさぴよとあることで人を呪ってしまったが為に、「人の幸せを叶え続けなくてはならない呪い」を受けた男。 そして、幼い頃から人には見えないものが見え、いつまでも漫画家になる夢をあきらめられない男。 二人の悩みと葛藤の時間を描いた物語。 もし自分が同じ呪いを受けたとしたら、どうするだろうか。 たとえ魔法のような力を持ったとしても、表面的な問題しか解決できないかもしれない。 本当の意味で人に優しくするのはなんと難しく、心が痛くなる行為なんだろう。 あと、少しでも漫画家を目指したことのある人にとっては、読むのが辛いシーンの多いかもしれない。 圧倒的情報量、ついてこれなきゃ置いてくぜ!東京入星管理局 窓口基sogor25平穏な日常が過ぎていっているように見える地球、しかしこの星には地球人の気づかない所で宇宙人が紛れ込んでいて、地球人と同じように過ごしている。良い宇宙人もいれば当然悪い宇宙人もいるわけで、そんな悪徳宇宙人を人知れず取り締まる存在、それが「東京入星管理局」なのだ! とにかく画面の情報量が多く、付いて来られない奴は全員置いてくぐらいの勢いで最初から密度の濃い絵を大量投下していく。でもアクションだけでなくSFとしてもかなり練り込まれてるハイブリッドな作品。振り落とされないよう意地でも追っかけてかなければ。 1巻まで読了。ニッチでクリティカルで、ちょっと惜しいピンクロイヤル あまのあめのmampuku 魔法少女あつめてデスゲームとかサバイバルみたいな作品ってここ10年多いですが、それの戦隊モノ版みたいなやつです。 幼い頃に戦隊の紅一点にいろんな意味で恋してしまい、悶々としたなにかに目覚めちゃった人、いると思うんですが、あの頃のあのときめきを思い出させてくれる漫画って意外となくて、書店で偶然「なんじゃこりゃ」と出会ったのがこれでした。版元もレーベルもドマイナーすぎる…作家さんも知る人ぞ知るって感じ。こういうのが奇跡的に転がってるのが神保町の書泉グランデなんだよな。恐ろしい場所だ。 絵はべらぼうに上手く、なんでこんな辺境でわけのわからない作品を描いてるのか解らないほど素敵な絵を描くので、大事にされてほしいし大事にしたい……(Cien的な意味で<<1234>>
冬虫カイコさん初の商業作品集。女性同士の関係性を主軸とした話が中心となっており、仄暗さがあるのが特徴となっています。 私は冬虫カイコさんの鋭利な眼差しによる世界の切り取り方が好きです。 例えば、webでも大いにバズったこの短編集の1作目「帰郷」の冒頭。従妹の葬儀のため数年ぶりに帰ってきた故郷でタクシーの運転手に行き先を告げただけで悼句を返された時に出る 「半径数キロメートルの円の中で すべてが進行し すべてが共有される だだっ広いくせに狭苦しい社会」 という息苦しい田舎の閉塞感への端的な表現。 こうした良さが随所に見られます。多くの人が抱いたことがあるであろう何とも形容しがたいモヤッとした想いの見事な表出など、マンガによる抽象概念の言語化に非常に長けている方だと感じます。 「きずあとに花 第2話 ふたりの色目」も6万RT・20万いいね以上されたお話ですが、個人的にも特に好きです。「かわいい」という言葉にトラウマのある年配の古文教師と、何かにつけて「かわいい」を連呼するギャルの物語です。 描き下ろしの「刺青」もそうですが、普通に生きていれば交わらない者同士が偶然の縁で美しく結びつく瞬間が謳うように描かれており、沁みます。 劣等感や嫉妬など負の感情に苛まれる主人公たちは、他の物語であればそんな感情とは無縁の主人公に隠れた脇役だったかもしれません。そうした陰の存在に寄り添い、こうして巧みに物語化する冬虫カイコさんの手腕。 そして、そんな感情も清濁合わせていつか懐かしく回顧する日が来るのかもしれない、と本を閉じてタイトルを見返した時に思います。 良さに嘆息しながら今後の作品も楽しみに待ちたいです。