ガールズ・アット・ジ・エッジ

凶器は、愛と勇気 #1巻応援

ガールズ・アット・ジ・エッジ ハトリアヤコ 犬怪寅日子
兎来栄寿
兎来栄寿
一般的な作劇の教科書においてはやらない方が良いとされるであろう大胆な、それ故に印象的な構成で始まる1話目から、ただごとではないものを見せてくれます。 ポリバケツに収められたボーイの遺体。 それを囲んで見つめる5人の風俗嬢たち。 「で 誰が殺したんスかね」 というセリフと共に 「風俗嬢がボーイを殺して廃校でひと夏過ごす話」 と、提示される梗概。 少し変わったフーダニットなのかな? と読み進めていくと、どうやらそういう話でもないようだと解ってきます。ハウダニットでもなく、強いて言うならばワイダニットが一番近いものの、しかしながら本質はそこにない。設定や導入、徐々に明かされる情報や真実といった部分は驚きも含まれ非常にミステリ的なのですが、その上で描かれる現代社会で生きる女の子たちの心情やその動きがこの物語の核となっています。 ″愛したいし守りたいが 実際には憎んでいる この感情を知られたらと思うと気が狂いそうになる″ ″この人も私たちと同じだな 後天的に携わった喜怒哀楽の表現で 毎日をやり過ごしてるのが良くわかる″ ″自分の人生に熱中するには才能がいる (中略) ここはそうではない人間の方が多い 私の居場所な気がする″ 小説原作であることを強く感じさせる、心情描写の精緻さと言葉選びの巧みさ。心の奥底にある澱みを掬い取り言語化する能力の高さを存分に感じさせてくれます。 人を殺すというセンセーショナルな行為が行われますが、そこに至るのは個人の特質的なものではなく現代社会に遍く存在する歪みがもたらす外的な要因が大きく影響しており、誰しもが似た状況に陥ってしまう可能性、言うなれば負の再現性の高さを感じさせられます。 ″祈りが祈りとして機能するために必要なものは愛ではなく嘘だし 救済が救済として機能するために必要なのは 勇気でなく運だ″ 世間から付けられたかわいく扇状的なラベルの裏側にある、黒いマグマのように煮え滾る彼女たちの真意。愛や勇気が求められながら、それがただちに現実的な救いとはならないこの世界。こんな世界でどうやって呼吸を続けていくのか。苦もなく生きられて、呼吸の仕方に悩んだ人にはまったく理解もされない。でも、同じ立場になったことがある人なら痛いほどに解る。そんな物語です。 『真夜中の訪問者 -ハトリアヤコ作品集-』でも紹介したハトリアヤコさんが、このマンガ版を手がけたことも非常に良い選択だと思います。元々の作風とも絶妙にマッチした内容で、持ち味を最大限に生かしている良いコラボだと感じました。 一見ミステリ的な手触りで、その中には昏く濃厚なヒューマンドラマが渦巻いている名作です。
夫を社会的に抹殺する5つの方法 【単行本版】

殺すだけでは足らない夫への復讐 #1巻応援

夫を社会的に抹殺する5つの方法 【単行本版】 三田たたみ
兎来栄寿
兎来栄寿
三田たたみさん原作の、今年の初めにドラマ化もされた作品です。 元々は縦スクロールのフルカラー作品でしたが、単行本版として一般的な左捲り見開きマンガとしても今回発売されました。 最近また「旦那デスノート」における旦那の飲食物に不凍液を仕込み続けて秘密裏に衰弱させる手口が話題になっており戦慄しましたが、事実は小説より奇なり。とはいえ、言うまでもなく重大な犯罪ですのでそんなことは絶対にしてはいけません。 現実でひどい夫に苦しめられている妻の方は、せめて本作を読んで溜飲を下げるくらいにしておいていただければと思います。 こちらはモラハラやDVが酷すぎる旦那に対して物理的・精神的に復讐を果たしていく物語で、激しい抑圧からのカタルシスが描かれます。読んでいて妻のあまりの窮状がかわいそうになり、ただ殺すだけでは飽き足らない生き地獄を味わわせるための復讐に駆られるのも無理からぬことだと感じます。 主人公にはこんな男のことは人生のゴミ箱からも削除して20代の内に新たな人と新たな幸せを見つけて欲しいと思いますが、それでも復讐せずにはいられないほどの辛み、悲しみ、苦しみ、憎しみが募ってしまっています。 人が鬼と化するほど傷つけられた心というのは外からは見えないですし、ましてや傷つけた方は軽い気持ちでしかないというのがえてして不条理です。 不倫や夫への殺意などのキーワードに引っ掛かる方にお薦めします。