カペラの眩光

"才能"に翻弄される2人の叙情的で温かい物語 #1巻応援

カペラの眩光 相澤いくえ
sogor25
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売れないバンドマンの日辻(ひつじ)は自身の現状と27歳という年齢に諦めにも近い焦燥感を抱き始めていました。 そんな彼は画家としても活動をしていたのですが、実はその絵は自身ではなく幼馴染の夜木が描いているもので、引きこもりで家から出られない夜木の代わりに日辻の名前を使って発表をしていたのでした。 そんなある日、日辻がTwitterに投稿した夜木の絵が世間の注目を浴びたことで、物語が大きく動き始めます。 自身の才能のなさに薄々気づきながらももがき続けている日辻と、自身の絵についても独特な考えを持っていてだからこそ日辻を信頼し全てを任せている夜木。 そんな2人の不思議で特別な結びつきと、夜木の“才能”が世間に見つかったことで変わっていく2人の運命を、温かみを持ちつつも読者を惹き付ける力のある、そんな絵で描き出している作品です。 ちなみに、タイトルにある「カペラ」とはぎょしゃ座のアルファ星、つまり最も明るい星でではあるのですが、地球からは1つの星に見えるだけで実は複数の星からなる"連星"と呼ばれるものであることが知られています。 そんなカペラの眩光とはどういう意味なのか、それを想像しながら読むと作品の味わいも深まるかもしれません。 1巻まで読了
私と猫と二十歳の君と

"死んだはず"の親友との40年ぶりに過ごす日常 #1巻応援

私と猫と二十歳の君と あさひよひ
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仕事を辞め、1人寂しく余生を送っていた60歳の男性・和賀鱗太郎は、唯一の家族である飼い猫が家の外に出ていくのを追いかけるうちにある神社に迷い込みます。 そこで彼は足を滑らせて境内にある池に落ちてしまうのですが、彼のことを助けたのは、40年前に死んだはずの鱗太郎のたった1人の親友・支倉紫陽(はせくら しょう)でした。 そんな導入から始まる第1話は読み切りとして非常に完成されていて(過去に同名の読み切りが発表されてますがそれとは別の世界線の物語のようです)、若くして亡くなってしまった紫陽に対する鱗太郎の思いや、そんな2人の40年の時と生死の境を超えた再会に胸を打たれる、そんな内容になっています。 そしてそんな第1話の最後にその後の物語へと繋がるキーワードが登場し、そのキーワードに関わる謎を紐解きながら、2人が40年ぶりに共に過ごす日常を描いていきます。 2人が過ごす奇跡のような時間はどんな些細な出来事もかけがえのないものに映る、読んでいると温かい気持ちになれる作品です。マンバではボーイズラブに分類されていますが、どんな人が読んでも心に刺さるような内容だと思います。 余談ですが個人的にはアジサイ(紫陽花)から花の字を取った「紫陽」を「しょう」と読ませるネーミングセンスはすごく好きです。 1巻まで読了
君がいない世界(フルカラー)【特装版】

弟を救うため"時を駆ける少女"の物語 #1巻応援

君がいない世界(フルカラー)【特装版】 ドド juheejo
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主人公は両親と弟の陽太と4人で暮らしている普通の女子高生・陽子。 どこにでもある普通の日常を送っていた陽子ですが、ある日、弟の陽太が下校途中に行方不明になってしまいました。 警察も総出で捜索したのですが陽太は見つからず、陽子を含め残された家族は徐々に日常を失っていきます。 それから6ヶ月後、彼女の元に陽太が突然帰ってくるのですが、その時にはもう元の家族には戻れないところまで壊れてしまっていました。 そんな悲しい思いを抱えることになった陽子でしたが、ある朝目覚めると、陽太が失踪した日の朝にタイムリープしていました。 このような導入で始まる、いわゆるタイムリープものの作品ですが、この作品の特徴として「タイムリープの原因となる人物が早い段階で示唆されている」、そして「タイムリープによる過去改変が陽太の失踪以外にも影響を及ぼしていく」という点にあります。 特に、過去を変えることで陽太の失踪を防ごうとする陽子の行動が本人の思わぬところに新たな問題を引き起こし、それが彼女を更に悩ませていくことになります。 そんなシリアスなストーリーが展開していくですが、表紙と同じフルカラーの水彩画のような絵柄で本編も描かれていて、児童文学のような優しい雰囲気のある作品でもあります 重いテーマの中にも人との繋がりの大切さや温かみを感じられる、子供から大人まで楽しめる作品だと思います。 1巻まで読了
ボーダレスネーム

"夢"も"現実"もしっかり見つめて #1巻応援

ボーダレスネーム 谷中分室
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広告代理店で働く31歳の女性・片山津亜生(かたやまづ あお)は、かつてはマンガ家になることを夢見ていたのですが、ある出来事からその夢を諦め、就職してキャリアを重ねるうちに、仕事を"上手くやる"ことを覚え、忙しくも平穏な日々を過ごしていました。 そんなある日、マンガ雑誌の50周年の広告の仕事を依頼されたことで、彼女が"マンガを描くこと"への思いを再燃させる、という物語です。 かつて諦めた夢を再び追い始めるという物語ではあるんですが、この作品は主人公の亜生が夢に一直線に邁進するのではなく、仕事を続けながら少しずつマンガを描き始めるという形で物語が進みます。 そのため、彼女が仕事に対して向き合っていく姿と諦めていたマンガに対して再び向き合おうとする姿、異なる2つの熱量の両方を1つの物語の中で描いている作品であり、今夢を追っている人、仕事を頑張っている人、どちらにも刺さる内容になっています。 この作品はどちらかといえば女性向けの作品として描かれてるように思うのですが、連載されているのが集英社のジャンプ+で、そういう意味ではジャンプ本誌のキーワードである「友情・努力・勝利」をそのまま引き継いで描いている作品のように感じました。 1巻まで読了
屍と花嫁

散りばめられた違和感が解消された時、深い愛の物語が見えてくる #1巻応援

屍と花嫁 赤河左岸
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黄(ファン)家には兄の静(ジン)と弟の麗(リィ)という腹違いの兄弟がいました。 2人は次期当主の後継争いで対立しており、現当主である父の寵愛を受けていたリィは雹華(ヒョウカ)という女性と政略結婚をすることになるのですが、その婚礼の儀の最中、ヒョウカはジンの一派に毒を盛られてしまい、リィはジンのことをその場で殺害、一方のヒョウカはというと一命を取り留めたものの毒の影響で人前に出られない顔になってしまったとのこと。 そんな凄惨な事件が起こったあとのリィとヒョウカを描いた作品… なんですが、1話を読み進めていくうちにある違和感が顔を覗かせてきます。 「人前に晒すことができない顔になった」と作中で言われていたヒョウカですが、1話後半で描かれている"彼女"の姿は美しく描かれており、また、一見すると"彼女"が"男性"であるかのような描写も見られます。 そんなヒョウカに対してリィは至って自然に接しているのですが、ヒョウカの名前を覚えていないような振る舞いを見せるなど、なにか秘密を抱えている様子。 そんな数々の違和感が物語を読み進めるうちに少しずつ解消されてゆき、気付けば"2人"の愛の物語へと収束していきます。 ストーリーは細部まで綿密に組み上げられていて、それでいて物語の最後の最後まで仕掛けが施されている、始めから終わりまで全てが美しい物語です。

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