スカイツリーも、都庁も、渋沢栄一像も、全部兵器カーマトリック 中西達郎兎来栄寿①東京の名所が兵器になる! ②美麗でド派手なフルカラーロボットアクション! ③中西達郎節全開のカバー下のヤバい文字数の裏設定! #推しを3行で推す古き良きこの手触り!千年ダーリン 岩澤美翠兎来栄寿1980年代、不良、喧嘩、改造人間、怪人、ロボ、束ノ間一平(つかのまいっぺい)や仮初銀色(かりそめぎんいろ)といったネーミングセンス…… 令和3年に発売されたこの作品、まるで80年代〜90年代前半の少年誌に載っていた作品のようで、絵柄も含めてあまりにもノスタルジーを感じさせます。 コミティアなどで活躍しながらこの作品がデビュー作となる作者の岩澤美翠さんの机の前には明菜ちゃんが貼ってあるそうです。納得。 デジタル作画がダメという訳では全くないです。が、この手描きのアミナワやベタフラッシュ、トーンの削り、枠線のカドのインク溜まり……今はもうあまり見なくなったアナログ感が無性に愛しく感じられます。 「今日も地獄の炎がマックスだよ!!!」 と猛る食堂のおばちゃんがいる滅茶苦茶な高校生活、好きです。 カバー下の遊び心も好きです。 何より1巻収録のジグザグのお話が大好きです。毛布をプレゼントして貰った時のジグザグのかわいさときたら、もう。ジグザグが何不自由しないような暮らしを一緒に営みたい。 荒唐無稽な設定と展開の裏で、丁寧に切なく紡がれるドラマもあり心に沁みます。 益荒雄×美少年という組み合わせに非常に愛と拘りを感じる内容で、そうしたキャラクターの絡みが好きな人に特にお薦めです。 岩澤さんには今後も自らの好きな物を好きなように書き連ねていって頂きたいと思う、才気溢れるデビュー単行本でした。だいすきなおかあさんマザーパラサイト 佐藤洋寿兎来栄寿「バブみ」「オギャる」といった言葉が普及し始めて早数年。「戦慄のバブみサイコスリラー」とでも形容すべき作品が登場しました。 「登場親子、みんな毒」……とまでいうと語弊があり、まともな息子も中にはいるんですが、中心となるのは毒息子と毒親による予測不能のサスペンス。『スズキさんはただ静かに暮らしたい』に続いて佐藤洋寿さんらしい不穏な味わいが堪能できます。 多少のツッコミどころもありますが、異常な性向がぶつかり合ってもたらされる異様な展開の不安と不穏の波に細かいことはさておき呑まれます。 良い意味で、ネット広告で使い易そうなパワーのあるセリフやコマが多い作品です。 作中で、特殊な赤ん坊と一緒に荷物を運送するゲーム『デス・ストランディング』が描かれていたのも良い演出だなと思いました。 物語がどこに着地するのかが最大の焦点ですが、ぜひ行くところまで行ってやり切って欲しいなと願っています。 心の中の赤木しげるに「正しい親、正しい子供、正しい親子…………元々ありはしないんだって……!そんなもの…………!」と囁かれながら。事実はマンガよりも奇なり。ぼくたちの離婚 稲田豊史 雨群兎来栄寿「病んだ魂と、欠けた魂が、修羅場を作り出す」というキャッチコピーが秀逸。 こちらは、離婚を経験した人へ経緯や顛末を取材してリアルな体験談を連ねたWEBメディアの企画『ぼくたちの離婚』の書籍版をコミカライズした作品です。 言うなれば『その時の彼女が今の妻です』の逆バージョン、「その時の妻が今の他人です」。出逢いや馴れ初めからスタートしながら、そこから別れに至るまでのそれぞれのリアルな実体験と感情が克明に描かれています。 とてもよく理解できて同情してしまう人もいれば、まったく理解が及ばず宇宙人のように思える人まで様々に登場しますが、率直に言って面白いです。下手な創作より余程個性的で立った「キャラクター」とその感情の変遷に圧倒されます。 自身も離婚を経験している原作者曰く、 「苦痛に満ちた結婚生活。身も凍る修羅場。苦渋の決断。激しい後悔と開き直り。妻に対する未練や呪詛の言葉。そこに、当時の心境と現在の心情が入り交じる。引き込まれること、この上ない。「これは読み物になる」と確信した」 とのことで、それは間違いないでしょう。 Case#03の、『キル・ビル 』の暗殺集団のボスであるビルが元恋人のザ・ブライドを殺した本当の気持ちがよく解るという件に非常に感情移入しました。サブカルに精通したカッコいい美人というのも最高でした。今の自分も結婚を経てビルに殺される側になりつつあるなと感じます。 本筋ではないですが、Case#05の犬のエピソードもグッときますね。 絵が綺麗だなぁと思ったら、『麻衣の虫ぐらし』などの雨がっぱ少女群さんの別名義でした。綺麗な上で、人間の暗部が露呈するシーンのえげつない表情の迫力が凄いです。 「人間」を見たい方、修羅場を見たい方、離婚の危機に備えて反面教師にしたい方、ご一読してみては。mode_comment21年以上前ネタバレ雑談幽★遊★白書 冨樫義博『幽★遊★白書』のベストバウトはどれだろうパワフルギャグのマッスルドッキングや〜!美川べるのといかゴリラのまんが飯 美川べるの いかゴリラ兎来栄寿女性向けギャグマンガとしては異例の長期連載だった『ストレンジ・プラス』等で人気を博すベテラン漫画家、ミカベルこと美川べるのさんと、「力こそパワー!」と言いたくなる『オタクだよ!いかゴリラの元気が出るマンガ』の新進気鋭のいかゴリラさん。 この二人を掛け合わせた上で、飯マンガを描かせようとした企画の勝利です。 最初のお子様ランチ画力対決からして「角材にしか見えないポテト」vs「90年代にペイントで描いたクオリティ」でフルスロットルで飛ばし尽くすところは、お二方の作品を好きな人には馴染み深いテンション。 あまりにも壮大にかまされるボケも、切れ味鋭いツッコミのセリフひとつひとつも、思わず声を出してしまう面白さで人前で読むのはお薦めできません(不覚にも電車の中で読んでしまい、マスクが当たり前の社会で少し助かりました)。 お二方の暴走特急のような魅力が足し算、否、掛け算されている様はまさにキン肉バスターとキン肉ドライバーのドッキング。 そして、植田まさしさん(が描いたあるモノ)や、『水曜日のトリップランチ』のたじまことさんによる美味しい料理の描き方指導など、スペシャルなゲストによりこの空間は更に混迷を極めます。 こんなにお腹が空かない飯マンガは初めてです。むしろ笑いすぎてお腹が痛くなること請け合い。2020年でも屈指の、頭を空っぽにして笑える一冊です。「幸っちゃんさん」と呼ばれる幸子の幸せ幸っちゃんさん 柳内大樹兎来栄寿2019年の暮れに出た『儚いくん』に続く、柳内大樹さんの「SUBARASHIKI KANA JINSEI」シリーズ2冊目。1冊で完結する短編で、シリーズ物ですがこの作品単体でしっかり楽しめます。 『ギャングキング』や『セブン☆スター』でヤンキーマンガのイメージが強いであろう筆者ですが、このシリーズを読むとその引き出しの豊かさに感銘を受けずにはいられません。 本作は、4人の女子大生とミスターキャンパスに選ばれたものの実は少しオネエの気がある男性を中心にした群像劇です。 ヒロインの幸子は豪放磊落な性格で、喉仏が動く男がタイプであり日々イイオトコとの出逢いに飢えている女性。 「人間なんてしょせん自分のことを好きになってくれるやつが好きなんだよ!」というモノローグを仁王フェイスでかます彼女はデンジくんに通ずるものがあります。 巨乳でクールビューティだけど処女のマリコ。 ちずるはドMで天然の不思議ちゃん。 カズ美は一番真面目だが一番4人の中でエロくてS。 優しくて真面目で顔も良く薙刀は全国ベスト4の腕前だけどオネエの蜂須賀。 そんな個性的なキャラたちによるそれぞれの恋愛模様が描かれますが、大人だからこそのビターさもあり味わい深いです。幸子の顔芸を始めとしてふんだんにギャグも交えながらも、シリアスなシーンはしっかりとしっとりとキメてきて人生を生きる上での含蓄に富んだセリフも沢山登場します。 恋愛も人生も必ずしも上手くいくことばかりではないですが、そんな時には寄り添い支え合う4人の友情がまた美しいです。幸子の人生がこの後どうなろうと、こんな素晴らしい友人ができたことは一生の幸せだろうと思います。 幸子の母&祖母や、「とっととどっかのカラオケでも行ってでっかいパンにアイスでものっけて女子会でもするよし!」「帰りましてよ!パンピーども!どきよし!」とのたまうお嬢様など、サブキャラも強烈で楽しいです。 酸いも甘いも溢れる人生はそれ自体の素晴らしさを力強く謳う一冊です。今後もこのシリーズを続けていきたいそうなので、『セブン☆スターJT』ともども楽しみにしたいです。こんな風にDVの「後」を描くとは流石です。僕は先日死にました。【単行本版】 時計兎来栄寿時計さんの作品を読む度に、「絵も綺麗でお話も面白くて素晴らしいなあ……!」と満足感に浸れるのですが、本作も例外ではありません。 2016年〜2020年の間に発行した同人作品を3作品収録した短編集で、時計さんとしては6冊目の単行本となっています。 表題作の「僕は先日死にました。」は設定的にはよくある感じではありますが、中心人物となる占い師ちゃんの振れ幅が魅力的です。とても人間味があり、その感情を丁寧に掬い 「お父さん、私アイドルだったんだよ。」は自宅での介護士経験のある身としては非常に刺さるところの多いお話です。最近観たとある人気海外ドラマでも似た展開がありましたが、時計さんの方が4年早いな!と。 「元DV夫と私のその後」は、個人的にこの本の中でも特に好きな一篇です。『AV女優とAV男優が同居する話。』に収録された「一日一回、あなたを好きだと言わせて。」と繋がる物語。DV加害者である男がそれを悔いてカウンセリングに赴くところ、そしてまたDVを受けた女性の精神的な再起を丁寧に描いています。普通の物語においてはさまざまな事情によりクローズアップされない部分、しかし現実的には非常に大事なところを解像度高く描いた意欲作です。 幕間に各作品の解説も書かれていますが、非常に思考を巡らせた上で物語が構築されていることがうかがえて、この面白さにも納得です。こうしたことを明瞭に言語化できる、あまつさえ面白いマンガとして仕上げることができるのは本当に素晴らしいなと。私は時計さんの作家性に惚れ込んでいるので今後も作家買いを続けさせていただきます。 1冊で充実の読書体験ができるので、お薦めです(可能であれば先に『AV女優とAV男優が同居する話。』も読んでおくとより楽しめます)。 なお、表紙の菊の花は時計さんの御母堂が描かれたということで、美しいものを描く血筋を感じました。澄んだレンズで見るクリアな世界猫爪月がのぼるころ 幸田真希兎来栄寿『梅酒』、『仮寓のペレルマン』などの幸田真希さんによる、4年ぶりの商業単行本です。 内容としては、「音のない午後」、「ビアンカ」、そして表題作である「猫爪月ののぼるころ」の3作を収録した短編集となっています(本当はアナログで描いた作品も収録される予定だったもののコロナ禍の影響でこの形になったそうです)。 収録された各ストーリーはテイストもそれぞれ違いますが、共通して画風が生み出す透明感のある世界に浸る気持ちよさを存分に堪能することができます。 その中でもやはり表題作「猫爪月ののぼるころ」は特に秀逸な1作で、このお話が最後にあることで読んで本を閉じた時の幸福感を噛み締められます。 派手さはなくともしみじみ感じ入るタイプのお話が好きな方にお勧めしたいです。 なお、12月にマグコミ掲載の短編「放課後の怪人」も良いです……と紹介しようとしたら既に公開期間が過ぎていました。またまとまって次の本が出る時にでも紹介できれば。 誰かに贈りたくなる、贈り物のお話プレゼントフォーユー 四宮しの兎来栄寿『銀のくつ』や『とんだりはねたり』の四宮しのさんの最新単行本……と言っても知らない人の方が多いかもしれませんね。 皆さんには表紙だけで「きっとこのマンガはいいマンガだ」と予感できた体験はないでしょうか。四宮しのさんの作品は比較的マイナーなレーベルから出されることが多いのですが、押し並べて表紙を見ただけで内容の面白さを予感させてくれるタイプであり、本作も真白地の中央に水彩のようなタッチで描かれた制服を着た女の子が曖昧な表情でバナナを差し出しているというシンプルな表紙ですが、この表紙から何かを感じ取った人には間違いなく訴求するものがある作品です。 内容は、タイトルが示す通り「プレゼント」という事柄にフィーチャーした連作短編集です。 贈り物をする時には、当たり前ですが必ずその相手がいます。人が人と関わり合う、その中で生まれる絆。そんな絆を保持したり、より強めたり、あるいは生み出すための「プレゼント」にまつわるお話。 具体的な内容については読んでいただくとして、全体を通して表紙絵から予感するような胸に広がる柔らかな温かみで心が満たされる一冊となっています。 発売したのが丁度クリスマス前でしたが、まさにクリスマスプレゼントにこういう一冊を贈るのもとても素敵ではないでしょうか。 四宮しのさん、多作ではないですがこれからもこういう作品を描いていって頂きたいです。 黒髪クールイケメン男子高校生が垣間見せる優しさにやられたい人へ新婚だけど片想い 雪森さくら兎来栄寿『箱庭テレパシー』、『微熱男子のおおせのまま』などの雪森さくらさんがなかよしで連載している新作です。 ヒロインの皐月は頭脳明晰・才色兼備の女子高生。旧名家の家柄ではあるものの経済的に苦しい家の事情で、IT社長の息子であり囲碁七段のプロ棋士である久遠と政略的な婚約を果たし、高校生同士にして同棲を開始。 しかし、「氷の王子」の異名を持つ久遠は家でも囲碁一筋で皐月に対して超塩対応。部屋にも常に立ち入り禁止の札を掲げて付け入る隙も与えてくれない……というところから始まります。 ただ、久遠は基本冷たいんですが、そこは少女マンガですので極稀にプレミア感のあるデレの瞬間をくれるわけですね。否応なくキュンキュンしてしまいますね。 少し現実離れした設定、クール9割デレ1割の絶妙なヒーロー、申し分のない甘々さ。こういうのですよね、こういうのが良いんですよ。ヒーローが強すぎて当て馬が完全に噛ませ犬になっているところも明快爽快。 雪森さんの絵もかわいくてカッコいいですし、なかよしの王道恋愛マンガとして求められている成分が必要十分しっかりと詰まっています。都戸さん、好きです(直球)ホームドラマしか知らない 都戸利津兎来栄寿『嘘解きレトリック』の都戸利津さんによる、通算20冊目となるコミックスということでおめでとうございます! もう都戸さんの作品であれば絶対に面白いことに疑いはなく、全幅の信頼に本作でも応えて頂いています。 特筆すべきは、花ゆめAiというレーベルの作品ですが、少なくとも1巻部分では恋愛要素からは完全に解き放たれて完全に家族愛にフィーチャーした物語となっているところです。 少女マンガであればおおよそ恋愛要素はmust、少なくともあるのがbetterという暗黙の了解がありそうですし、実際同じ花とゆめAiという雑誌でも雑誌名に違わず「恋」や「婚」といった文字が使われている作品も多いのですが、『ホームドラマしか知らない』はそうした縛りから解き放たれた感じがあります。 子供っぽくて生活力皆無な義兄と、家庭環境のせいでしっかりし過ぎている義弟。不器用な二人が織りなすドラマがとにかく心に沁み渡ります。 誰にも必要とされたことのない義弟の視点が主軸となりその心情がたっぷりと語られるのですが、苛立ちも喜びも落ち込みも、まるで自分が体験しているかのように共感してしまいます。 どういう落とし所になるか解りませんが、この義兄弟には幸せでいて欲しいと願うばかり。 やっぱり都戸さんのマンガ、好きだなぁ……。 « First ‹ Prev … 86 87 88 89 90 91 92 93 94 … Next › Last » もっとみる
スカイツリーも、都庁も、渋沢栄一像も、全部兵器カーマトリック 中西達郎兎来栄寿①東京の名所が兵器になる! ②美麗でド派手なフルカラーロボットアクション! ③中西達郎節全開のカバー下のヤバい文字数の裏設定! #推しを3行で推す古き良きこの手触り!千年ダーリン 岩澤美翠兎来栄寿1980年代、不良、喧嘩、改造人間、怪人、ロボ、束ノ間一平(つかのまいっぺい)や仮初銀色(かりそめぎんいろ)といったネーミングセンス…… 令和3年に発売されたこの作品、まるで80年代〜90年代前半の少年誌に載っていた作品のようで、絵柄も含めてあまりにもノスタルジーを感じさせます。 コミティアなどで活躍しながらこの作品がデビュー作となる作者の岩澤美翠さんの机の前には明菜ちゃんが貼ってあるそうです。納得。 デジタル作画がダメという訳では全くないです。が、この手描きのアミナワやベタフラッシュ、トーンの削り、枠線のカドのインク溜まり……今はもうあまり見なくなったアナログ感が無性に愛しく感じられます。 「今日も地獄の炎がマックスだよ!!!」 と猛る食堂のおばちゃんがいる滅茶苦茶な高校生活、好きです。 カバー下の遊び心も好きです。 何より1巻収録のジグザグのお話が大好きです。毛布をプレゼントして貰った時のジグザグのかわいさときたら、もう。ジグザグが何不自由しないような暮らしを一緒に営みたい。 荒唐無稽な設定と展開の裏で、丁寧に切なく紡がれるドラマもあり心に沁みます。 益荒雄×美少年という組み合わせに非常に愛と拘りを感じる内容で、そうしたキャラクターの絡みが好きな人に特にお薦めです。 岩澤さんには今後も自らの好きな物を好きなように書き連ねていって頂きたいと思う、才気溢れるデビュー単行本でした。だいすきなおかあさんマザーパラサイト 佐藤洋寿兎来栄寿「バブみ」「オギャる」といった言葉が普及し始めて早数年。「戦慄のバブみサイコスリラー」とでも形容すべき作品が登場しました。 「登場親子、みんな毒」……とまでいうと語弊があり、まともな息子も中にはいるんですが、中心となるのは毒息子と毒親による予測不能のサスペンス。『スズキさんはただ静かに暮らしたい』に続いて佐藤洋寿さんらしい不穏な味わいが堪能できます。 多少のツッコミどころもありますが、異常な性向がぶつかり合ってもたらされる異様な展開の不安と不穏の波に細かいことはさておき呑まれます。 良い意味で、ネット広告で使い易そうなパワーのあるセリフやコマが多い作品です。 作中で、特殊な赤ん坊と一緒に荷物を運送するゲーム『デス・ストランディング』が描かれていたのも良い演出だなと思いました。 物語がどこに着地するのかが最大の焦点ですが、ぜひ行くところまで行ってやり切って欲しいなと願っています。 心の中の赤木しげるに「正しい親、正しい子供、正しい親子…………元々ありはしないんだって……!そんなもの…………!」と囁かれながら。事実はマンガよりも奇なり。ぼくたちの離婚 稲田豊史 雨群兎来栄寿「病んだ魂と、欠けた魂が、修羅場を作り出す」というキャッチコピーが秀逸。 こちらは、離婚を経験した人へ経緯や顛末を取材してリアルな体験談を連ねたWEBメディアの企画『ぼくたちの離婚』の書籍版をコミカライズした作品です。 言うなれば『その時の彼女が今の妻です』の逆バージョン、「その時の妻が今の他人です」。出逢いや馴れ初めからスタートしながら、そこから別れに至るまでのそれぞれのリアルな実体験と感情が克明に描かれています。 とてもよく理解できて同情してしまう人もいれば、まったく理解が及ばず宇宙人のように思える人まで様々に登場しますが、率直に言って面白いです。下手な創作より余程個性的で立った「キャラクター」とその感情の変遷に圧倒されます。 自身も離婚を経験している原作者曰く、 「苦痛に満ちた結婚生活。身も凍る修羅場。苦渋の決断。激しい後悔と開き直り。妻に対する未練や呪詛の言葉。そこに、当時の心境と現在の心情が入り交じる。引き込まれること、この上ない。「これは読み物になる」と確信した」 とのことで、それは間違いないでしょう。 Case#03の、『キル・ビル 』の暗殺集団のボスであるビルが元恋人のザ・ブライドを殺した本当の気持ちがよく解るという件に非常に感情移入しました。サブカルに精通したカッコいい美人というのも最高でした。今の自分も結婚を経てビルに殺される側になりつつあるなと感じます。 本筋ではないですが、Case#05の犬のエピソードもグッときますね。 絵が綺麗だなぁと思ったら、『麻衣の虫ぐらし』などの雨がっぱ少女群さんの別名義でした。綺麗な上で、人間の暗部が露呈するシーンのえげつない表情の迫力が凄いです。 「人間」を見たい方、修羅場を見たい方、離婚の危機に備えて反面教師にしたい方、ご一読してみては。mode_comment21年以上前ネタバレ雑談幽★遊★白書 冨樫義博『幽★遊★白書』のベストバウトはどれだろうパワフルギャグのマッスルドッキングや〜!美川べるのといかゴリラのまんが飯 美川べるの いかゴリラ兎来栄寿女性向けギャグマンガとしては異例の長期連載だった『ストレンジ・プラス』等で人気を博すベテラン漫画家、ミカベルこと美川べるのさんと、「力こそパワー!」と言いたくなる『オタクだよ!いかゴリラの元気が出るマンガ』の新進気鋭のいかゴリラさん。 この二人を掛け合わせた上で、飯マンガを描かせようとした企画の勝利です。 最初のお子様ランチ画力対決からして「角材にしか見えないポテト」vs「90年代にペイントで描いたクオリティ」でフルスロットルで飛ばし尽くすところは、お二方の作品を好きな人には馴染み深いテンション。 あまりにも壮大にかまされるボケも、切れ味鋭いツッコミのセリフひとつひとつも、思わず声を出してしまう面白さで人前で読むのはお薦めできません(不覚にも電車の中で読んでしまい、マスクが当たり前の社会で少し助かりました)。 お二方の暴走特急のような魅力が足し算、否、掛け算されている様はまさにキン肉バスターとキン肉ドライバーのドッキング。 そして、植田まさしさん(が描いたあるモノ)や、『水曜日のトリップランチ』のたじまことさんによる美味しい料理の描き方指導など、スペシャルなゲストによりこの空間は更に混迷を極めます。 こんなにお腹が空かない飯マンガは初めてです。むしろ笑いすぎてお腹が痛くなること請け合い。2020年でも屈指の、頭を空っぽにして笑える一冊です。「幸っちゃんさん」と呼ばれる幸子の幸せ幸っちゃんさん 柳内大樹兎来栄寿2019年の暮れに出た『儚いくん』に続く、柳内大樹さんの「SUBARASHIKI KANA JINSEI」シリーズ2冊目。1冊で完結する短編で、シリーズ物ですがこの作品単体でしっかり楽しめます。 『ギャングキング』や『セブン☆スター』でヤンキーマンガのイメージが強いであろう筆者ですが、このシリーズを読むとその引き出しの豊かさに感銘を受けずにはいられません。 本作は、4人の女子大生とミスターキャンパスに選ばれたものの実は少しオネエの気がある男性を中心にした群像劇です。 ヒロインの幸子は豪放磊落な性格で、喉仏が動く男がタイプであり日々イイオトコとの出逢いに飢えている女性。 「人間なんてしょせん自分のことを好きになってくれるやつが好きなんだよ!」というモノローグを仁王フェイスでかます彼女はデンジくんに通ずるものがあります。 巨乳でクールビューティだけど処女のマリコ。 ちずるはドMで天然の不思議ちゃん。 カズ美は一番真面目だが一番4人の中でエロくてS。 優しくて真面目で顔も良く薙刀は全国ベスト4の腕前だけどオネエの蜂須賀。 そんな個性的なキャラたちによるそれぞれの恋愛模様が描かれますが、大人だからこそのビターさもあり味わい深いです。幸子の顔芸を始めとしてふんだんにギャグも交えながらも、シリアスなシーンはしっかりとしっとりとキメてきて人生を生きる上での含蓄に富んだセリフも沢山登場します。 恋愛も人生も必ずしも上手くいくことばかりではないですが、そんな時には寄り添い支え合う4人の友情がまた美しいです。幸子の人生がこの後どうなろうと、こんな素晴らしい友人ができたことは一生の幸せだろうと思います。 幸子の母&祖母や、「とっととどっかのカラオケでも行ってでっかいパンにアイスでものっけて女子会でもするよし!」「帰りましてよ!パンピーども!どきよし!」とのたまうお嬢様など、サブキャラも強烈で楽しいです。 酸いも甘いも溢れる人生はそれ自体の素晴らしさを力強く謳う一冊です。今後もこのシリーズを続けていきたいそうなので、『セブン☆スターJT』ともども楽しみにしたいです。こんな風にDVの「後」を描くとは流石です。僕は先日死にました。【単行本版】 時計兎来栄寿時計さんの作品を読む度に、「絵も綺麗でお話も面白くて素晴らしいなあ……!」と満足感に浸れるのですが、本作も例外ではありません。 2016年〜2020年の間に発行した同人作品を3作品収録した短編集で、時計さんとしては6冊目の単行本となっています。 表題作の「僕は先日死にました。」は設定的にはよくある感じではありますが、中心人物となる占い師ちゃんの振れ幅が魅力的です。とても人間味があり、その感情を丁寧に掬い 「お父さん、私アイドルだったんだよ。」は自宅での介護士経験のある身としては非常に刺さるところの多いお話です。最近観たとある人気海外ドラマでも似た展開がありましたが、時計さんの方が4年早いな!と。 「元DV夫と私のその後」は、個人的にこの本の中でも特に好きな一篇です。『AV女優とAV男優が同居する話。』に収録された「一日一回、あなたを好きだと言わせて。」と繋がる物語。DV加害者である男がそれを悔いてカウンセリングに赴くところ、そしてまたDVを受けた女性の精神的な再起を丁寧に描いています。普通の物語においてはさまざまな事情によりクローズアップされない部分、しかし現実的には非常に大事なところを解像度高く描いた意欲作です。 幕間に各作品の解説も書かれていますが、非常に思考を巡らせた上で物語が構築されていることがうかがえて、この面白さにも納得です。こうしたことを明瞭に言語化できる、あまつさえ面白いマンガとして仕上げることができるのは本当に素晴らしいなと。私は時計さんの作家性に惚れ込んでいるので今後も作家買いを続けさせていただきます。 1冊で充実の読書体験ができるので、お薦めです(可能であれば先に『AV女優とAV男優が同居する話。』も読んでおくとより楽しめます)。 なお、表紙の菊の花は時計さんの御母堂が描かれたということで、美しいものを描く血筋を感じました。澄んだレンズで見るクリアな世界猫爪月がのぼるころ 幸田真希兎来栄寿『梅酒』、『仮寓のペレルマン』などの幸田真希さんによる、4年ぶりの商業単行本です。 内容としては、「音のない午後」、「ビアンカ」、そして表題作である「猫爪月ののぼるころ」の3作を収録した短編集となっています(本当はアナログで描いた作品も収録される予定だったもののコロナ禍の影響でこの形になったそうです)。 収録された各ストーリーはテイストもそれぞれ違いますが、共通して画風が生み出す透明感のある世界に浸る気持ちよさを存分に堪能することができます。 その中でもやはり表題作「猫爪月ののぼるころ」は特に秀逸な1作で、このお話が最後にあることで読んで本を閉じた時の幸福感を噛み締められます。 派手さはなくともしみじみ感じ入るタイプのお話が好きな方にお勧めしたいです。 なお、12月にマグコミ掲載の短編「放課後の怪人」も良いです……と紹介しようとしたら既に公開期間が過ぎていました。またまとまって次の本が出る時にでも紹介できれば。 誰かに贈りたくなる、贈り物のお話プレゼントフォーユー 四宮しの兎来栄寿『銀のくつ』や『とんだりはねたり』の四宮しのさんの最新単行本……と言っても知らない人の方が多いかもしれませんね。 皆さんには表紙だけで「きっとこのマンガはいいマンガだ」と予感できた体験はないでしょうか。四宮しのさんの作品は比較的マイナーなレーベルから出されることが多いのですが、押し並べて表紙を見ただけで内容の面白さを予感させてくれるタイプであり、本作も真白地の中央に水彩のようなタッチで描かれた制服を着た女の子が曖昧な表情でバナナを差し出しているというシンプルな表紙ですが、この表紙から何かを感じ取った人には間違いなく訴求するものがある作品です。 内容は、タイトルが示す通り「プレゼント」という事柄にフィーチャーした連作短編集です。 贈り物をする時には、当たり前ですが必ずその相手がいます。人が人と関わり合う、その中で生まれる絆。そんな絆を保持したり、より強めたり、あるいは生み出すための「プレゼント」にまつわるお話。 具体的な内容については読んでいただくとして、全体を通して表紙絵から予感するような胸に広がる柔らかな温かみで心が満たされる一冊となっています。 発売したのが丁度クリスマス前でしたが、まさにクリスマスプレゼントにこういう一冊を贈るのもとても素敵ではないでしょうか。 四宮しのさん、多作ではないですがこれからもこういう作品を描いていって頂きたいです。 黒髪クールイケメン男子高校生が垣間見せる優しさにやられたい人へ新婚だけど片想い 雪森さくら兎来栄寿『箱庭テレパシー』、『微熱男子のおおせのまま』などの雪森さくらさんがなかよしで連載している新作です。 ヒロインの皐月は頭脳明晰・才色兼備の女子高生。旧名家の家柄ではあるものの経済的に苦しい家の事情で、IT社長の息子であり囲碁七段のプロ棋士である久遠と政略的な婚約を果たし、高校生同士にして同棲を開始。 しかし、「氷の王子」の異名を持つ久遠は家でも囲碁一筋で皐月に対して超塩対応。部屋にも常に立ち入り禁止の札を掲げて付け入る隙も与えてくれない……というところから始まります。 ただ、久遠は基本冷たいんですが、そこは少女マンガですので極稀にプレミア感のあるデレの瞬間をくれるわけですね。否応なくキュンキュンしてしまいますね。 少し現実離れした設定、クール9割デレ1割の絶妙なヒーロー、申し分のない甘々さ。こういうのですよね、こういうのが良いんですよ。ヒーローが強すぎて当て馬が完全に噛ませ犬になっているところも明快爽快。 雪森さんの絵もかわいくてカッコいいですし、なかよしの王道恋愛マンガとして求められている成分が必要十分しっかりと詰まっています。都戸さん、好きです(直球)ホームドラマしか知らない 都戸利津兎来栄寿『嘘解きレトリック』の都戸利津さんによる、通算20冊目となるコミックスということでおめでとうございます! もう都戸さんの作品であれば絶対に面白いことに疑いはなく、全幅の信頼に本作でも応えて頂いています。 特筆すべきは、花ゆめAiというレーベルの作品ですが、少なくとも1巻部分では恋愛要素からは完全に解き放たれて完全に家族愛にフィーチャーした物語となっているところです。 少女マンガであればおおよそ恋愛要素はmust、少なくともあるのがbetterという暗黙の了解がありそうですし、実際同じ花とゆめAiという雑誌でも雑誌名に違わず「恋」や「婚」といった文字が使われている作品も多いのですが、『ホームドラマしか知らない』はそうした縛りから解き放たれた感じがあります。 子供っぽくて生活力皆無な義兄と、家庭環境のせいでしっかりし過ぎている義弟。不器用な二人が織りなすドラマがとにかく心に沁み渡ります。 誰にも必要とされたことのない義弟の視点が主軸となりその心情がたっぷりと語られるのですが、苛立ちも喜びも落ち込みも、まるで自分が体験しているかのように共感してしまいます。 どういう落とし所になるか解りませんが、この義兄弟には幸せでいて欲しいと願うばかり。 やっぱり都戸さんのマンガ、好きだなぁ……。
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