にこにこマンガ 88歳現役医師の ときめいて生きる力

どれだけ歳を重ねても笑顔で生きるヒント #1巻応援

にこにこマンガ 88歳現役医師の ときめいて生きる力 帯津良一
兎来栄寿
兎来栄寿

私はまだ30代ではありますが、着実に老いを感じる瞬間は増えてきている今日このごろです。『スティール・ボール・ラン』が20周年と聞いて「嘘だよフェルン、7部は10年前だよ」となったり、推していたバンドのメンバーも還暦前後になったりしていて残念ながら訃報を聞く瞬間も増えてきており切ないです。 逆に、荒木飛呂彦さんであったり打首獄門同好会のjunkoさんであったり、年齢を感じさせない外見を保ったままずっと第一線で活躍されている人を見ると驚きと共に元気をもらえます。『トリリオンゲーム』の池上遼一さんなど、もう今年80歳ですからね。末永く元気でご活躍していただきたいものです。 さて、そんな人生90年・100年というこれからの時代に読んでおくと、より快活に生きるヒントを貰えるかもしれないのがこちらの本です。文章3:マンガ1ほどの分量になっています。 主人公は、88歳で現役医師のりゃん先生。お酒と女の人と本が大好きで、医師としての仕事に加えて講演会や執筆活動なども精力的にこなす方です。既に著書は300冊近くにものぼるりゃん先生自身、60代より70代より今が楽しいといい、その秘訣を説いてくれます。70代では走るのも辛くなっていたものの、80代ではまた走れるようになっているそうです。 また、60年以上がんの治療に携わってきたりゃん先生が薦める、がんとの付き合い方のすすめもたっぷりと書かれています。誰しもの身に起こりうることですので、これも決して他人事ではありません。 りゃん先生曰く、何よりも大事なのはタイトルにもある「ときめき」。それは、何も異性に感じるものだけではなく、毎日の楽しみの晩酌に感じる胸の高鳴りも立派なときめきで、そういう瞬間が人生においてはとても大事であるといいます。りゃん先生は、30年以上通風&高血圧だそうですが、だからといってビール中瓶1本までという制限は受け入れられるものではないし、烏賊の塩辛や酒盗やからすみも大好きなので気にせず好きなだけ飲み食いするし、生野菜は好きじゃないので食べないそうです。食療養はひとりひとりの体質によるので、無理に嫌いなものを食べ続けるよりは好きなものを食べて心にときめきを生むことを大事にする、というのはひとつの道であると思います。 マンガを担当するのは、『まめねこ』や『ねことじいちゃん』、また以前私もクチコミを書いた『くらしき ぎゃらりーかふぇ物語』などでお馴染みのねこまき(ミューズワーク)さん。絵がとにかくかわいらしくて癒やされます。 個人的には最近物忘れが多くなってきているのですが、忘れることを前向きに受け入れ、逆に考えて忘れても大切なことはまた覚え直せばいい、大事なのは未来という心の持ちように少し元気づけられました。 自分で読んで何かヒントをもらうも良し、上の世代の方に贈るも良しの1冊です。

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ここは天国じゃないけど

天国から遠い場所で咲く百合 #1巻応援

ここは天国じゃないけど majoccoid
兎来栄寿
兎来栄寿

『傷痕王子妃は幸せになりたい』、『イケメン女と箱入り娘』のmajoccoidさんが個人でC101にて発行したオリジナル創作百合の同人誌です。この度、その電子版が発売になりました。 『ひげを剃る。そして女子高生を拾う。』のしめさばさんと組んでの新連載『たゆたう煙は掴めない』も注目していますが、何しろmajoccoidさんは絵が良いしマンガも上手いです。 本作はとある理由で天国から追放された天使と、ガールズバー内でしていた恋愛に破れた女性が出逢うという内容です。 しっとりと切なく綴られる物語の中での絶妙な間の取り方であったり、敢えて表情を描かずに溜めて溜めて緩急をつけて繰り出す決めゴマであったり、短いページ数の中にもプロの技を感じさせられます。P31~32の一連のモノローグやセリフなどには百合作品としての良さが凝縮されていて好きです。 作中では天国が天国ではなかったという話が出てきてタイトルが回収されますが、世界中の神話を眺めているとそれぞれの神々は決して清廉潔白で公明正大な存在ではなく、むしろ人間に近い卑俗な欲望を持っていたり権力を振りかざして無茶苦茶なことをしていたりします。それ故に、神が統治する天国が誰にとっても完璧な世界ではない方が自然に思えます。 しかし、そうなると大多数からはみ出してしまう存在が、天国を天国として享受できないものが出てきます。そして、差別や諍いが起こってしまいます。他の多くのものと同じようにそこに属せないことは悲しみを生むことでしょう。けれど、天国とされている場所以外でも幸せになることはできます。 『新世紀エヴァンゲリオン』の碇ユイ曰く、 「生きていこうと思えばどこだって天国になるわよ。だって、生きているんですもの」 と。渦中にいるときにはそんな風に思う余裕がないことも多いですが、それでも広い世界に目をやれば他にも生きられる場所はあるものです。 願わくば、彼女たちが違う場所で安らかな呼吸を手に入れることができますように。

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スワイプ

十人十色のパパ活 #1巻応援

スワイプ 東西
兎来栄寿
兎来栄寿

パパ活を描いた作品も非常に多くなってきました。最近では異世界でもパパ活していますからね。そもそも、名前がパパ活になっただけで同様の行為は遥か昔からずっと営まれてきており、社会が大きく変化しない限り未来においても恐らく無くなることはないでしょう。 そんな中でも一際リアルさを感じさせてくれるのみならず、多面的に現代のパパ活の実態を描いているのがこちらの『スワイプ』です。指先を少し動かしただけで人と繋がれ、またその繋がりを抹消して次へと進むこともできる時代の刹那的な関係を端的に表している良いタイトルだと思います。 内容としては、毎話違う女の子が主人公となる基本的に1話完結型のオムニバスです。さまざまな女の子たちがそれぞれの事情で行っているパパ活の模様を描いていくものとなっています。 パパ活をする理由といえば、毒親家庭に育って貧困であったり、遊ぶお金や推し活資金が欲しかったりというのがメジャーで多く描かれるところでしょうか。もちろんそういった人もいますが、本作で描かれるパパ活は更に微に入り細に入っています。 たとえば、2話で描かれるフリーターの千菜美。 彼女は、昔から「天然」と称されるキャラで大学まではそれで良かったものの、社会人となってからは普通の仕事に就いて働くのはあまりにも難しいパーソナリティでした。夜職であってもミスが頻発し厳しい。しかし、パパ活であればそんな自分も含めてパパが全肯定してくれる。パパ活でお金を貯めて、田舎の中古マンションで猫と穏やかに暮らしたい。そうした理由で行っている人も現実にも存在するでしょう。 また、人気AV女優が中国の富裕層のパパと行う高額パパ活であったり、トー横で特にお金には困っていないもののとある理由で行うパパ活であったり、いろいろなシチュエーションや動機が描かれます。 『ギャル弁 ー歌舞伎町の幽霊ー』のクチコミでも触れましたがこちらも1話や5話で扉絵に歌舞伎町タワーが描かれており、更に大久保公園やそこに突撃してくるYouTuberなども描かれていて、今感が強く感じられます。 6話でラウンジにて交際クラブのSランクの女性が (開業医じゃなくて勤務医だろうな…) と看破する件なども好きです。 また、基本的にお話は独立してはいるのですが、少しだけ結びつく部分もありニヤリとします。 ひとくちに「パパ活」として括られる中に存在するさまざまな側面をディティールを凝らして描き、現代への解像度を上げてくれる作品です。

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ウサギのプリンセス

メルヘン&バイオレンス #1巻応援

ウサギのプリンセス こおにたびらこ
兎来栄寿
兎来栄寿

"ギロチンかケツバット どちらか選べるよ" 年貢のにんじんを納められないうさぎに対して、罰を選択させるプリンセスの慈悲深いお言葉。 "ファッキングリズリー" クマによもぎ畑を荒らされたプリンセスから放たれた殺意。 また、クマが搗いたおもちに毛が混じりすぎて食べられたものではなくなっていたときにプリンセスから笑顔で放たれた殺意。 "ワグマァァ" 「ウサギのものはツキノワグマのもの」とイキったツキノワグマがプリンセスにドロップキックを食らって漏れ出た叫び声。 大体こんな感じの作品です。 おもしれー&チョれーウサギの姫が主人公のブラック&ホワイトコメディとなっています。 『にょろにょ~ろシリーズ』のこおにたびらこさんがWeb上で公開して話題になった作品で、単行本では15ページの中編エピソードが描き下ろされています。 見た目は童話のようにかわいいのですが、パワフルでバイオレンスやブラックも混ざります。 こどもに愛されそうなかわいい外見をしているのに、樹木の老人(?)に対して 「何だこの枯れ木」 と毒づくウサギ。 『日常』みたいな表情をするコブラ。 かわいい顔して腹黒さ極まるタヌキども。 ウサギたちの崇拝対象でありながら、子供が見たら夢に出てきそうな恐るべきにんじん様のヴィジュアル。 他者をディスった結果、放逐されるコアラ。 ゴリラ鬼つええ! ウサギを中心とした動物・生物たちの愉快で破天荒な姿は、じわじわと病みつきになります。 かわいいものが好き、だけどちょっと毒もあるとなおヨシ! という方にお薦めです。

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ザ・にゃんフィクション

われわれはみんな「お猫様の奴隷」 #1巻応援

ザ・にゃんフィクション たなかふじもと
兎来栄寿
兎来栄寿

たなかふじもとさんが描く、実話ベースの猫マンガです。 大吉・中吉・小吉の3匹の猫と暮らす漫画家と、マネージャーの愉快な日常がコミカルに繰り広げられています三猫三様の性格や特色がしっかりと描かれますが、基本的にどの子も自由奔放なのは共通しています。 たなかふじもとさんは絵もスタイリッシュで読みやすい上に猫の所作や体勢がリアルでとても良いですが、文才を感じるセリフや文章もまた非常に味があり、特に猫をあやしながら悟りの境地に達するシーンが大好きです。 マネージャーはかわいい外見としっかりとした性格に反して、一生「◯◯」ネタを擦るのもまた好きです。 「誰だって◯◯に息を吹きかけられたら声出すでしょ!」 はあまりにその通り過ぎて笑いました。 漂白中のお風呂に侵入しようと次から次へとやってくる猫たちを、ちぎってはリリースちぎってはリリースしてタワーディフェンスのような状態になったときの 「こういうゲーム作ったら売れそう!!」 も的確すぎますし、幕間では実際の写真もたくさん出てくるのですが、PerfumeやEXILEなど似ているアーティストになぞらえたシリーズもとてもかわいく面白おかしくて笑みが溢れました。着眼点の良さを感じさせるネタが続出します。 3匹を飼うにいたった理由を描いたエピソードでは、とても共感を覚えました。私は犬飼いですが、コロコロの扱いが熟達していくのはよく解ります。 かわいくて面白くて癒やされる猫マンガが好きな方にお薦めです。

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世話焼きマフィアと薄幸少女

大可愛了(めっかわ) #1巻応援

世話焼きマフィアと薄幸少女 久遠アユム
兎来栄寿
兎来栄寿

『100回抱いて、わからせる』『狼ダーリン小悪魔ハニー』の久遠アユムさんによる新作です。 母親が彼氏に猫をプレゼントしてペット可物件に引っ越す費用のために売られた15歳の少女。そんな彼女に桜都(おと)と名前を付けて引き取ったのが、マフィアのボス楊昇龍(ヤンシンロン)。 基本的には地位もお金もあり強くて頼れるスパダリ的存在の昇龍。 「18歳になったら高級娼婦として売る」 「お前はあくまでも商品」 と口では言いながらも、内心では献身的で健気な桜都に一瞬で絆されていく昇龍が堪りません。それでも、何とか外面を保つために必死で平静を装うさまはいとおかし。 桜都は桜都で、外見のかわいさもさることながら不憫な家庭環境で育ったが故に些細なことに逐一感動してくれるさまや、慣れない環境の中でも自分にできることを必死でやろうとしてくれる姿がいじましく、昇龍でなくとも「お前は俺が幸せにしてやるからなっ……!」と思わずにはいられないでしょう。 昇龍にぞっこんな婚約者である麗華(リーファ)や、昇龍とは違うタイプのイケメン・ミカ聖川(きよかわ)など続々とクセと魅力のある脇役たちも登場して物語を盛り上げてくれます。 「豪奢な天蓋付きベッドは子供の腎臓2コ分」 など、かわいく乙女向けな世界観の中に時折表れるマフィア的な価値観のギャップが面白いです。 とにかく久遠アユムさんの絵が可愛くて魅力的ですが、個人的には特にデフォルメ桜都が大可愛了(めっかわ)です。 強面なイケメンが自分にだけ特別に優しいというシチュエーションが好きな方にお薦めです。

その蒼を、青とよばないお気に入り度
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